可能性の話
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幼馴染でよかったこと、家が真ん前でなにかと一緒にいれること。よくないこと、近過ぎて気持ちの伝え方が、分からなくなっていること。俺の部屋の窓の向こうに、君の家のベランダが見える。明かりがついてるから、多分家にいるんだろう。暇してないかな。俺はまぁ、わりと暇なんだが。陽が傾き出して一番星が輝き出す頃、涼しくなってきた風と冬の足音。片想いして、何度目かの季節。幼馴染だから、なにがあっても離れることはなくてよかった。幼馴染だから、いつまでも結ばれなくて辛い。幼馴染だから、今日も今から連絡をとって、外に連れ出してもいいだろうか。いつだって、あとひと言が言えなくて。
「!!」
携帯が震えて、肩を揺らす。開けば、君から連絡が来ていて。どうしたんだろうと、ドキドキしながらメッセージを見る。
『暇だからお散歩行きたいけど、暇?』
こんな瞬間が度々あるもんだから、君を好きでいるのをやめられない。以心伝心みたいで、胸がくすぐったくてウキウキする。
『暇してる』
『じゃあ散歩行こ!お外出るね〜』
恥ずかしくて照れ臭くて、いつも気のない返事をしてしまう。でも一度でも緩めたら、止められない気がして。外へ行く支度をする。カーディガンを一枚多めに持って、玄関を出る。
「こんばんは」
「……こんばんは」
莉子は緩やかに手をあげ、俺とハイタッチをして。軽く俺の手を握って振る。それから満足そうに歩き出す。元気そうでよかった。いつだって顔を見るまでは心配だ。君は繊細だし、強がりもするから。どこへ行くのかは君任せ。今日は夕陽とは反対の方向へ歩いていく。変な路地を曲がる。特に大通りに出てもなにもない場所。住宅街の、踊り場。莉子はきょろきょろと辺りを見回す。
「どうした?」
「んー最近ここにいる猫ちゃんと仲良いの」
茂みの方へ入ろうとするので、思わず二の腕を掴んで引っ張った。柔らかくてひんやりしていて、細い。心臓がひっくり返るような脈を打った。莉子が俺の顔を見上げるので、そっと離して首を振った。莉子はなおもうろうろと辺りを探す。
「あ!いた」
莉子がしゃがみ込む。足元にキジトラの猫がやってきて、すぐに寝転んでゴロゴロと喉を鳴らした。莉子が顎下やお腹をわしゃわしゃと撫でるのを、気持ちよさそうに享受している。隣にしゃがんで、そっと手を伸ばしお尻辺りを撫でる。猫が顔を上げて俺を睨むので、睨み返してやった。
「そこは触っちゃ嫌だって」
「……そうかよ」
莉子が立ち上がって撫でやすい位置を譲ろうとするが、猫が莉子の動きに合わせてくっついて寝転ぶので、叶わない。
「俺はいい」
「うーん……ごめんね」
莉子は少しだけ申し訳なさそうにして、また猫を構いだした。猫は相変わらずゴロゴロと心地よさそうにしている。猫も杓子も君が好きだ。ライバルが多くて嫌になる。嫌になるほどに好きになってしまう。君の幸せに俺だけがいればいいなんて、そんな身勝手なこと言えるはずもないのに。ただ、願ってしまう自分が酷く醜く思えた。
「わ」
猫が撫でられないからと言い訳して、莉子を撫でた。頭を撫でて、頬に触れて、顎下をくすぐって。俺の手が大きいのか、莉子の顔が小さいのか。なにも言われないのをいいことに、無心で撫でる。
「ふふ、にゃあ」
自分の顔が耳まで真っ赤なのが分かるから、俯いてそっぽを向いた。莉子は俺の頭にぽんぽんと触れたあと、また猫を撫でている。それにすら妬いてしまうほど、君しか見えなくなる。深呼吸をひとつした。空はすっかり暗くなって、辺りはかなり冷え込んできた。莉子がくしゃみをする。
「寒いか?」
「ちょっと寒いね」
持ってきたカーディガンを、肩にかけてやる。莉子が袖を通すと、当たり前だけどぶかぶかで、肩幅も合っていなければ裾も腰下まである。余った袖を握り込んで、顔に当てて。嬉しそうにするもんだから、どこか誰も知らないところまで攫って、2人きりでいたくなるんだ。
「ありがと」
「おう」
「もう少ししたら帰ろっか」
莉子は猫をまたねとひと撫でした。猫は後ろ足で頭を掻いて、欠伸をしてから去っていった。住宅街を抜けて、大通りに出て。特に用事はないけど、周辺を一周する。家の前に着いて、夢から覚めるように散歩は終わる。
「今日もありがとう」
「ん」
「また行こ」
「いつでも」
「うん」
声色が嬉しそうで、安心していて。壊しちゃいけないと思う。君を傷つけないためなら、このままでもいいと思う。そう思うのに。今の関係を抜け出したくて、あがいてしまいそうになる。跡形もなく崩れるのが怖くて、口をつぐむ。正しい気持ちの伝え方が、分からない。
「カーディガン、ありがとう」
ぬくもりつきのカーディガンが返ってくる。直接触れたらどれだけ温かいのだろうと、そんなことばかり。
「いい匂いした」
飛びついて齧ってしまおうかと思うほど。あるいは、君のせいで俺は引っ掻き傷だらけで、そこから漏れた甘い愛みたいな液体を、啜り飲んで生きている。満たされて溢れるばかりなのに、乾いて仕方ない。
「また明日」
それだけ伝えて、そっと頭を撫でて、離れた。君が見えなくなるまで立ち尽くして。猫も杓子もあの子が好きでも、誰にだって渡すつもりはない。願わくば、君もそう望んでくれたならいいのに。
「!!」
携帯が震えて、肩を揺らす。開けば、君から連絡が来ていて。どうしたんだろうと、ドキドキしながらメッセージを見る。
『暇だからお散歩行きたいけど、暇?』
こんな瞬間が度々あるもんだから、君を好きでいるのをやめられない。以心伝心みたいで、胸がくすぐったくてウキウキする。
『暇してる』
『じゃあ散歩行こ!お外出るね〜』
恥ずかしくて照れ臭くて、いつも気のない返事をしてしまう。でも一度でも緩めたら、止められない気がして。外へ行く支度をする。カーディガンを一枚多めに持って、玄関を出る。
「こんばんは」
「……こんばんは」
莉子は緩やかに手をあげ、俺とハイタッチをして。軽く俺の手を握って振る。それから満足そうに歩き出す。元気そうでよかった。いつだって顔を見るまでは心配だ。君は繊細だし、強がりもするから。どこへ行くのかは君任せ。今日は夕陽とは反対の方向へ歩いていく。変な路地を曲がる。特に大通りに出てもなにもない場所。住宅街の、踊り場。莉子はきょろきょろと辺りを見回す。
「どうした?」
「んー最近ここにいる猫ちゃんと仲良いの」
茂みの方へ入ろうとするので、思わず二の腕を掴んで引っ張った。柔らかくてひんやりしていて、細い。心臓がひっくり返るような脈を打った。莉子が俺の顔を見上げるので、そっと離して首を振った。莉子はなおもうろうろと辺りを探す。
「あ!いた」
莉子がしゃがみ込む。足元にキジトラの猫がやってきて、すぐに寝転んでゴロゴロと喉を鳴らした。莉子が顎下やお腹をわしゃわしゃと撫でるのを、気持ちよさそうに享受している。隣にしゃがんで、そっと手を伸ばしお尻辺りを撫でる。猫が顔を上げて俺を睨むので、睨み返してやった。
「そこは触っちゃ嫌だって」
「……そうかよ」
莉子が立ち上がって撫でやすい位置を譲ろうとするが、猫が莉子の動きに合わせてくっついて寝転ぶので、叶わない。
「俺はいい」
「うーん……ごめんね」
莉子は少しだけ申し訳なさそうにして、また猫を構いだした。猫は相変わらずゴロゴロと心地よさそうにしている。猫も杓子も君が好きだ。ライバルが多くて嫌になる。嫌になるほどに好きになってしまう。君の幸せに俺だけがいればいいなんて、そんな身勝手なこと言えるはずもないのに。ただ、願ってしまう自分が酷く醜く思えた。
「わ」
猫が撫でられないからと言い訳して、莉子を撫でた。頭を撫でて、頬に触れて、顎下をくすぐって。俺の手が大きいのか、莉子の顔が小さいのか。なにも言われないのをいいことに、無心で撫でる。
「ふふ、にゃあ」
自分の顔が耳まで真っ赤なのが分かるから、俯いてそっぽを向いた。莉子は俺の頭にぽんぽんと触れたあと、また猫を撫でている。それにすら妬いてしまうほど、君しか見えなくなる。深呼吸をひとつした。空はすっかり暗くなって、辺りはかなり冷え込んできた。莉子がくしゃみをする。
「寒いか?」
「ちょっと寒いね」
持ってきたカーディガンを、肩にかけてやる。莉子が袖を通すと、当たり前だけどぶかぶかで、肩幅も合っていなければ裾も腰下まである。余った袖を握り込んで、顔に当てて。嬉しそうにするもんだから、どこか誰も知らないところまで攫って、2人きりでいたくなるんだ。
「ありがと」
「おう」
「もう少ししたら帰ろっか」
莉子は猫をまたねとひと撫でした。猫は後ろ足で頭を掻いて、欠伸をしてから去っていった。住宅街を抜けて、大通りに出て。特に用事はないけど、周辺を一周する。家の前に着いて、夢から覚めるように散歩は終わる。
「今日もありがとう」
「ん」
「また行こ」
「いつでも」
「うん」
声色が嬉しそうで、安心していて。壊しちゃいけないと思う。君を傷つけないためなら、このままでもいいと思う。そう思うのに。今の関係を抜け出したくて、あがいてしまいそうになる。跡形もなく崩れるのが怖くて、口をつぐむ。正しい気持ちの伝え方が、分からない。
「カーディガン、ありがとう」
ぬくもりつきのカーディガンが返ってくる。直接触れたらどれだけ温かいのだろうと、そんなことばかり。
「いい匂いした」
飛びついて齧ってしまおうかと思うほど。あるいは、君のせいで俺は引っ掻き傷だらけで、そこから漏れた甘い愛みたいな液体を、啜り飲んで生きている。満たされて溢れるばかりなのに、乾いて仕方ない。
「また明日」
それだけ伝えて、そっと頭を撫でて、離れた。君が見えなくなるまで立ち尽くして。猫も杓子もあの子が好きでも、誰にだって渡すつもりはない。願わくば、君もそう望んでくれたならいいのに。