弓場と迅の話
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高校三年生になった。莉子が学校に来る日は少ない。俺のせいなんかじゃないけど、莉子のせいでもなくて、日に日に一緒にいる時間が減っている気がして、心に斑点模様の黒いシミが、じわりと広がっていくよう。妬きもちなんて妬きたくない。嫌われたくない、デカい男でいたい。気持ちとは裏腹に、情けないところばかり見られてしまう。日を追うごと年を追うごとに、気持ちは膨れ上がるばかりで。ずっと一緒にいたいのに、燃えて灰になりそう。
(今年の誕生日、どうするか)
俺のも、莉子のも。去年は一緒にいてくれた。今年は?また忘れてるかな。忘れてるとしたら、早めに言っとかないと莉子に予定が入りそう。でもまだ学校始まったばっかだし。月末の予定を3週間も前に押さえたら、ウザがられないか?考えすぎだろうか。なんか、自分ばっかり好きなのが丸出しで、恥ずかしい。でも一緒にいられないのは、嫌だ。スマホと睨めっこして、天井仰いで、ため息吐いて。もう一度スマホを見たら、莉子からメッセージが着てて。唾を飲み込んで、開く。
『今年の誕生日、どうする?』
ヒュッと呼吸が乱れた。心臓も不自然に脈打つ。目を擦って二度見した。誕生日、どうする?
(一緒にいたい)
反射で打ち込んで、送信ボタンを押す直前で止まる。待て待て待て待て。
『まだなにも決めてない』
『プレゼントあるから、前後で遊びたい!』
いったんスマホを机に置き、背もたれにもたれて天井を見上げる。額に手をやると、熱でもあるかと錯覚する。嬉しい。嬉しくて胸が張り裂けそう。
『いつなら空いてる?』
『当日がいい』
思わず勢いで返してしまった。おかしくないよな。不自然ではないはず。
『いいよー空けておくね』
自分の喜びを、うまく表す言葉が見つからない。だから返信出来ない。ベッドに寝転がって自分で自分を抱き締める。口元がほどけて仕方ない。莉子から誘ってくれた。たったそれだけのことで、馬鹿らしいほど舞い上がる。明日から、頑張れそうだ。
誕生日の前日は、俺が百合の花を摘んで、莉子に渡そうとする夢を見た。渡すのが怖くなって、背中に隠した。莉子は俺からなにも貰えなくても、ただ静かに微笑んでいた。
目が覚めて、夢でも会えたことが嬉しくて胸がくすぐったい。莉子のことを夢に見ることは、そりゃ多いけど。何度だってときめく。悲しい顔も、寂しい顔も。夢でだってさせたくない。今日は笑顔だったから、よかった。時刻は9時過ぎ。きちんとした待ち合わせ時間は決めていない。
『おはよう』
そう送って、顔を洗って着替える。おはようって、本当は毎朝伝えたいよ。おやすみまで、ずっと一緒にいられたら。未来への憧れが羽ばたいていく。いつか辿り着けるはずなんだ。だから焦ったりしないよ。本音を言えば、耐えきれないほど君が欲しいけど。君への愛ばかり、胸の内で呟く。今日はなんていったって、上機嫌。
『おはよ〜』
返信が着たのは、10時半頃。気が遠くなるほど待った気がするけれど、全然苦ではなかった1時間半。いつまでだって待てる、君が絶対に来てくれるなら。
『いつでもいいぞ』
『ごめん、今着替える〜あと15分待って』
『家の前にいるよ』
忘れ物がないか確認して、外へ出る。履き慣れた靴を履くのは、君と好きなだけ歩けるように。
「おまたせ!」
あー……目の前にすると言葉も視線も、行き場を失くして。莉子も上機嫌だから、余計に。可愛くて仕方なくて。
「拓磨、調子」
「悪くない。大丈夫」
「……本当?」
首を傾げる君が、逃げ出したくなるほど好きで。いっそ伝わってしまったなら。もう知ってるかも。それでこのまんまなのは、苦しいなぁ。
「なんでもない」
「そっか」
莉子は先を歩く。ゆっくりそっとついていく。ひょこひょこと動く頭に、髪に触れたくて。伸ばして手を引っ込めて。君の前で挙動不審なことが、なんとか君にだけはバレませんように。
カフェでのんびりお茶をする。莉子は最近、炭酸飲料をよく飲む。ストローを噛む癖が、愛らしい。
「今年はよく覚えてたな」
「ん?んー迅になに買うの?って聞かれたから」
急速に胸が凍る思いがする。迅の名前は、よく聞く。初めは、幼馴染の俺のが好かれてるって思ってたけど。最近は、自信が全然ない。
「迅さ、拓磨のプレゼント買うの付き合ってくれたんだけど。終わったら「今日誕生日なんだ」って言い出して。仕方ないから、迅のプレゼントも買った」
「……そうか」
「ちゃんと祝うから、早く言ってくれればいいのに」
酷いなぁ、と莉子が言うのを、酷いと責めたくなってなにも言えない。誕生日を、あいつに横取りされた気分。誕生日は、莉子と俺だけのものであって欲しくて。そんなこと、わがままだよな。でも、だって。
「拓磨、なんか怒った……?」
莉子は不安症で、人が傷つくのに敏感だ。バレてしまう。泣きそうな顔を見て、罪悪感がこみ上げて。そんな顔、させたくない。させないっていつも思うのに。なんでこんなにも、上手くいかないのだろう。
「迅の誕生日も、祝うんだな」
「?そりゃ友達だもん。祝うよ」
「そうだな、うん……そうだよな」
莉子がみんなから愛されるのなんて、当たり前のことなのに。どうしてこうも、醜くドロドロした感情で汚されていくのだろう。俺だけの君でいて。俺だけを見ていて。
「ひょっとして妬いたの?」
莉子の大きな瞳に見つめられて、嘘も言い訳も出来るわけなくて。声もなく頷いた。莉子は少し伏目で考え込んだ後、首を傾げて上目遣いで俺を見て。
「でも、誰よりも多く拓磨の誕生日を祝ってるよ?それじゃダメ?」
勝てない。一生勝てない。無理、好き。君の1番ならなんでもいい。なにもかも捧げてもいい。だから、この先死ぬまで俺の誕生日を祝ってくれ。
「拓磨?」
「あ、あぁ……うん」
「ダメかな……」
君はシュンとしおれる。どうしよう。俺の機嫌なんて吹っ飛んで直ったんだが。胸がいっぱいで、余計なことを言いそうで。深呼吸をした。それにすら肩を揺らして怯える君を、生涯かけて守ると決めただろ。
「ダメじゃない。悪かった」
「うん、怒ってない……?」
「初めから怒ってない。俺の器が小さかっただけだ」
「そう?これからもお祝いしていい?」
なんでそうなるんだ。ずっと祝ってくれなきゃ許さねぇぞ。ぐっと飲み込んで。
「いくつになっても、祝って欲しい」
「うん!ずっと一緒!」
花のように笑う、この一瞬が切り取られて、永遠になってしまってもいいと思う。俺はきっと、とっくに頭をおかしくしているんだ。そんなこと、悔やむわけないけど。
「というわけで、プレゼント」
差し出された箱を受け取る。なんか去年より高そう……?包装がとてもしっかりしていて、大人びている。ドキドキしながら、箱を開けた。
「腕時計……」
「ちょっと奮発しました」
嬉しそうな誇らしそうな、はにかみにやられてしまう。ちょっと?ちょっと奮発?相当高いやつじゃないのかこれ……。手が震えてきた。
「あれ、ちょっと違う……?」
「いや、違うとかじゃなくて……高いだろ?これ」
「うーん、そこそこ」
「なんで、そんな急に」
「だってあげたかったんだもん」
ごめんなさい、聞くだけ野暮だった。俺につけて欲しくて、選んだんだよな。ちょっと不貞腐れた顔の莉子を、そっと撫でる。頬に触れて、親指で。莉子が嬉しそうにするから、やめられなくなる。
「お誕生日、おめでとう!」
「ありがとう」
一生大事にします、時計も君も。
(今年の誕生日、どうするか)
俺のも、莉子のも。去年は一緒にいてくれた。今年は?また忘れてるかな。忘れてるとしたら、早めに言っとかないと莉子に予定が入りそう。でもまだ学校始まったばっかだし。月末の予定を3週間も前に押さえたら、ウザがられないか?考えすぎだろうか。なんか、自分ばっかり好きなのが丸出しで、恥ずかしい。でも一緒にいられないのは、嫌だ。スマホと睨めっこして、天井仰いで、ため息吐いて。もう一度スマホを見たら、莉子からメッセージが着てて。唾を飲み込んで、開く。
『今年の誕生日、どうする?』
ヒュッと呼吸が乱れた。心臓も不自然に脈打つ。目を擦って二度見した。誕生日、どうする?
(一緒にいたい)
反射で打ち込んで、送信ボタンを押す直前で止まる。待て待て待て待て。
『まだなにも決めてない』
『プレゼントあるから、前後で遊びたい!』
いったんスマホを机に置き、背もたれにもたれて天井を見上げる。額に手をやると、熱でもあるかと錯覚する。嬉しい。嬉しくて胸が張り裂けそう。
『いつなら空いてる?』
『当日がいい』
思わず勢いで返してしまった。おかしくないよな。不自然ではないはず。
『いいよー空けておくね』
自分の喜びを、うまく表す言葉が見つからない。だから返信出来ない。ベッドに寝転がって自分で自分を抱き締める。口元がほどけて仕方ない。莉子から誘ってくれた。たったそれだけのことで、馬鹿らしいほど舞い上がる。明日から、頑張れそうだ。
誕生日の前日は、俺が百合の花を摘んで、莉子に渡そうとする夢を見た。渡すのが怖くなって、背中に隠した。莉子は俺からなにも貰えなくても、ただ静かに微笑んでいた。
目が覚めて、夢でも会えたことが嬉しくて胸がくすぐったい。莉子のことを夢に見ることは、そりゃ多いけど。何度だってときめく。悲しい顔も、寂しい顔も。夢でだってさせたくない。今日は笑顔だったから、よかった。時刻は9時過ぎ。きちんとした待ち合わせ時間は決めていない。
『おはよう』
そう送って、顔を洗って着替える。おはようって、本当は毎朝伝えたいよ。おやすみまで、ずっと一緒にいられたら。未来への憧れが羽ばたいていく。いつか辿り着けるはずなんだ。だから焦ったりしないよ。本音を言えば、耐えきれないほど君が欲しいけど。君への愛ばかり、胸の内で呟く。今日はなんていったって、上機嫌。
『おはよ〜』
返信が着たのは、10時半頃。気が遠くなるほど待った気がするけれど、全然苦ではなかった1時間半。いつまでだって待てる、君が絶対に来てくれるなら。
『いつでもいいぞ』
『ごめん、今着替える〜あと15分待って』
『家の前にいるよ』
忘れ物がないか確認して、外へ出る。履き慣れた靴を履くのは、君と好きなだけ歩けるように。
「おまたせ!」
あー……目の前にすると言葉も視線も、行き場を失くして。莉子も上機嫌だから、余計に。可愛くて仕方なくて。
「拓磨、調子」
「悪くない。大丈夫」
「……本当?」
首を傾げる君が、逃げ出したくなるほど好きで。いっそ伝わってしまったなら。もう知ってるかも。それでこのまんまなのは、苦しいなぁ。
「なんでもない」
「そっか」
莉子は先を歩く。ゆっくりそっとついていく。ひょこひょこと動く頭に、髪に触れたくて。伸ばして手を引っ込めて。君の前で挙動不審なことが、なんとか君にだけはバレませんように。
カフェでのんびりお茶をする。莉子は最近、炭酸飲料をよく飲む。ストローを噛む癖が、愛らしい。
「今年はよく覚えてたな」
「ん?んー迅になに買うの?って聞かれたから」
急速に胸が凍る思いがする。迅の名前は、よく聞く。初めは、幼馴染の俺のが好かれてるって思ってたけど。最近は、自信が全然ない。
「迅さ、拓磨のプレゼント買うの付き合ってくれたんだけど。終わったら「今日誕生日なんだ」って言い出して。仕方ないから、迅のプレゼントも買った」
「……そうか」
「ちゃんと祝うから、早く言ってくれればいいのに」
酷いなぁ、と莉子が言うのを、酷いと責めたくなってなにも言えない。誕生日を、あいつに横取りされた気分。誕生日は、莉子と俺だけのものであって欲しくて。そんなこと、わがままだよな。でも、だって。
「拓磨、なんか怒った……?」
莉子は不安症で、人が傷つくのに敏感だ。バレてしまう。泣きそうな顔を見て、罪悪感がこみ上げて。そんな顔、させたくない。させないっていつも思うのに。なんでこんなにも、上手くいかないのだろう。
「迅の誕生日も、祝うんだな」
「?そりゃ友達だもん。祝うよ」
「そうだな、うん……そうだよな」
莉子がみんなから愛されるのなんて、当たり前のことなのに。どうしてこうも、醜くドロドロした感情で汚されていくのだろう。俺だけの君でいて。俺だけを見ていて。
「ひょっとして妬いたの?」
莉子の大きな瞳に見つめられて、嘘も言い訳も出来るわけなくて。声もなく頷いた。莉子は少し伏目で考え込んだ後、首を傾げて上目遣いで俺を見て。
「でも、誰よりも多く拓磨の誕生日を祝ってるよ?それじゃダメ?」
勝てない。一生勝てない。無理、好き。君の1番ならなんでもいい。なにもかも捧げてもいい。だから、この先死ぬまで俺の誕生日を祝ってくれ。
「拓磨?」
「あ、あぁ……うん」
「ダメかな……」
君はシュンとしおれる。どうしよう。俺の機嫌なんて吹っ飛んで直ったんだが。胸がいっぱいで、余計なことを言いそうで。深呼吸をした。それにすら肩を揺らして怯える君を、生涯かけて守ると決めただろ。
「ダメじゃない。悪かった」
「うん、怒ってない……?」
「初めから怒ってない。俺の器が小さかっただけだ」
「そう?これからもお祝いしていい?」
なんでそうなるんだ。ずっと祝ってくれなきゃ許さねぇぞ。ぐっと飲み込んで。
「いくつになっても、祝って欲しい」
「うん!ずっと一緒!」
花のように笑う、この一瞬が切り取られて、永遠になってしまってもいいと思う。俺はきっと、とっくに頭をおかしくしているんだ。そんなこと、悔やむわけないけど。
「というわけで、プレゼント」
差し出された箱を受け取る。なんか去年より高そう……?包装がとてもしっかりしていて、大人びている。ドキドキしながら、箱を開けた。
「腕時計……」
「ちょっと奮発しました」
嬉しそうな誇らしそうな、はにかみにやられてしまう。ちょっと?ちょっと奮発?相当高いやつじゃないのかこれ……。手が震えてきた。
「あれ、ちょっと違う……?」
「いや、違うとかじゃなくて……高いだろ?これ」
「うーん、そこそこ」
「なんで、そんな急に」
「だってあげたかったんだもん」
ごめんなさい、聞くだけ野暮だった。俺につけて欲しくて、選んだんだよな。ちょっと不貞腐れた顔の莉子を、そっと撫でる。頬に触れて、親指で。莉子が嬉しそうにするから、やめられなくなる。
「お誕生日、おめでとう!」
「ありがとう」
一生大事にします、時計も君も。