本編
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「そんなことみんな分かってんだから、しゃしゃり出るなよ。いてもいなくても変わんないくせに」
ピシャリ、と真木の声が会議室に響いた。莉子が発言した直後のことだった。会議室はピリッと緊張感に包まれる。
「は?」
最初に声をあげて真木を睨んだのは、莉子の隣に座る出水だった。出水は常々から莉子が太刀川隊に居づらくなる空気が嫌いで、その空気を作る真木も嫌いだった。隊長の太刀川が手でやめろと制するので、それ以上のことは言わなかったが。止められなければ、喧嘩になっていただろう。
(みんな分かってること、共有するのは大事だと思うけどな)
嵐山は冷静に場を見ていた。真木のそれは八つ当たりに近いだろうとは思うが、莉子自身が向き合うべきものと思うから黙っている。莉子が自分に助けを求めることがあれば、それは勿論助けるが。自分から助けるほど、彼女に思い入れているわけではない。あとでフォローしてやろうと思っていた。
(いてもいなくても変わらないってことはないだろ)
片桐は、莉子のボーダーでの立ち位置を評価していた。戦闘員として脅威は感じないが、それ以外のところでボーダーに貢献してる部分は大きい。戦闘能力だけでこの人を評価するのはナンセンスだと思う。そして、莉子が高い評価を得る部分は、真木に足りない部分だろうと思う。
(努力は目に見えないものだ。結果が出ていないのだからそれは責められもするだろう)
風間は莉子が努力をしていないとは思わないが、実を結んでいないと強く感じていた。事実、莉子は防衛任務だって穴を開けずにこなせない。莉子が精神的に不安定で、それが障害として認められていることは分かっている。けれど、もっともっと努力を、それよりは結果を。残さなければ、認めてはもらえない。
「ご、ごめんなさい……」
莉子は顔面蒼白で、そのひと言きりなにも言えずに震えていた。頭は真っ白で、涙を堪えようと思えば思うほど、止まらずに流れてくるのだった。怒られることがあまりにも怖かった。内容よりも、拒絶された事実が恐ろしく思えて、呼吸は乱れた。黙っていよう。黙っていよう。繰り返し、彼女は自分の心を痛めつけた。
(辛いだろうが、これで太刀川隊をやめてはくれないだろうか)
二宮は莉子の泣き顔を目に入れたくなくて、視線を落とす。二宮は、莉子に太刀川隊をやめて欲しかった。自分の実力にそぐわない環境は、彼女を苦しめるだけと思うから。けれど、彼女が頑張ろうとするから傷つけると思って言えずにいた。自分でこの光景を生み出したくなかっただけ。自分の身勝手さを、二宮は自嘲した。
「莉子さんが謝ることじゃなくね?」
思わず米屋は口に出して、真木に睨まれる。よしときゃよかったかと思い返すが、口から出た言葉は帰ってこない。別に深い考えがあったわけでもない。けれど、仲良くしてくれる先輩がボロボロと泣くのを、黙って見てるほど薄情になれなかっただけ。
「謝るくらいなら、自分の身の程わきまえたら」
真木は冷たく言い放った。莉子の全てが気に入らなかった。実力不足で自分より上の太刀川隊にいるところも、女の身分で男をふらふら渡り歩き、心の拠り所にしているところも。本人が精神的に脆いことも。気に入らない。お姫様ごっこなら他所でやれ。
(真木ちゃん……)
三上は戸惑っていた。別に莉子に対して嫌な感情はない。友達の憎悪が理解出来なくて怖く感じる。これからどうしようと、自分の身の振り方を案じていた。
「その辺にしときなよ真木ちゃん」
犬飼が口を挟む。犬飼も莉子のことは嫌いだった。天然の人気者が嫌いなので。
「これ以上やると、真木ちゃんが莉子ちゃん僻んでるみたいだよ」
あくまでも真木の味方をする。結果として、莉子を助けることになったとしても。
「いてもいなくても変わらないなら、いた方がいいだろ」
さらに言葉を続けようとした真木を、太刀川が遮った。真木は太刀川を悔しそうに睨みつける。どこ吹く風で、太刀川は続ける。
「莉子がいるいらないなんてのは、隊長である俺が決める。莉子は俺が認めた、立派なA級隊員だ。A級1位のな」
全員分かりきっていたことだった。莉子を選んだのは太刀川だ。太刀川が選んで部隊に入れている以上、やめろと言ったところで本人の意思がなければ。真木は拳をテーブルに叩きつけたいのを抑え、握りしめた。
「で、なんだったっけ?」
すっとぼけたような声で、太刀川が会議の続きを促す。風間が議題を再度提示する。話が流れ出したら、太刀川が出水に耳打ちをする。出水は莉子に伝言した。
(外出てろって。隊長命令です)
出水の言葉に力なく頷くと、莉子は会議室を後にした。ふらふらと視点も定まらない状態で、ようやく太刀川隊隊室に辿り着く。泣くことも忘れて、ただ呼吸を整えようと必死で深呼吸をする。マットレスに横になり、心が凪ぐのをひたすらに待った。なにも考えられなくて、思考がぼやける。自分のなにが悪いのかすら、分からなくなっていた。
(なにも言えなかったなぁ)
会議終了後、佐鳥は浮かない顔で部屋を出た。嵐山隊の面々の、一番後ろを歩く。どうにかしてやりたい。けれど、歳下の自分が言えることなんて。どれもこれも、役立たずに感じられた。たくさんの人を助けたくて、ボーダーに入ったはずだ。ボーダーに踏み込んだあの日が、あの人と一緒だったこと。それが間違いなく自分を助けてきたのに。目を逸らすことしか、出来ないなんて。
(真木ちゃんは他人の生き方に口を出すのが、野暮なのよねぇ)
加古は他人事の様に思った。実際、他人事だ。真木には真木の生き方が、莉子には莉子の生き方がある。それが交わらないだけのこと。他人を否定して生きるより、自分を肯定して前に進んだ方が、素敵だし楽と思う。誰になにを言われようと、ブレないように自分を磨くこと。そのことだけに、専念すればいいのに。
(なんか言い返せよ、情けねぇ……)
佐伯はつまらないと訴えるように、足元を蹴った。面白くなかった。けれど、自分の中でそれが上手く言語化出来ない。従姉妹の姉が、悪く言われたのが面白くないのか。彼女が言い返せなかったのが、気に食わないのか。あまり整理する気もなかった。感情なんて、綺麗に整理出来るものばかりではない。ただ、腹が立って仕方ない。莉子にいつも、舐めた態度を取っていた。それは、認めてないことと同義ではない。今度会ったら、少し優しくしようかな。そう思うのも、気まぐれと笑った。
「太刀川くん、隊室に行ってもいい?」
月見はすぐに太刀川を捕まえて、切迫した声でそう言った。
「構わねぇよ」
返事を聞き、太刀川よりも先に隊室へ急ぐ。誰がなんと言おうと関係ない。親友が傷ついている。心を守ってあげなくちゃ。莉子がA級だとか相応しくないとか、どうだっていい。月見にとって莉子は、そんなことは関係ない大切な友達だった。どうだっていいじゃないか、莉子は莉子なんだから。自分を大事にしてほしい。どうか、貴方が凛と咲ける場所で咲いて。
ピシャリ、と真木の声が会議室に響いた。莉子が発言した直後のことだった。会議室はピリッと緊張感に包まれる。
「は?」
最初に声をあげて真木を睨んだのは、莉子の隣に座る出水だった。出水は常々から莉子が太刀川隊に居づらくなる空気が嫌いで、その空気を作る真木も嫌いだった。隊長の太刀川が手でやめろと制するので、それ以上のことは言わなかったが。止められなければ、喧嘩になっていただろう。
(みんな分かってること、共有するのは大事だと思うけどな)
嵐山は冷静に場を見ていた。真木のそれは八つ当たりに近いだろうとは思うが、莉子自身が向き合うべきものと思うから黙っている。莉子が自分に助けを求めることがあれば、それは勿論助けるが。自分から助けるほど、彼女に思い入れているわけではない。あとでフォローしてやろうと思っていた。
(いてもいなくても変わらないってことはないだろ)
片桐は、莉子のボーダーでの立ち位置を評価していた。戦闘員として脅威は感じないが、それ以外のところでボーダーに貢献してる部分は大きい。戦闘能力だけでこの人を評価するのはナンセンスだと思う。そして、莉子が高い評価を得る部分は、真木に足りない部分だろうと思う。
(努力は目に見えないものだ。結果が出ていないのだからそれは責められもするだろう)
風間は莉子が努力をしていないとは思わないが、実を結んでいないと強く感じていた。事実、莉子は防衛任務だって穴を開けずにこなせない。莉子が精神的に不安定で、それが障害として認められていることは分かっている。けれど、もっともっと努力を、それよりは結果を。残さなければ、認めてはもらえない。
「ご、ごめんなさい……」
莉子は顔面蒼白で、そのひと言きりなにも言えずに震えていた。頭は真っ白で、涙を堪えようと思えば思うほど、止まらずに流れてくるのだった。怒られることがあまりにも怖かった。内容よりも、拒絶された事実が恐ろしく思えて、呼吸は乱れた。黙っていよう。黙っていよう。繰り返し、彼女は自分の心を痛めつけた。
(辛いだろうが、これで太刀川隊をやめてはくれないだろうか)
二宮は莉子の泣き顔を目に入れたくなくて、視線を落とす。二宮は、莉子に太刀川隊をやめて欲しかった。自分の実力にそぐわない環境は、彼女を苦しめるだけと思うから。けれど、彼女が頑張ろうとするから傷つけると思って言えずにいた。自分でこの光景を生み出したくなかっただけ。自分の身勝手さを、二宮は自嘲した。
「莉子さんが謝ることじゃなくね?」
思わず米屋は口に出して、真木に睨まれる。よしときゃよかったかと思い返すが、口から出た言葉は帰ってこない。別に深い考えがあったわけでもない。けれど、仲良くしてくれる先輩がボロボロと泣くのを、黙って見てるほど薄情になれなかっただけ。
「謝るくらいなら、自分の身の程わきまえたら」
真木は冷たく言い放った。莉子の全てが気に入らなかった。実力不足で自分より上の太刀川隊にいるところも、女の身分で男をふらふら渡り歩き、心の拠り所にしているところも。本人が精神的に脆いことも。気に入らない。お姫様ごっこなら他所でやれ。
(真木ちゃん……)
三上は戸惑っていた。別に莉子に対して嫌な感情はない。友達の憎悪が理解出来なくて怖く感じる。これからどうしようと、自分の身の振り方を案じていた。
「その辺にしときなよ真木ちゃん」
犬飼が口を挟む。犬飼も莉子のことは嫌いだった。天然の人気者が嫌いなので。
「これ以上やると、真木ちゃんが莉子ちゃん僻んでるみたいだよ」
あくまでも真木の味方をする。結果として、莉子を助けることになったとしても。
「いてもいなくても変わらないなら、いた方がいいだろ」
さらに言葉を続けようとした真木を、太刀川が遮った。真木は太刀川を悔しそうに睨みつける。どこ吹く風で、太刀川は続ける。
「莉子がいるいらないなんてのは、隊長である俺が決める。莉子は俺が認めた、立派なA級隊員だ。A級1位のな」
全員分かりきっていたことだった。莉子を選んだのは太刀川だ。太刀川が選んで部隊に入れている以上、やめろと言ったところで本人の意思がなければ。真木は拳をテーブルに叩きつけたいのを抑え、握りしめた。
「で、なんだったっけ?」
すっとぼけたような声で、太刀川が会議の続きを促す。風間が議題を再度提示する。話が流れ出したら、太刀川が出水に耳打ちをする。出水は莉子に伝言した。
(外出てろって。隊長命令です)
出水の言葉に力なく頷くと、莉子は会議室を後にした。ふらふらと視点も定まらない状態で、ようやく太刀川隊隊室に辿り着く。泣くことも忘れて、ただ呼吸を整えようと必死で深呼吸をする。マットレスに横になり、心が凪ぐのをひたすらに待った。なにも考えられなくて、思考がぼやける。自分のなにが悪いのかすら、分からなくなっていた。
(なにも言えなかったなぁ)
会議終了後、佐鳥は浮かない顔で部屋を出た。嵐山隊の面々の、一番後ろを歩く。どうにかしてやりたい。けれど、歳下の自分が言えることなんて。どれもこれも、役立たずに感じられた。たくさんの人を助けたくて、ボーダーに入ったはずだ。ボーダーに踏み込んだあの日が、あの人と一緒だったこと。それが間違いなく自分を助けてきたのに。目を逸らすことしか、出来ないなんて。
(真木ちゃんは他人の生き方に口を出すのが、野暮なのよねぇ)
加古は他人事の様に思った。実際、他人事だ。真木には真木の生き方が、莉子には莉子の生き方がある。それが交わらないだけのこと。他人を否定して生きるより、自分を肯定して前に進んだ方が、素敵だし楽と思う。誰になにを言われようと、ブレないように自分を磨くこと。そのことだけに、専念すればいいのに。
(なんか言い返せよ、情けねぇ……)
佐伯はつまらないと訴えるように、足元を蹴った。面白くなかった。けれど、自分の中でそれが上手く言語化出来ない。従姉妹の姉が、悪く言われたのが面白くないのか。彼女が言い返せなかったのが、気に食わないのか。あまり整理する気もなかった。感情なんて、綺麗に整理出来るものばかりではない。ただ、腹が立って仕方ない。莉子にいつも、舐めた態度を取っていた。それは、認めてないことと同義ではない。今度会ったら、少し優しくしようかな。そう思うのも、気まぐれと笑った。
「太刀川くん、隊室に行ってもいい?」
月見はすぐに太刀川を捕まえて、切迫した声でそう言った。
「構わねぇよ」
返事を聞き、太刀川よりも先に隊室へ急ぐ。誰がなんと言おうと関係ない。親友が傷ついている。心を守ってあげなくちゃ。莉子がA級だとか相応しくないとか、どうだっていい。月見にとって莉子は、そんなことは関係ない大切な友達だった。どうだっていいじゃないか、莉子は莉子なんだから。自分を大事にしてほしい。どうか、貴方が凛と咲ける場所で咲いて。