プロトタイプ/落書き
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1月10日、毎年この日には優先生から花束が届く。スペイン留学中にも、わざわざ私の下宿先を訊いて送ってくれた。今年はうっかり転居を伝え損ねていたが、優先生が私の状況を察して「サプライズには出来ないけど」と確認してくれた。なので、今年も誕生日に私は花をプレゼントしてもらえた。玄関先で宅配から花束を受け取り、悠々と部屋に戻る。花束を抱えた私を見て、冴くんはストレッチをしながらも怪訝そうな顔をする。
「誰からのだ」
「優先生」
「……蜂楽廻の母親だったか?」
「そう」
花の茎を切り揃えて、花瓶に飾る。冴くんはその様子を恨めしそうに見る。窓の外を見ながらストレッチしていたのに、身体をこちらに向き直して私を視界に入れる。私は、ソファに腰掛けて花のスケッチを始める。
「面白くなさそうね?」
「……そりゃ、好きな女が好く男の、母親とも仲がいいとなれば、心中穏やかじゃない」
「そう」
特にフォローはせずに、色鉛筆を持ち出して淡く色を乗せた。花もプレゼントも好きだ。この感性は間違いなく蜂楽親子がくれたもの。それを隠したり取り繕ったりなんかしない。
「……次の試合は、ブルーロックプロジェクトの命運がかかってる」
冴くんが確認するように話し出したので、耳を傾けながら赤を手に取る。
「俺のプレーに、蜂楽廻の選手生命がかかってるぞ。なにか言うことはないのか」
「別にないわよ。応援をして欲しかった?」
赤の影に紫を落とす。冴くんは黙って、身体を伸ばしている。ちら、と目を合わせれば、説明を求める視線を寄越した。
「蜂楽廻の人生に、私はそんな野暮な横槍は入れないわ。ここで廻のサッカー人生が終わるなら、それまでのことよ」
「……それを奪うのが俺だとしても?」
「関係ないわね。廻が抗うのなら切り開けるでしょうし、それが出来なくとも私は彼を愛している」
冴くんは顔を歪めた。けれど、それ以上は言葉にしなかった。不器用な子。肝心なこと、自分の気持ちを言葉にするのは、ひどく苦手らしい。可愛らしくて、私は彼の前を去れずにいる。
「廻からなにを奪っても、貴方を嫌いになることはないわよ」
欲しい言葉かは知らない。でも、率直な思いを伝える。冴くんは少し目を見開き、ため息を吐いた。
「なんでもお見通しかよ」
「あら、別に貴方の胸の内なんて知らないわ?思ったことを言っただけ」
「…………俺はあんたのことが怖いよ」
冴くんはストレッチをやめ、立ち上がる。私の隣に座り、花を眺めた。私は色を重ねる手を止めなかった。冴くんが、見ていいかと問うので、頷いてみせた。冴くんがそっと身を寄せて、私のスケッチブックを覗く。
「…………なんで今日、花束なんか届いたんだ?」
「私の誕生日だからね」
「は?」
冴くんは身体を離し、信じられないというような声を出した。それから、私の頬を摘んで引っ張る。仕方なく、顔を向けた。冴くんはひどく怒った顔をしているので、お返しに笑ってあげた。
「聞いてない、なんで黙ってた」
「聞かれてないから?」
「そんな子供みたいな理屈……あぁもう!」
冴くんは項垂れて、私から顔を背けて黙った。しばらく、その落胆した横顔を見ていた。冴くんがこっちを見て、またため息を吐く。
「……なにか、欲しいものは」
「特にないわ」
「祝わせてもくれないのか」
「1番手軽な方法、忘れてるのではなくて?」
そう言えば、バツが悪そうに視線を外して。1度目を閉じて、私に向き直った。冴くんは少し迷った仕草で、私の頬に手を添えた。
「誕生日、おめでとう」
「ええ」
「…………来年、ちゃんと祝うから。俺の側にいて欲しい」
ちょっと考えて、宙を見つめて。冴くんが不安そうに言葉を待つから、微笑んで返した。
「ありがとう。そうしようかな」
「そうしてくれ」
それから、スケッチを再開して。冴くんは黙って、横で作業を眺めていた。私が冷蔵庫からお酒を取り出したら、呆れたように毒づいて。それでも、隣を離れようとはしなかった。
「誰からのだ」
「優先生」
「……蜂楽廻の母親だったか?」
「そう」
花の茎を切り揃えて、花瓶に飾る。冴くんはその様子を恨めしそうに見る。窓の外を見ながらストレッチしていたのに、身体をこちらに向き直して私を視界に入れる。私は、ソファに腰掛けて花のスケッチを始める。
「面白くなさそうね?」
「……そりゃ、好きな女が好く男の、母親とも仲がいいとなれば、心中穏やかじゃない」
「そう」
特にフォローはせずに、色鉛筆を持ち出して淡く色を乗せた。花もプレゼントも好きだ。この感性は間違いなく蜂楽親子がくれたもの。それを隠したり取り繕ったりなんかしない。
「……次の試合は、ブルーロックプロジェクトの命運がかかってる」
冴くんが確認するように話し出したので、耳を傾けながら赤を手に取る。
「俺のプレーに、蜂楽廻の選手生命がかかってるぞ。なにか言うことはないのか」
「別にないわよ。応援をして欲しかった?」
赤の影に紫を落とす。冴くんは黙って、身体を伸ばしている。ちら、と目を合わせれば、説明を求める視線を寄越した。
「蜂楽廻の人生に、私はそんな野暮な横槍は入れないわ。ここで廻のサッカー人生が終わるなら、それまでのことよ」
「……それを奪うのが俺だとしても?」
「関係ないわね。廻が抗うのなら切り開けるでしょうし、それが出来なくとも私は彼を愛している」
冴くんは顔を歪めた。けれど、それ以上は言葉にしなかった。不器用な子。肝心なこと、自分の気持ちを言葉にするのは、ひどく苦手らしい。可愛らしくて、私は彼の前を去れずにいる。
「廻からなにを奪っても、貴方を嫌いになることはないわよ」
欲しい言葉かは知らない。でも、率直な思いを伝える。冴くんは少し目を見開き、ため息を吐いた。
「なんでもお見通しかよ」
「あら、別に貴方の胸の内なんて知らないわ?思ったことを言っただけ」
「…………俺はあんたのことが怖いよ」
冴くんはストレッチをやめ、立ち上がる。私の隣に座り、花を眺めた。私は色を重ねる手を止めなかった。冴くんが、見ていいかと問うので、頷いてみせた。冴くんがそっと身を寄せて、私のスケッチブックを覗く。
「…………なんで今日、花束なんか届いたんだ?」
「私の誕生日だからね」
「は?」
冴くんは身体を離し、信じられないというような声を出した。それから、私の頬を摘んで引っ張る。仕方なく、顔を向けた。冴くんはひどく怒った顔をしているので、お返しに笑ってあげた。
「聞いてない、なんで黙ってた」
「聞かれてないから?」
「そんな子供みたいな理屈……あぁもう!」
冴くんは項垂れて、私から顔を背けて黙った。しばらく、その落胆した横顔を見ていた。冴くんがこっちを見て、またため息を吐く。
「……なにか、欲しいものは」
「特にないわ」
「祝わせてもくれないのか」
「1番手軽な方法、忘れてるのではなくて?」
そう言えば、バツが悪そうに視線を外して。1度目を閉じて、私に向き直った。冴くんは少し迷った仕草で、私の頬に手を添えた。
「誕生日、おめでとう」
「ええ」
「…………来年、ちゃんと祝うから。俺の側にいて欲しい」
ちょっと考えて、宙を見つめて。冴くんが不安そうに言葉を待つから、微笑んで返した。
「ありがとう。そうしようかな」
「そうしてくれ」
それから、スケッチを再開して。冴くんは黙って、横で作業を眺めていた。私が冷蔵庫からお酒を取り出したら、呆れたように毒づいて。それでも、隣を離れようとはしなかった。