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昔馴染みが久々に日本に帰ってきた。当然のように宿代わりに泊まっていった。今日の夕方には帰国するから、と朝出かけてそれきり。まったく、兄弟喧嘩だかなんだか知らないが、実家にくらい顔出したらいいのに。凛にはなんて話そう。なにも言わない方がいいかな。帰国してるのは、知っているだろうし。会いたいのであれば、凛から直接連絡すればいいことだ。そうだよな。凛のことを頼むって言われたって、俺にはどうしてやればいいのか分かんないよ。お兄ちゃんはお前だろ、冴。
携帯を持たせてもらったばっかり、ぴかぴかの中学1年生になった頃。交換したばかりのメールアドレスに、冴からひと言「話がある」と連絡がきた。メールじゃダメなのかと聞けば、せっかくだから2人で出かけたいという。こいつ俺のことそんな好きだっけと思いつつ、別に嬉しくないわけじゃないからいいよーと返事をした。両親にも訳を伝えて、2人でゴールデンウィークの休みに江ノ島水族館に行くことになった(今思い返せば、よく子供だけで行けたなと思う。俺は人混みが大の苦手だ)。片瀬江ノ島駅まで冴に向かいに来てもらい、歩いて水族館に向かった。人が多いから自然と手を繋いだ。普段から言葉数が多い2人ではないが、いつにも増して冴は静かだった。俺はなんとなくそわそわとした。告白でもされたらめんどくさいなぁと思った。よく知らないが、冴はモテるんだろ?モテる男に好かれるのはめんどくさい。女のやっかみほど、うっとおしいもんはない。俺の価値を、恋人なんかで測られるのは嫌だ。だから当時から(当時は特に)恋人はいらなかった。冴はいい奴だけど、顔はめちゃくちゃ綺麗だと思うけど、だから恋人にしたいとは思わない。そんなことをグルグルと考えて、眩暈がした。俺がウミガメの子供のプールに張り付いて動かなくなると、冴は海岸の方へカモメを探しに行って。これくらいがちょうどよかった。声をかければ、振り向いてやるくらいの。このままでずっといたいと思った。
「おい」
「ん?」
「ちょっと、大事な話があるから」
冴が手をこまねくので、仕方なくウミガメとバイバイをして、冴の横に並んだ。寄せて返す波の音、運ばれてくる潮風の香り、空は雲も少なくて晴れていた。冴はなかなか話さなくて、不安で仕方なくなって冴の袖を掴んだ。冴はそれに気づくと、具合が悪いか?と聞いてくる。
「いや、大事な話大事な話と言いつつなにも言わないから、緊張するだろ」
冴は少し目を見開くと、あーと情けない声を出す。
「いや、ごめん。大したことじゃねぇんだ」
「大したことねぇのを随分ともったいぶるじゃん」
冴はバツが悪くなったようで、俺から視線を逸らして。でも逃げられたら困るとばかりに、肩を抱き寄せてきた。むず痒い。気持ち悪いなぁ。振り払う勇気は出ないけれど。大嫌いなわけじゃないから。
「その、世界一のストライカーになりたくて」
「うん」
「もう少ししたら、俺スペインに行くんだ」
驚いて冴の顔を見た。俺の顔が情けなかったのか、冴は吹き出して笑いやがった。
「おい、人の顔見て笑うな」
「悪ぃ、見たことないくらい驚いてっから」
冴はひと通り笑い倒すと、一呼吸置いて真面目な顔をした。
「俺がいない間、凛のことよろしく頼む」
「いやなんでだよ」
「お前くらいしか、頼める奴がいない」
「…………友達少ねぇんだな、冴」
「あ?別に少なくねーし」
だったら俺じゃなくてもいいだろ。そう視線で訴えれば、あ゙ーとイラつきながら頭を掻いて。
「選んで!お前なの!お前がよくてお前に頼んでんだよ!」
「ずるい言い回しだなぁ、断れないじゃん」
「断るなよ!大事な友達だろ!」
言ってから、冴は頬を赤く染めてそっぽを向いた。俺はにんまり笑う。恋愛とか嫉妬とか、めんどくさいけれど。誰かにまっすぐに大切にされるのは大好きだ。冴とは、大事な友達でいつまでもいたいと思う。
「頼まれた。大事な友達だからね」
「……おう」
「頑張りすぎるなよ」
「頑張ったくらいで辿り着ける場所じゃねぇよ」
「そうなのか」
それから、スペインにはどれくらいいるのかとか、1人で行くのかとか。あれこれ聞いて、心配になって。連絡はちょうだいね、なにかあったら帰ってきてねと伝えた。ちゃんと分かったのかは知らないが。スペインに行っても、メールのやり取りは頻繁にしたし、たまにだが電話で話すこともあった。凛と喧嘩別れした後は、帰国すると俺の家に泊まっていく。はた迷惑な野郎である。でもまぁ、大事な友達なので、いくつでも貸しは作ってやる。
〜〜♪
着信が来たので、スマホの画面を見る。糸師冴の表示に、嫌な予感がする。良い報告のことのが少ないからだ。電話に出ると、おーと気の抜けた声が聞こえる。
「どした?」
「いや、もう少し日本にいることになったから」
「……うちに泊んのか?」
「いや、ホテル取ってそのあとはどっか借りると思う」
「そんな長くいるんだ。なんかあったか?」
「んー……話すと長くなんだよ」
「ほーん」
まぁサッカーのこととか事情とかよく分からんが。しばらくこちらにいるらしい。遊びたい、と言ってもいいのだろうか。友達ではあるけど、冴は恋愛中だしな。黙っていると、冴があー……とため息を吐く。
「……借りをな?ちょっとでも返しておきたくて」
「うん?」
「どっかで会えたら嬉しい」
「……うん!!」
俺の声を聞いて、冴が鼻で笑ったのが分かる。これでいい。これくらい、ささやかな繋がりでいい。
「また連絡するわ」
「おう、待ってるな」
通話を切る。離れていく人間がいれば、帰ってくる人間もいる。俺は俺のまま、去る者は追わず来るもの拒まず。この世の中に浮かぶように揺蕩うだけ。
携帯を持たせてもらったばっかり、ぴかぴかの中学1年生になった頃。交換したばかりのメールアドレスに、冴からひと言「話がある」と連絡がきた。メールじゃダメなのかと聞けば、せっかくだから2人で出かけたいという。こいつ俺のことそんな好きだっけと思いつつ、別に嬉しくないわけじゃないからいいよーと返事をした。両親にも訳を伝えて、2人でゴールデンウィークの休みに江ノ島水族館に行くことになった(今思い返せば、よく子供だけで行けたなと思う。俺は人混みが大の苦手だ)。片瀬江ノ島駅まで冴に向かいに来てもらい、歩いて水族館に向かった。人が多いから自然と手を繋いだ。普段から言葉数が多い2人ではないが、いつにも増して冴は静かだった。俺はなんとなくそわそわとした。告白でもされたらめんどくさいなぁと思った。よく知らないが、冴はモテるんだろ?モテる男に好かれるのはめんどくさい。女のやっかみほど、うっとおしいもんはない。俺の価値を、恋人なんかで測られるのは嫌だ。だから当時から(当時は特に)恋人はいらなかった。冴はいい奴だけど、顔はめちゃくちゃ綺麗だと思うけど、だから恋人にしたいとは思わない。そんなことをグルグルと考えて、眩暈がした。俺がウミガメの子供のプールに張り付いて動かなくなると、冴は海岸の方へカモメを探しに行って。これくらいがちょうどよかった。声をかければ、振り向いてやるくらいの。このままでずっといたいと思った。
「おい」
「ん?」
「ちょっと、大事な話があるから」
冴が手をこまねくので、仕方なくウミガメとバイバイをして、冴の横に並んだ。寄せて返す波の音、運ばれてくる潮風の香り、空は雲も少なくて晴れていた。冴はなかなか話さなくて、不安で仕方なくなって冴の袖を掴んだ。冴はそれに気づくと、具合が悪いか?と聞いてくる。
「いや、大事な話大事な話と言いつつなにも言わないから、緊張するだろ」
冴は少し目を見開くと、あーと情けない声を出す。
「いや、ごめん。大したことじゃねぇんだ」
「大したことねぇのを随分ともったいぶるじゃん」
冴はバツが悪くなったようで、俺から視線を逸らして。でも逃げられたら困るとばかりに、肩を抱き寄せてきた。むず痒い。気持ち悪いなぁ。振り払う勇気は出ないけれど。大嫌いなわけじゃないから。
「その、世界一のストライカーになりたくて」
「うん」
「もう少ししたら、俺スペインに行くんだ」
驚いて冴の顔を見た。俺の顔が情けなかったのか、冴は吹き出して笑いやがった。
「おい、人の顔見て笑うな」
「悪ぃ、見たことないくらい驚いてっから」
冴はひと通り笑い倒すと、一呼吸置いて真面目な顔をした。
「俺がいない間、凛のことよろしく頼む」
「いやなんでだよ」
「お前くらいしか、頼める奴がいない」
「…………友達少ねぇんだな、冴」
「あ?別に少なくねーし」
だったら俺じゃなくてもいいだろ。そう視線で訴えれば、あ゙ーとイラつきながら頭を掻いて。
「選んで!お前なの!お前がよくてお前に頼んでんだよ!」
「ずるい言い回しだなぁ、断れないじゃん」
「断るなよ!大事な友達だろ!」
言ってから、冴は頬を赤く染めてそっぽを向いた。俺はにんまり笑う。恋愛とか嫉妬とか、めんどくさいけれど。誰かにまっすぐに大切にされるのは大好きだ。冴とは、大事な友達でいつまでもいたいと思う。
「頼まれた。大事な友達だからね」
「……おう」
「頑張りすぎるなよ」
「頑張ったくらいで辿り着ける場所じゃねぇよ」
「そうなのか」
それから、スペインにはどれくらいいるのかとか、1人で行くのかとか。あれこれ聞いて、心配になって。連絡はちょうだいね、なにかあったら帰ってきてねと伝えた。ちゃんと分かったのかは知らないが。スペインに行っても、メールのやり取りは頻繁にしたし、たまにだが電話で話すこともあった。凛と喧嘩別れした後は、帰国すると俺の家に泊まっていく。はた迷惑な野郎である。でもまぁ、大事な友達なので、いくつでも貸しは作ってやる。
〜〜♪
着信が来たので、スマホの画面を見る。糸師冴の表示に、嫌な予感がする。良い報告のことのが少ないからだ。電話に出ると、おーと気の抜けた声が聞こえる。
「どした?」
「いや、もう少し日本にいることになったから」
「……うちに泊んのか?」
「いや、ホテル取ってそのあとはどっか借りると思う」
「そんな長くいるんだ。なんかあったか?」
「んー……話すと長くなんだよ」
「ほーん」
まぁサッカーのこととか事情とかよく分からんが。しばらくこちらにいるらしい。遊びたい、と言ってもいいのだろうか。友達ではあるけど、冴は恋愛中だしな。黙っていると、冴があー……とため息を吐く。
「……借りをな?ちょっとでも返しておきたくて」
「うん?」
「どっかで会えたら嬉しい」
「……うん!!」
俺の声を聞いて、冴が鼻で笑ったのが分かる。これでいい。これくらい、ささやかな繋がりでいい。
「また連絡するわ」
「おう、待ってるな」
通話を切る。離れていく人間がいれば、帰ってくる人間もいる。俺は俺のまま、去る者は追わず来るもの拒まず。この世の中に浮かぶように揺蕩うだけ。
