深い青は君と共に
トパーズ属には身体が大きい者がいて、身体にボコボコとコブが出来る。出来たコブをエメラに削ってもらい、細かい物は見回り組の補修に使ってもらっている。大きい物は……自分の作業場に持ち込んで、剣を作る種石にする。自分のインクルージョンを含んだ種石に、緒の浜で生まれた硬度7以上の石を糊で継いでいく。やがて継いだ石が俺のインクルージョンの棲家になり、一塊の石となる。この作業を繰り返し、ひとつの剣とする。この製法を見つけたのはグランディディエライト。俺はそれが実現可能かトライアンドエラーを繰り返した。今は、数年に一度は剣がひと振り作れる。まぁ、スピネルはともかくジャスパーやフェナカイトなんかはまだ欠けた剣を持ってくることもあるが。それも自分の仕事だ。自分にしか出来ない仕事があるということは、胸に重くのしかかるが、悪くはない。
(……服を着る時に、肩口になんか引っかかってるな)
作業場を離れて廊下に出ると、医者のエメラと鉢合わせる。
「いやね、そろそろなんじゃないかなーと思ったんだ」
「流石、名医だね」
「……マシシの色は取り戻せてないから。名医ならなんとかするでしょ?」
俺は少し目を逸らして、太陽の光が照らす庭を見た。マシシは、俺が深く関わる前に月に拐われた。エメラと同じベリル属で、陽の光を浴びると黄色に変色する。エメラは出会った頃の青を取り戻すために医者になった。
「名医ってやつは、万能でなくていいよ」
「…………諦めがつかないのが、僕ら宝石だ」
エメラは医務室の方へ踵を返す。俺は静かに背を追った。医務室に着くと、俺はみんなより大きい制服を脱ぐ。エメラが工具を持ってきて、コブが出来たあたりの劈開を見極め、コンコンとノミとハンマーで叩く。やがて俺の身体とコブは分離する。
「このコブはどうする?仕事の材料は足りているかい?」
「そうだなぁ……比較的小さいし、みんなの保全にあてがってくれていいよ」
「……ひとつ、医者として気にかかることがある」
エメラは窓際に俺のコブを置いた。それは深い青を放ち、蝶を呼んだ。スピネルに話したら、少し気は紛れるかな。エメラの問診は、半分聞いてなかった。
「おい、大事な話してるんですけど?」
「あぁ、すまない。ごめん。インクルージョンがなんだって?」
「君、身体から離れたインクルージョンの情報は、共有してるのか?」
「まさか。剣が育っても声なんて聞こえないし、誰がどこで戦ってるのかなんて分からないさ」
「……そうか。とりあえずそういうことにしよう」
「名医さん?俺の言葉は信用ならないかい?」
「名医は疑問を保留して保存しておくのが得意なんだよ」
エメラは珍しく、胸を張って笑った。まぁ、それならいいけど。何か気にかかる事があれば、相談しよう。なんたって名医さんだしな。
「ところで、オパールを見なかった?」
「いや……俺は作業場から離れてここに来るまで、エメラといただろ?」
「それもそうか。あの子1人で見回りを任せるのは嫌なんだけどな」
「探してこようか?」
「オパールが迷子なことより、君が外回りに出る方が心配だね。ロンドンブルートパーズ」
あー。フルネームで呼ばれてるってことは、これは心配ではなく忠告だな。はい。
「……俺の運動オンチってそんな酷い?」
「蓮の葉渡り出来ない時点で、ドンブルは内勤しか無理だな」
「先生に相談してくるか……」
「何回目だそれは」
呆れたようにエメラは笑う。俺は少し俯いて、窓際に置かれた自分の分身を見る。まぁ、万能でなくていい。俺は剣を作る。不器用でもこれだけ出来る。意地もプライドも、無心で剣に込めて。平和をあの子と祈るため。
(……服を着る時に、肩口になんか引っかかってるな)
作業場を離れて廊下に出ると、医者のエメラと鉢合わせる。
「いやね、そろそろなんじゃないかなーと思ったんだ」
「流石、名医だね」
「……マシシの色は取り戻せてないから。名医ならなんとかするでしょ?」
俺は少し目を逸らして、太陽の光が照らす庭を見た。マシシは、俺が深く関わる前に月に拐われた。エメラと同じベリル属で、陽の光を浴びると黄色に変色する。エメラは出会った頃の青を取り戻すために医者になった。
「名医ってやつは、万能でなくていいよ」
「…………諦めがつかないのが、僕ら宝石だ」
エメラは医務室の方へ踵を返す。俺は静かに背を追った。医務室に着くと、俺はみんなより大きい制服を脱ぐ。エメラが工具を持ってきて、コブが出来たあたりの劈開を見極め、コンコンとノミとハンマーで叩く。やがて俺の身体とコブは分離する。
「このコブはどうする?仕事の材料は足りているかい?」
「そうだなぁ……比較的小さいし、みんなの保全にあてがってくれていいよ」
「……ひとつ、医者として気にかかることがある」
エメラは窓際に俺のコブを置いた。それは深い青を放ち、蝶を呼んだ。スピネルに話したら、少し気は紛れるかな。エメラの問診は、半分聞いてなかった。
「おい、大事な話してるんですけど?」
「あぁ、すまない。ごめん。インクルージョンがなんだって?」
「君、身体から離れたインクルージョンの情報は、共有してるのか?」
「まさか。剣が育っても声なんて聞こえないし、誰がどこで戦ってるのかなんて分からないさ」
「……そうか。とりあえずそういうことにしよう」
「名医さん?俺の言葉は信用ならないかい?」
「名医は疑問を保留して保存しておくのが得意なんだよ」
エメラは珍しく、胸を張って笑った。まぁ、それならいいけど。何か気にかかる事があれば、相談しよう。なんたって名医さんだしな。
「ところで、オパールを見なかった?」
「いや……俺は作業場から離れてここに来るまで、エメラといただろ?」
「それもそうか。あの子1人で見回りを任せるのは嫌なんだけどな」
「探してこようか?」
「オパールが迷子なことより、君が外回りに出る方が心配だね。ロンドンブルートパーズ」
あー。フルネームで呼ばれてるってことは、これは心配ではなく忠告だな。はい。
「……俺の運動オンチってそんな酷い?」
「蓮の葉渡り出来ない時点で、ドンブルは内勤しか無理だな」
「先生に相談してくるか……」
「何回目だそれは」
呆れたようにエメラは笑う。俺は少し俯いて、窓際に置かれた自分の分身を見る。まぁ、万能でなくていい。俺は剣を作る。不器用でもこれだけ出来る。意地もプライドも、無心で剣に込めて。平和をあの子と祈るため。
1/1ページ
