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黄昏時の新宿。JR東南口改札を抜けて、降りたところの広場。今は葉っぱをつけている桜の木の下。隔週で通っている病院の帰り、木曜日は約束がある。少し早く通院が終わった、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、待つ。
(あの、ちょっといい?)
多分そう言われた。ヘッドフォンを外して話を聞こうとすると、可愛いねと喋り出した。なんだ、困ってる人じゃないのか。目線を外して興味がないと態度に出すが、相手は知らぬふりでずっと話している。
「音楽好きなの?歌い手とかしてる?」
「…………たまにネットで垂れ流し配信とかしますが」
なんでこういう時、自分は嘘を吐けないのだろうか。本当のことを言ったって、なんにもならないのに。
「えーすごいね!カラオケとか、今から行こうよ。ご馳走するし」
「人を待ってる」
「その子も一緒でいいよ?お友達でしょ?」
「まぁ」
相手が馴れ馴れしく俺の腕に触れようとするので、後ろに下がった。木があってこれ以上下がれない。流石に恐怖を覚える。振り切って逃げようか、走るのは疲れるから嫌だなぁ。ナンパ男の背中越し、背が高い君が視界に入ったから。君の視界に入れるよう、男の影から這い出すように移動した。
「……飼い慣らせない猛獣が来るから」
「なに?」
「帰った方がいいですよ」
「はあ?」
ナンパ男は何も気付かずに俺に手を伸ばして。俺に触れる前に吹っ飛ばされて、伸びた。見上げれば、龍聖はにこにこと俺を見下ろしていて。手をかざして、軽いハイタッチを交わす。
「わり、遅くなった。大丈夫?」
「助かったけど、警察沙汰は嫌だ」
「キックじゃなくてグーにしたっしょ?」
「グーもダメなんだよなぁ……」
そう?と龍聖はすっとぼけて、俺の右手を攫って早足に歩き出した。
「どこ行くの?」
「イチャイチャ出来るとこ♡」
「どこだよ金ないよ」
「……本音言えば、芦虎と居られるならどこでもいいの」
「うーんありがとう」
握られた手に力を込めて、握り返した。一度ぱっと離されて、指を絡めて繋ぎ直して。恋人繋ぎってやつ。俺達は恋人同士なんだろうか。既成事実が多いから、尋ねられたら頷いてはいるけど。ちゃんとお付き合いしようと、言われたことはなくて。俺がはぐらかしてるのには、龍聖も気付いていて。でも、お互いなにも言わない。
「俺も龍聖と一緒にいれて嬉しい」
素直な気持ちはちゃんと言葉にする。誤魔化さない、嘘は吐かない。感じたことすべてに、正直にいる。それは俺の美徳のはずだ。龍聖は俺の言葉を聞くと、ニコッと笑った。上着のポッケに繋いだ手を突っ込んで、鼻唄を歌う。歩みは止めないけど、本当にどこ行くんだこれ。
「どこ行くの?」
「決まってねぇんだけど、歩いていたくてさ」
「代々木とかまで、歩いてみる?」
「いいね♪」
方向転換して、代々木の方へ歩く。まぁ代々木に行ったってなんもないけど。2人で歩くのは楽しいからいいや。
「疲れたらおぶるから言ってね?」
「えぇ恥ずかしいからいいよ……」
俺がそう答えると、つまんないなぁとカラカラ笑った。笑う声が遠い。背が高すぎるんだよな。背伸びをして、空いた手で服の裾を引っ張る。
「ん?」
「喋りにくいから、おぶって」
大通りも抜けて、人も減ったし。実際のところ他人からどう見られるかはどうだっていいし。いやまぁ、強がっていたいし。龍聖は目を丸くしたあと、細めて嬉しそうにした。表情筋がよく動く奴。
「仰せのままに」
龍聖の背におぶられると、世界の見え方が変わる。高くて足がつかないのが、少し怖い。自分の命を龍聖に預けているのが、なんかゾクゾクワクワクする。龍聖の首に俺の腕を巻き付けて、身を寄せる。喋りたいって言ったくせ、お互い口数が減ってしまって。可笑しくて笑った。
(あの、ちょっといい?)
多分そう言われた。ヘッドフォンを外して話を聞こうとすると、可愛いねと喋り出した。なんだ、困ってる人じゃないのか。目線を外して興味がないと態度に出すが、相手は知らぬふりでずっと話している。
「音楽好きなの?歌い手とかしてる?」
「…………たまにネットで垂れ流し配信とかしますが」
なんでこういう時、自分は嘘を吐けないのだろうか。本当のことを言ったって、なんにもならないのに。
「えーすごいね!カラオケとか、今から行こうよ。ご馳走するし」
「人を待ってる」
「その子も一緒でいいよ?お友達でしょ?」
「まぁ」
相手が馴れ馴れしく俺の腕に触れようとするので、後ろに下がった。木があってこれ以上下がれない。流石に恐怖を覚える。振り切って逃げようか、走るのは疲れるから嫌だなぁ。ナンパ男の背中越し、背が高い君が視界に入ったから。君の視界に入れるよう、男の影から這い出すように移動した。
「……飼い慣らせない猛獣が来るから」
「なに?」
「帰った方がいいですよ」
「はあ?」
ナンパ男は何も気付かずに俺に手を伸ばして。俺に触れる前に吹っ飛ばされて、伸びた。見上げれば、龍聖はにこにこと俺を見下ろしていて。手をかざして、軽いハイタッチを交わす。
「わり、遅くなった。大丈夫?」
「助かったけど、警察沙汰は嫌だ」
「キックじゃなくてグーにしたっしょ?」
「グーもダメなんだよなぁ……」
そう?と龍聖はすっとぼけて、俺の右手を攫って早足に歩き出した。
「どこ行くの?」
「イチャイチャ出来るとこ♡」
「どこだよ金ないよ」
「……本音言えば、芦虎と居られるならどこでもいいの」
「うーんありがとう」
握られた手に力を込めて、握り返した。一度ぱっと離されて、指を絡めて繋ぎ直して。恋人繋ぎってやつ。俺達は恋人同士なんだろうか。既成事実が多いから、尋ねられたら頷いてはいるけど。ちゃんとお付き合いしようと、言われたことはなくて。俺がはぐらかしてるのには、龍聖も気付いていて。でも、お互いなにも言わない。
「俺も龍聖と一緒にいれて嬉しい」
素直な気持ちはちゃんと言葉にする。誤魔化さない、嘘は吐かない。感じたことすべてに、正直にいる。それは俺の美徳のはずだ。龍聖は俺の言葉を聞くと、ニコッと笑った。上着のポッケに繋いだ手を突っ込んで、鼻唄を歌う。歩みは止めないけど、本当にどこ行くんだこれ。
「どこ行くの?」
「決まってねぇんだけど、歩いていたくてさ」
「代々木とかまで、歩いてみる?」
「いいね♪」
方向転換して、代々木の方へ歩く。まぁ代々木に行ったってなんもないけど。2人で歩くのは楽しいからいいや。
「疲れたらおぶるから言ってね?」
「えぇ恥ずかしいからいいよ……」
俺がそう答えると、つまんないなぁとカラカラ笑った。笑う声が遠い。背が高すぎるんだよな。背伸びをして、空いた手で服の裾を引っ張る。
「ん?」
「喋りにくいから、おぶって」
大通りも抜けて、人も減ったし。実際のところ他人からどう見られるかはどうだっていいし。いやまぁ、強がっていたいし。龍聖は目を丸くしたあと、細めて嬉しそうにした。表情筋がよく動く奴。
「仰せのままに」
龍聖の背におぶられると、世界の見え方が変わる。高くて足がつかないのが、少し怖い。自分の命を龍聖に預けているのが、なんかゾクゾクワクワクする。龍聖の首に俺の腕を巻き付けて、身を寄せる。喋りたいって言ったくせ、お互い口数が減ってしまって。可笑しくて笑った。
