序章/プロトタイプ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
木曜の午後。私は特にすることもないので、ボーダーのラウンジで趣味の小説を書いていた。家で籠って執筆することが苦手なので、カフェとかに出かけてよく書くのだが、ボーダーのラウンジならお金がかからなくていい。私の執筆スタイルは、携帯端末に直打ち。自販機で買ったペットボトルの烏龍茶を飲む。今日の集中力はまずまずだ。
「莉子ちゃんやん!元気?」
「生駒っち」
生駒っちは私を見つけると、駆け寄って遠慮なく向かいに座る。私がラウンジを気に入っているのは、こうやって誰かに話しかけてもらうのが好きだからだ。
「元気ない時はいつでも言いや〜すぐ駆けつけて元気にしたるから」
「いつもありがとう」
「莉子ちゃんは可愛ええからええんや」
可愛いと言われるのは気恥ずかしい私なのだが、生駒っちのは言われ慣れた。安売りしなきゃいいのにと思う。
「今日はまた小説書いてるん?」
「そう。宝石の国の二次創作」
「宝石の国かぁ〜。あれよう分からん」
「貸したけど、分からないって返ってきたもんね」
「俺には難しすぎたわ……ヒロアカとか書かへん?」
「ヒロアカかぁ」
ヒロアカも一応読んではいる。妄想もするが、書くまでいくとなると話は別。私は筆に波こそあれ、ジャンルの移動はあまりしないタイプだった。ひとつのジャンルで、風呂敷を広げすぎてしまうのはある。
「マリオちゃんが作品見せてくれんねん」
「マリオちゃんはガード固いからなぁ」
私は書き上げた作品はどんなものであれ、誰かに見てもらいたいタイプなので、オープンに公開しているが。マリオちゃんはそうではないらしく、見たい!とお願いしてしがみついて、ようやく少し見せてもらえる。
「イコさんだから嫌!とかある?」
「いやぁあの子の場合関係ないと思うよ」
「そうかーならよかった」
「生駒っち、なんか飲む?買ってくるよ」
「あーええ、ええ!女の子は座っとき!」
生駒っちは立ち上がると、自分の飲み物を買いに行った。私は執筆を少し進める。生駒っちが戻ってくる気配がしたので顔を上げると、生駒っちの手には紙カップがふたつ。ひとつを、私の前に置く。
「コーヒーがダメやんな?紅茶はイケるよな?」
「頼んでないのに。悪いね」
「ええってことよ。莉子ちゃん、可愛ええからな」
「ありがとう〜」
生駒っちのこれはいつものことなので、然程遠慮もせずに口をつける。生駒っちもコーヒーを飲む。が、ため息を吐いて突っ伏すので驚く。
「どした?」
「モテたい」
またそれか。答えず苦笑を浮かべていると、急に顔を上げるので私はびびる。
「なぁ!どうやったらモテるん!?」
「私に訊かれてもなー」
「自分、モテるやんか!」
「えー??」
モテるだろうか。ピンと来ない。愛されキャラではあると思うが、生駒っちが求めるモテるとは違うんじゃないだろうか。
「私、モテないよ」
「嘘つけ」
「ほんとほんと。愛されキャラなだけだよ。マスコット枠だよ」
「それをモテるって言うんです!なんや恐ろしい子やわー」
生駒っちは再度突っ伏してしまう。どうしたもんかな。愛されキャラという意味では、生駒っちも充分モテると思うんだが。言葉に迷っていると、また生駒っちは急に顔を上げて、話題を変えてきた。
「莉子ちゃん、彼氏作らへんの?」
「彼氏?」
正直、あまり興味はなかった。満たされてるし。
「彼氏も彼女も、作らないよ」
「えーなして?」
「俺に彼氏出来たら、生駒っち泣くだろ?」
「急にイケメンなるのやめーや。泣くけども!」
まぁ、それは冗談としても。
「誰か一人のものになるの、想像出来ないんだよね」
私には男友達がたくさんいる。誰かを選んで、大事な友達と疎遠になるのが嫌だった。感情や関係に名前をつけることで、不自由になるのが嫌だった。
「みんなの莉子ちゃんで、幸せだし」
「生粋のアイドルやん」
「そんなキラキラしたものじゃないけど」
アイドルとしては、私は自然体すぎると思う。自分を演じる負荷をかけられないから、アイドル未満のまま、ステージには立っている。でもこれが私だから、後ろめたりはしない。
「イコさんいたいた。そろそろ打ち合わせしますよ、隊室戻ってください」
水上くんがやって来て、生駒っちを連れていく。水上くんは一瞬こっちを無表情で見て、文句ありげに逸らした。聞かれてたかな。
「じゃな、莉子ちゃん!またな」
「じゃあね生駒っち。水上くんも」
2人が去るのを見送って、私は執筆作業に戻る。あと半分くらいまで書けた。この調子で進めよう。
「リコピン、話しかけていい?」
小説が粗方書き終わったところで、王子に話しかけられた。王子の手には、2人分の紙カップ。ひとつを私の前に置き、私の返事を聞く前に王子は向かいに座った。王子はいつもこうなので、気にしない。多分、待ってと言っても構わずに座るだろう。
「これ紅茶?」
「ストレートにお砂糖だけ、でしょ?」
「うん、ありがとう。ご馳走になります」
本日、2杯目の紅茶を飲む。しばらく、穏やかな沈黙が流れる。王子がなにか言うまで、私は待つ。王子は緩やかな所作でコーヒーを飲む。そうして、そっと口を開いた。
「リコピンにとって、愛ってどんなもの?」
王子は昔は尖っていたけど、いつしか問答をするのが好きになったみたいだ。私も、あれこれ真面目に議論をするのは好きなので、よく相手に選ばれる。
「愛……愛ね」
私も紅茶を口に含む。今度は王子が待つ番。少し考えて、前置きを置いて話す。
「あくまでも私にしか当てはまらない定義だけど」
「うん」
「愛とは、貪り喰らうもの。そして、それに応えるもの」
「……女王様みたいだね」
王子は面食らった顔で私を見る。うーん、やっぱり理解はしてもらえないか。私は、私なりの言葉で、説明を試みる。
「……私、小さい頃から親戚中に可愛がられてきてさ。とにかく愛されて育ったのね」
「羨ましい限りだね」
「うん。だから、特別な誰かを選ぶことが怖くて」
特別な誰かがいれば、選ばれなかった者は嫉妬する。私のせいでいざこざが起こるのはごめんだった。
「誰に対しても、平等に接してきた。そうすることで、誰からも愛されてきた」
王子は黙って、私の話を聞く。私は理解してもらえるか、少し不安を抱えながら続ける。
「そのうち、大喰らいになってしまって」
「大喰らい?」
「うん。愛されるなら、たくさん愛されたい」
特定の一人ではなく、複数人から。誰かを選ぶことで他の誰かの愛を切り捨てることが、受け入れ難くなっていた。
「たくさん愛された分、その愛には応えるべきだと思う」
愛は貪り、喰らった分応えるもの。私の中ではそうだった。
「王子は?王子にとって、愛ってなに?」
「うーん……僕の中では、エゴなんだよね」
「エゴ?」
王子は何故か、優しく微笑んだ。意味は分からないが、反射的に私も笑って返す。
「身に覚え、ない?」
「??」
「まぁ、いいけど」
王子は一口、コーヒーを飲んだ。そうして、私の瞳をまっすぐ見て、続ける。
「愛って、どんなに深くてもエゴだと思うんだ。相手のためを想っていたとしても、それは自分の勝手な思い込みだったりする」
「うん」
そんな側面もあるかな、と思う。
「エゴの押し付け合いが、心地良くなるなら、それは幸せなんじゃないかと思う」
「なるほど」
「だからさ」
王子がゆっくり、瞬きをした。その動作があまりに優しく美しかったから、私は目を奪われた。
「君も、もっと自由に生きたらいいと思う」
「??自由に生きてるよ?」
自由に生きてるから、愛を貪るなんてはしたないままでいられるのだ。私が首を傾げると、王子は困ったように苦笑した。
「今は分からなくていいけど。無理に愛情に応える必要はないよ」
「そうかなぁ」
「君の思うがまま、素直に愛情を振り撒いたらいい」
「振り撒いてるつもりだけどなぁ」
私が頭を掻きながら思案すると、王子はやっぱりゆるりと微笑んだ。昔からは考えられない表情だなと思う。
「リコピンは、優しすぎるんだね」
「優しいか?俺、自分のことしか出来ないよ」
「優しいさ、とびきり」
実感はなかった。優しくありたいとは思う。けど、優しくあるには鈍感すぎるし、不器用すぎた。うんうん唸っていると、遂には王子が声を出して笑った。
「あはは、そんな悩まなくても」
「うーん、だって」
「歌を褒められた時みたいに、堂々としてればいいじゃない」
「うーん」
自信や実感のないものに、胸は張れない。コーヒーを飲み終わったらしい王子は、立ち上がり空の紙コップを私の頭に乗せた。
「素直すぎるよね。バカ正直って言うのかな」
「……今のは褒めてないよね?」
「別にさっきから、褒めてるつもりはないよ」
王子は私の紙コップも回収して、ゴミ箱に捨てに行った。王子と話すと、頭を使う。不意に飛び出た言葉で、自分の本心を知ることもある。疲れるけど、好きな時間だった。
「じゃ、今日はこの辺で。またお話してよ」
「はいはい。じゃあね、王子」
爽やかに手を振って、王子は去っていった。さて、小説の更新をしよう。私は携帯端末を開き、コピペ作業に入るのだった。
「莉子ちゃんやん!元気?」
「生駒っち」
生駒っちは私を見つけると、駆け寄って遠慮なく向かいに座る。私がラウンジを気に入っているのは、こうやって誰かに話しかけてもらうのが好きだからだ。
「元気ない時はいつでも言いや〜すぐ駆けつけて元気にしたるから」
「いつもありがとう」
「莉子ちゃんは可愛ええからええんや」
可愛いと言われるのは気恥ずかしい私なのだが、生駒っちのは言われ慣れた。安売りしなきゃいいのにと思う。
「今日はまた小説書いてるん?」
「そう。宝石の国の二次創作」
「宝石の国かぁ〜。あれよう分からん」
「貸したけど、分からないって返ってきたもんね」
「俺には難しすぎたわ……ヒロアカとか書かへん?」
「ヒロアカかぁ」
ヒロアカも一応読んではいる。妄想もするが、書くまでいくとなると話は別。私は筆に波こそあれ、ジャンルの移動はあまりしないタイプだった。ひとつのジャンルで、風呂敷を広げすぎてしまうのはある。
「マリオちゃんが作品見せてくれんねん」
「マリオちゃんはガード固いからなぁ」
私は書き上げた作品はどんなものであれ、誰かに見てもらいたいタイプなので、オープンに公開しているが。マリオちゃんはそうではないらしく、見たい!とお願いしてしがみついて、ようやく少し見せてもらえる。
「イコさんだから嫌!とかある?」
「いやぁあの子の場合関係ないと思うよ」
「そうかーならよかった」
「生駒っち、なんか飲む?買ってくるよ」
「あーええ、ええ!女の子は座っとき!」
生駒っちは立ち上がると、自分の飲み物を買いに行った。私は執筆を少し進める。生駒っちが戻ってくる気配がしたので顔を上げると、生駒っちの手には紙カップがふたつ。ひとつを、私の前に置く。
「コーヒーがダメやんな?紅茶はイケるよな?」
「頼んでないのに。悪いね」
「ええってことよ。莉子ちゃん、可愛ええからな」
「ありがとう〜」
生駒っちのこれはいつものことなので、然程遠慮もせずに口をつける。生駒っちもコーヒーを飲む。が、ため息を吐いて突っ伏すので驚く。
「どした?」
「モテたい」
またそれか。答えず苦笑を浮かべていると、急に顔を上げるので私はびびる。
「なぁ!どうやったらモテるん!?」
「私に訊かれてもなー」
「自分、モテるやんか!」
「えー??」
モテるだろうか。ピンと来ない。愛されキャラではあると思うが、生駒っちが求めるモテるとは違うんじゃないだろうか。
「私、モテないよ」
「嘘つけ」
「ほんとほんと。愛されキャラなだけだよ。マスコット枠だよ」
「それをモテるって言うんです!なんや恐ろしい子やわー」
生駒っちは再度突っ伏してしまう。どうしたもんかな。愛されキャラという意味では、生駒っちも充分モテると思うんだが。言葉に迷っていると、また生駒っちは急に顔を上げて、話題を変えてきた。
「莉子ちゃん、彼氏作らへんの?」
「彼氏?」
正直、あまり興味はなかった。満たされてるし。
「彼氏も彼女も、作らないよ」
「えーなして?」
「俺に彼氏出来たら、生駒っち泣くだろ?」
「急にイケメンなるのやめーや。泣くけども!」
まぁ、それは冗談としても。
「誰か一人のものになるの、想像出来ないんだよね」
私には男友達がたくさんいる。誰かを選んで、大事な友達と疎遠になるのが嫌だった。感情や関係に名前をつけることで、不自由になるのが嫌だった。
「みんなの莉子ちゃんで、幸せだし」
「生粋のアイドルやん」
「そんなキラキラしたものじゃないけど」
アイドルとしては、私は自然体すぎると思う。自分を演じる負荷をかけられないから、アイドル未満のまま、ステージには立っている。でもこれが私だから、後ろめたりはしない。
「イコさんいたいた。そろそろ打ち合わせしますよ、隊室戻ってください」
水上くんがやって来て、生駒っちを連れていく。水上くんは一瞬こっちを無表情で見て、文句ありげに逸らした。聞かれてたかな。
「じゃな、莉子ちゃん!またな」
「じゃあね生駒っち。水上くんも」
2人が去るのを見送って、私は執筆作業に戻る。あと半分くらいまで書けた。この調子で進めよう。
「リコピン、話しかけていい?」
小説が粗方書き終わったところで、王子に話しかけられた。王子の手には、2人分の紙カップ。ひとつを私の前に置き、私の返事を聞く前に王子は向かいに座った。王子はいつもこうなので、気にしない。多分、待ってと言っても構わずに座るだろう。
「これ紅茶?」
「ストレートにお砂糖だけ、でしょ?」
「うん、ありがとう。ご馳走になります」
本日、2杯目の紅茶を飲む。しばらく、穏やかな沈黙が流れる。王子がなにか言うまで、私は待つ。王子は緩やかな所作でコーヒーを飲む。そうして、そっと口を開いた。
「リコピンにとって、愛ってどんなもの?」
王子は昔は尖っていたけど、いつしか問答をするのが好きになったみたいだ。私も、あれこれ真面目に議論をするのは好きなので、よく相手に選ばれる。
「愛……愛ね」
私も紅茶を口に含む。今度は王子が待つ番。少し考えて、前置きを置いて話す。
「あくまでも私にしか当てはまらない定義だけど」
「うん」
「愛とは、貪り喰らうもの。そして、それに応えるもの」
「……女王様みたいだね」
王子は面食らった顔で私を見る。うーん、やっぱり理解はしてもらえないか。私は、私なりの言葉で、説明を試みる。
「……私、小さい頃から親戚中に可愛がられてきてさ。とにかく愛されて育ったのね」
「羨ましい限りだね」
「うん。だから、特別な誰かを選ぶことが怖くて」
特別な誰かがいれば、選ばれなかった者は嫉妬する。私のせいでいざこざが起こるのはごめんだった。
「誰に対しても、平等に接してきた。そうすることで、誰からも愛されてきた」
王子は黙って、私の話を聞く。私は理解してもらえるか、少し不安を抱えながら続ける。
「そのうち、大喰らいになってしまって」
「大喰らい?」
「うん。愛されるなら、たくさん愛されたい」
特定の一人ではなく、複数人から。誰かを選ぶことで他の誰かの愛を切り捨てることが、受け入れ難くなっていた。
「たくさん愛された分、その愛には応えるべきだと思う」
愛は貪り、喰らった分応えるもの。私の中ではそうだった。
「王子は?王子にとって、愛ってなに?」
「うーん……僕の中では、エゴなんだよね」
「エゴ?」
王子は何故か、優しく微笑んだ。意味は分からないが、反射的に私も笑って返す。
「身に覚え、ない?」
「??」
「まぁ、いいけど」
王子は一口、コーヒーを飲んだ。そうして、私の瞳をまっすぐ見て、続ける。
「愛って、どんなに深くてもエゴだと思うんだ。相手のためを想っていたとしても、それは自分の勝手な思い込みだったりする」
「うん」
そんな側面もあるかな、と思う。
「エゴの押し付け合いが、心地良くなるなら、それは幸せなんじゃないかと思う」
「なるほど」
「だからさ」
王子がゆっくり、瞬きをした。その動作があまりに優しく美しかったから、私は目を奪われた。
「君も、もっと自由に生きたらいいと思う」
「??自由に生きてるよ?」
自由に生きてるから、愛を貪るなんてはしたないままでいられるのだ。私が首を傾げると、王子は困ったように苦笑した。
「今は分からなくていいけど。無理に愛情に応える必要はないよ」
「そうかなぁ」
「君の思うがまま、素直に愛情を振り撒いたらいい」
「振り撒いてるつもりだけどなぁ」
私が頭を掻きながら思案すると、王子はやっぱりゆるりと微笑んだ。昔からは考えられない表情だなと思う。
「リコピンは、優しすぎるんだね」
「優しいか?俺、自分のことしか出来ないよ」
「優しいさ、とびきり」
実感はなかった。優しくありたいとは思う。けど、優しくあるには鈍感すぎるし、不器用すぎた。うんうん唸っていると、遂には王子が声を出して笑った。
「あはは、そんな悩まなくても」
「うーん、だって」
「歌を褒められた時みたいに、堂々としてればいいじゃない」
「うーん」
自信や実感のないものに、胸は張れない。コーヒーを飲み終わったらしい王子は、立ち上がり空の紙コップを私の頭に乗せた。
「素直すぎるよね。バカ正直って言うのかな」
「……今のは褒めてないよね?」
「別にさっきから、褒めてるつもりはないよ」
王子は私の紙コップも回収して、ゴミ箱に捨てに行った。王子と話すと、頭を使う。不意に飛び出た言葉で、自分の本心を知ることもある。疲れるけど、好きな時間だった。
「じゃ、今日はこの辺で。またお話してよ」
「はいはい。じゃあね、王子」
爽やかに手を振って、王子は去っていった。さて、小説の更新をしよう。私は携帯端末を開き、コピペ作業に入るのだった。