ボツの部屋
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生駒の奴に乗せられて、逆チョコを買ってしまった。結構いいやつ。……クリスマスに貰ってばかりは嫌だと泣かれたのに。受け取っては、貰えないだろうか。そうだとしたら、悲しい。なにもいらない、そこにいるだけでいいと願いながらも、受け取ることは強要するのだから、俺は業突く張りだ。結局は、愛されたくて仕方がない。膝の上にチョコの箱を置いてぼんやりして、手の温度でチョコが溶けると気づき、慌ててキッチンの冷蔵庫に仕舞った。『食うな 兄』とメモをつけておいた。……貰ってばかりが嫌だっていうんだから、莉子がチョコをくれたらお返しに渡してやればいい。くれるのか?そこに行き着くと、陽が沈んだ砂浜に寄せる波のように、暗く引き摺り込まれそうで怖くなる。
(今度も、頼ってはくれなかったのに)
莉子が会議で真木に「役立たずなんだから黙っていろ」と噛みつかれたというのは、太刀川さんから聞いた。ここ一ヶ月それで調子が悪そうだった。心配でたまらなくて、でも莉子が口を閉ざすからなにも言えなくて。黙っていろ、と言われたから、黙ってしまったのか。ただひと言、「役立たずじゃない」と泣きついてくれたなら、そんなわけはないと肯定をして深く抱きしめられたのに。触れたい。触れていたい。クリスマスに繋いだ手はまだ熱い。焼けてしまっても構わないから、もっと触れたい。そればかりだ。感情のコントロールを失いそうで、どこまでも独りよがりになりそうで、もう莉子を傷つけたくはないから、歩み寄れない。
(けどこのままじゃ、離れていくばかりか?)
夏に一度刈り取られた恋心は、枯れることなく咲き続けている。でもこれ以上寒いと、萎れてしまうかもしれない。そうだ、ひょっとして。莉子のわがままを引き出すのは、俺の我儘なのでは。交換なら、構わないだろ。うん、チョコは渡そう。それで、欲しいと強請ってみよう。そしたらきっと、貰えるはず。莉子が俺を頼らないのは、俺に迷惑をかけたくないから。だからきっと、まだ想いは繋がるはず。前向きに考える。自分でなんとかしようとする君が意地らしくて、そう捉えると愛しさが募って仕方がない。いいんだよ、一人で頑張らなくても。もう一人にはしないって、あの時俺は言ったろ。
(バレンタイン、なにしてる?……と)
メールを打って、送信する時に心臓が変な音を立てた。変じゃないよな、これくらい聞いてもいいよな。メールを送って1時間くらいしてから、返信がある。莉子は、バレンタインの日はなにもないのだけれどそれが不安で今から憂鬱だと言った。それなら、学校が終わったらまっすぐ帰ってくるから遊ぼうと誘った。すぐに、ありがとうそうすると返ってくる。バレンタインを迎えるのが待ち遠しい。あと4日か。
冷蔵庫を開ける度にチョコが目に入って、そわそわしながら過ごした。寝不足のまま学校へ行くと、下駄箱にチョコと手紙が入っている。下駄箱は嫌だなぁと思いながら教室へ向かうと、机の上にも小さな紙袋が2つ乗っていて。机の中にも手紙が入っており、首を傾げる。なんか今年多いな。クラスメイトに挨拶すれば、ボーダー隊員はモテるだとかなんとか。
「なんか去年よりも多いんだが」
「そりゃお前、来月には卒業だからだろ」
あぁ、そういえばそう。そりゃそうだけど、ちっともなんにも思わない。自分の冷ややかさにびっくりするほど。可哀想にな、俺みたいのに恋をして。
(恋に消費期限があることも、あるんだ)
幼馴染だから、タイムリミットなんて考えもしなかった。莉子から好きと言ってくれる日まで、いくらでも待てる。恋をしてから、ずっとそう思ってきた。今は、泣かせたらと思うと気持ちを告げられずにいる。もしかして、それって変なのか?恋愛初心者なので分からない、そもそも莉子との恋しか興味がない。
(……俺がチョコを貰ったって言ったら、妬いたりしてはくれないか)
最低だ、と薄暗い気持ちになる。人の気持ちを利用してなんて、莉子が嫌いそうなこと。後ろめる気持ちすら、君基準で。やっぱり最低だ。
授業は午前中には終わって、弁当を友達と食べてから足早に帰宅する。莉子の家の電気は、ついていない。寝込んでるんだろうか。電話をかける。3コールほどで出た。
『もしもし、おはよぉ』
寝惚けた声が耳に入り、胸が押し潰されるよう。毎朝聞きたい、結婚してくれ。早まったことを思い、深呼吸をひとつする。
『……もしもし?』
「ごめん、もしもし。大丈夫か?」
『寝ちゃってたけど、大丈夫』
「そうか……」
次の言葉が、出てこない。昼は食べたのか、どこかへ行こうか、部屋でもいいか?緊張で全部言い出せなくて、自然に振る舞うことが出来なくて。沈黙したら、不安にさせてしまう。
『あのね、えっと』
「うん?」
『お話したいことがあるんだけど、聞いてくれる……?』
「も、もちろん」
莉子の声の響きが少しか細くて不安そうで、それなのに俺は心配より先に胸をときめかせている。かわいい。やっぱり結婚しよ。
『今着替えるから、着替えたらお部屋に行くね』
「うん」
電話が切れる。……お部屋に行くね?部屋に来る?バッと弾かれたように部屋を片付ける。ふわふわしてる場合じゃないぞ。また緊張してきた。ふぅーと長く息を吐く。と同時にインターホンが鳴って、心臓がひっくり返る。早い。
「お邪魔します」
「……どうぞ」
玄関をくぐると莉子は迷いも遠慮もなく、俺の部屋に勝手に先に入る。追って戻れば、いつもの定位置に座っている。ベッドの縁。
「……学校でチョコ貰った?」
「あっ」
莉子が学生鞄の横に置かれた紙袋を指差す。しまった。仕舞い損ねた。バツが悪くて、視線を逸らす。
「……私のは、多い?いらない?」
「は?いらないわけねぇだろ」
思ったより低い声が出てしまって慌てる。莉子が憂いた顔で俺を見上げている。なんだって、そんなに自信なさげなんだ。
「俺は、莉子から貰うチョコ以外はどうでもいい」
「!」
「ちゃんといつも通りくれ」
手を差し出すと、莉子は手を重ねてきて。握って、上下に振って楽しそうにする。ほっとした反面、先ほどの自分の言動を思い返して赤面した。当たり前みたいに、要求してしまった。というか、ほぼ。
「買ってきたのだけど、許して〜」
「……おう」
赤いリボンのかかった、チョコレートの箱を受け取る。なによりも輝いて見えて、開封して食べられるのかちょっと疑問だ。中身も気になるけど……。
「うれし?」
「!嬉しい」
「よかった〜」
「……ありがとう」
ダメだ、溶ける。溶かされる。好き。なんか今日、莉子もなんだかふわふわとしていて。いつもより可愛い。手が出そうで、拳を握る。平常心。
「あのね、話があって」
「!あぁ」
少し目が冴える。真剣にちゃんと聞かなきゃ。莉子と目線を合わせるためにしゃがんだ。莉子の両手を取って、繋いで安心させる。莉子は、少し悩ましげに視線を泳がせたあと、口を開いた。
「拓磨の前で、あれこれ考えるの、疲れたの」
「うん」
「素直に気遣わずに振る舞いたい」
「いいよ」
「いいの?」
「うん」
「……怒らない?」
しばし押し黙った。莉子の素直に振る舞うというのが、どういうことなのかまだ分からなくて。下手な約束をして、また泣かせたら今度こそ立ち直れない。
「……怒るかもしれないけど、俺が怒ることはなにも気にしなくていいし、怒ったらぶっ叩いてくれていい」
「た、叩かないよ」
莉子は右手で俺の頭に触れて、撫でた。くすぐったい。込み上げるなにかで、頭がぐちゃぐちゃになりそうで。怖くなって、手首を掴んで止めて、また繋いで膝に戻した。
「……俺も莉子に我儘を言ってしまうかもしれないから」
「うん」
「莉子も、わがままを言っていい」
「うん」
「俺の言うこと、なんでも気にしなくていいし。迷惑かも、って心配しなくていい」
「うん、信じる」
莉子は足をぶらつかせ、手に力を込めて離して、指を絡める。
「これからも一緒にいていい?」
じゃあ結婚しよう、って言いそうなのをすんでのところで飲み込んだ。
「……当たり前だろ」
莉子の頬に触れて、撫でて立ち上がる。伸びをして、昂るのを誤魔化す。……これから素直な莉子を、俺は受け止められんのかな。
「散歩でも行くか?」
「うん!」
部屋にいたらぜーんぶバレてしまいそうで、それがやっぱり未だに怖くて。恋に消費期限があるとしたって、俺の愛は変わらないから、のんびりでも構わないだろ。莉子は人より繊細で、マイペースなんだから。慌てて伝えたら壊してしまいそうだから、俺はずっと待つんだ。夏から時間のかかった本当の仲直り、だよな?俺も信じるよ。
出かけて帰ってきてから逆チョコの存在を思い出し、いろいろ悩んで遅刻で渡すのはまた別の話。
(今度も、頼ってはくれなかったのに)
莉子が会議で真木に「役立たずなんだから黙っていろ」と噛みつかれたというのは、太刀川さんから聞いた。ここ一ヶ月それで調子が悪そうだった。心配でたまらなくて、でも莉子が口を閉ざすからなにも言えなくて。黙っていろ、と言われたから、黙ってしまったのか。ただひと言、「役立たずじゃない」と泣きついてくれたなら、そんなわけはないと肯定をして深く抱きしめられたのに。触れたい。触れていたい。クリスマスに繋いだ手はまだ熱い。焼けてしまっても構わないから、もっと触れたい。そればかりだ。感情のコントロールを失いそうで、どこまでも独りよがりになりそうで、もう莉子を傷つけたくはないから、歩み寄れない。
(けどこのままじゃ、離れていくばかりか?)
夏に一度刈り取られた恋心は、枯れることなく咲き続けている。でもこれ以上寒いと、萎れてしまうかもしれない。そうだ、ひょっとして。莉子のわがままを引き出すのは、俺の我儘なのでは。交換なら、構わないだろ。うん、チョコは渡そう。それで、欲しいと強請ってみよう。そしたらきっと、貰えるはず。莉子が俺を頼らないのは、俺に迷惑をかけたくないから。だからきっと、まだ想いは繋がるはず。前向きに考える。自分でなんとかしようとする君が意地らしくて、そう捉えると愛しさが募って仕方がない。いいんだよ、一人で頑張らなくても。もう一人にはしないって、あの時俺は言ったろ。
(バレンタイン、なにしてる?……と)
メールを打って、送信する時に心臓が変な音を立てた。変じゃないよな、これくらい聞いてもいいよな。メールを送って1時間くらいしてから、返信がある。莉子は、バレンタインの日はなにもないのだけれどそれが不安で今から憂鬱だと言った。それなら、学校が終わったらまっすぐ帰ってくるから遊ぼうと誘った。すぐに、ありがとうそうすると返ってくる。バレンタインを迎えるのが待ち遠しい。あと4日か。
冷蔵庫を開ける度にチョコが目に入って、そわそわしながら過ごした。寝不足のまま学校へ行くと、下駄箱にチョコと手紙が入っている。下駄箱は嫌だなぁと思いながら教室へ向かうと、机の上にも小さな紙袋が2つ乗っていて。机の中にも手紙が入っており、首を傾げる。なんか今年多いな。クラスメイトに挨拶すれば、ボーダー隊員はモテるだとかなんとか。
「なんか去年よりも多いんだが」
「そりゃお前、来月には卒業だからだろ」
あぁ、そういえばそう。そりゃそうだけど、ちっともなんにも思わない。自分の冷ややかさにびっくりするほど。可哀想にな、俺みたいのに恋をして。
(恋に消費期限があることも、あるんだ)
幼馴染だから、タイムリミットなんて考えもしなかった。莉子から好きと言ってくれる日まで、いくらでも待てる。恋をしてから、ずっとそう思ってきた。今は、泣かせたらと思うと気持ちを告げられずにいる。もしかして、それって変なのか?恋愛初心者なので分からない、そもそも莉子との恋しか興味がない。
(……俺がチョコを貰ったって言ったら、妬いたりしてはくれないか)
最低だ、と薄暗い気持ちになる。人の気持ちを利用してなんて、莉子が嫌いそうなこと。後ろめる気持ちすら、君基準で。やっぱり最低だ。
授業は午前中には終わって、弁当を友達と食べてから足早に帰宅する。莉子の家の電気は、ついていない。寝込んでるんだろうか。電話をかける。3コールほどで出た。
『もしもし、おはよぉ』
寝惚けた声が耳に入り、胸が押し潰されるよう。毎朝聞きたい、結婚してくれ。早まったことを思い、深呼吸をひとつする。
『……もしもし?』
「ごめん、もしもし。大丈夫か?」
『寝ちゃってたけど、大丈夫』
「そうか……」
次の言葉が、出てこない。昼は食べたのか、どこかへ行こうか、部屋でもいいか?緊張で全部言い出せなくて、自然に振る舞うことが出来なくて。沈黙したら、不安にさせてしまう。
『あのね、えっと』
「うん?」
『お話したいことがあるんだけど、聞いてくれる……?』
「も、もちろん」
莉子の声の響きが少しか細くて不安そうで、それなのに俺は心配より先に胸をときめかせている。かわいい。やっぱり結婚しよ。
『今着替えるから、着替えたらお部屋に行くね』
「うん」
電話が切れる。……お部屋に行くね?部屋に来る?バッと弾かれたように部屋を片付ける。ふわふわしてる場合じゃないぞ。また緊張してきた。ふぅーと長く息を吐く。と同時にインターホンが鳴って、心臓がひっくり返る。早い。
「お邪魔します」
「……どうぞ」
玄関をくぐると莉子は迷いも遠慮もなく、俺の部屋に勝手に先に入る。追って戻れば、いつもの定位置に座っている。ベッドの縁。
「……学校でチョコ貰った?」
「あっ」
莉子が学生鞄の横に置かれた紙袋を指差す。しまった。仕舞い損ねた。バツが悪くて、視線を逸らす。
「……私のは、多い?いらない?」
「は?いらないわけねぇだろ」
思ったより低い声が出てしまって慌てる。莉子が憂いた顔で俺を見上げている。なんだって、そんなに自信なさげなんだ。
「俺は、莉子から貰うチョコ以外はどうでもいい」
「!」
「ちゃんといつも通りくれ」
手を差し出すと、莉子は手を重ねてきて。握って、上下に振って楽しそうにする。ほっとした反面、先ほどの自分の言動を思い返して赤面した。当たり前みたいに、要求してしまった。というか、ほぼ。
「買ってきたのだけど、許して〜」
「……おう」
赤いリボンのかかった、チョコレートの箱を受け取る。なによりも輝いて見えて、開封して食べられるのかちょっと疑問だ。中身も気になるけど……。
「うれし?」
「!嬉しい」
「よかった〜」
「……ありがとう」
ダメだ、溶ける。溶かされる。好き。なんか今日、莉子もなんだかふわふわとしていて。いつもより可愛い。手が出そうで、拳を握る。平常心。
「あのね、話があって」
「!あぁ」
少し目が冴える。真剣にちゃんと聞かなきゃ。莉子と目線を合わせるためにしゃがんだ。莉子の両手を取って、繋いで安心させる。莉子は、少し悩ましげに視線を泳がせたあと、口を開いた。
「拓磨の前で、あれこれ考えるの、疲れたの」
「うん」
「素直に気遣わずに振る舞いたい」
「いいよ」
「いいの?」
「うん」
「……怒らない?」
しばし押し黙った。莉子の素直に振る舞うというのが、どういうことなのかまだ分からなくて。下手な約束をして、また泣かせたら今度こそ立ち直れない。
「……怒るかもしれないけど、俺が怒ることはなにも気にしなくていいし、怒ったらぶっ叩いてくれていい」
「た、叩かないよ」
莉子は右手で俺の頭に触れて、撫でた。くすぐったい。込み上げるなにかで、頭がぐちゃぐちゃになりそうで。怖くなって、手首を掴んで止めて、また繋いで膝に戻した。
「……俺も莉子に我儘を言ってしまうかもしれないから」
「うん」
「莉子も、わがままを言っていい」
「うん」
「俺の言うこと、なんでも気にしなくていいし。迷惑かも、って心配しなくていい」
「うん、信じる」
莉子は足をぶらつかせ、手に力を込めて離して、指を絡める。
「これからも一緒にいていい?」
じゃあ結婚しよう、って言いそうなのをすんでのところで飲み込んだ。
「……当たり前だろ」
莉子の頬に触れて、撫でて立ち上がる。伸びをして、昂るのを誤魔化す。……これから素直な莉子を、俺は受け止められんのかな。
「散歩でも行くか?」
「うん!」
部屋にいたらぜーんぶバレてしまいそうで、それがやっぱり未だに怖くて。恋に消費期限があるとしたって、俺の愛は変わらないから、のんびりでも構わないだろ。莉子は人より繊細で、マイペースなんだから。慌てて伝えたら壊してしまいそうだから、俺はずっと待つんだ。夏から時間のかかった本当の仲直り、だよな?俺も信じるよ。
出かけて帰ってきてから逆チョコの存在を思い出し、いろいろ悩んで遅刻で渡すのはまた別の話。