ボツの部屋
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歌を歌いたいと思ったが、陽も落ちてしまったので諦めた。明日は私の誕生日だ。拓磨が祝ってくれると言うので、明日は一緒にちょっと足を伸ばして隣町まで電車に乗る。ゴールデンウィーク中、迅も蓮ちゃんも家族も、代わる代わる私を祝ってくれた。でも、やはり当日というのは特別に感じる。楽しみだな。……怒られたりケンカになったり、しないといいな。少し、不安になってしまう。顔色を窺うのがちょっと煩わしくて、そんな弱気で未熟な自分が嫌で。それでも、どんなに悩んでも二度と離れたくはない人。素直でしなやかな自分で、まっすぐ向き合えたなら。素直なままがいいよと、迅が言ってた。拓磨もきっと、同じことを言うだろう。甘えてもいいと、拓磨が言ってた。信じたいと思う気持ちを、大事にしたらいいだろう。与えられるものを、疑わなくてもいい。みんな、私の味方だ。そこに疑問を持ってしまったら、愛されることはない。臆病な自分を鼻唄と共に墓場へ送る。きっと大丈夫。明日は練り香水をつけて、可愛いカーディガンを羽織って、お気に入りの靴で出かけよう。明日から、19歳。10代最後の1年の、はじまり。
拓磨はいつもシンプルでおしゃれだ。背も高くて細身だから、スタイリッシュでかっこいい。拓磨は照れ屋だから褒めたら恥ずかしがりそうだし、私もなんだか照れ臭くて緊張してしまいそうだから、口に出来ないけれど。
「……誕生日、おめで、とう」
ほら、それだけ言うのも恥ずかしそう。本当は、2人で外を出歩くのだって居た堪れないのだろう。私は、本当はもっと言葉が欲しい。拓磨の気持ちを知った風な気になりたくないから、確かめたい。拓磨の大きな手を取って触る。ゴツゴツしていて指が長くて。
「拓磨の手、好きだなぁって」
気恥ずかしくなり、パッと離して歩き出した。相手が伝えてくれなくても、自分の気持ちをたくさん伝えるのは、きっと大切なことだ。感謝も愛も、忘れないように繰り返す。そのうちにばつが悪くなって、拓磨も伝えてくれないかな。
「似合ってる」
練り香水を褒めてくれて、嬉しかった。手を繋いでくれたのは、もっと嬉しかった。
「私、誕生日だから。繋いでいてね」
拓磨が逃げ出してしまわないように、絶対離せない言い訳をつけた。拓磨は真っ赤な顔で、黙って歩いている。私は気分がどんどん晴れやかになって、手を振って歩いた。子供がはしゃぐよう。電車に乗って、5駅ほど。隣町の大きな駅に着く。電車を降りたら、私からすぐに手を繋いだ。拓磨は振り払わずに握ってくれた。顔を見つめて目が合ったら、すぐに逸らされる。
「へへへへ」
「…………どこ、行きたいんだ」
拓磨はようやく、それだけ言った。メガネを上げて、明後日の方を見ている。
「とりあえず、お昼!」
「なに食いたい」
「うんと、前に蓮ちゃんと行ったおばんざい屋さんあるんだけど……そこでもいい?」
「莉子の誕生日だろ。好きなとこでいい」
「うん!」
駅ビルのレストラン街、8階にあるお店に行く。平日なのですぐに入れた。向かい合って座って、じっと拓磨を見る。拓磨は目を泳がせた。
「…………なんだ」
「ううん?」
「人を、あんまりジロジロ見ちゃいけません」
拓磨の大きな手の平で、目の前を覆われる。わ、と驚いて声が出た。そのまま、わしゃわしゃと頭を撫でられる。私が笑えば、拓磨も微笑んでいた。とても幸せだと思う。ご飯を大盛りで食べて、豚汁をおかわりして。お腹いっぱいで、幸せ。
「美味しかったか?」
「うん、美味しかった!美味しかった?」
「…………莉子と食べたら、なんだって美味しい」
拓磨は俯いて、ぼそぼそとそう言った。咳払いをして、頭を掻いている。嬉しいなぁ。そんなに恥ずかしがらないで欲しいけれど。一緒にいて笑顔になってくれる人、一緒にいて幸せそうな人。恋をするなら、そういう相手がいい。私の幸せを願ってくれる人の側にいたい。
「お店、いっぱい見て回りたいんだけど」
「あぁ、好きなだけどうぞ」
席を立つ。財布を出そうとしたら、手首を掴まれて制止される。顔を上げたら、ちょっと眉を寄せて睨んでいる。
「今日、莉子は財布を出すな」
「えぇー」
「出さない!しまえ」
あまりに力強く訴えるもんだから、仕舞うしかなかった。拓磨の後ろに立つと、背中しか見えない。それがなんでか喜ばしく思えて、爪先立ちになったりシャツの裾を握ったりして、会計を待つ。
「……なんだ、もう」
拓磨は困った顔で、そっぽを向きながら私の頭を撫でた。頭に乗せられた手に両手で触れて、もっととせがむ。
「ごちそうさまでした」
「……うん。機嫌が良いなら、いい」
「誕生日だもん」
にんまり笑えば、君もはにかむ。またしっかりと手を繋いで、街を歩く。本屋や文房具屋、100均にアニメショップ。たくさん見て回って、欲しいものを選ぶ。拓磨は本当になんでも買ってくれて、100均ですら財布を出させてくれなかった。申し訳なくなってしまって、ちょっとずつしょげてしまう。誕生日だから、欲しいものは欲しいので買うけど。いいんだろうか。あまりに献身的なご奉仕大バーゲンに気後れする。
「なんでプレゼントする度にテンション下がってんだお前は」
「うー……だって……申し訳ない」
「申し訳ないことなんて、なんもないだろ」
なおをもしょもしょもとしてる私を、拓磨は公園のベンチまで連れてきて座らせた。
「休憩しよう」
拓磨は自販機で缶コーヒーと、私のためにりんごジュースを買って、寄越した。あまりに
献身的で、私は差し出すものを探してしまう。蓋を開けて、ジュースに口をつける。美味しい。
「……莉子の誕生日だから、俺が嬉しくて勝手にプレゼントしてるだけだ」
「うん……」
「俺の自己満足だから、付き合ってくれ」
拓磨の顔を見上げる。拓磨は一度しっかりと目を瞑ったあと、見開いて私と目を合わせた。拓磨の親指が私の額を撫でる。その仕草と眼差しがあんまりに優しくて、じんわり胸が温かい。
「プレゼントしたからには、喜んで欲しいんだが?」
思い直す。差し出すものがあるとすれば、私の素直な喜びだけだ。
「……うん、ごめん。嬉しい!」
拓磨の胸に額をすり寄せた。拓磨は大きく肩を揺らす。パッと離れると、拓磨は両膝に腕をついて項垂れる。ため息まで吐かれてしまった。
「……喜んだら、笑って欲しいけど?」
「お前……いや、うん。ずる……いや」
言葉を濁して、なにも言えずにごにょごにょしている拓磨を笑う。拓磨は恨めしそうに私を見て、私の鼻を摘んだ。
「ぶ」
「…………バカヤロウが」
頭に軽く手刀が入る。頭を抑えて髪を整えていたら、拓磨が鞄を漁っている。そうして、ラッピングされた小包を私の膝に置いた。
「まだあるの!?」
「当たり前だろ。俺が選んだ分もある」
「えぇー……ありがとう」
プレゼントを開けてみると、タオルハンカチが2枚入っていた。フクロウの刺繍の入ったものと、恐竜をあしらった迷彩柄のもの。ブランドはそれぞれ違う。ラッピングは拓磨がしたのだろう。
「……センスがなくて、申し訳ねぇけど」
「申し訳ないことなんて、なんもないよ?」
首を傾げて、見上げる。さっき言われたことをオウム返しにした。拓磨の左手を両手で握って、自分の膝に置いて。触って指を絡めて。足をぶらつかせて、鼻唄を歌う。私はご機嫌だ。このプレゼントを、拓磨がどれだけ迷って考えて、見つけてきたのかくらい。簡単に想像出来るもの。
「ありがとう、すごく嬉しい」
「…………おう」
「すごく嬉しい!」
「分かったよ」
そこからお互い言葉はなく、名残惜しくて遠回りと寄り道を繰り返して、すっかり夜になる。寂しくなってしまって、先程まで心地よかった沈黙が恐ろしくなって。拓磨もそうなのか、今日俺といてよかったのかなんて、おかしな事を訊く。
「拓磨は?嫌だったの?」
拓磨の表情が、柔らかく緩んで。
「幸せすぎたよ」
恐ろしいほど優しい声色で、そう呟いた。自分の中で、恋色の想いが溢れるのを感じたから。腕に抱きついて、ちゃんと伝えようと思った。
「大好きだよ」
拓磨から返事はない。恥ずかしくなってちょっと怖くなって、逃げ出すようにばいばいして。家に帰る。言っちゃった。なにかが変わってしまうかもしれない。それがずっと怖かったのに。でも、本当にそう思うのだから。伝えるべきだし、それで変わってしまうなら仕方ないじゃないか。そう言い聞かせて、恐怖を夜の淵へと、追いやっていく。今日が幸せだった。明日はそうじゃなくても、それは確かなのだから。しっかりと握りしめて。
拓磨はいつもシンプルでおしゃれだ。背も高くて細身だから、スタイリッシュでかっこいい。拓磨は照れ屋だから褒めたら恥ずかしがりそうだし、私もなんだか照れ臭くて緊張してしまいそうだから、口に出来ないけれど。
「……誕生日、おめで、とう」
ほら、それだけ言うのも恥ずかしそう。本当は、2人で外を出歩くのだって居た堪れないのだろう。私は、本当はもっと言葉が欲しい。拓磨の気持ちを知った風な気になりたくないから、確かめたい。拓磨の大きな手を取って触る。ゴツゴツしていて指が長くて。
「拓磨の手、好きだなぁって」
気恥ずかしくなり、パッと離して歩き出した。相手が伝えてくれなくても、自分の気持ちをたくさん伝えるのは、きっと大切なことだ。感謝も愛も、忘れないように繰り返す。そのうちにばつが悪くなって、拓磨も伝えてくれないかな。
「似合ってる」
練り香水を褒めてくれて、嬉しかった。手を繋いでくれたのは、もっと嬉しかった。
「私、誕生日だから。繋いでいてね」
拓磨が逃げ出してしまわないように、絶対離せない言い訳をつけた。拓磨は真っ赤な顔で、黙って歩いている。私は気分がどんどん晴れやかになって、手を振って歩いた。子供がはしゃぐよう。電車に乗って、5駅ほど。隣町の大きな駅に着く。電車を降りたら、私からすぐに手を繋いだ。拓磨は振り払わずに握ってくれた。顔を見つめて目が合ったら、すぐに逸らされる。
「へへへへ」
「…………どこ、行きたいんだ」
拓磨はようやく、それだけ言った。メガネを上げて、明後日の方を見ている。
「とりあえず、お昼!」
「なに食いたい」
「うんと、前に蓮ちゃんと行ったおばんざい屋さんあるんだけど……そこでもいい?」
「莉子の誕生日だろ。好きなとこでいい」
「うん!」
駅ビルのレストラン街、8階にあるお店に行く。平日なのですぐに入れた。向かい合って座って、じっと拓磨を見る。拓磨は目を泳がせた。
「…………なんだ」
「ううん?」
「人を、あんまりジロジロ見ちゃいけません」
拓磨の大きな手の平で、目の前を覆われる。わ、と驚いて声が出た。そのまま、わしゃわしゃと頭を撫でられる。私が笑えば、拓磨も微笑んでいた。とても幸せだと思う。ご飯を大盛りで食べて、豚汁をおかわりして。お腹いっぱいで、幸せ。
「美味しかったか?」
「うん、美味しかった!美味しかった?」
「…………莉子と食べたら、なんだって美味しい」
拓磨は俯いて、ぼそぼそとそう言った。咳払いをして、頭を掻いている。嬉しいなぁ。そんなに恥ずかしがらないで欲しいけれど。一緒にいて笑顔になってくれる人、一緒にいて幸せそうな人。恋をするなら、そういう相手がいい。私の幸せを願ってくれる人の側にいたい。
「お店、いっぱい見て回りたいんだけど」
「あぁ、好きなだけどうぞ」
席を立つ。財布を出そうとしたら、手首を掴まれて制止される。顔を上げたら、ちょっと眉を寄せて睨んでいる。
「今日、莉子は財布を出すな」
「えぇー」
「出さない!しまえ」
あまりに力強く訴えるもんだから、仕舞うしかなかった。拓磨の後ろに立つと、背中しか見えない。それがなんでか喜ばしく思えて、爪先立ちになったりシャツの裾を握ったりして、会計を待つ。
「……なんだ、もう」
拓磨は困った顔で、そっぽを向きながら私の頭を撫でた。頭に乗せられた手に両手で触れて、もっととせがむ。
「ごちそうさまでした」
「……うん。機嫌が良いなら、いい」
「誕生日だもん」
にんまり笑えば、君もはにかむ。またしっかりと手を繋いで、街を歩く。本屋や文房具屋、100均にアニメショップ。たくさん見て回って、欲しいものを選ぶ。拓磨は本当になんでも買ってくれて、100均ですら財布を出させてくれなかった。申し訳なくなってしまって、ちょっとずつしょげてしまう。誕生日だから、欲しいものは欲しいので買うけど。いいんだろうか。あまりに献身的なご奉仕大バーゲンに気後れする。
「なんでプレゼントする度にテンション下がってんだお前は」
「うー……だって……申し訳ない」
「申し訳ないことなんて、なんもないだろ」
なおをもしょもしょもとしてる私を、拓磨は公園のベンチまで連れてきて座らせた。
「休憩しよう」
拓磨は自販機で缶コーヒーと、私のためにりんごジュースを買って、寄越した。あまりに
献身的で、私は差し出すものを探してしまう。蓋を開けて、ジュースに口をつける。美味しい。
「……莉子の誕生日だから、俺が嬉しくて勝手にプレゼントしてるだけだ」
「うん……」
「俺の自己満足だから、付き合ってくれ」
拓磨の顔を見上げる。拓磨は一度しっかりと目を瞑ったあと、見開いて私と目を合わせた。拓磨の親指が私の額を撫でる。その仕草と眼差しがあんまりに優しくて、じんわり胸が温かい。
「プレゼントしたからには、喜んで欲しいんだが?」
思い直す。差し出すものがあるとすれば、私の素直な喜びだけだ。
「……うん、ごめん。嬉しい!」
拓磨の胸に額をすり寄せた。拓磨は大きく肩を揺らす。パッと離れると、拓磨は両膝に腕をついて項垂れる。ため息まで吐かれてしまった。
「……喜んだら、笑って欲しいけど?」
「お前……いや、うん。ずる……いや」
言葉を濁して、なにも言えずにごにょごにょしている拓磨を笑う。拓磨は恨めしそうに私を見て、私の鼻を摘んだ。
「ぶ」
「…………バカヤロウが」
頭に軽く手刀が入る。頭を抑えて髪を整えていたら、拓磨が鞄を漁っている。そうして、ラッピングされた小包を私の膝に置いた。
「まだあるの!?」
「当たり前だろ。俺が選んだ分もある」
「えぇー……ありがとう」
プレゼントを開けてみると、タオルハンカチが2枚入っていた。フクロウの刺繍の入ったものと、恐竜をあしらった迷彩柄のもの。ブランドはそれぞれ違う。ラッピングは拓磨がしたのだろう。
「……センスがなくて、申し訳ねぇけど」
「申し訳ないことなんて、なんもないよ?」
首を傾げて、見上げる。さっき言われたことをオウム返しにした。拓磨の左手を両手で握って、自分の膝に置いて。触って指を絡めて。足をぶらつかせて、鼻唄を歌う。私はご機嫌だ。このプレゼントを、拓磨がどれだけ迷って考えて、見つけてきたのかくらい。簡単に想像出来るもの。
「ありがとう、すごく嬉しい」
「…………おう」
「すごく嬉しい!」
「分かったよ」
そこからお互い言葉はなく、名残惜しくて遠回りと寄り道を繰り返して、すっかり夜になる。寂しくなってしまって、先程まで心地よかった沈黙が恐ろしくなって。拓磨もそうなのか、今日俺といてよかったのかなんて、おかしな事を訊く。
「拓磨は?嫌だったの?」
拓磨の表情が、柔らかく緩んで。
「幸せすぎたよ」
恐ろしいほど優しい声色で、そう呟いた。自分の中で、恋色の想いが溢れるのを感じたから。腕に抱きついて、ちゃんと伝えようと思った。
「大好きだよ」
拓磨から返事はない。恥ずかしくなってちょっと怖くなって、逃げ出すようにばいばいして。家に帰る。言っちゃった。なにかが変わってしまうかもしれない。それがずっと怖かったのに。でも、本当にそう思うのだから。伝えるべきだし、それで変わってしまうなら仕方ないじゃないか。そう言い聞かせて、恐怖を夜の淵へと、追いやっていく。今日が幸せだった。明日はそうじゃなくても、それは確かなのだから。しっかりと握りしめて。