本編
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「今週末、莉子ちゃんに会ってみない?」
母の問いかけに、瞬きをする。久方ぶりに名前を聞いた。小4の時に絶交だと告げてきり。そういえば、今なにしてるんだろうか。
「いいけど。なんで?」
「なんでってことはないでしょうよ……あんなに仲良かったのに」
「まぁ……」
仲が良かったと言われると、こそばゆい。この感覚に慣れなくて煩わしくて、離れた。冷やかされると、恥ずかしくて仕方なかったから。
「莉子ちゃん、最近学校行けてないみたいなの。話聞いてあげてよ」
「…………」
なんで俺が。今更、伝えたいことなんてないし、莉子だって迷惑じゃないだろうか。学校に行けてないというのは、気がかりではあるけれど。でも、俺には関係のない話だ。
「とにかく、今週の土曜にのぶちゃんと家にくるから、あんた家にいなさい」
「…………分かったけど」
会ってなんて言えば。悩む必要はないか。久しぶりだし、適当に最近のことでも話せば。
土曜はお昼近くまで寝ていた。そういえば莉子が家に来るって言っていたな。寝巻きは流石にまずいので、適当な部屋着に着替えた。リビングに行くと、母が昼飯にチャーハンかなにか炒めていた。父は弟妹を連れてどこかへ出かけたようだ。
「早く食べちゃいなさい、13時頃来るって言ってたから」
土曜の昼飯くらい、のんびり食わせてくれ。別に俺が飯食ってたってなんも思わないだろ。文句とチャーハンをかき込んで飲み込む。水を飲んで、あくびを噛み殺す。なんだかだるくて、ベッドに帰ってしまいたい。
ピンポーン
インターホンが鳴る。母が玄関先へ行く。俺はリビングで待っていた。母が莉子ママにぺちゃくちゃ喋りながら戻ってくる。母たちの影に隠れるように、莉子がそろっと入ってくる。
(ちっさいな)
別れたあの日と、ほとんど変わらないことに衝撃を受ける。背丈や身なりは変わらないのに、随分と緊張していて不安そうで。変わらないけど変わり果てた、そんな感想を持った。莉子と目が合う。すぐ逸らされる。ほらやっぱり。今更会うなんて迷惑なんだって。
「適当に座って〜今コーヒー淹れるわね」
「あの、すいません……コーヒー飲めないです」
「あら、そうなの。じゃあ莉子ちゃんはお茶ね」
コーヒー飲めないのか、なんか可愛いな。けれど、コーヒー飲めないだけでそんなに申し訳なさそうにならなくても。昔はもっと、明るくて、元気で、可愛くて。いや、まぁ。可愛かったのに。
「家で話すの久々だね」
「だよね〜PTAとか入ってる?私役員に選ばれそうで」
子供をほったらかして、母親たちはおしゃべりを始める。俺たちに会話はない。なんか喋ってくれ。目で訴えても、なにも返してはくれなくて。莉子は俯いて、しきりにお茶を口に含んでいた。
「拓磨、莉子ちゃんと部屋で話せば?」
「は?」
「私達話してたら話しづらいでしょ」
まぁそれはそうなんだけど。そうだけどさ。莉子の方を見た。少しだけ顔を上げて、また伏せる。話したいことは、あるのかもしれない。聞いてやらないのは、流石に可哀想に思う。
「じゃあ……」
俺が立ち上がると、莉子も椅子を降りた。横に並ばれると、より小さく見える。縮んだのか?俺がでかくなっただけか。廊下を歩く時も会話もないまま。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
昔はこんなやり取り、なかったよなぁ。変な気分だ。知らない女の子を、部屋に呼んでる気分。
「あー……適当に、座れよ」
莉子はちょこんとベッドに腰掛けた。掛け布団もシーツも、めちゃくちゃのまんまだった。まぁ仕方ないか。
「……なんだ、その。学校行けてないって?」
莉子は肩を振るわせて、一層暗い顔になった。思い詰めてるようで。今にも泣き出しそうで、イライラしてしまう。俺が虐めてるみてぇじゃねぇか。
「……行けてない。しんどい。友達いないし」
友達がいないタイプじゃ、なかったと思うんだが。ここ4年間のことは、知らねぇけど。
「なにがしんどいんだ」
「教室で、周りがみんな私のこと知ってるのに、私には話しかけないで好き勝手にざわざわ話すのが、落ち着かない。どうしたらいいか分からない。話しかけたいわけじゃない」
「ふーん……?」
話しかけたくないなら、そのままでいいんじゃねぇのか。そういうもんでもないのか。聞いといてなんだが、どうしてやることも出来なさそうだ。
「あー……なにか言いたいこと、あるのか」
沈黙に耐えられなくて、直球に聞いた。莉子は顔を上げる。急にじっとこちらを見るので、びっくりする。大きな瞳が潤んだのを見て、胸がざわついた。
「いっぱい、たくさん言いたいこと、ある……」
言ったっきり、君は黙り込む。大粒の涙が頬をつたい落ちる。息を呑んで言葉を失った。頭が真っ白になって、びりびりと麻痺する。莉子は泣かせちゃ、いけないんだった。泣かせないように、ずっと守ってきたあの日々。
「ごめん、悪かった。泣くな、泣かないでくれ」
莉子の足元に跪いて、涙を拭おうと手を伸ばす。強く払われてしまう。そのことに、酷くショックを受けた。何故。
「ひとりぼっちに、したくせに……」
ようやく絞り出した声で、そう言った。突風が胸をすり抜けていく。そうだ、なんで忘れていたのだろう。この子と手を繋いだ季節があった。ずっと一緒だと信じてやまない夜があった。俺はなんで、あの時手を離した。
「ごめん、ごめんな……」
全ての日々がどうしようもなく懐かしくなって、もう一度取り戻したくなってしまった。さっきまでの冷めてた気持ちが嘘のように、燃え上がって塵になる。莉子の隣に座り、背中を撫でた。莉子は声をあげて泣きじゃくった。
「さみしかった、かなしかった……!!」
莉子の声が、胸に刺さる。深く、心の根っこの部分を抉る。こんなにも傷つけた、なにも知らずにのうのうと生きていた。俺は山のてっぺんで、君の手を離して置き去りにしたんだ。綺麗に咲き誇っていたことにも気付かずに。
「ごめん、本当に悪かった。泣かないでくれ……」
「さみしかった」
鼻を啜りながら、莉子は必死で涙を堪えようとしていた。愛しくて仕方なくなってしまって、そんな身勝手なこと許されるだろうかと自分に問いかける。俺は昨日まで、莉子を忘れて生きてきたのに。
「許してくれ」
なんとか言葉に出来たのは、そのひと言だった。目を擦る手をそっと掴んだ。膝の上に降ろして、重ねる。そっと撫でる。今度こそ目を合わせる。莉子の橙色の瞳は、あの日と変わらず綺麗なままだった。
「もうひとりぼっちにはしない。絶対」
莉子は目を見開いて驚いた。そりゃそうだろう、どの口がほざいてんだ。勝手に離れて、勝手に戻ってきて。でも、莉子が寂しいって言うんだから。俺に寂しいと言うんだから、俺は側にいたいんだ。なにも間違ってないはずだ。なにもおかしくはないはずだ。
「うん、ありがとう。急に泣いてごめん」
莉子はやっと、ほんの少し笑った。もっと笑わせたい。もう一度だけ、やり直しをさせてくれ。絶対、取り戻す。笑顔の莉子も懐かしい日々も、その先の未来も。突然燃え出したなにかの、名前なんて今はどうでもよくて。名前なんて知る前に走り出しそうなほど、君が欲しくてしょうがなくて。でも、俺から告げることはしない。それがせめてもの、君を傷つけた罰だと思う。もう誰になんと言われてもいい。今度こそ俺は、ずっと一緒にいるよ。
母の問いかけに、瞬きをする。久方ぶりに名前を聞いた。小4の時に絶交だと告げてきり。そういえば、今なにしてるんだろうか。
「いいけど。なんで?」
「なんでってことはないでしょうよ……あんなに仲良かったのに」
「まぁ……」
仲が良かったと言われると、こそばゆい。この感覚に慣れなくて煩わしくて、離れた。冷やかされると、恥ずかしくて仕方なかったから。
「莉子ちゃん、最近学校行けてないみたいなの。話聞いてあげてよ」
「…………」
なんで俺が。今更、伝えたいことなんてないし、莉子だって迷惑じゃないだろうか。学校に行けてないというのは、気がかりではあるけれど。でも、俺には関係のない話だ。
「とにかく、今週の土曜にのぶちゃんと家にくるから、あんた家にいなさい」
「…………分かったけど」
会ってなんて言えば。悩む必要はないか。久しぶりだし、適当に最近のことでも話せば。
土曜はお昼近くまで寝ていた。そういえば莉子が家に来るって言っていたな。寝巻きは流石にまずいので、適当な部屋着に着替えた。リビングに行くと、母が昼飯にチャーハンかなにか炒めていた。父は弟妹を連れてどこかへ出かけたようだ。
「早く食べちゃいなさい、13時頃来るって言ってたから」
土曜の昼飯くらい、のんびり食わせてくれ。別に俺が飯食ってたってなんも思わないだろ。文句とチャーハンをかき込んで飲み込む。水を飲んで、あくびを噛み殺す。なんだかだるくて、ベッドに帰ってしまいたい。
ピンポーン
インターホンが鳴る。母が玄関先へ行く。俺はリビングで待っていた。母が莉子ママにぺちゃくちゃ喋りながら戻ってくる。母たちの影に隠れるように、莉子がそろっと入ってくる。
(ちっさいな)
別れたあの日と、ほとんど変わらないことに衝撃を受ける。背丈や身なりは変わらないのに、随分と緊張していて不安そうで。変わらないけど変わり果てた、そんな感想を持った。莉子と目が合う。すぐ逸らされる。ほらやっぱり。今更会うなんて迷惑なんだって。
「適当に座って〜今コーヒー淹れるわね」
「あの、すいません……コーヒー飲めないです」
「あら、そうなの。じゃあ莉子ちゃんはお茶ね」
コーヒー飲めないのか、なんか可愛いな。けれど、コーヒー飲めないだけでそんなに申し訳なさそうにならなくても。昔はもっと、明るくて、元気で、可愛くて。いや、まぁ。可愛かったのに。
「家で話すの久々だね」
「だよね〜PTAとか入ってる?私役員に選ばれそうで」
子供をほったらかして、母親たちはおしゃべりを始める。俺たちに会話はない。なんか喋ってくれ。目で訴えても、なにも返してはくれなくて。莉子は俯いて、しきりにお茶を口に含んでいた。
「拓磨、莉子ちゃんと部屋で話せば?」
「は?」
「私達話してたら話しづらいでしょ」
まぁそれはそうなんだけど。そうだけどさ。莉子の方を見た。少しだけ顔を上げて、また伏せる。話したいことは、あるのかもしれない。聞いてやらないのは、流石に可哀想に思う。
「じゃあ……」
俺が立ち上がると、莉子も椅子を降りた。横に並ばれると、より小さく見える。縮んだのか?俺がでかくなっただけか。廊下を歩く時も会話もないまま。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
昔はこんなやり取り、なかったよなぁ。変な気分だ。知らない女の子を、部屋に呼んでる気分。
「あー……適当に、座れよ」
莉子はちょこんとベッドに腰掛けた。掛け布団もシーツも、めちゃくちゃのまんまだった。まぁ仕方ないか。
「……なんだ、その。学校行けてないって?」
莉子は肩を振るわせて、一層暗い顔になった。思い詰めてるようで。今にも泣き出しそうで、イライラしてしまう。俺が虐めてるみてぇじゃねぇか。
「……行けてない。しんどい。友達いないし」
友達がいないタイプじゃ、なかったと思うんだが。ここ4年間のことは、知らねぇけど。
「なにがしんどいんだ」
「教室で、周りがみんな私のこと知ってるのに、私には話しかけないで好き勝手にざわざわ話すのが、落ち着かない。どうしたらいいか分からない。話しかけたいわけじゃない」
「ふーん……?」
話しかけたくないなら、そのままでいいんじゃねぇのか。そういうもんでもないのか。聞いといてなんだが、どうしてやることも出来なさそうだ。
「あー……なにか言いたいこと、あるのか」
沈黙に耐えられなくて、直球に聞いた。莉子は顔を上げる。急にじっとこちらを見るので、びっくりする。大きな瞳が潤んだのを見て、胸がざわついた。
「いっぱい、たくさん言いたいこと、ある……」
言ったっきり、君は黙り込む。大粒の涙が頬をつたい落ちる。息を呑んで言葉を失った。頭が真っ白になって、びりびりと麻痺する。莉子は泣かせちゃ、いけないんだった。泣かせないように、ずっと守ってきたあの日々。
「ごめん、悪かった。泣くな、泣かないでくれ」
莉子の足元に跪いて、涙を拭おうと手を伸ばす。強く払われてしまう。そのことに、酷くショックを受けた。何故。
「ひとりぼっちに、したくせに……」
ようやく絞り出した声で、そう言った。突風が胸をすり抜けていく。そうだ、なんで忘れていたのだろう。この子と手を繋いだ季節があった。ずっと一緒だと信じてやまない夜があった。俺はなんで、あの時手を離した。
「ごめん、ごめんな……」
全ての日々がどうしようもなく懐かしくなって、もう一度取り戻したくなってしまった。さっきまでの冷めてた気持ちが嘘のように、燃え上がって塵になる。莉子の隣に座り、背中を撫でた。莉子は声をあげて泣きじゃくった。
「さみしかった、かなしかった……!!」
莉子の声が、胸に刺さる。深く、心の根っこの部分を抉る。こんなにも傷つけた、なにも知らずにのうのうと生きていた。俺は山のてっぺんで、君の手を離して置き去りにしたんだ。綺麗に咲き誇っていたことにも気付かずに。
「ごめん、本当に悪かった。泣かないでくれ……」
「さみしかった」
鼻を啜りながら、莉子は必死で涙を堪えようとしていた。愛しくて仕方なくなってしまって、そんな身勝手なこと許されるだろうかと自分に問いかける。俺は昨日まで、莉子を忘れて生きてきたのに。
「許してくれ」
なんとか言葉に出来たのは、そのひと言だった。目を擦る手をそっと掴んだ。膝の上に降ろして、重ねる。そっと撫でる。今度こそ目を合わせる。莉子の橙色の瞳は、あの日と変わらず綺麗なままだった。
「もうひとりぼっちにはしない。絶対」
莉子は目を見開いて驚いた。そりゃそうだろう、どの口がほざいてんだ。勝手に離れて、勝手に戻ってきて。でも、莉子が寂しいって言うんだから。俺に寂しいと言うんだから、俺は側にいたいんだ。なにも間違ってないはずだ。なにもおかしくはないはずだ。
「うん、ありがとう。急に泣いてごめん」
莉子はやっと、ほんの少し笑った。もっと笑わせたい。もう一度だけ、やり直しをさせてくれ。絶対、取り戻す。笑顔の莉子も懐かしい日々も、その先の未来も。突然燃え出したなにかの、名前なんて今はどうでもよくて。名前なんて知る前に走り出しそうなほど、君が欲しくてしょうがなくて。でも、俺から告げることはしない。それがせめてもの、君を傷つけた罰だと思う。もう誰になんと言われてもいい。今度こそ俺は、ずっと一緒にいるよ。
