序章/プロトタイプ
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ガチャガチャ
広報のイベント終了後、撤収までの僅かな時間に、佐鳥と街中を歩いていた。佐鳥はイベントの時に緊張する方で、解放されるととてもテンションが高かった。
「あ、莉子さん!あそこガチャガチャある!」
佐鳥が私の手を引いて走り出すので、慌ててついていく。電気屋の入り口横がガチャコーナーになっていて、かなりの数が並んでいた。2人であれこれ言いながら眺めていると、1つのガチャ台に佐鳥が食いついた。
「これやりてー!」
「……ハンバーガー?」
食玩のガチャで、ハンバーガーやホットドッグ、ポテトなどがボールキーチェーンになっている。目を輝かせている佐鳥を見て、私はコインケースを取り出した。持ち歩いていてよかった。
「回すんですか?」
「うん」
ガラガラ、ゴトン。出てきたカプセルをそのまま佐鳥に渡す。佐鳥はきょとんとして、大袈裟に驚いて見せる。
「えっえっくれるんですか!?」
「それ以外ないでしょ」
「やったー!!ありがとうございます!!」
カプセルを開けると、小さなハンバーガーが出てきた。佐鳥はいっそう喜んで声を上げる。
「これ!!欲しかったやつ!!」
「よかったねぇ」
「やったー!!鞄につけよ!!」
飛び跳ねん勢いの佐鳥が眩しい。可愛くて思わず笑みが溢れる。私が唯一先輩面出来る子。ボーダーでは本当は同輩だけど。ご機嫌な佐鳥を連れて、帰りのワゴンに乗った。
目が覚めると
目が覚めると、枕元に誰か立っている。お馴染みの黒い隊服を辿って、顔を上げると唯我くんだった。寝ぼけた頭で、しばらくその顔をぼんやり見つめる。
「あ、あの、大丈夫ですか……」
「……うん」
私の体調が悪いのはいつものことで、みんな優しいけど心配などしないというのに。心底心配そうな声を出す唯我くんは、大袈裟だと思う。
「大丈夫……ちゃんと任務には出るから」
「無理しないでください」
「……ありがとう」
微笑み返せば、唯我くんは少しほっとしたようだった。心配されるのは、時に負担だ。大丈夫、と返すのが辛くて、消耗していくこともある。それでも、やっぱりほんのちょっとは心配してほしいなんて。私はわがままだろうか。今は具合が悪い。思考は沈み切っていて、欲張りな私に反吐が出た。
「僕に出来ること、ありますか」
唯我くんが自信なさげに呟く。正直、これは私の問題だから唯我くんに出来ることはなかった。唯我くんが私のために泣こうが笑おうが、私の気分はきっと晴れない。
「……もうちょっと寝かせて」
「すいません」
「謝らないで。ありがとう」
寝返りを打ち、唯我くんに背を向けた。1人にして欲しかったけど、背中から気配は消えなかった。気付けば意識を手放して、苦痛のない無意識の世界へ旅立っていた。
信頼出来る悪口
あまりにも上手くいきすぎていることが、不安になる日がある。あまりにも満たされている日々の、終わりが怖くて1人震える。みんな優しいから、受け入れてくれる。みんな優しいから、教えてはくれない。
(誰か私を否定して)
ぬるま湯のような優しさが怖い時には、決まって犬飼くんを探す。今日はランク戦のロビーにいた。私の姿を確認すると、犬飼くんはこれみよがしに顔を顰めた。
「うわ、出たよめんどくさいのが」
「やっほー犬飼くん、元気?」
「今急速に元気なくなってる」
犬飼くんはげんなりした目で私を見る。犬飼くんは私が嫌いだ。私にそのことがバレてからは、嫌いなことを隠さなくなった。犬飼くんが私を嫌ってくれるから、私はなにも遠慮することなく話すことが出来る。だって、嫌われているのだから。なにを言っても言われても、嫌われてる人からの言葉で傷つくことなんてない。だから、安心出来る。
「なんか用あるんでしょ?さっさと済ませて帰ってよ」
「私の悪口、言って」
「無自覚八方美人」
「うん、信頼出来る」
「せめて否定しろよ」
犬飼くんは嘘は言わないし、無理矢理な罵詈雑言も吐かない。彼の悪口は、信頼が出来るのだ。鈍くて馬鹿な私に対する、忌憚のない意見。
「本当さーそういうところが嫌い」
「知ってる」
笑顔で返せば、イライラを乗せた笑みを向けられる。でも、嫌いと分かっていれば傷つかない。
「犬飼くんももっと素直に生きればいいのに」
「あんたみたいな愛想の押し売りなんてしませーん」
「押し売ってるわけじゃ無いし」
ズサリ、と突き刺さる重い言葉が心地よい。しばらく、嫌がる犬飼くんと喧嘩腰で会話を続けた。
忘年会
ボーダーの忘年会にやってきたが、やはり私はこういう会が苦手だ。誰に話しかけたらいいのか、いつ話しかけたらいいのか、分からない。誰の話題についていくのが正解なのだろう。周りは盛り上がっているのに、1人取り残されるのが本当に嫌だ。知っている人ばかりの空間で、知らんぷりされるのが本当にダメだ。人気者を気取ったって、結局は誰かの一番特別ではないのだ。そう思えてしまって辛い。みんなが私を気遣って、むやみに話しかけないようにしてるのも分かっているけど。だって、一斉にたくさん話しかけられたら、混乱してしまう。
(疲れたな。まだ1時間か)
立食形式の会場、お茶を注いだコップを片手に、隅っこの椅子にぽつり座っていた。喧騒が耳障りに思えた。知っている顔はあっても、空気が読めないから話しかけられない。このお茶飲み終わったら帰ろうかな。
「こんな隅っこでどうしたの莉子ちゃん」
「!迅」
迅が私に歩み寄り、真ん前に立つ。迅は勝手に私とグラスを合わせ、乾杯した。お茶を飲む。側に誰かいるだけで少し安心出来た。
「やっぱりこういう場所、苦手」
「みたいだねぇ」
「誰に話しかけたらいいか、分かんない」
「誰に話しかけても大丈夫だよ」
迅がそう言うなら、本当なんだろう。でも、勇気なんて出てこなかった。俯いていると、迅の手が頭に触れる。泣いてしまいそうだ。
「そんな深刻に考えんなって。みんな待ってるよ」
「きつい。無理」
「そっかそっか。でも、これなら大丈夫でしょ?」
「?」
不思議に思い顔を上げると、蓮ちゃんがこちらに来るのが見えた。迅が横にずれて、私の前を空ける。蓮ちゃんも私のグラスに自分のを合わせて、乾杯をしてくれた。
「疲れちゃったの。莉子の隣にいていい?」
「うん、もちろん!」
蓮ちゃんは私の隣の席に座ると、あれこれ最近の話を始めた。蓮ちゃんと私だけだから、話に集中することが出来る。とても楽だった。そのうち、羽矢ちゃんもののちゃんも来て、私の周りを囲んだ。いつもの友達との会話に和んだ。
「!迅?」
思い出したように、迅の姿を探す。いつの間にか、どこか別のところへ行ってしまった。迅は忙しいからな。……忙しい中、私のために気を使ってくれたのかな。いつもお世話になってばかりだ。今度、なにか日頃のお礼をしよう。暗躍の手伝いとかは、性に合わないけど。
広報のイベント終了後、撤収までの僅かな時間に、佐鳥と街中を歩いていた。佐鳥はイベントの時に緊張する方で、解放されるととてもテンションが高かった。
「あ、莉子さん!あそこガチャガチャある!」
佐鳥が私の手を引いて走り出すので、慌ててついていく。電気屋の入り口横がガチャコーナーになっていて、かなりの数が並んでいた。2人であれこれ言いながら眺めていると、1つのガチャ台に佐鳥が食いついた。
「これやりてー!」
「……ハンバーガー?」
食玩のガチャで、ハンバーガーやホットドッグ、ポテトなどがボールキーチェーンになっている。目を輝かせている佐鳥を見て、私はコインケースを取り出した。持ち歩いていてよかった。
「回すんですか?」
「うん」
ガラガラ、ゴトン。出てきたカプセルをそのまま佐鳥に渡す。佐鳥はきょとんとして、大袈裟に驚いて見せる。
「えっえっくれるんですか!?」
「それ以外ないでしょ」
「やったー!!ありがとうございます!!」
カプセルを開けると、小さなハンバーガーが出てきた。佐鳥はいっそう喜んで声を上げる。
「これ!!欲しかったやつ!!」
「よかったねぇ」
「やったー!!鞄につけよ!!」
飛び跳ねん勢いの佐鳥が眩しい。可愛くて思わず笑みが溢れる。私が唯一先輩面出来る子。ボーダーでは本当は同輩だけど。ご機嫌な佐鳥を連れて、帰りのワゴンに乗った。
目が覚めると
目が覚めると、枕元に誰か立っている。お馴染みの黒い隊服を辿って、顔を上げると唯我くんだった。寝ぼけた頭で、しばらくその顔をぼんやり見つめる。
「あ、あの、大丈夫ですか……」
「……うん」
私の体調が悪いのはいつものことで、みんな優しいけど心配などしないというのに。心底心配そうな声を出す唯我くんは、大袈裟だと思う。
「大丈夫……ちゃんと任務には出るから」
「無理しないでください」
「……ありがとう」
微笑み返せば、唯我くんは少しほっとしたようだった。心配されるのは、時に負担だ。大丈夫、と返すのが辛くて、消耗していくこともある。それでも、やっぱりほんのちょっとは心配してほしいなんて。私はわがままだろうか。今は具合が悪い。思考は沈み切っていて、欲張りな私に反吐が出た。
「僕に出来ること、ありますか」
唯我くんが自信なさげに呟く。正直、これは私の問題だから唯我くんに出来ることはなかった。唯我くんが私のために泣こうが笑おうが、私の気分はきっと晴れない。
「……もうちょっと寝かせて」
「すいません」
「謝らないで。ありがとう」
寝返りを打ち、唯我くんに背を向けた。1人にして欲しかったけど、背中から気配は消えなかった。気付けば意識を手放して、苦痛のない無意識の世界へ旅立っていた。
信頼出来る悪口
あまりにも上手くいきすぎていることが、不安になる日がある。あまりにも満たされている日々の、終わりが怖くて1人震える。みんな優しいから、受け入れてくれる。みんな優しいから、教えてはくれない。
(誰か私を否定して)
ぬるま湯のような優しさが怖い時には、決まって犬飼くんを探す。今日はランク戦のロビーにいた。私の姿を確認すると、犬飼くんはこれみよがしに顔を顰めた。
「うわ、出たよめんどくさいのが」
「やっほー犬飼くん、元気?」
「今急速に元気なくなってる」
犬飼くんはげんなりした目で私を見る。犬飼くんは私が嫌いだ。私にそのことがバレてからは、嫌いなことを隠さなくなった。犬飼くんが私を嫌ってくれるから、私はなにも遠慮することなく話すことが出来る。だって、嫌われているのだから。なにを言っても言われても、嫌われてる人からの言葉で傷つくことなんてない。だから、安心出来る。
「なんか用あるんでしょ?さっさと済ませて帰ってよ」
「私の悪口、言って」
「無自覚八方美人」
「うん、信頼出来る」
「せめて否定しろよ」
犬飼くんは嘘は言わないし、無理矢理な罵詈雑言も吐かない。彼の悪口は、信頼が出来るのだ。鈍くて馬鹿な私に対する、忌憚のない意見。
「本当さーそういうところが嫌い」
「知ってる」
笑顔で返せば、イライラを乗せた笑みを向けられる。でも、嫌いと分かっていれば傷つかない。
「犬飼くんももっと素直に生きればいいのに」
「あんたみたいな愛想の押し売りなんてしませーん」
「押し売ってるわけじゃ無いし」
ズサリ、と突き刺さる重い言葉が心地よい。しばらく、嫌がる犬飼くんと喧嘩腰で会話を続けた。
忘年会
ボーダーの忘年会にやってきたが、やはり私はこういう会が苦手だ。誰に話しかけたらいいのか、いつ話しかけたらいいのか、分からない。誰の話題についていくのが正解なのだろう。周りは盛り上がっているのに、1人取り残されるのが本当に嫌だ。知っている人ばかりの空間で、知らんぷりされるのが本当にダメだ。人気者を気取ったって、結局は誰かの一番特別ではないのだ。そう思えてしまって辛い。みんなが私を気遣って、むやみに話しかけないようにしてるのも分かっているけど。だって、一斉にたくさん話しかけられたら、混乱してしまう。
(疲れたな。まだ1時間か)
立食形式の会場、お茶を注いだコップを片手に、隅っこの椅子にぽつり座っていた。喧騒が耳障りに思えた。知っている顔はあっても、空気が読めないから話しかけられない。このお茶飲み終わったら帰ろうかな。
「こんな隅っこでどうしたの莉子ちゃん」
「!迅」
迅が私に歩み寄り、真ん前に立つ。迅は勝手に私とグラスを合わせ、乾杯した。お茶を飲む。側に誰かいるだけで少し安心出来た。
「やっぱりこういう場所、苦手」
「みたいだねぇ」
「誰に話しかけたらいいか、分かんない」
「誰に話しかけても大丈夫だよ」
迅がそう言うなら、本当なんだろう。でも、勇気なんて出てこなかった。俯いていると、迅の手が頭に触れる。泣いてしまいそうだ。
「そんな深刻に考えんなって。みんな待ってるよ」
「きつい。無理」
「そっかそっか。でも、これなら大丈夫でしょ?」
「?」
不思議に思い顔を上げると、蓮ちゃんがこちらに来るのが見えた。迅が横にずれて、私の前を空ける。蓮ちゃんも私のグラスに自分のを合わせて、乾杯をしてくれた。
「疲れちゃったの。莉子の隣にいていい?」
「うん、もちろん!」
蓮ちゃんは私の隣の席に座ると、あれこれ最近の話を始めた。蓮ちゃんと私だけだから、話に集中することが出来る。とても楽だった。そのうち、羽矢ちゃんもののちゃんも来て、私の周りを囲んだ。いつもの友達との会話に和んだ。
「!迅?」
思い出したように、迅の姿を探す。いつの間にか、どこか別のところへ行ってしまった。迅は忙しいからな。……忙しい中、私のために気を使ってくれたのかな。いつもお世話になってばかりだ。今度、なにか日頃のお礼をしよう。暗躍の手伝いとかは、性に合わないけど。