赤い棘の英雄は蝶を追う
窓が東向きで、風当たりのいい部屋で休んでいる。以前はブルーダイヤモンドが使っていた部屋。今でも、目覚める少し前にブルーの声が聴こえる気がする。窓から陽が差すと、必ず眠りが終わる。だから陽の長く夜明けの早い夏は、寝不足なような気がする。窓の外で太陽が燦々と煌めいている。忙しい日になるかもしれない。俺はベッドから身体を起こし、自分の剣を手にした。重さには、慣れた。まだみんなが寝静まる学校を静かに抜け出して、庭を抜けて、鐘の下まで来た。学校を背にして、剣を振る。
(守りたいものがある時、それは目には映らなくなる)
俺が守りたかったのは、学校じゃない。あの日のブルーとギューダと、エメリー。でも、オニキスもシェーラもいた。任された。そこからどんな想いで学校へ走ったかは、誰も知らなくていい。けれど、学校と向き合う度、俺はあの日を思い出す。だから鍛錬は、学校を背に向けて行う。向かい風が髪を揺らした。引き返さないよ、向かい風に背を向けたら楽だろうけど。守れなかった者の数が増えていく。それでも、最期まで立っている。何故?
「スピネル!朝礼ですよー!」
「あぁ。今行く」
デュモルチェライトの元気な声に振り向く。下を向いて歩く。慣れた剣の重さが、ここに留まる杭のように思えた。
「スピネル?具合が悪いのですか?」
デュモルにそう訊ねられて、あぁ今日は思考の沈む日なんだなと理解する。前に浮上出来たのは、いつだか。いやでも、毎日毎日この調子ではないんだ。多分。
「いや、大丈夫。毎朝、俺を呼ぶ仕事を増やしてしまって悪いな」
「これくらい、なんともないですよ!スピネルが鍛錬を始めると、朝だなぁって思います」
「……そうか」
デュモルは議長だから、それなりに早起きだろう。ペアのグランディディエライトは……寝てるだろうな。起こしに行くべきか。いや……ペアを組んでいるのはデュモルだし、そこまで考えなくていいか。
「グランディが夜更かしした形跡があって、多分朝礼に来ないんですよね……」
「叩き起こしてくるか?」
「いや!それこそスピネルの仕事が増えますし!大丈夫ですよ」
歳下困らせるなよ、まったく。グランディとは同い年。なにかと会話するが、あいつは本当にマイペースだ。
「それよりも……ターフェアイトも、寝坊しそうな感じでしたね……」
「それはどんな感じだ」
「大の字でなんか寝言を言ってましたね」
「あぁ……いつもの感じか」
ターフェアイトは現在の俺のペアで、若いが……いい奴ではある。でもあまり甘やかさないようにしている。「強くなりたいっす!」と繰り返し言うので、とりあえず朝に鍛錬しろと言った。起きてきたことはない。ので、その先を教えるつもりがない。
「いつもの感じってことは、起こさないんですか?」
「俺は起こさない」
「そうですかー」
デュモルは伸びをして、ひとつあくびをした。朝礼だ。また新しい1日が始まる。
「おはよースピネル。調子どう?」
エレスチャルが机にもたれて問いかけてくる。調子が悪いことでなにかやることは変わるのだろうか?
「……天気の様子は」
エレスチャルは俺と目を合わせて、その後少し伏せて。ゆるりと俺に笑顔を向けて。
「残念ながら、雲ひとつない晴天が続くでしょう〜」
「分かった」
剣を握る。重さには慣れた、と思う。変わらない1日を守るために、ここにいる。それを疑っている時間はないんだ。
(守りたいものがある時、それは目には映らなくなる)
俺が守りたかったのは、学校じゃない。あの日のブルーとギューダと、エメリー。でも、オニキスもシェーラもいた。任された。そこからどんな想いで学校へ走ったかは、誰も知らなくていい。けれど、学校と向き合う度、俺はあの日を思い出す。だから鍛錬は、学校を背に向けて行う。向かい風が髪を揺らした。引き返さないよ、向かい風に背を向けたら楽だろうけど。守れなかった者の数が増えていく。それでも、最期まで立っている。何故?
「スピネル!朝礼ですよー!」
「あぁ。今行く」
デュモルチェライトの元気な声に振り向く。下を向いて歩く。慣れた剣の重さが、ここに留まる杭のように思えた。
「スピネル?具合が悪いのですか?」
デュモルにそう訊ねられて、あぁ今日は思考の沈む日なんだなと理解する。前に浮上出来たのは、いつだか。いやでも、毎日毎日この調子ではないんだ。多分。
「いや、大丈夫。毎朝、俺を呼ぶ仕事を増やしてしまって悪いな」
「これくらい、なんともないですよ!スピネルが鍛錬を始めると、朝だなぁって思います」
「……そうか」
デュモルは議長だから、それなりに早起きだろう。ペアのグランディディエライトは……寝てるだろうな。起こしに行くべきか。いや……ペアを組んでいるのはデュモルだし、そこまで考えなくていいか。
「グランディが夜更かしした形跡があって、多分朝礼に来ないんですよね……」
「叩き起こしてくるか?」
「いや!それこそスピネルの仕事が増えますし!大丈夫ですよ」
歳下困らせるなよ、まったく。グランディとは同い年。なにかと会話するが、あいつは本当にマイペースだ。
「それよりも……ターフェアイトも、寝坊しそうな感じでしたね……」
「それはどんな感じだ」
「大の字でなんか寝言を言ってましたね」
「あぁ……いつもの感じか」
ターフェアイトは現在の俺のペアで、若いが……いい奴ではある。でもあまり甘やかさないようにしている。「強くなりたいっす!」と繰り返し言うので、とりあえず朝に鍛錬しろと言った。起きてきたことはない。ので、その先を教えるつもりがない。
「いつもの感じってことは、起こさないんですか?」
「俺は起こさない」
「そうですかー」
デュモルは伸びをして、ひとつあくびをした。朝礼だ。また新しい1日が始まる。
「おはよースピネル。調子どう?」
エレスチャルが机にもたれて問いかけてくる。調子が悪いことでなにかやることは変わるのだろうか?
「……天気の様子は」
エレスチャルは俺と目を合わせて、その後少し伏せて。ゆるりと俺に笑顔を向けて。
「残念ながら、雲ひとつない晴天が続くでしょう〜」
「分かった」
剣を握る。重さには慣れた、と思う。変わらない1日を守るために、ここにいる。それを疑っている時間はないんだ。
