弓場と迅の話
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君の17回目の誕生日なのに、朝起きることが出来なかった。今日は学校がないから、罪悪感に苛まれることはないけど。
『今起きた。誕生日おめでとう』
メッセージを送れば、すぐに既読がつく。拓磨はとっくに起きていたんだろう。
『おはよう。具合悪くないか?』
自分の誕生日よりも、私の心配をしてくれる。それが申し訳なくて、どうしようもなく腹立たしかった。私は誕生日を祝っているのに。心配をしてくれるのはありがたいのだけど、心配をかける自分が不甲斐なかった。
『大丈夫だよ。どこか行く?』
すぐに返信がこないので、あくびを噛み殺しながらベッドを抜け出た。母さんがお昼どうする?と聞くので、また携帯を見る。
『いや、部屋でのんびりしよう』
そう返信がきていたので、母さんに適当に食べて出かけると伝える。昨日の残り物と、白米で食べることにする。
『せっかく誕生日なのに、どこか出かけなくていいの?』
『部屋でいい』
気を遣わせているのかなとも思ったが、部屋でいいとのことなのでさっさと昼食を食べて着替える。最低限、ズボンとシャツの柄が被らないようにして、部屋に上がるからちゃんとした靴下履いて。ゲーム機とノートだけ持って、家を出る。すぐ向かいの一軒家のインターホンを押す。スウェット姿の拓磨が出てくる。
「おまたせ」
「おう」
「誕生日おめでと」
「うん」
拓磨の背中を追って、お家に上がる。お邪魔しまーすと挨拶をすると、拓磨の母さんが顔を出した。
「あら〜莉子ちゃんいらっしゃい!元気?」
「元気です」
「よかった。なにか飲む?紅茶もジュースもあるよ」
「母さん、部屋に行くから」
拓磨がすごく不満そうに声を出す。反抗期だ、思春期だ。
「部屋に持ってってあげるから!あんたなにがいいの?」
「……莉子と同じのでいい」
「へぇ〜?」
拓磨は逃げるように部屋に入っていった。冷やかされるの、嫌いだもんね。…………君の隣は、私が陣取ってていいのかな。
「莉子ちゃん、なに飲む?」
「冷たいお茶があれば……」
「うんうん。せっかくだからアイスティー作ってあげる。待ってて!」
わざわざ作らなくていいのに。ありがたいけれど。みんな、私のために良くしてくれる。申し訳ない。広い家の左突き当たりにある、拓磨の部屋に入る。拓磨は窓際の勉強机の椅子に座っていた。
「……好きなとこ、座れよ」
「うん」
いつも通り、ベッドの縁に腰掛けた。ベッドは綺麗にメイキングされていて。部屋はどこを見ても片付いている。私とは正反対なくらい違う。
「どうした?」
「うーん……拓磨は、彼女とかいないの?」
「は?なに?」
「彼女いないのって」
拓磨は眉間に皺を寄せて固まっている。私が首を傾げると、大きく溜息を吐いた。私は恐くなって俯く。私のせいかな。私のせいで、彼女出来ないのかな。
「なんでそんなこと聞く」
「私のせいかなって」
「俺がそんなこと言ったか?」
「言わないけど」
拓磨はもう一度、溜息を吐いた。落ち着かなくて、手遊びをする。聞かなきゃよかった。緊張して、居心地が悪い。私も、深く息を吐いた。拓磨が私の機微に気付いて、隣に座る。背中を撫でられると、目頭が熱くなった。
「しんどくなるようなら、聞くなよそんなこと」
「ごめんなさい」
「なんも心配しなくていい。幼馴染だろ」
「うん……」
そう、幼馴染だから。君を縛りつけたくなかった。君に苦労をかけたくなかった。私と一緒にいることが、いつか負債になるのが嫌だった。幼馴染だからって、君が私の面倒を見る必要ないのに。
「…………俺は、」
「アイスティー、持ってきたわよ〜」
拓磨の母さんが部屋に入ってきた。顔を上げてそちらを見ると、私の顔が暗かったのか心配される。
「大丈夫?拓磨になんかされた?この子ほんっとうに不器用だからも〜」
「母さんは向こう行っててくれ!」
拓磨が母親を追い出そうとする。心配をかけたままが嫌だったから。誤解されたままが嫌だったから。
「あの!大丈夫です。拓磨のせいじゃありません。拓磨はいつも優しくて、助けてもらってます。ありがとうございます」
2人が動きを止める。拓磨の母さんは、私に微笑みかけた。
「そう、それならよかった。これからもうちの子のことよろしくね」
そう言って、そっと出て行った。拓磨は立ち尽くしたまんま。
「拓磨?」
名前を呼ぶと、手で待ってくれと制される。
「あのね、拓磨のせいじゃないよ。いつもありがとう」
「うん、分かった。分かったから」
「迷惑かけてごめんね」
「…………」
拓磨は天井を見上げて、眼鏡を上げたあと、窓際の椅子に座り直した。静寂が恐ろしいけど、なにも声が出なくて言葉を待った。
「……莉子のことを、迷惑だと思ったことなんて一度もねェ」
拓磨の顔を見た。一瞬、目が合うけれど逸らされる。拓磨の顔は真っ赤で。可愛らしいな、なんて思う。
「……莉子が許してくれるなら、ずっとこのまま幼馴染でいたいし、その。ずっと一緒にいたい」
「うん」
私だってずっと幼馴染でいたい。ずっと一緒にいられたらいいなと思う。でも、それには私がこのままじゃダメだと思うんだ。君に寄りかかってばかりいたら、君が潰れちゃう。ずっと一緒にいるために、いつかは卒業しなくては。
「ありがとう。頑張る」
「頑張る必要、ないんだが……」
「ちゃんと頑張るよ?」
「いや、うん。まぁ……無理はするなよ」
「しないよ」
私が無理して、困らせるのは拓磨だもん。頑張っても心配をかけたら本末転倒だ。
「いつも心配してくれて、ありがとう」
「……当たり前だろ」
拓磨は照れ臭そうに眼鏡を上げて、そっぽを向く。その当たり前に甘えないように。依存し切らないように。いつだって感謝するし、いつかは1人で立てるように。
「ありがとう」
繰り返し伝えたら、拓磨は大きく息を吸って。立ち上がったと思えば、私の頭をめちゃくちゃに撫でだした。
「わ、なに?」
「もぉーお前は……くそ」
「なに?なに?」
「なんでもねぇよ!」
なんでもないと言いつつ、拓磨は両手で私の頭と頬とを撫でくりまわした。自然と笑顔になる。誰かに触れてもらうのは心地がいい。
「へへへへ」
「……バーカ」
ようやく撫でるのをやめてくれた。拓磨の口角も上がっていたから、安心する。もう少しだけ、この場所にいてもいいかな。子供のように、戯れていていいかな。
「あ、プレゼント」
思い出したように、プレゼントの箱を鞄から取り出す。あと何回、こうやって渡せるかな。大人になるまでのカウントダウンは、恐ろしいね。
「お誕生日、おめでとう」
「……ありがとう」
願わくば、遠く離れてもずっと、お祝い出来たらいいな。私はすぐ忘れちゃうから、もうすぐ誕生日だよって声をかけて欲しいな。いつまでだって、強請って欲しいな。
「開けていいか?」
「いいよー」
拓磨はラッピングを丁寧に解いて、リボンも包装紙も綺麗に畳んで机に置く。長方形の箱は、拓磨の手にあるととても小さく見えた。
「ペン?」
「ちょっといいボールペン」
ボールペンなら、あっても困らないだろうと思って。シックなデザインのボールペンは、拓磨の手に馴染んで見えた。うん、やっぱり手元がカッコいいといいよね。
「替え芯とか、あるのか?」
「説明書ついてるよ」
拓磨は箱に入ってた説明書を、注意深く読んでいた。一通り読むと畳んで、箱に戻す。
「ありがとう、大切にする」
「うん」
これからの君の日々を、きちんと書き記せるように。よかったら末長く使ってね。お誕生日、本当におめでとう。
『今起きた。誕生日おめでとう』
メッセージを送れば、すぐに既読がつく。拓磨はとっくに起きていたんだろう。
『おはよう。具合悪くないか?』
自分の誕生日よりも、私の心配をしてくれる。それが申し訳なくて、どうしようもなく腹立たしかった。私は誕生日を祝っているのに。心配をしてくれるのはありがたいのだけど、心配をかける自分が不甲斐なかった。
『大丈夫だよ。どこか行く?』
すぐに返信がこないので、あくびを噛み殺しながらベッドを抜け出た。母さんがお昼どうする?と聞くので、また携帯を見る。
『いや、部屋でのんびりしよう』
そう返信がきていたので、母さんに適当に食べて出かけると伝える。昨日の残り物と、白米で食べることにする。
『せっかく誕生日なのに、どこか出かけなくていいの?』
『部屋でいい』
気を遣わせているのかなとも思ったが、部屋でいいとのことなのでさっさと昼食を食べて着替える。最低限、ズボンとシャツの柄が被らないようにして、部屋に上がるからちゃんとした靴下履いて。ゲーム機とノートだけ持って、家を出る。すぐ向かいの一軒家のインターホンを押す。スウェット姿の拓磨が出てくる。
「おまたせ」
「おう」
「誕生日おめでと」
「うん」
拓磨の背中を追って、お家に上がる。お邪魔しまーすと挨拶をすると、拓磨の母さんが顔を出した。
「あら〜莉子ちゃんいらっしゃい!元気?」
「元気です」
「よかった。なにか飲む?紅茶もジュースもあるよ」
「母さん、部屋に行くから」
拓磨がすごく不満そうに声を出す。反抗期だ、思春期だ。
「部屋に持ってってあげるから!あんたなにがいいの?」
「……莉子と同じのでいい」
「へぇ〜?」
拓磨は逃げるように部屋に入っていった。冷やかされるの、嫌いだもんね。…………君の隣は、私が陣取ってていいのかな。
「莉子ちゃん、なに飲む?」
「冷たいお茶があれば……」
「うんうん。せっかくだからアイスティー作ってあげる。待ってて!」
わざわざ作らなくていいのに。ありがたいけれど。みんな、私のために良くしてくれる。申し訳ない。広い家の左突き当たりにある、拓磨の部屋に入る。拓磨は窓際の勉強机の椅子に座っていた。
「……好きなとこ、座れよ」
「うん」
いつも通り、ベッドの縁に腰掛けた。ベッドは綺麗にメイキングされていて。部屋はどこを見ても片付いている。私とは正反対なくらい違う。
「どうした?」
「うーん……拓磨は、彼女とかいないの?」
「は?なに?」
「彼女いないのって」
拓磨は眉間に皺を寄せて固まっている。私が首を傾げると、大きく溜息を吐いた。私は恐くなって俯く。私のせいかな。私のせいで、彼女出来ないのかな。
「なんでそんなこと聞く」
「私のせいかなって」
「俺がそんなこと言ったか?」
「言わないけど」
拓磨はもう一度、溜息を吐いた。落ち着かなくて、手遊びをする。聞かなきゃよかった。緊張して、居心地が悪い。私も、深く息を吐いた。拓磨が私の機微に気付いて、隣に座る。背中を撫でられると、目頭が熱くなった。
「しんどくなるようなら、聞くなよそんなこと」
「ごめんなさい」
「なんも心配しなくていい。幼馴染だろ」
「うん……」
そう、幼馴染だから。君を縛りつけたくなかった。君に苦労をかけたくなかった。私と一緒にいることが、いつか負債になるのが嫌だった。幼馴染だからって、君が私の面倒を見る必要ないのに。
「…………俺は、」
「アイスティー、持ってきたわよ〜」
拓磨の母さんが部屋に入ってきた。顔を上げてそちらを見ると、私の顔が暗かったのか心配される。
「大丈夫?拓磨になんかされた?この子ほんっとうに不器用だからも〜」
「母さんは向こう行っててくれ!」
拓磨が母親を追い出そうとする。心配をかけたままが嫌だったから。誤解されたままが嫌だったから。
「あの!大丈夫です。拓磨のせいじゃありません。拓磨はいつも優しくて、助けてもらってます。ありがとうございます」
2人が動きを止める。拓磨の母さんは、私に微笑みかけた。
「そう、それならよかった。これからもうちの子のことよろしくね」
そう言って、そっと出て行った。拓磨は立ち尽くしたまんま。
「拓磨?」
名前を呼ぶと、手で待ってくれと制される。
「あのね、拓磨のせいじゃないよ。いつもありがとう」
「うん、分かった。分かったから」
「迷惑かけてごめんね」
「…………」
拓磨は天井を見上げて、眼鏡を上げたあと、窓際の椅子に座り直した。静寂が恐ろしいけど、なにも声が出なくて言葉を待った。
「……莉子のことを、迷惑だと思ったことなんて一度もねェ」
拓磨の顔を見た。一瞬、目が合うけれど逸らされる。拓磨の顔は真っ赤で。可愛らしいな、なんて思う。
「……莉子が許してくれるなら、ずっとこのまま幼馴染でいたいし、その。ずっと一緒にいたい」
「うん」
私だってずっと幼馴染でいたい。ずっと一緒にいられたらいいなと思う。でも、それには私がこのままじゃダメだと思うんだ。君に寄りかかってばかりいたら、君が潰れちゃう。ずっと一緒にいるために、いつかは卒業しなくては。
「ありがとう。頑張る」
「頑張る必要、ないんだが……」
「ちゃんと頑張るよ?」
「いや、うん。まぁ……無理はするなよ」
「しないよ」
私が無理して、困らせるのは拓磨だもん。頑張っても心配をかけたら本末転倒だ。
「いつも心配してくれて、ありがとう」
「……当たり前だろ」
拓磨は照れ臭そうに眼鏡を上げて、そっぽを向く。その当たり前に甘えないように。依存し切らないように。いつだって感謝するし、いつかは1人で立てるように。
「ありがとう」
繰り返し伝えたら、拓磨は大きく息を吸って。立ち上がったと思えば、私の頭をめちゃくちゃに撫でだした。
「わ、なに?」
「もぉーお前は……くそ」
「なに?なに?」
「なんでもねぇよ!」
なんでもないと言いつつ、拓磨は両手で私の頭と頬とを撫でくりまわした。自然と笑顔になる。誰かに触れてもらうのは心地がいい。
「へへへへ」
「……バーカ」
ようやく撫でるのをやめてくれた。拓磨の口角も上がっていたから、安心する。もう少しだけ、この場所にいてもいいかな。子供のように、戯れていていいかな。
「あ、プレゼント」
思い出したように、プレゼントの箱を鞄から取り出す。あと何回、こうやって渡せるかな。大人になるまでのカウントダウンは、恐ろしいね。
「お誕生日、おめでとう」
「……ありがとう」
願わくば、遠く離れてもずっと、お祝い出来たらいいな。私はすぐ忘れちゃうから、もうすぐ誕生日だよって声をかけて欲しいな。いつまでだって、強請って欲しいな。
「開けていいか?」
「いいよー」
拓磨はラッピングを丁寧に解いて、リボンも包装紙も綺麗に畳んで机に置く。長方形の箱は、拓磨の手にあるととても小さく見えた。
「ペン?」
「ちょっといいボールペン」
ボールペンなら、あっても困らないだろうと思って。シックなデザインのボールペンは、拓磨の手に馴染んで見えた。うん、やっぱり手元がカッコいいといいよね。
「替え芯とか、あるのか?」
「説明書ついてるよ」
拓磨は箱に入ってた説明書を、注意深く読んでいた。一通り読むと畳んで、箱に戻す。
「ありがとう、大切にする」
「うん」
これからの君の日々を、きちんと書き記せるように。よかったら末長く使ってね。お誕生日、本当におめでとう。