序章/プロトタイプ
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目覚ましの音で目を覚ます。枕元にプレゼントがあるなんて魔法にはもうかからないけれど、今日はクリスマスだ。いつも通りの朝だけど、ちょっと特別な気分で起き上がる。今年で19歳になった私には、10代最後の、子供で迎える最後のクリスマス。実感なんて湧かないけど。軽く朝食を摂る。食パンのトーストと、母が仕事に行く前に用意してくれたソーセージとプチトマト。いつも通りだけど、私は今が1番幸せと思う。少しゆっくりしたら着替えて、お気に入りのヘッドフォンで音楽を聴きながら、ボーダー本部に向かう。運が悪いのか、今年のクリスマスは午後から防衛任務だった。断る理由もないので受けたが。冷え込んできた街中、肩をすぼめて歩く。食堂で早めのお昼を食べて、隊室に向かうつもりだ。
「あ、莉子ちゃん。偶然だねぇ」
「迅」
迅に限って偶然なんてことはないだろうけど、そこはいつだって騙されてあげる。迅と食堂で食券を買って、おばちゃんに渡す。お揃いのから揚げ定食。適当な席に迅と向かい合って座る。
「クリスマスだね」
「そうだね。メリークリスマス」
「はしゃぐ歳でもないけどね」
迅は案外冷めた態度で、味噌汁をすする。迅にとっては、クリスマスは辛いことだったりするだろうか。それとも、近々侵攻があるって聞いたから、それどころじゃない気分なのか。いろいろ心配が巡るけど、あれこれ聞き出すのはよくないと思うから。
「そうかもね」
「クリスマスだからって、みんな浮き足立ってるよな〜甘ったるくて参っちゃう」
「どこもかしこもイルミネーションだし、カップルだらけだよね」
「そうそう。なんでもない、普通の日と変わんないのにね」
それはそうだ。今日はなんの変哲もない日。昨日と地続きの今日、明日の前の日。クリスマスなんて。けれど、迅の言うことも分かるけど、ちょっと寂しい気がした。
「と、いうわけで。はい、プレゼント」
「というわけで……?」
今までの冷たい態度が嘘のように、迅は柔らかな笑顔と共にプレゼントを差し出した。小さな小包は、リボンで綺麗にラッピングされていた。
「メリークリスマス。莉子ちゃんの今日が、もっと幸せになりますように、ね」
おずおずとプレゼントを受け取る。迅の顔を見れば、ほんのり頬を染めていた。今までの前置きは、照れ隠しだったのだろう。可愛らしくて、思わず笑みが溢れる。
「ありがとう、でも……」
お返しなんて、準備が出来ていない。今年も迅がプレゼントくれるなんて、思ってなかったから。なにも用意してない。それが申し訳なくて、一気に心が冷える。自分だけ貰うのは、気が引ける。
「お返しなんて考えなくていいよ」
「え、それは困る」
「俺の気持ちだから貰ってよ」
「え、えー……なにか返させてよ」
「んーじゃあ、年始に一緒に初詣行こうよ」
「そんなことでいいの?」
心配な声でそう問うと、迅は私を安心させるように頬に触れて、頭を撫でた。
「それがいいんだよ。いいでしょ?」
「……うん、分かった」
止めてしまった箸を動かして、残りの食事を摂る。本当にそんなことでいいのかな。素直にはしゃいで、喜んでいいのかな。もう子供じゃないから、そんな些細なことで悩んでしまうよ。もっと嬉しそうな顔、出来たらよかったのに。
「ご馳走様でした」
手を合わせて、箸を置いた。食器を下げて、席に忘れ物がないか確認する。迅に貰ったプレゼントを、大事に鞄に仕舞う。
「今日、会えてよかったよ。この時間しか空いてないみたいだったから」
迅がそう言って、また私の頭を撫でる。その言い方だと、わざわざこのためだけに会いに来たの?
「う、ん。ありがとう。嬉しかった」
顔は見れなかった。なんだか恥ずかしくて。それでも迅は満足したのか、撫でるのをやめて離れていく。
「今日一日、今みたいな場面があと何回かあるけど、莉子ちゃんは笑ってればいいと思うよ」
去り際、迅がそんなことを言う。そんなの、難しいよ。でも、迅がわざわざアドバイスしてくれたことだから。
「うん、分かった」
手を振って、別れた。これから防衛任務だ。気持ちを切り替えて、隊室に向かわねば。
防衛任務は、問題なく終わった。日がとっくに暮れていて、街中はイルミネーションで彩られている。「帰りに迎えにいくから連絡をくれ」と、拓磨に言われていたので約束通り連絡をする。10分もしないうちに、拓磨が迎えに来てくれる。
「寒くねぇか?」
「大丈夫だよ」
マフラーも手袋もしてるのに、拓磨はそんなことを聞く。吐く息はお互い真っ白。風がわりと強く、骨身に染みる。寒いっちゃ寒いけど、これ以上どうしろと言うのだ。
「あ、そうだ。プレゼント」
16歳の頃から、幼馴染には欠かさずプレゼントを渡している。そんな大したものではないけど。ラッピングした小包を差し出す。
「メリークリスマス!」
「……おう」
拓磨は私からのプレゼントを鞄に仕舞って、別の小包を鞄から出して、大きく息を吐いた。そうして、小包を私に手渡した。
「深い意味はねぇ」
「?うん」
「ただ、似合うと思ったから買った。いらなかったら捨ててくれ」
「捨てはしないけど……なにくれたの?」
拓磨は目を逸らす。耳まで真っ赤だ。小包を確認しようとすると、手首を握られて止められた。
「帰ってから、頼むから帰ってから開けてくれ」
「え、えー……?」
あまりに必死な顔で君が言うから、仕方なくそのまま鞄に仕舞う。大事なプレゼントがたくさん詰まった鞄を、大切に背負う。
「じゃあ、せっかくだから遠回りして帰る?」
拓磨が頷くので、駅を通って遠回りに帰る。駅周りはいつもより人が多くて、煌びやかで、愉快なクリスマスソングが流れていた。人混みが嫌で、半歩ほど拓磨に身を寄せる。
「なぁ、その、なんだ」
拓磨が恥ずかしそうに話しかけてくる。大体なにが言いたいかは予想がつくけど。
「なぁに」
「恥ずかしいから、手ェ繋いでくれねぇか」
周りがカップルだらけで、ってことだよね。去年も同じ理由で繋いだから、分かってるよ。
「いいよ」
右手で拓磨の左手を取る。拓磨は恐る恐る、大事そうに私の手を握って、そのまま上着のポケットに入れた。そうして、恋人のフリをして歩く。私達は、あくまでも幼馴染だ。……拓磨の気持ちにも、自分の気持ちにも、気付かないほど鈍感じゃないけど。幼馴染の方が、上手くいく気がして。恋人になったら、なにかが崩れてなくなる気がして。お互いに踏み込めずにいる。
「雪降りそうだね」
「そうだな」
寒空の下、特にあてもなくぶらぶら歩く。繋いだ手は暖かかった。来年は、なにしてるだろう。20代になったらなにか変わってしまうだろうか。出来ることなら、なにも変わって欲しくない。このままじゃダメなのかな。祈りを込めるように、拓磨の手を強く握った。
「あ、莉子ちゃん。偶然だねぇ」
「迅」
迅に限って偶然なんてことはないだろうけど、そこはいつだって騙されてあげる。迅と食堂で食券を買って、おばちゃんに渡す。お揃いのから揚げ定食。適当な席に迅と向かい合って座る。
「クリスマスだね」
「そうだね。メリークリスマス」
「はしゃぐ歳でもないけどね」
迅は案外冷めた態度で、味噌汁をすする。迅にとっては、クリスマスは辛いことだったりするだろうか。それとも、近々侵攻があるって聞いたから、それどころじゃない気分なのか。いろいろ心配が巡るけど、あれこれ聞き出すのはよくないと思うから。
「そうかもね」
「クリスマスだからって、みんな浮き足立ってるよな〜甘ったるくて参っちゃう」
「どこもかしこもイルミネーションだし、カップルだらけだよね」
「そうそう。なんでもない、普通の日と変わんないのにね」
それはそうだ。今日はなんの変哲もない日。昨日と地続きの今日、明日の前の日。クリスマスなんて。けれど、迅の言うことも分かるけど、ちょっと寂しい気がした。
「と、いうわけで。はい、プレゼント」
「というわけで……?」
今までの冷たい態度が嘘のように、迅は柔らかな笑顔と共にプレゼントを差し出した。小さな小包は、リボンで綺麗にラッピングされていた。
「メリークリスマス。莉子ちゃんの今日が、もっと幸せになりますように、ね」
おずおずとプレゼントを受け取る。迅の顔を見れば、ほんのり頬を染めていた。今までの前置きは、照れ隠しだったのだろう。可愛らしくて、思わず笑みが溢れる。
「ありがとう、でも……」
お返しなんて、準備が出来ていない。今年も迅がプレゼントくれるなんて、思ってなかったから。なにも用意してない。それが申し訳なくて、一気に心が冷える。自分だけ貰うのは、気が引ける。
「お返しなんて考えなくていいよ」
「え、それは困る」
「俺の気持ちだから貰ってよ」
「え、えー……なにか返させてよ」
「んーじゃあ、年始に一緒に初詣行こうよ」
「そんなことでいいの?」
心配な声でそう問うと、迅は私を安心させるように頬に触れて、頭を撫でた。
「それがいいんだよ。いいでしょ?」
「……うん、分かった」
止めてしまった箸を動かして、残りの食事を摂る。本当にそんなことでいいのかな。素直にはしゃいで、喜んでいいのかな。もう子供じゃないから、そんな些細なことで悩んでしまうよ。もっと嬉しそうな顔、出来たらよかったのに。
「ご馳走様でした」
手を合わせて、箸を置いた。食器を下げて、席に忘れ物がないか確認する。迅に貰ったプレゼントを、大事に鞄に仕舞う。
「今日、会えてよかったよ。この時間しか空いてないみたいだったから」
迅がそう言って、また私の頭を撫でる。その言い方だと、わざわざこのためだけに会いに来たの?
「う、ん。ありがとう。嬉しかった」
顔は見れなかった。なんだか恥ずかしくて。それでも迅は満足したのか、撫でるのをやめて離れていく。
「今日一日、今みたいな場面があと何回かあるけど、莉子ちゃんは笑ってればいいと思うよ」
去り際、迅がそんなことを言う。そんなの、難しいよ。でも、迅がわざわざアドバイスしてくれたことだから。
「うん、分かった」
手を振って、別れた。これから防衛任務だ。気持ちを切り替えて、隊室に向かわねば。
防衛任務は、問題なく終わった。日がとっくに暮れていて、街中はイルミネーションで彩られている。「帰りに迎えにいくから連絡をくれ」と、拓磨に言われていたので約束通り連絡をする。10分もしないうちに、拓磨が迎えに来てくれる。
「寒くねぇか?」
「大丈夫だよ」
マフラーも手袋もしてるのに、拓磨はそんなことを聞く。吐く息はお互い真っ白。風がわりと強く、骨身に染みる。寒いっちゃ寒いけど、これ以上どうしろと言うのだ。
「あ、そうだ。プレゼント」
16歳の頃から、幼馴染には欠かさずプレゼントを渡している。そんな大したものではないけど。ラッピングした小包を差し出す。
「メリークリスマス!」
「……おう」
拓磨は私からのプレゼントを鞄に仕舞って、別の小包を鞄から出して、大きく息を吐いた。そうして、小包を私に手渡した。
「深い意味はねぇ」
「?うん」
「ただ、似合うと思ったから買った。いらなかったら捨ててくれ」
「捨てはしないけど……なにくれたの?」
拓磨は目を逸らす。耳まで真っ赤だ。小包を確認しようとすると、手首を握られて止められた。
「帰ってから、頼むから帰ってから開けてくれ」
「え、えー……?」
あまりに必死な顔で君が言うから、仕方なくそのまま鞄に仕舞う。大事なプレゼントがたくさん詰まった鞄を、大切に背負う。
「じゃあ、せっかくだから遠回りして帰る?」
拓磨が頷くので、駅を通って遠回りに帰る。駅周りはいつもより人が多くて、煌びやかで、愉快なクリスマスソングが流れていた。人混みが嫌で、半歩ほど拓磨に身を寄せる。
「なぁ、その、なんだ」
拓磨が恥ずかしそうに話しかけてくる。大体なにが言いたいかは予想がつくけど。
「なぁに」
「恥ずかしいから、手ェ繋いでくれねぇか」
周りがカップルだらけで、ってことだよね。去年も同じ理由で繋いだから、分かってるよ。
「いいよ」
右手で拓磨の左手を取る。拓磨は恐る恐る、大事そうに私の手を握って、そのまま上着のポケットに入れた。そうして、恋人のフリをして歩く。私達は、あくまでも幼馴染だ。……拓磨の気持ちにも、自分の気持ちにも、気付かないほど鈍感じゃないけど。幼馴染の方が、上手くいく気がして。恋人になったら、なにかが崩れてなくなる気がして。お互いに踏み込めずにいる。
「雪降りそうだね」
「そうだな」
寒空の下、特にあてもなくぶらぶら歩く。繋いだ手は暖かかった。来年は、なにしてるだろう。20代になったらなにか変わってしまうだろうか。出来ることなら、なにも変わって欲しくない。このままじゃダメなのかな。祈りを込めるように、拓磨の手を強く握った。