SSまとめ
君は美しい/プラシオライト
「おはようアデュー! 今日も一段と美しいね!」
「そうね。おはよう」
跪き讃えるポーズで挨拶しても、一瞥もくれず通り過ぎる。返事があっただけ、今日は機嫌が良いようだ。アデュラリアの背中を追う。
「アデュー、今度西の浜に夕陽を見に行かない? 天気が良い日に……西日に照らされる君はさぞかし美しいだろうなぁ」
「気が向いたらね」
「いつでも待ってる! 君の美しさには花も自信をなくして俯く……」
どんな賛辞を並べても、君の瞳に僕は映らない。けれど、諦めることはない! 僕の想いが君に届くまで、僕は君へのラブコールをやめない。
戯れ/カーネリアン、クリソプレーズ
雲一つない、快晴。平原の向こうに、小さな予兆の黒点が現れる。
「来たな。今日も競走しようぜ」
「当然。足引っ張らないでよね」
「誰に向かって言ってんだよ」
カーネリアンとクリソプレーズの二名は、黒点に向かって一直線に駆け出した。戦闘に恐れはなく、二人は笑っていた。月人と衝突すると、華麗に舞って霧散させていく。
「俺様が十七! 俺様の勝ちだな!」
「あら、私は十八倒したのだけど」
「数え間違えてねぇか? そんないたか?」
勝敗で揉めるのはいつものこと。若きエース二人は今日も無事に生き残った。
自重/デュモルチェライト
グランディと今日の会議のまとめをしている。二人黙って、筆を走らせる。ふいに、窓から陽の光が陰った。見るからにグランディはそわそわしだす。
「グランディ」
「あ、あぁ。分かっている」
またしばらく作業を続ける。やがて空に厚い雲が出始める。
「……雲が出ている間は、襲撃はないと思うんだが」
「作業が途中です」
作業を続ける。やがて、ついになにも言わずにそろりとグランディは席を立つ。見逃すものか。
「グランディ! 自重してください!」
「ちょっとぐらい、放浪しても……」
「ダメです!」
知らない花/シトリン
見たことのない花を見つけたから、持ち帰った。綺麗な花だけれど、私は名前を知らない。
「俺も知らないな」
「私も知らないわ」
ビオランとクリープに訊ねてみたけど、知らなかった。シェーラなら、知っていたのかな。憧れの石を思い出して、長期休養所に会いにいく。私と同じ、黄色い貴方。
「シェーラ、素敵でしょ? 名前を知ってたら教えて欲しいな」
話しかけても、ここにはいない。貴方がいなくなって、私はとても落ち込んだけれど。変わらなくちゃと強く思ったの。だから、ありがとう。
君なら許す/アイドクレース
「アイド〜……ちょっといい……?」
「どうしたデマン? そんなとこいないでこっちおいで!」
ものすごく申し訳なさそうな顔で、デマンがこちらを見ている。そんな顔をされると、あたしの方が困ってしまう。デマンは恐る恐るこちらに近づくと、意を決したように頭を下げた。
「ごめん! アイドが作った椅子、壊しちゃった……」
そのまま動かないデマンに、かける言葉が見つからない。椅子が壊れて悲しいのだが、必死に謝るデマンは可愛い。
「な、なんてことないさ〜! また作るから。気にしないで! ね?」
他の奴ならこうは言わないな〜と、あたしは自分の甘さを自覚する。
散らかり放題/ビオラン
「なにをどうしたらこうなるわけ?」
「う〜ごめんよビオラン……」
ペアのアイドクレースは、本当によく物を散らかす。木工の作業に没頭すると周りが見えなくなるらしく、ゴミも材料も工具も散らかり放題だ。しかも、本人は片付けが苦手ときてる。
「あたしもこれでも気をつけてるんだけどさ……」
「出来ない言い訳は聞いてないの」
ピシャっと言い放つと、アイドは縮こまった。俺は緊張をほぐすように、笑ってみせた。
「ま、俺が片付けるんだからいいけど」
別に怒ってないのだ。これが俺の仕事だし。
蝶々/スピネル
「わー蝶々だー!!」
「っ、やめなさい」
ターフェが蝶を捕まえようとするのを、咄嗟に止めた。ターフェは不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔になってやめてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。
「スピネルは、蝶が好きなんすね!」
『スピネルは蝶が好きなのね』
遠い昔に、シェーラに言われた言葉と重なる。そうか、俺は蝶が好きだったんだな。
「うん、俺は蝶が好きなんだ」
「そっか。スピネルの好きなものが知れて、俺嬉しいっす!」
ターフェが思い出させてくれた、懐かしく温かい気持ちに、久しぶりに笑えていた。
水面の月/パライバトルマリン
「……眠れねぇや」
早めに布団を被ったが、眠気は来なくてベットを抜け出した。時刻はおそらく日付が変わる頃。こんな時間に起きてる石なんていねぇ。弟がいた時には、夜も退屈せずに済んだのだが。月を映す水面を見ていた。真っ黒な水面の下、クラゲが揺らめいているのが分かる。その中に、ショールが紛れ込んでないか、なんて。ポップな幻覚も最近は見ない。
「なにしてるの……?」
「お、マラヤ! 寝てないなら話そうぜ〜」
「僕が話すことなんてないよ……」
「俺っちが話すからいいの!」
今の相方は弟と違う方向に暗いけど。こっちも上手いことやってるよ。だから、あの時助けてくれてありがとな、ショール。
星の光は何処からくるのか/セレスティン
「星の光は、何処からくるのですか?」
好奇心のままに先生に訊ねた。すると、先生は優しく、丁寧にお話ししてくださったのだけど、私には全く理解が出来なかったのでした。
「アングレー、星についての教科書を作って!」
「レスティーが作ったらいいでしょう……小生、星は専門外です」
「バカな私に出来るわけないでしょ〜!」
項垂れて泣きつけば、アングレーはため息を吐いて諦めたようだ。
「仕方のない石ですね、貴方は」
賢い同属の彼に、私はいつも甘えている。
言葉足らずの愛/スピネル
シェーラと組むようになって、気づいた事がある。
「あら、綺麗なお花!」
可憐で穏やかなシェーラは、月人を目の前にすると豹変する。今まで見た事ないから知らなかった。……恐らく、変貌する前にギューダが全て倒していたんだ。シェーラに闘わせないために、ギューダは強かった。そうなんだろ、と言ったら、多分否定するんだろうけど。
「どうしたの、スピネル?」
「なんでもないよ」
愛されていたんだね、なんて。僕から伝えるのは馬鹿だと思うから。今度会えたなら、ちゃんと伝えなよ。
嫌われている/フェナカイト
剣の切先が欠けた。不本意ではあるが、僕の誇りをそのままにしておくわけにはいかない。僕はドンブルを訪ねる。ドンブルは僕の顔を見ると、予想通り顔を顰めた。
「何の用だ、薄情者」
「おやおや、随分な物言いだ。いつものことですがね」
僕は欠けた剣を差し出す。ドンブルは黙って受け取り、修正作業を始める。
「材料がない。この剣を削って形を整えるがいいか」
「お任せしますよ。貴方のその腕に関しては信用してますので」
「ふん。腕に関しては、ね」
ドンブルの仕事を黙って見届ける。彼からの一方的な嫌悪は、自分を自覚出来て案外嫌いじゃなかった。
記憶は昔に捨ててきた/カオリナイト
今日は一日中雨らしい。朝起きるのも憂鬱なくらい、雨は嫌い。なにかを忘れてしまいそうで。右腕の傷も、少し痛むような気がする。
「……忘れたこと、怒ってるの?」
問いかけても、返事をする顔を思い描くことすら出来ない。貴方はどんな子だったの? 私にとって、どんな大事な存在だったの?
「ラブラ、もう少しだけ貴方を貸してね」
まっさらな気持ちで貴方にまた出会うこと、夢に見ない日はないの。だから、約束を守れなかった私を許して頂戴。お願い。
あの花の名前はなんだったか/オニキス
趣味の石集めのために緒の浜に出る途中、野原で見覚えのある花を見つけた。名前は知らない。遠い昔に、勉強熱心なシリマナイトが、シェーライトに嬉しそうに教えていたのを、また聞きしただけなので思い出せない。二人とも今は月へ行ってここにいない。苦く悔しい想いに支配される。本当は想い人を思い出す時くらい、温かな思い出に包まれたい。その方が思われてる方も嬉しいだろ。
(俺は何の為にここに残された?)
気がつけば最年長だ。生きてる奴が一番偉いと、歳下に偉そうに言うのは。もう誰も、いなくなってほしくないから。
太陽に触りたかった/キャシテライト
「月へ行ったら、太陽は近くなるかなぁ」
そう呟けば、ラブラドライトは意味が分からないという顔をした。なんで?と問うので、
「太陽に触ってみたいんよ、うち」
と答えたら、ますます分からない、と顔で抗議してくる。太陽に触れたいという欲を、説明するのは難しかった。ただ触ってみたい。
「月へ行ったら連れてってくれんかなぁ」
「それで月へ行くの!?やめなよ、危ないから〜!!」
うちの希望的観測は、やはり他の石には理解出来ないらしい。でも、月へ行ったらいろいろと叶う気がするんだけどな。
遠くの空へ/グランディディエライト
漆黒の中に輝く砂粒が散りばめられたような空。見慣れない空の色にも慣れてきた。月へ来て三年。まだスピネルは来ない。遥か遠くの空の、自分の生まれた星を見る。冴えた青が懐かしい。
(君は俺がいなくなって、悲しんでくれただろうか)
胸を痛めたなら嬉しいと、意地悪なことを考える。月での生活はよかった。知らない大地、知らない空。踏み出すたびにワクワクする。地上で満たされなかった心が、満ちるのを感じる。だけど、君を裏切るなんて出来なかったから、せめて君を共犯にしたいと思う。
(遠くの空へ。今日のスピネルはなにしてる?)
君とこの空を見るのを楽しみにしてる。空を見上げながら語らって、君の決断を聞こう。俺はどんな答えでも従うよ。
快晴/スピネル
晴れやかな朝は好きだ、気持ちよく鍛錬が出来る。でも日が高くなるまで晴れていると、自分の責任を全う出来るか不安に駆られる。快晴とは裏腹に、俺の心は曇る。晴れていれば月人が来る。二人を、みんなを奪った月人が。
(みんなを守り抜かなければ)
自分を責め立てる声から逃げたくなる。逃げてはダメだと空を睨む。お前に託す、そう言われたんだ。託されたものは守らなければならない。陽の光が美味しいことも忘れて、俺は快晴の空の下、剣を握りしめていた。
届かぬ想い/ギューダ
届かぬ想いを抱いている。届けようとしてないんだから当然だけど。君のことを大切に思っているけれど、それを知られるのは恥ずかしくて、どうしたって言葉にはならない。君が僕だけを好いている、そんな確証があれば話は別だけど。君は誰にだって優しい。
「ギューダ、寝てないで見廻り行くよ!」
「あと十分」
君を少しだけ困らせたくて、いつも子供のような駄々をこねる。呆れた君がそれでも諦めず、僕の横に座ることにこの上ない幸福を覚える。君が隣にいるだけで満足するなら、こんな想い届かなくたってどうでもいいじゃないか。
「十分経った!もう行くよ!」
「あとちょっと」
痺れを切らした君が僕の腕を引っ張る。壊れることのないように、この距離を保つんだ。
モンシロチョウ/オニキス
「モンシロチョウ、好きだったっけか?」
スピネルが学校に迷い込んだチョウと、指先で戯れていた。白い鱗粉を落とすチョウを慈しむように、優しい眼差しを向ける。
「シリマナイトが教えてくれたから、思い出す」
スピネルの表情に影が差す。久々に聞いた思い石の名前に、動揺する自分がいた。忘れたいような、それでもこびりついて離れない名前。
「そうだっけ」
遠くを見つめて、誤魔化した。思い出せてよかったと思う。思い出してまた自分の罪を責める。あの日俺の身代わりになったあの子の、生きた意味を探し続けている。
愛があれば/プラシオライト
「貴方は私を愛していると言うけれど、愛があれば何でも出来るの?」
氷のように透き通った瞳で君は問う。僕は勿論、間髪入れずに頷く。君は納得いかない様子で顔を顰めた。
「貴方は私が砕けろと言ったら、意味もなく自らを砕くと言うの?」
「アデュー、君が望むなら。僕は喜んで砕け散るし、海にも嵐にも身を投げよう。けれど、そんな行為に意味がないことくらい、聡明な君なら分かるはずだ」
そんなことで確認などしなくとも、僕の君への愛は揺らがないのに。君が不安にならないように、僕の愛を証明出来たのなら。その為なら、僕はなんだって出来るよ。
「おはようアデュー! 今日も一段と美しいね!」
「そうね。おはよう」
跪き讃えるポーズで挨拶しても、一瞥もくれず通り過ぎる。返事があっただけ、今日は機嫌が良いようだ。アデュラリアの背中を追う。
「アデュー、今度西の浜に夕陽を見に行かない? 天気が良い日に……西日に照らされる君はさぞかし美しいだろうなぁ」
「気が向いたらね」
「いつでも待ってる! 君の美しさには花も自信をなくして俯く……」
どんな賛辞を並べても、君の瞳に僕は映らない。けれど、諦めることはない! 僕の想いが君に届くまで、僕は君へのラブコールをやめない。
戯れ/カーネリアン、クリソプレーズ
雲一つない、快晴。平原の向こうに、小さな予兆の黒点が現れる。
「来たな。今日も競走しようぜ」
「当然。足引っ張らないでよね」
「誰に向かって言ってんだよ」
カーネリアンとクリソプレーズの二名は、黒点に向かって一直線に駆け出した。戦闘に恐れはなく、二人は笑っていた。月人と衝突すると、華麗に舞って霧散させていく。
「俺様が十七! 俺様の勝ちだな!」
「あら、私は十八倒したのだけど」
「数え間違えてねぇか? そんないたか?」
勝敗で揉めるのはいつものこと。若きエース二人は今日も無事に生き残った。
自重/デュモルチェライト
グランディと今日の会議のまとめをしている。二人黙って、筆を走らせる。ふいに、窓から陽の光が陰った。見るからにグランディはそわそわしだす。
「グランディ」
「あ、あぁ。分かっている」
またしばらく作業を続ける。やがて空に厚い雲が出始める。
「……雲が出ている間は、襲撃はないと思うんだが」
「作業が途中です」
作業を続ける。やがて、ついになにも言わずにそろりとグランディは席を立つ。見逃すものか。
「グランディ! 自重してください!」
「ちょっとぐらい、放浪しても……」
「ダメです!」
知らない花/シトリン
見たことのない花を見つけたから、持ち帰った。綺麗な花だけれど、私は名前を知らない。
「俺も知らないな」
「私も知らないわ」
ビオランとクリープに訊ねてみたけど、知らなかった。シェーラなら、知っていたのかな。憧れの石を思い出して、長期休養所に会いにいく。私と同じ、黄色い貴方。
「シェーラ、素敵でしょ? 名前を知ってたら教えて欲しいな」
話しかけても、ここにはいない。貴方がいなくなって、私はとても落ち込んだけれど。変わらなくちゃと強く思ったの。だから、ありがとう。
君なら許す/アイドクレース
「アイド〜……ちょっといい……?」
「どうしたデマン? そんなとこいないでこっちおいで!」
ものすごく申し訳なさそうな顔で、デマンがこちらを見ている。そんな顔をされると、あたしの方が困ってしまう。デマンは恐る恐るこちらに近づくと、意を決したように頭を下げた。
「ごめん! アイドが作った椅子、壊しちゃった……」
そのまま動かないデマンに、かける言葉が見つからない。椅子が壊れて悲しいのだが、必死に謝るデマンは可愛い。
「な、なんてことないさ〜! また作るから。気にしないで! ね?」
他の奴ならこうは言わないな〜と、あたしは自分の甘さを自覚する。
散らかり放題/ビオラン
「なにをどうしたらこうなるわけ?」
「う〜ごめんよビオラン……」
ペアのアイドクレースは、本当によく物を散らかす。木工の作業に没頭すると周りが見えなくなるらしく、ゴミも材料も工具も散らかり放題だ。しかも、本人は片付けが苦手ときてる。
「あたしもこれでも気をつけてるんだけどさ……」
「出来ない言い訳は聞いてないの」
ピシャっと言い放つと、アイドは縮こまった。俺は緊張をほぐすように、笑ってみせた。
「ま、俺が片付けるんだからいいけど」
別に怒ってないのだ。これが俺の仕事だし。
蝶々/スピネル
「わー蝶々だー!!」
「っ、やめなさい」
ターフェが蝶を捕まえようとするのを、咄嗟に止めた。ターフェは不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔になってやめてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。
「スピネルは、蝶が好きなんすね!」
『スピネルは蝶が好きなのね』
遠い昔に、シェーラに言われた言葉と重なる。そうか、俺は蝶が好きだったんだな。
「うん、俺は蝶が好きなんだ」
「そっか。スピネルの好きなものが知れて、俺嬉しいっす!」
ターフェが思い出させてくれた、懐かしく温かい気持ちに、久しぶりに笑えていた。
水面の月/パライバトルマリン
「……眠れねぇや」
早めに布団を被ったが、眠気は来なくてベットを抜け出した。時刻はおそらく日付が変わる頃。こんな時間に起きてる石なんていねぇ。弟がいた時には、夜も退屈せずに済んだのだが。月を映す水面を見ていた。真っ黒な水面の下、クラゲが揺らめいているのが分かる。その中に、ショールが紛れ込んでないか、なんて。ポップな幻覚も最近は見ない。
「なにしてるの……?」
「お、マラヤ! 寝てないなら話そうぜ〜」
「僕が話すことなんてないよ……」
「俺っちが話すからいいの!」
今の相方は弟と違う方向に暗いけど。こっちも上手いことやってるよ。だから、あの時助けてくれてありがとな、ショール。
星の光は何処からくるのか/セレスティン
「星の光は、何処からくるのですか?」
好奇心のままに先生に訊ねた。すると、先生は優しく、丁寧にお話ししてくださったのだけど、私には全く理解が出来なかったのでした。
「アングレー、星についての教科書を作って!」
「レスティーが作ったらいいでしょう……小生、星は専門外です」
「バカな私に出来るわけないでしょ〜!」
項垂れて泣きつけば、アングレーはため息を吐いて諦めたようだ。
「仕方のない石ですね、貴方は」
賢い同属の彼に、私はいつも甘えている。
言葉足らずの愛/スピネル
シェーラと組むようになって、気づいた事がある。
「あら、綺麗なお花!」
可憐で穏やかなシェーラは、月人を目の前にすると豹変する。今まで見た事ないから知らなかった。……恐らく、変貌する前にギューダが全て倒していたんだ。シェーラに闘わせないために、ギューダは強かった。そうなんだろ、と言ったら、多分否定するんだろうけど。
「どうしたの、スピネル?」
「なんでもないよ」
愛されていたんだね、なんて。僕から伝えるのは馬鹿だと思うから。今度会えたなら、ちゃんと伝えなよ。
嫌われている/フェナカイト
剣の切先が欠けた。不本意ではあるが、僕の誇りをそのままにしておくわけにはいかない。僕はドンブルを訪ねる。ドンブルは僕の顔を見ると、予想通り顔を顰めた。
「何の用だ、薄情者」
「おやおや、随分な物言いだ。いつものことですがね」
僕は欠けた剣を差し出す。ドンブルは黙って受け取り、修正作業を始める。
「材料がない。この剣を削って形を整えるがいいか」
「お任せしますよ。貴方のその腕に関しては信用してますので」
「ふん。腕に関しては、ね」
ドンブルの仕事を黙って見届ける。彼からの一方的な嫌悪は、自分を自覚出来て案外嫌いじゃなかった。
記憶は昔に捨ててきた/カオリナイト
今日は一日中雨らしい。朝起きるのも憂鬱なくらい、雨は嫌い。なにかを忘れてしまいそうで。右腕の傷も、少し痛むような気がする。
「……忘れたこと、怒ってるの?」
問いかけても、返事をする顔を思い描くことすら出来ない。貴方はどんな子だったの? 私にとって、どんな大事な存在だったの?
「ラブラ、もう少しだけ貴方を貸してね」
まっさらな気持ちで貴方にまた出会うこと、夢に見ない日はないの。だから、約束を守れなかった私を許して頂戴。お願い。
あの花の名前はなんだったか/オニキス
趣味の石集めのために緒の浜に出る途中、野原で見覚えのある花を見つけた。名前は知らない。遠い昔に、勉強熱心なシリマナイトが、シェーライトに嬉しそうに教えていたのを、また聞きしただけなので思い出せない。二人とも今は月へ行ってここにいない。苦く悔しい想いに支配される。本当は想い人を思い出す時くらい、温かな思い出に包まれたい。その方が思われてる方も嬉しいだろ。
(俺は何の為にここに残された?)
気がつけば最年長だ。生きてる奴が一番偉いと、歳下に偉そうに言うのは。もう誰も、いなくなってほしくないから。
太陽に触りたかった/キャシテライト
「月へ行ったら、太陽は近くなるかなぁ」
そう呟けば、ラブラドライトは意味が分からないという顔をした。なんで?と問うので、
「太陽に触ってみたいんよ、うち」
と答えたら、ますます分からない、と顔で抗議してくる。太陽に触れたいという欲を、説明するのは難しかった。ただ触ってみたい。
「月へ行ったら連れてってくれんかなぁ」
「それで月へ行くの!?やめなよ、危ないから〜!!」
うちの希望的観測は、やはり他の石には理解出来ないらしい。でも、月へ行ったらいろいろと叶う気がするんだけどな。
遠くの空へ/グランディディエライト
漆黒の中に輝く砂粒が散りばめられたような空。見慣れない空の色にも慣れてきた。月へ来て三年。まだスピネルは来ない。遥か遠くの空の、自分の生まれた星を見る。冴えた青が懐かしい。
(君は俺がいなくなって、悲しんでくれただろうか)
胸を痛めたなら嬉しいと、意地悪なことを考える。月での生活はよかった。知らない大地、知らない空。踏み出すたびにワクワクする。地上で満たされなかった心が、満ちるのを感じる。だけど、君を裏切るなんて出来なかったから、せめて君を共犯にしたいと思う。
(遠くの空へ。今日のスピネルはなにしてる?)
君とこの空を見るのを楽しみにしてる。空を見上げながら語らって、君の決断を聞こう。俺はどんな答えでも従うよ。
快晴/スピネル
晴れやかな朝は好きだ、気持ちよく鍛錬が出来る。でも日が高くなるまで晴れていると、自分の責任を全う出来るか不安に駆られる。快晴とは裏腹に、俺の心は曇る。晴れていれば月人が来る。二人を、みんなを奪った月人が。
(みんなを守り抜かなければ)
自分を責め立てる声から逃げたくなる。逃げてはダメだと空を睨む。お前に託す、そう言われたんだ。託されたものは守らなければならない。陽の光が美味しいことも忘れて、俺は快晴の空の下、剣を握りしめていた。
届かぬ想い/ギューダ
届かぬ想いを抱いている。届けようとしてないんだから当然だけど。君のことを大切に思っているけれど、それを知られるのは恥ずかしくて、どうしたって言葉にはならない。君が僕だけを好いている、そんな確証があれば話は別だけど。君は誰にだって優しい。
「ギューダ、寝てないで見廻り行くよ!」
「あと十分」
君を少しだけ困らせたくて、いつも子供のような駄々をこねる。呆れた君がそれでも諦めず、僕の横に座ることにこの上ない幸福を覚える。君が隣にいるだけで満足するなら、こんな想い届かなくたってどうでもいいじゃないか。
「十分経った!もう行くよ!」
「あとちょっと」
痺れを切らした君が僕の腕を引っ張る。壊れることのないように、この距離を保つんだ。
モンシロチョウ/オニキス
「モンシロチョウ、好きだったっけか?」
スピネルが学校に迷い込んだチョウと、指先で戯れていた。白い鱗粉を落とすチョウを慈しむように、優しい眼差しを向ける。
「シリマナイトが教えてくれたから、思い出す」
スピネルの表情に影が差す。久々に聞いた思い石の名前に、動揺する自分がいた。忘れたいような、それでもこびりついて離れない名前。
「そうだっけ」
遠くを見つめて、誤魔化した。思い出せてよかったと思う。思い出してまた自分の罪を責める。あの日俺の身代わりになったあの子の、生きた意味を探し続けている。
愛があれば/プラシオライト
「貴方は私を愛していると言うけれど、愛があれば何でも出来るの?」
氷のように透き通った瞳で君は問う。僕は勿論、間髪入れずに頷く。君は納得いかない様子で顔を顰めた。
「貴方は私が砕けろと言ったら、意味もなく自らを砕くと言うの?」
「アデュー、君が望むなら。僕は喜んで砕け散るし、海にも嵐にも身を投げよう。けれど、そんな行為に意味がないことくらい、聡明な君なら分かるはずだ」
そんなことで確認などしなくとも、僕の君への愛は揺らがないのに。君が不安にならないように、僕の愛を証明出来たのなら。その為なら、僕はなんだって出来るよ。
