序章/プロトタイプ
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たまには飲もうかとなって、気分の高揚を冷やすような雨が降ったから、保栄さんを部屋に呼ぶ。
「風間の部屋って、生活感ねぇな」
開口一番、そう言われて。言われるのが分かっていたから、吹き出して笑った。
「笑うトコ〜?もう少しちゃんと家具揃えなよ」
「すみません、人を呼ぶこともないもんだから」
暗に(貴方は特別だから部屋に呼んだんだ)ってことを、透けたカードのジョーカーで惑わせたところで。透けてるんだから、隠すことに意味なんてないだろうに。
「自己鍛錬以外で顔を突き合わせるの、初めてカモ?」
「初めてですよ」
「そっか。なんか話したいこと、アルの?」
話したいことは山のようにあれど、言葉にできるのはほんの少しで。秘密なんて首輪がつくと、余計になにも話せずにいる。
「…………話したら、引きませんか」
「……内容によるケド。多分大丈夫?」
春先の雨はしとしとと窓を叩く。この部屋には、なにも届かない。俺と保栄さんだけ。やけに響く雨音が、心音とリンクして騒がしい。言ってしまえたら楽。絶対に楽。遠征だって決まってるんだ、何も知られないまま、この人の前を立ち去るなんて生憎出来ない。風間蒼也は、まだ子供なんだ。貴方にだけは、甘やかして欲しくて。
「あの、その」
「うん」
保栄さんが俺を伺うように、首を傾げて。そうです、仕草も佇まいも語り口も、全部違うのに。
「保栄さんの声が、」
「声?」
「死んだ兄にそっくりなんです」
保栄さんはパチクリと瞬きを繰り返し、どうしたもんかと言わんばかりに頭を掻いた。あぁ今更のことなんですけどね。初めの初め、貴方を意識するきっかけになっただけのことですから。そんな言い訳を飲み込んで、俺は保栄さんの様子を楽しんだ。素直な人だ。愛らしい人だ。この人が喋るたび、俺は兄貴の声を思い出せる。大切なんだ。貴方が思っているより、俺にとって貴方は大切な人なんだよ。
「あーー……幻滅とか、させてナイ?大丈夫?」
「兄と保栄さんが別人物なのは分かってるし、保栄さんに幻滅したことなんか、ありませんよ」
「そうなの!?風間は厳しいから、いろいろ怒ってることあるのかと思ってた」
怒れるわけないじゃないか。だらしなく魅せても結局は見せかけだけで、誰よりもボーダーで働いている。甘やかしたいくらいなのに(本音は俺が甘えたい)。
「保栄さんと喋ると兄の声を思い出せて、落ち着くんです」
真っ赤な嘘を吐いた。兄貴もあの世で大爆笑しているだろう。兄の声を思い出して感傷に浸ってた時間など、とうに通り過ぎている。だから、保栄さんの前でだけ借りてきた猫みたいにいることを、爆笑する兄貴しか見えないのだ。
「そっか、そっか……そうだったか」
保栄さんは大真面目に受け取って、タバコに火をつけて窓を開けた。湿った空気が流れ込んでくる。遠くに車の排気音がする。雲が厚くて、陽の光は見えない。それでも、窓に寄りかかりながらタバコを吸う保栄さんは、気だるくて色気を放っていて、飲み込めないカッコよさを醸し出していた。俺にだけそう見えるのか、誰かもそう思うのか。答えを知ろうとするのは、沼への入り口。だから、俺の前で見せてくれる、ありのままの保栄さんだけ信じる。
「辛かったネ。おしゃべりは控えた方がイイ?」
「とんでもないです。むしろ話しかけてください」
もっと、もっと。貴方といたい。もう少しだけでも、則本保栄を知りたい。素直に言える人間だったなら、よかった。
「そっか……ま、慌てずにいこう。傷跡が残るのも、大事なことだから」
「そうですね、あの」
保栄さんがこちらに視線を投げる。肌の白さが、雨に透き通るようで綺麗だ。
「たまには、俺の部屋に来て。話してくれませんか」
保栄さんは少し宙を見上げ、んーと声を出して、またタバコを吸う。
「お互い忙しいけどネ。時間作れたらイイよね」
「ありがとうございます。誘わせてください」
「ウン。俺も風間とはもっと話したい」
心にパッと花を咲かせるのが上手い人。お花が好きな貴方に、どんな花が咲いたのか、素直に伝えられるようになれたなら。いやでも、内緒にしまって素知らぬ顔で隣にいるのも、充分に幸せだし。今だけでも、幸せのしっぽだけ追いかけていいですか?
「風間の部屋って、生活感ねぇな」
開口一番、そう言われて。言われるのが分かっていたから、吹き出して笑った。
「笑うトコ〜?もう少しちゃんと家具揃えなよ」
「すみません、人を呼ぶこともないもんだから」
暗に(貴方は特別だから部屋に呼んだんだ)ってことを、透けたカードのジョーカーで惑わせたところで。透けてるんだから、隠すことに意味なんてないだろうに。
「自己鍛錬以外で顔を突き合わせるの、初めてカモ?」
「初めてですよ」
「そっか。なんか話したいこと、アルの?」
話したいことは山のようにあれど、言葉にできるのはほんの少しで。秘密なんて首輪がつくと、余計になにも話せずにいる。
「…………話したら、引きませんか」
「……内容によるケド。多分大丈夫?」
春先の雨はしとしとと窓を叩く。この部屋には、なにも届かない。俺と保栄さんだけ。やけに響く雨音が、心音とリンクして騒がしい。言ってしまえたら楽。絶対に楽。遠征だって決まってるんだ、何も知られないまま、この人の前を立ち去るなんて生憎出来ない。風間蒼也は、まだ子供なんだ。貴方にだけは、甘やかして欲しくて。
「あの、その」
「うん」
保栄さんが俺を伺うように、首を傾げて。そうです、仕草も佇まいも語り口も、全部違うのに。
「保栄さんの声が、」
「声?」
「死んだ兄にそっくりなんです」
保栄さんはパチクリと瞬きを繰り返し、どうしたもんかと言わんばかりに頭を掻いた。あぁ今更のことなんですけどね。初めの初め、貴方を意識するきっかけになっただけのことですから。そんな言い訳を飲み込んで、俺は保栄さんの様子を楽しんだ。素直な人だ。愛らしい人だ。この人が喋るたび、俺は兄貴の声を思い出せる。大切なんだ。貴方が思っているより、俺にとって貴方は大切な人なんだよ。
「あーー……幻滅とか、させてナイ?大丈夫?」
「兄と保栄さんが別人物なのは分かってるし、保栄さんに幻滅したことなんか、ありませんよ」
「そうなの!?風間は厳しいから、いろいろ怒ってることあるのかと思ってた」
怒れるわけないじゃないか。だらしなく魅せても結局は見せかけだけで、誰よりもボーダーで働いている。甘やかしたいくらいなのに(本音は俺が甘えたい)。
「保栄さんと喋ると兄の声を思い出せて、落ち着くんです」
真っ赤な嘘を吐いた。兄貴もあの世で大爆笑しているだろう。兄の声を思い出して感傷に浸ってた時間など、とうに通り過ぎている。だから、保栄さんの前でだけ借りてきた猫みたいにいることを、爆笑する兄貴しか見えないのだ。
「そっか、そっか……そうだったか」
保栄さんは大真面目に受け取って、タバコに火をつけて窓を開けた。湿った空気が流れ込んでくる。遠くに車の排気音がする。雲が厚くて、陽の光は見えない。それでも、窓に寄りかかりながらタバコを吸う保栄さんは、気だるくて色気を放っていて、飲み込めないカッコよさを醸し出していた。俺にだけそう見えるのか、誰かもそう思うのか。答えを知ろうとするのは、沼への入り口。だから、俺の前で見せてくれる、ありのままの保栄さんだけ信じる。
「辛かったネ。おしゃべりは控えた方がイイ?」
「とんでもないです。むしろ話しかけてください」
もっと、もっと。貴方といたい。もう少しだけでも、則本保栄を知りたい。素直に言える人間だったなら、よかった。
「そっか……ま、慌てずにいこう。傷跡が残るのも、大事なことだから」
「そうですね、あの」
保栄さんがこちらに視線を投げる。肌の白さが、雨に透き通るようで綺麗だ。
「たまには、俺の部屋に来て。話してくれませんか」
保栄さんは少し宙を見上げ、んーと声を出して、またタバコを吸う。
「お互い忙しいけどネ。時間作れたらイイよね」
「ありがとうございます。誘わせてください」
「ウン。俺も風間とはもっと話したい」
心にパッと花を咲かせるのが上手い人。お花が好きな貴方に、どんな花が咲いたのか、素直に伝えられるようになれたなら。いやでも、内緒にしまって素知らぬ顔で隣にいるのも、充分に幸せだし。今だけでも、幸せのしっぽだけ追いかけていいですか?
