弓場と迅の話
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「寒っ」
換装を解いたら、想像以上に冷え込んでいた。キンキンとした空気が耳や頬に触れて痛い。身を抱えて縮こまり、身震いをした。隊室に寄り、リュックを背負って帰り支度をする。
「お疲れ様でした」
「お疲れさん」
太刀川さんが手をひらひらと振る。一礼して、隊室を出る。今日はトリオン切れも起こさず、最後まで任務に参加出来た。よかった。自分のことを褒めて、充実した1日の終わりのはずなのに。ちょっとだけ、このあとが不安で。不安に思うことが、嫌で。歩みを止めようと思ったが、待たせたら悪いので逆に速度をあげた。
「お待たせ」
「おォ」
本部の出口前、当たり前のように拓磨が立っている。拓磨はちょっとだけ迷ってから、私の頭を撫でた。一瞬の戸惑いに、私の心は曇る。遠慮されたくない。大事にされたくない。
「お前、マフラー忘れたのか?」
拓磨は当然のように自分のマフラーを外して、私に巻こうとする。
「ん、いい、いらない」
「いいから」
私が手で押し返しても、振り払ってマフラーを巻く。マフラーには拓磨の体温が移っていて、より暖かかった。拓磨が満足そうに見下ろしてるのが分かって、俯く。
「……ありがとう」
「ん」
横に並んで歩き出す。言葉が出なくなった。昔はこんなことなかったのに。素直になんでも話せなくなった。君を傷つけるなら、話さないでいたい。白い息を長く吐いた時、鼻に冷たいものが触れて空を見上げる。
「……雪」
ちらちらと雪が舞い始めた。風がないから、ふわふわ舞いながら落ちる。思わず足を止めて見つめていると、ふっと視界が遮られる。拓磨は私と向かい合うと、優しく私に積もった雪を払った。
「傘持ってるか」
「忘れたかも」
「しょうがねェな」
拓磨はウエストポーチから折り畳み傘を差す。私に渡すか、傘に入れるか、目を泳がせて迷ったあと。
「入ってけ」
自分だけに渡されるよりはマシだし、別に嫌なわけないんだから素直に入る。脇腹にぴとっとくっつくようにしたら、拓磨が身体を強張らせたのが分かった。嫌だ。好きなんだけど、嫌なんだ。引っ張って歩き出す。ぎゅっと拓磨のコートを握る。
「どうした?」
「なんでもない」
拓磨の声が優しくてくすぐったい。余計に握り込んだ。
「なに、」
「なんでもないの!」
私が強めに言うと、そのあとは何も聞かなかった。困らせてるだろうか、不安にさせてるだろうか。そう悩むのが煩わしい。拓磨のことが好きかなんて、そんなの答えは決まっているんだ。だから嫌いなるのが怖いの。嫌いになりたくないの。君が恋の色を見せて必死になるのに、疲れたなんて言いたくないのに。私のことは放っておいて欲しい、自分のことより私を優先しないで。どう断っても君は聞いてくれないから、怒鳴りたくなくて諦めた。氷が胸につっかえたようで苦しい、君の隣はこんなにも暖かいのに。手放したいわけないのに。どうして、好きなはずなのにちょっと嫌いなんだろう。
莉子がなにかに怒っている。聞く勇気が出ない俺は情けない。でも、怒っている時になにか間違ったことを言うと、莉子は泣いてしまうから。泣かれてめちゃくちゃに叩かれるのは全然構わないけれど、莉子は泣かせちゃダメだから。何も言えない。傘を差しているから、莉子の顔は見えない。自分が濡れてもいいから、身体を傾けて覗こうとした。
「んん!」
「、ごめん」
莉子に睨まれて、身体を直す。莉子がこんなふうに言葉が出ない時は、苦しいんだろうってことは分かるのに。俺に言えないことなんだろうか。俺の心も曇る。なにか足りないんだろうか、こんなにも好きで仕方ないのに。
(雪、止まねェなァ)
こんな関係になってしまっても、未だに隣にいれるのが嬉しくて、言葉なんてなくても、帰り道がいつまでも続けばいいと思うのに。身を寄せ合っているのに、心の距離は随分離れたようだ。でも、絶対また引き寄せる。諦めるなんて、出来るわけがない。後にも先にも、恋は君しか知らなくていいんだから。
「……弓場、お前大丈夫か?」
「諏訪サン……」
ラウンジで抜け殻のような弓場を見つけてしまった。原因は大体予想がつくが。ベンチに座って項垂れているので、仕方なく横に座ってワケを聞くことにする。
「……莉子を、怒らせてしまったみたいで」
「おぉ」
まぁ、そこはだいたい。分かってっけど。
「なんかしたのか?」
「なんも分かんないっす……」
弓場は青ざめた顔で、額に手をやった。まぁ、心当たりがないってことも今まで何度もあったが。
「お前が原因なのか?」
「太刀川さんに聞いたら、任務中はいつも通りだったって」
煙草を吸おうとして、ここが禁煙だったと思い出して仕舞う。任務中はいつも通り、ね。
「とりあえず、昨日莉子になにしたか思い出せ」
「ウス……」
弓場は昨日の事を思い返してるのか、空気を少し柔らかくした。喧嘩してても、莉子のこと考える時笑うんだよなコイツ。その想いは、俺の想像をよく超えていく。
「昨日は、あの、相合傘して」
「おぉ」
めちゃくちゃ照れて言うんじゃねぇよ、こっちが恥ずかしい。
「そんで、あとは……」
思い出せないようで眉間に皺を寄せる。昨日は寒かったよな。
「寒いからなんかしてやったとか、あったか?」
「あ。マフラー巻いてやりました」
「自分のか?」
「?はい」
弓場は不思議そうな顔をしている。俺はため息を吐いた。莉子が考えそうなことが浮かんだ。
「多分、それだろ」
「な、なんでっすか」
「別にお前のマフラーが嫌とかそういうことじゃねぇよ多分」
「じゃあなんで」
「嫌なんだろ、お前が寒いのが」
「は?」
理解が出来ないようで、弓場は目を見開いて固まってしまった。
「自分のせいで、お前が寒い思いすんのが嫌なんだよ莉子は」
「は、あ」
俺の言葉を飲み込んで、弓場は耳まで赤く染めた。手で顔を覆って、大きく息を吐いた。幸せそうだな。そんなに莉子に気遣われたことが嬉しいか。
「そんなに莉子が好きか」
「はい……」
噛み殺すようだけど、はっきりとした意思表示をされる。まぁ多分、こいつらが上手くいってないのは弓場のこういうとこな気はするが。あまりにも全部捧げすぎというか、盲目すぎるというか。噛み合ってないんだよな、恋愛観がよ。
「ま、今度はマフラー2本持ち歩けばいいんじゃねぇか?」
「そうします……」
根本的な解決にはならねぇだろうなぁ。それが分かってて、上手く伝えない俺も薄情か。けど、踏み込む勇気が出ねぇんだよ。突いた結果、破局でもしたら嫌だし。先輩としてはこれくらいしか出来ねぇ。悪いな。
換装を解いたら、想像以上に冷え込んでいた。キンキンとした空気が耳や頬に触れて痛い。身を抱えて縮こまり、身震いをした。隊室に寄り、リュックを背負って帰り支度をする。
「お疲れ様でした」
「お疲れさん」
太刀川さんが手をひらひらと振る。一礼して、隊室を出る。今日はトリオン切れも起こさず、最後まで任務に参加出来た。よかった。自分のことを褒めて、充実した1日の終わりのはずなのに。ちょっとだけ、このあとが不安で。不安に思うことが、嫌で。歩みを止めようと思ったが、待たせたら悪いので逆に速度をあげた。
「お待たせ」
「おォ」
本部の出口前、当たり前のように拓磨が立っている。拓磨はちょっとだけ迷ってから、私の頭を撫でた。一瞬の戸惑いに、私の心は曇る。遠慮されたくない。大事にされたくない。
「お前、マフラー忘れたのか?」
拓磨は当然のように自分のマフラーを外して、私に巻こうとする。
「ん、いい、いらない」
「いいから」
私が手で押し返しても、振り払ってマフラーを巻く。マフラーには拓磨の体温が移っていて、より暖かかった。拓磨が満足そうに見下ろしてるのが分かって、俯く。
「……ありがとう」
「ん」
横に並んで歩き出す。言葉が出なくなった。昔はこんなことなかったのに。素直になんでも話せなくなった。君を傷つけるなら、話さないでいたい。白い息を長く吐いた時、鼻に冷たいものが触れて空を見上げる。
「……雪」
ちらちらと雪が舞い始めた。風がないから、ふわふわ舞いながら落ちる。思わず足を止めて見つめていると、ふっと視界が遮られる。拓磨は私と向かい合うと、優しく私に積もった雪を払った。
「傘持ってるか」
「忘れたかも」
「しょうがねェな」
拓磨はウエストポーチから折り畳み傘を差す。私に渡すか、傘に入れるか、目を泳がせて迷ったあと。
「入ってけ」
自分だけに渡されるよりはマシだし、別に嫌なわけないんだから素直に入る。脇腹にぴとっとくっつくようにしたら、拓磨が身体を強張らせたのが分かった。嫌だ。好きなんだけど、嫌なんだ。引っ張って歩き出す。ぎゅっと拓磨のコートを握る。
「どうした?」
「なんでもない」
拓磨の声が優しくてくすぐったい。余計に握り込んだ。
「なに、」
「なんでもないの!」
私が強めに言うと、そのあとは何も聞かなかった。困らせてるだろうか、不安にさせてるだろうか。そう悩むのが煩わしい。拓磨のことが好きかなんて、そんなの答えは決まっているんだ。だから嫌いなるのが怖いの。嫌いになりたくないの。君が恋の色を見せて必死になるのに、疲れたなんて言いたくないのに。私のことは放っておいて欲しい、自分のことより私を優先しないで。どう断っても君は聞いてくれないから、怒鳴りたくなくて諦めた。氷が胸につっかえたようで苦しい、君の隣はこんなにも暖かいのに。手放したいわけないのに。どうして、好きなはずなのにちょっと嫌いなんだろう。
莉子がなにかに怒っている。聞く勇気が出ない俺は情けない。でも、怒っている時になにか間違ったことを言うと、莉子は泣いてしまうから。泣かれてめちゃくちゃに叩かれるのは全然構わないけれど、莉子は泣かせちゃダメだから。何も言えない。傘を差しているから、莉子の顔は見えない。自分が濡れてもいいから、身体を傾けて覗こうとした。
「んん!」
「、ごめん」
莉子に睨まれて、身体を直す。莉子がこんなふうに言葉が出ない時は、苦しいんだろうってことは分かるのに。俺に言えないことなんだろうか。俺の心も曇る。なにか足りないんだろうか、こんなにも好きで仕方ないのに。
(雪、止まねェなァ)
こんな関係になってしまっても、未だに隣にいれるのが嬉しくて、言葉なんてなくても、帰り道がいつまでも続けばいいと思うのに。身を寄せ合っているのに、心の距離は随分離れたようだ。でも、絶対また引き寄せる。諦めるなんて、出来るわけがない。後にも先にも、恋は君しか知らなくていいんだから。
「……弓場、お前大丈夫か?」
「諏訪サン……」
ラウンジで抜け殻のような弓場を見つけてしまった。原因は大体予想がつくが。ベンチに座って項垂れているので、仕方なく横に座ってワケを聞くことにする。
「……莉子を、怒らせてしまったみたいで」
「おぉ」
まぁ、そこはだいたい。分かってっけど。
「なんかしたのか?」
「なんも分かんないっす……」
弓場は青ざめた顔で、額に手をやった。まぁ、心当たりがないってことも今まで何度もあったが。
「お前が原因なのか?」
「太刀川さんに聞いたら、任務中はいつも通りだったって」
煙草を吸おうとして、ここが禁煙だったと思い出して仕舞う。任務中はいつも通り、ね。
「とりあえず、昨日莉子になにしたか思い出せ」
「ウス……」
弓場は昨日の事を思い返してるのか、空気を少し柔らかくした。喧嘩してても、莉子のこと考える時笑うんだよなコイツ。その想いは、俺の想像をよく超えていく。
「昨日は、あの、相合傘して」
「おぉ」
めちゃくちゃ照れて言うんじゃねぇよ、こっちが恥ずかしい。
「そんで、あとは……」
思い出せないようで眉間に皺を寄せる。昨日は寒かったよな。
「寒いからなんかしてやったとか、あったか?」
「あ。マフラー巻いてやりました」
「自分のか?」
「?はい」
弓場は不思議そうな顔をしている。俺はため息を吐いた。莉子が考えそうなことが浮かんだ。
「多分、それだろ」
「な、なんでっすか」
「別にお前のマフラーが嫌とかそういうことじゃねぇよ多分」
「じゃあなんで」
「嫌なんだろ、お前が寒いのが」
「は?」
理解が出来ないようで、弓場は目を見開いて固まってしまった。
「自分のせいで、お前が寒い思いすんのが嫌なんだよ莉子は」
「は、あ」
俺の言葉を飲み込んで、弓場は耳まで赤く染めた。手で顔を覆って、大きく息を吐いた。幸せそうだな。そんなに莉子に気遣われたことが嬉しいか。
「そんなに莉子が好きか」
「はい……」
噛み殺すようだけど、はっきりとした意思表示をされる。まぁ多分、こいつらが上手くいってないのは弓場のこういうとこな気はするが。あまりにも全部捧げすぎというか、盲目すぎるというか。噛み合ってないんだよな、恋愛観がよ。
「ま、今度はマフラー2本持ち歩けばいいんじゃねぇか?」
「そうします……」
根本的な解決にはならねぇだろうなぁ。それが分かってて、上手く伝えない俺も薄情か。けど、踏み込む勇気が出ねぇんだよ。突いた結果、破局でもしたら嫌だし。先輩としてはこれくらいしか出来ねぇ。悪いな。