ボツの部屋
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梅雨空の下、重たく積み重なる雲を眺める。明日も明後日も、酷い雨。どうやって産まれてきて、どこへ向かって行き着くのか。分からなくなった時、思い出したくなった時、原点には母がいる。けど、母はもういないから。代わりに君の手を、掴んでもいいだろうか。
「傘を持ってこないで欲しい?」
電話先、君は不思議そうに言う。そりゃそうだろう。空は今にも雨が降り出しそうなくらい暗いのだから。
「なんで?」
「いや、2人で濡れて歩くのもいいかな〜って」
「また?」
「だめ?」
「いいけど……今日もやっぱり降るんだ?」
「降るね」
うーんと君が悩む声がする。君を困らせている時間、安らぎを覚えてしまう。君が俺を嫌いになるなんて、欠片も不安にならない。だって、俺が信じてる莉子ちゃんはどこまでだって優しいんだ。今だってその声は、純粋に俺の提案を考えてくれているでしょ。大丈夫、断ったって俺も君を嫌いになんてならないよ。
「風邪ひくのはやだよぉ」
「大丈夫、ひかないよ」
「うーん……じゃあいいよ。そうすると迅がすっきりするんでしょ?」
すっきりというか、安心するんだ。共犯者を見つけられて。2人だけの時間を強く共有するのが。
「うん、ごめんね」
「謝らなくていいよ」
君の声が優しいもんだから、あくびが出る。雨の落ちる音が、聞こえた気がした。
美しくありたいと思う。世界が美しいから。君が美しいから。美しい正解のために、自分が汚れることが、本当は怖いし嫌なんだ。でも、そうすることでしか生きれなくて。けれど、一緒に君も汚れてしまえばいいなんて、どうしても思えないから。美しくありたい。
「なにかあったの?」
「んーん。なんにも」
「そっか」
雨はしとしとと、次第に雨足は強くなって土砂降りに。莉子ちゃんは俺の腕をやんわり掴んだ。濡れるのが嫌なのではなくて、奇異な目で見られるのが嫌なんだろう。ごめん、と謝りながら、手を繋いだ。雨が2人の熱を奪っていく。温もりを守るように、手を繋いだ。
「雨が続くと、なんとなく憂鬱だよね」
「今日は俺と散歩出来てる」
「うん、だから思ってるよりは元気だよ」
莉子ちゃんが俺に頭を寄せる。濡れて重たい髪を、撫でてやる。瞳が見たくなって、立ち止まって向き合って。君はまっすぐ見つめ返してくれる。虹彩が、柔らかな宝石のようと思う。頬を伝う雫は、真珠に変わったりしないだろうか。やっぱり、君は美しい。
「なあに」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないでしょ」
「うん、ごめん」
君を大切に思うこと、君を好きだと思うこと、口に出すのはそりゃ恥ずかしいけれど。躊躇ってなんかいたら、なにが攫っていくかも分からないし。未来なんて、ほんとに一瞬で。瞬きの間に、すり抜けていくものだから。
「綺麗だなと思って。見ていると、安らぐから」
「迅の瞳のが、海みたいで綺麗だよ?」
照れ臭そうに、そう反撃される。参ったなぁ。俺の瞳が海ならば、寄せては返す波のように、繰り返し君を映したい。君が母なる海ならば、海底でひっそりと暮らす貝になって、君の胸に育まれながら綺麗な明日を温めていいかい。全部、言葉には出せずにただ君の頬を撫でる。君の熱が俺の頭痛を溶かしていく。どんな解熱剤よりも効く。
「どこかへ行ったりしないで」
自分の声が泣き出しそうで、びっくりしてしまう。慌てて笑みを作る。君は涙も笑顔も等しく受け取ってくれる。
「行かないよ。置いていかないでね」
君が俺の頬に手を伸ばす。そっと重ねた。そのまま、繋いでまた歩き出す。残酷な答えを言いたくなくて、口を閉ざした。代わりに強く手を握る。ずるい俺を許さないで。ずっと覚えていて、2人だけの秘密があったこと。今この時間だけ、世界にふたりぼっちと思えたこと。忘れたくなくて、でもきっと何度だって忘れていくから。だから何度も、2人で犯そう。雨は当分止まない。水たまりに雨粒が波紋を作る。雨音に雑音が掻き消えていく。陽の光が届かなくとも、時は過ぎて夜になる。その全ては自然で恐るるに足らないこと。それなのに、どうしようもなく怖くて仕方ないよ。時が過ぎるのを忘れるくらい、隣にいて欲しい。
支部には今日、誰もいない。そんなことは、とっくの昔に確認済み。
「お邪魔しまーす」
それでも莉子ちゃんは挨拶を欠かさない。玄関先で待っていてもらって、バスタオルを持っていく。タオルに顔を寄せるなり、「迅と同じ匂いがする」だなんて笑うから、体温が上がった。とんでもなく間違ったことをしようとしている。そんな考えが湧いてきたが、言い訳もせずに聞こえないふりをした。くしゅん、と君がくしゃみする。お風呂沸かさなきゃね。
「リビングで待ってて」
莉子ちゃんは能天気で、はーいと返事をして言われた通りに待っていた。浴室へ行き、バスタブを軽く洗い、お湯を溜める。バスタオルをもう一枚と、俺のTシャツとハーフパンツを置く。リビングに戻って、背中越しに莉子ちゃんの頭を撫でて、声をかける。
「お湯溜まったら、先に入っていいよ。俺のTシャツとハーフパンツあるから、でかいだろうけど使って」
「うん。帰りどうしよう?」
「帰るまでに、着てきた服乾かすよ」
「そだね」
莉子ちゃんはどこか楽しそうだった。そんなだから、2人でしか出来ない経験を、たくさん重ねたくなる。莉子ちゃんの隣に座る。そっと莉子ちゃんが寄りかかる温度と重さで、回復して満ちていくのを感じた。
〜〜♪
お風呂が沸いた。莉子ちゃんの背を押して、浴室まで連れていく。
「じゃ、ごゆっくり」
扉をしっかり閉めて、リビングに戻る。くしゃみが出る。俺が風邪ひくかな。まぁそしたらトリオン体で過ごせばいいか。莉子ちゃんが風邪で寝込むような未来は視えない。それなら、いい。天井を眺めた。怒られる未来が視える。なんだって、世界はこんなに複雑で、くだらない尺度に溢れていて、俺たちを許してくれないのだろう。心が沈み込んでいく。世界に2人ならいいのに。
「いいお湯でした」
振り返って君が目に飛び込んきて、あやっぱり間違ったのかもと。湯上がりの君は無防備でいい匂いがしそうで、いろんなところが際どかった。視てた以上、声と温度がついたら。
「……じゃ、俺も入ってくるから。くつろいでて」
逃げるように浴室に行った。まずいなこれ、完全に誰にも知られないようにしなきゃ。とりあえず、さっさと俺は風呂を上がる。莉子ちゃんの服、手早く乾かして。あとは、莉子ちゃんがお風呂入った痕跡消して。早送りのように迫り来る現実に、頭が冴えて冷えていく。
(まだ一緒にいたい)
高速で回る頭の中、小さな俺がポツリと呟く。まだ欲張るのか。シャワーを止めて、髪をかきあげて。ため息吐いて。
(要は俺の服着てるとこ、見られなきゃいいわけでしょ)
頭はまた冷静に計算を始める。もう一度シャワーを浴びて、浴室を出る。身体を拭いて、バスタオルを洗濯機に放り込む。部屋着を着て、リビングへ行けば。
(……読み逃したなぁ)
莉子ちゃんはソファーで眠りこけていた。際どいって、流石にさ。目のやり場に困って、慌ててブランケットを持ってきてかけた。あと何分。あと何分、この空気を楽しんでいていい。なにも考えずに、莉子ちゃんを眺めていられるのはあと。計算をやめられる日はきっと来ない。こんな俺だけど、汚れているのかもしれないけど、どうか置いていかないで。
「傘を持ってこないで欲しい?」
電話先、君は不思議そうに言う。そりゃそうだろう。空は今にも雨が降り出しそうなくらい暗いのだから。
「なんで?」
「いや、2人で濡れて歩くのもいいかな〜って」
「また?」
「だめ?」
「いいけど……今日もやっぱり降るんだ?」
「降るね」
うーんと君が悩む声がする。君を困らせている時間、安らぎを覚えてしまう。君が俺を嫌いになるなんて、欠片も不安にならない。だって、俺が信じてる莉子ちゃんはどこまでだって優しいんだ。今だってその声は、純粋に俺の提案を考えてくれているでしょ。大丈夫、断ったって俺も君を嫌いになんてならないよ。
「風邪ひくのはやだよぉ」
「大丈夫、ひかないよ」
「うーん……じゃあいいよ。そうすると迅がすっきりするんでしょ?」
すっきりというか、安心するんだ。共犯者を見つけられて。2人だけの時間を強く共有するのが。
「うん、ごめんね」
「謝らなくていいよ」
君の声が優しいもんだから、あくびが出る。雨の落ちる音が、聞こえた気がした。
美しくありたいと思う。世界が美しいから。君が美しいから。美しい正解のために、自分が汚れることが、本当は怖いし嫌なんだ。でも、そうすることでしか生きれなくて。けれど、一緒に君も汚れてしまえばいいなんて、どうしても思えないから。美しくありたい。
「なにかあったの?」
「んーん。なんにも」
「そっか」
雨はしとしとと、次第に雨足は強くなって土砂降りに。莉子ちゃんは俺の腕をやんわり掴んだ。濡れるのが嫌なのではなくて、奇異な目で見られるのが嫌なんだろう。ごめん、と謝りながら、手を繋いだ。雨が2人の熱を奪っていく。温もりを守るように、手を繋いだ。
「雨が続くと、なんとなく憂鬱だよね」
「今日は俺と散歩出来てる」
「うん、だから思ってるよりは元気だよ」
莉子ちゃんが俺に頭を寄せる。濡れて重たい髪を、撫でてやる。瞳が見たくなって、立ち止まって向き合って。君はまっすぐ見つめ返してくれる。虹彩が、柔らかな宝石のようと思う。頬を伝う雫は、真珠に変わったりしないだろうか。やっぱり、君は美しい。
「なあに」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないでしょ」
「うん、ごめん」
君を大切に思うこと、君を好きだと思うこと、口に出すのはそりゃ恥ずかしいけれど。躊躇ってなんかいたら、なにが攫っていくかも分からないし。未来なんて、ほんとに一瞬で。瞬きの間に、すり抜けていくものだから。
「綺麗だなと思って。見ていると、安らぐから」
「迅の瞳のが、海みたいで綺麗だよ?」
照れ臭そうに、そう反撃される。参ったなぁ。俺の瞳が海ならば、寄せては返す波のように、繰り返し君を映したい。君が母なる海ならば、海底でひっそりと暮らす貝になって、君の胸に育まれながら綺麗な明日を温めていいかい。全部、言葉には出せずにただ君の頬を撫でる。君の熱が俺の頭痛を溶かしていく。どんな解熱剤よりも効く。
「どこかへ行ったりしないで」
自分の声が泣き出しそうで、びっくりしてしまう。慌てて笑みを作る。君は涙も笑顔も等しく受け取ってくれる。
「行かないよ。置いていかないでね」
君が俺の頬に手を伸ばす。そっと重ねた。そのまま、繋いでまた歩き出す。残酷な答えを言いたくなくて、口を閉ざした。代わりに強く手を握る。ずるい俺を許さないで。ずっと覚えていて、2人だけの秘密があったこと。今この時間だけ、世界にふたりぼっちと思えたこと。忘れたくなくて、でもきっと何度だって忘れていくから。だから何度も、2人で犯そう。雨は当分止まない。水たまりに雨粒が波紋を作る。雨音に雑音が掻き消えていく。陽の光が届かなくとも、時は過ぎて夜になる。その全ては自然で恐るるに足らないこと。それなのに、どうしようもなく怖くて仕方ないよ。時が過ぎるのを忘れるくらい、隣にいて欲しい。
支部には今日、誰もいない。そんなことは、とっくの昔に確認済み。
「お邪魔しまーす」
それでも莉子ちゃんは挨拶を欠かさない。玄関先で待っていてもらって、バスタオルを持っていく。タオルに顔を寄せるなり、「迅と同じ匂いがする」だなんて笑うから、体温が上がった。とんでもなく間違ったことをしようとしている。そんな考えが湧いてきたが、言い訳もせずに聞こえないふりをした。くしゅん、と君がくしゃみする。お風呂沸かさなきゃね。
「リビングで待ってて」
莉子ちゃんは能天気で、はーいと返事をして言われた通りに待っていた。浴室へ行き、バスタブを軽く洗い、お湯を溜める。バスタオルをもう一枚と、俺のTシャツとハーフパンツを置く。リビングに戻って、背中越しに莉子ちゃんの頭を撫でて、声をかける。
「お湯溜まったら、先に入っていいよ。俺のTシャツとハーフパンツあるから、でかいだろうけど使って」
「うん。帰りどうしよう?」
「帰るまでに、着てきた服乾かすよ」
「そだね」
莉子ちゃんはどこか楽しそうだった。そんなだから、2人でしか出来ない経験を、たくさん重ねたくなる。莉子ちゃんの隣に座る。そっと莉子ちゃんが寄りかかる温度と重さで、回復して満ちていくのを感じた。
〜〜♪
お風呂が沸いた。莉子ちゃんの背を押して、浴室まで連れていく。
「じゃ、ごゆっくり」
扉をしっかり閉めて、リビングに戻る。くしゃみが出る。俺が風邪ひくかな。まぁそしたらトリオン体で過ごせばいいか。莉子ちゃんが風邪で寝込むような未来は視えない。それなら、いい。天井を眺めた。怒られる未来が視える。なんだって、世界はこんなに複雑で、くだらない尺度に溢れていて、俺たちを許してくれないのだろう。心が沈み込んでいく。世界に2人ならいいのに。
「いいお湯でした」
振り返って君が目に飛び込んきて、あやっぱり間違ったのかもと。湯上がりの君は無防備でいい匂いがしそうで、いろんなところが際どかった。視てた以上、声と温度がついたら。
「……じゃ、俺も入ってくるから。くつろいでて」
逃げるように浴室に行った。まずいなこれ、完全に誰にも知られないようにしなきゃ。とりあえず、さっさと俺は風呂を上がる。莉子ちゃんの服、手早く乾かして。あとは、莉子ちゃんがお風呂入った痕跡消して。早送りのように迫り来る現実に、頭が冴えて冷えていく。
(まだ一緒にいたい)
高速で回る頭の中、小さな俺がポツリと呟く。まだ欲張るのか。シャワーを止めて、髪をかきあげて。ため息吐いて。
(要は俺の服着てるとこ、見られなきゃいいわけでしょ)
頭はまた冷静に計算を始める。もう一度シャワーを浴びて、浴室を出る。身体を拭いて、バスタオルを洗濯機に放り込む。部屋着を着て、リビングへ行けば。
(……読み逃したなぁ)
莉子ちゃんはソファーで眠りこけていた。際どいって、流石にさ。目のやり場に困って、慌ててブランケットを持ってきてかけた。あと何分。あと何分、この空気を楽しんでいていい。なにも考えずに、莉子ちゃんを眺めていられるのはあと。計算をやめられる日はきっと来ない。こんな俺だけど、汚れているのかもしれないけど、どうか置いていかないで。