掌編/ネオプロトタイプ
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意気揚々と勢いよくボーダーに入隊したはいいが、入隊してすぐにメンタルを崩して思ったように訓練に参加出来てない。自分に出来る範囲で少しずつやっているが、到底他の人間に敵わなくて。周りより上手くいかなくて、同じように出来なくなったのはいつからだろう?
「小林くん、少しいいかな」
訓練に参加出来ない分、個人ランク戦でポイントを稼いでいた。ロビーのベンチで休憩していると、忍田本部長に声をかけられて背筋を伸ばす。
「はい、なんでしょうか?」
「今度、新しく入隊してくる仲間に、射手志望の子がいるんだが。指導を頼んでいいかな」
「……私まだ正隊員でもないですけど」
よく知らないけど、正隊員で強い射手はいるはずだ。望ちゃんもたしか、射手だったはずだし。なぜ私に頼むのだろう。
「小林くんは、人に教えるのが上手そうだから。基礎を教えるだけだから、難しく考えなくていい」
まぁ望ちゃんよりは上手い自信はある、うん。でも教えられることなんて、ないと思うけどなぁ。私の顔が自信なさげに見えたんだろう、忍田さんは軽く私の肩を叩く。
「無理にとは言わないが、これまでの振り返りも出来るだろうし、受けてみてくれないかな?」
「……分かりました、やってみます」
私じゃなくてもと思うが、私でもいいみたいだし。正隊員の射手はみんな忙しいのかもしれない。不安はあるけども、せっかくの依頼なので受けることにした。
数日後、お昼から入隊式があって。ひと通りのことが終わって、みんなが昼食を摂ったあと。15時から射手志望の子と会う。忍田さんが、一区画ブースを貸し出してくれた。色素の薄い髪の、猫目の少年が首を傾げながらやってきた。
「あれ?あんたが先輩?」
「多分……そう。入隊おめでとう」
「どうもどうも。えっと、出水って言います。よろしくお願いします」
軽く頭を下げる出水くん。身長は160前半くらいだろうか。男の子だけど、話しにくそうではなくて安心した。
「うん、私は小林莉子です。まだ正隊員じゃないけど、教えられること教えるね」
「射手、難しいですか?」
「うーん、私は難しいと思う」
「そっかあ」
出水くんは少し怯んだようで、緊張を誤魔化すように頭を掻いた。
「トリガーは決めてる?」
「なんも。なにがあるのかもよく分かんないっす」
「なんか、とりあえず3種類あるみたいで」
一応、ひと通り触ってみた感想を伝えてみることにした。
「アステロイドは、基本のやつで。撃った方向に真っ直ぐ飛ぶ。メテオラは爆発するから、広い範囲を吹っ飛ばすのに向いてるみたい。ハウンドは1番新しいやつで、撃った後に目で追った方向に追尾してくるんだって」
「ふーん……とりあえず撃ってみたらいい?」
「かなぁ」
出水くんとトレーニング空間に入る。5メートル先に、的を置いた。出水くんはキューブを容易く出す。私、初めては起動してからキューブ出すのに30分くらいかかったけどなぁ。
「キューブ出すの上手いね」
「なんか出来た」
「次に分割するんだけど」
「パキッてやつっすか?」
出水くんはこれも容易くやる。9分割になったキューブは、そのどれもがそこそこに大きい。
「おぉ……それ。上手いね?」
「なんか出来ました」
「で、的の方向にキューブを合わせて、撃つんだけど……」
これが結構難しくて、銃と違って銃口とかないし方向を合わせるのに苦労する。本当に真っ直ぐにしか飛ばないので、なかなか当たらないのだ。
「こうかな?」
出水くんはあまり悩みもせずに的を撃った。ど真ん中に当たる。
「……もしかして天才か?」
「えっこれすごいんすか」
「少なくとも、私は入隊から2ヶ月経っても上手く出来ないよ」
「マジすか?」
「マジ。別に特別出来ないってわけじゃないと思うから、出水くんがすごい」
「そうなんだ……」
出水くんは実感が湧かないのか、少しきょとんとしている。
「もっかいやってみてよ」
「うす」
その後、何回か撃ってもらったが、やはり的を外すことはない。分割してから撃つのもどんどん早くなった。
「……あんま人に対してこういう言葉使わないんだけど、天才では?」
「あ、あざっす!」
出水くんはとても嬉しそうに笑った。楽しいのか、繰り返し的を撃つ。隣で自分も練習する気にはなれなかったが、あんまり楽しそうなので黙って見ていた。
「ありがとうございます、超楽しい!」
「そりゃよかった」
「これ、俺向いてるっすね?」
「天才の域だと思うよ」
繰り返しそう伝えれば、出水くんはなおも楽しそうに訓練を続けた。出水くんは強くなるんだろうなぁ。羨んだりはしないが、才能があるってすごいなぁとただ感心していた。
自分に向いてることが、なにか分からなかった。人より得意なことなんて特にはなくて。だからなのか、好きなこともぼんやりとしていて、何事も長く続かなかった。ほどほどに楽しいこと、ほどほどに出来ることを、なんとなくやる。誰かと共有出来ればそこそこに楽しい気はするが、やっていることそのものが好きではないんだろう。ぼんやり生きていた。一生懸命になにかに打ち込む誰かが、羨ましかった。それすら、どこかぼんやりとしている。
「……天才では?」
暗雲の隙間から、眩い雷光を見た気がした。ざわざわと高揚する心で、もう一度雷を目にしようと次へ進む。
「天才の域だと思うよ」
派手に褒めるわけでもない彼女の口調が、より現実を確かなものと感じさせた。これだ、これだったんだ。砂浜で特別な色の砂粒を探すような、途方もない気持ちでいたけど。俺にはこれだったんだ。これだと分かってからは、楽しくて仕方がなかった。誰に言われなくても、向き合うことが出来た。
「莉子さん、ランク戦しよう!」
自分を最初に認めてくれた人だから、俺は自然に莉子さんに懐いた。莉子さんはいつもぼんやり個人ランク戦ブースにいて、人に声をかけられるのを待っているようだった。どことなく浮世離れした印象を受けるし、おそらくこの人は滅多に他人を褒めないんじゃないかと思った。なおさら、俺にかけてくれた「天才」という言葉が重く感じられて、その重みに俺は歓喜した。
「いいけど、出水とやってたらいつまでも私B級に上がれないよ」
莉子さんは苦笑する。それでも、相手をしてくれるようでベンチから立ち上がる。隣り合ったブースに入り、模擬戦をする。
『8-2。勝者、出水』
スコアが機械音声で伝えられる。いつの間にか、俺のポイントは莉子さんのそれを超えていた。来週には、B級にあがれるかも。俺は自分の喜びのまま、莉子さんに褒めてもらいたくて駆け寄る。
「莉子さん、俺そろそろB級上がれるかも!」
「だねぇ」
「すごくね?」
「いや、すごいですよ。やっぱ天才だね」
この前の天才より、嬉しくなかった。莉子さんの声が沈んでいたから。
「置いていかれちゃうな……やっぱ才能がないのかな」
莉子さんの視線が落ちて、顔色が暗くなる。まずったと思った。嫌な予感がした。そうか、そうなんだ。才能があるってこういうことなんだ。誰かに追いかけられて、誰かに羨まれて、時には追い詰めてしまうんだな。俺だってその誰かだったんだから。
「そんなことねぇよ。俺が天才なだけだって!」
「それはそうだろうけど……」
「俺、莉子さんが強くなれるように、協力出来ることはなんでもするよ」
「申し訳ない……」
そんなこと言うなよ。あんたが見つけてくれた道なんだ。そのお礼ならいくらでもする。俺より才能がないからって、見捨てたりなんて絶対しない。俺が先を歩くから、後ろからそっとついてきてくれよ。
「一緒に強くなろうぜ」
「出水はもうかなり強いよ」
「もっと強くなるから!俺は莉子さんと続けてぇ」
莉子さんは顔を上げて、俺と目を合わせる。そのオレンジの瞳に、鮮やかな雷光でも輝く砂粒でも、なんでも映してみせるから。見ててくれよ、俺のこと。
「やめないでよ。莉子さんも絶対強くなれるから」
「うーんそうだねぇ」
莉子さんは天井を見上げて、深く息を吸って吐いた。首を回して、少し無理してるような笑顔を見せた。
「自分を変えるために、なにか出来ることをしようって決めたもんね」
そう独り言を溢す。莉子さんがなにをしたいのかはまだ知らない。なにに導かれてここにいるかは知らない。でもなんだっていい。出会えてよかった。俺はもっと強くなりたい。それを認めて褒めてくれるのは、この先も貴方であって欲しいんだ。
「小林くん、少しいいかな」
訓練に参加出来ない分、個人ランク戦でポイントを稼いでいた。ロビーのベンチで休憩していると、忍田本部長に声をかけられて背筋を伸ばす。
「はい、なんでしょうか?」
「今度、新しく入隊してくる仲間に、射手志望の子がいるんだが。指導を頼んでいいかな」
「……私まだ正隊員でもないですけど」
よく知らないけど、正隊員で強い射手はいるはずだ。望ちゃんもたしか、射手だったはずだし。なぜ私に頼むのだろう。
「小林くんは、人に教えるのが上手そうだから。基礎を教えるだけだから、難しく考えなくていい」
まぁ望ちゃんよりは上手い自信はある、うん。でも教えられることなんて、ないと思うけどなぁ。私の顔が自信なさげに見えたんだろう、忍田さんは軽く私の肩を叩く。
「無理にとは言わないが、これまでの振り返りも出来るだろうし、受けてみてくれないかな?」
「……分かりました、やってみます」
私じゃなくてもと思うが、私でもいいみたいだし。正隊員の射手はみんな忙しいのかもしれない。不安はあるけども、せっかくの依頼なので受けることにした。
数日後、お昼から入隊式があって。ひと通りのことが終わって、みんなが昼食を摂ったあと。15時から射手志望の子と会う。忍田さんが、一区画ブースを貸し出してくれた。色素の薄い髪の、猫目の少年が首を傾げながらやってきた。
「あれ?あんたが先輩?」
「多分……そう。入隊おめでとう」
「どうもどうも。えっと、出水って言います。よろしくお願いします」
軽く頭を下げる出水くん。身長は160前半くらいだろうか。男の子だけど、話しにくそうではなくて安心した。
「うん、私は小林莉子です。まだ正隊員じゃないけど、教えられること教えるね」
「射手、難しいですか?」
「うーん、私は難しいと思う」
「そっかあ」
出水くんは少し怯んだようで、緊張を誤魔化すように頭を掻いた。
「トリガーは決めてる?」
「なんも。なにがあるのかもよく分かんないっす」
「なんか、とりあえず3種類あるみたいで」
一応、ひと通り触ってみた感想を伝えてみることにした。
「アステロイドは、基本のやつで。撃った方向に真っ直ぐ飛ぶ。メテオラは爆発するから、広い範囲を吹っ飛ばすのに向いてるみたい。ハウンドは1番新しいやつで、撃った後に目で追った方向に追尾してくるんだって」
「ふーん……とりあえず撃ってみたらいい?」
「かなぁ」
出水くんとトレーニング空間に入る。5メートル先に、的を置いた。出水くんはキューブを容易く出す。私、初めては起動してからキューブ出すのに30分くらいかかったけどなぁ。
「キューブ出すの上手いね」
「なんか出来た」
「次に分割するんだけど」
「パキッてやつっすか?」
出水くんはこれも容易くやる。9分割になったキューブは、そのどれもがそこそこに大きい。
「おぉ……それ。上手いね?」
「なんか出来ました」
「で、的の方向にキューブを合わせて、撃つんだけど……」
これが結構難しくて、銃と違って銃口とかないし方向を合わせるのに苦労する。本当に真っ直ぐにしか飛ばないので、なかなか当たらないのだ。
「こうかな?」
出水くんはあまり悩みもせずに的を撃った。ど真ん中に当たる。
「……もしかして天才か?」
「えっこれすごいんすか」
「少なくとも、私は入隊から2ヶ月経っても上手く出来ないよ」
「マジすか?」
「マジ。別に特別出来ないってわけじゃないと思うから、出水くんがすごい」
「そうなんだ……」
出水くんは実感が湧かないのか、少しきょとんとしている。
「もっかいやってみてよ」
「うす」
その後、何回か撃ってもらったが、やはり的を外すことはない。分割してから撃つのもどんどん早くなった。
「……あんま人に対してこういう言葉使わないんだけど、天才では?」
「あ、あざっす!」
出水くんはとても嬉しそうに笑った。楽しいのか、繰り返し的を撃つ。隣で自分も練習する気にはなれなかったが、あんまり楽しそうなので黙って見ていた。
「ありがとうございます、超楽しい!」
「そりゃよかった」
「これ、俺向いてるっすね?」
「天才の域だと思うよ」
繰り返しそう伝えれば、出水くんはなおも楽しそうに訓練を続けた。出水くんは強くなるんだろうなぁ。羨んだりはしないが、才能があるってすごいなぁとただ感心していた。
自分に向いてることが、なにか分からなかった。人より得意なことなんて特にはなくて。だからなのか、好きなこともぼんやりとしていて、何事も長く続かなかった。ほどほどに楽しいこと、ほどほどに出来ることを、なんとなくやる。誰かと共有出来ればそこそこに楽しい気はするが、やっていることそのものが好きではないんだろう。ぼんやり生きていた。一生懸命になにかに打ち込む誰かが、羨ましかった。それすら、どこかぼんやりとしている。
「……天才では?」
暗雲の隙間から、眩い雷光を見た気がした。ざわざわと高揚する心で、もう一度雷を目にしようと次へ進む。
「天才の域だと思うよ」
派手に褒めるわけでもない彼女の口調が、より現実を確かなものと感じさせた。これだ、これだったんだ。砂浜で特別な色の砂粒を探すような、途方もない気持ちでいたけど。俺にはこれだったんだ。これだと分かってからは、楽しくて仕方がなかった。誰に言われなくても、向き合うことが出来た。
「莉子さん、ランク戦しよう!」
自分を最初に認めてくれた人だから、俺は自然に莉子さんに懐いた。莉子さんはいつもぼんやり個人ランク戦ブースにいて、人に声をかけられるのを待っているようだった。どことなく浮世離れした印象を受けるし、おそらくこの人は滅多に他人を褒めないんじゃないかと思った。なおさら、俺にかけてくれた「天才」という言葉が重く感じられて、その重みに俺は歓喜した。
「いいけど、出水とやってたらいつまでも私B級に上がれないよ」
莉子さんは苦笑する。それでも、相手をしてくれるようでベンチから立ち上がる。隣り合ったブースに入り、模擬戦をする。
『8-2。勝者、出水』
スコアが機械音声で伝えられる。いつの間にか、俺のポイントは莉子さんのそれを超えていた。来週には、B級にあがれるかも。俺は自分の喜びのまま、莉子さんに褒めてもらいたくて駆け寄る。
「莉子さん、俺そろそろB級上がれるかも!」
「だねぇ」
「すごくね?」
「いや、すごいですよ。やっぱ天才だね」
この前の天才より、嬉しくなかった。莉子さんの声が沈んでいたから。
「置いていかれちゃうな……やっぱ才能がないのかな」
莉子さんの視線が落ちて、顔色が暗くなる。まずったと思った。嫌な予感がした。そうか、そうなんだ。才能があるってこういうことなんだ。誰かに追いかけられて、誰かに羨まれて、時には追い詰めてしまうんだな。俺だってその誰かだったんだから。
「そんなことねぇよ。俺が天才なだけだって!」
「それはそうだろうけど……」
「俺、莉子さんが強くなれるように、協力出来ることはなんでもするよ」
「申し訳ない……」
そんなこと言うなよ。あんたが見つけてくれた道なんだ。そのお礼ならいくらでもする。俺より才能がないからって、見捨てたりなんて絶対しない。俺が先を歩くから、後ろからそっとついてきてくれよ。
「一緒に強くなろうぜ」
「出水はもうかなり強いよ」
「もっと強くなるから!俺は莉子さんと続けてぇ」
莉子さんは顔を上げて、俺と目を合わせる。そのオレンジの瞳に、鮮やかな雷光でも輝く砂粒でも、なんでも映してみせるから。見ててくれよ、俺のこと。
「やめないでよ。莉子さんも絶対強くなれるから」
「うーんそうだねぇ」
莉子さんは天井を見上げて、深く息を吸って吐いた。首を回して、少し無理してるような笑顔を見せた。
「自分を変えるために、なにか出来ることをしようって決めたもんね」
そう独り言を溢す。莉子さんがなにをしたいのかはまだ知らない。なにに導かれてここにいるかは知らない。でもなんだっていい。出会えてよかった。俺はもっと強くなりたい。それを認めて褒めてくれるのは、この先も貴方であって欲しいんだ。
