弓場と迅の話
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16時過ぎ、大学の講義が終わったので莉子に連絡をする。今日は確か任務だと言っていた。迎えに行くために本部を目指す。自分の生活に莉子が根付いていることを、不自由だと感じたことはない。当たり前のように、日々繰り返す。毎日会っていても、足りないくらいで。
『任務終わった〜眠いから仮眠室いる』
ちょっと疲れているのだろうか。甘いものでも買っていこうか。コンビニに寄って、莉子が好みそうな焼き菓子を買う。自分用の缶コーヒーと一緒に。17時前に、本部に到着する。真っ直ぐ太刀川隊隊室の横、莉子専用の仮眠室に向かう。ノックをすれば、そろりと莉子が顔を出す。口の端に、何かついている。反射的に、手を出して拭っていた。
「ぬ、む」
「なんかついてた」
「うん、今お菓子食べてた」
莉子が部屋に引っ込むので、つられて入る。ベッドと机しかない部屋は、手狭だ。机の上に、封を切られた焼き菓子のゴミがある。
「拓磨も食べる?」
「……どうしたんだ、それ」
「太刀川さんが売店で買ってくれた〜」
ひとつ、差し出されるので受け取る。俺のは、空回りになってしまった。鞄の中で泣いてることだろう。ま、弟妹にやってしまえばいいことなんだけど。少し悔しい。俺の全てが莉子ではないように、莉子の全ても俺ではない。そんな真理は、分かっているはずなんだけれど。莉子は美味しそうにバウムクーヘンを頬張る。それを見ているだけで心は穏やかになる。
「今日、わりと暇だった」
「そうか」
「なんか働いた気がしない……」
「……じゃあ、これからどっか行くか?」
莉子が自分の疲れに疎いことはよく知っているんだから、本当は休ませてやらなきゃいけないのだが。自分の欲に負けて、そんな提案をする。莉子が顔を輝かせる。鼓動が早くて苦しい。
「ほんと?どこ行く?」
「どこでもいいぞ」
「えーどうしようかな」
莉子はわがままを言わないけれど、本当にどこへだってよかった。意味もない逃避行でも、果てのない夜遊びでも。なんだって付き合うつもりでいるけど、本音を言えば終わりのないことに誘って欲しいけど、莉子はそんなことは言わないだろう。
「じゃあね、ののちゃんの誕生日プレゼント探したいから、駅に行く」
「藤丸のか」
「うん、ののちゃんもうすぐ誕生日だよ」
なにか買ってやれ、って言わんばかりの瞳。いや、俺は別にいいんだけど。……お前は、構わないのか。どこかで妬きもちを焼いてほしい自分は、言葉に詰まってしまう。莉子は最後の一欠片を口に放り込んだ。なにも気にしてないようで、伸びをして立ち上がる。
「じゃあ、暗くなる前に行こっか!」
「おう」
仮眠室を出る。スタスタと歩く莉子を慌てて追いかける。莉子はちっこいのに、歩くのが早い。機嫌良さそうにひょこひょこと歩いている。それを見て俺の心も弾む。馬鹿みたいだ、とは思うけれど、莉子の隣はそれだけ幸せなのだ。
買うものの目星は付いていたようで、買い物はあっという間に終わってしまった。莉子は買い物で迷わない。欲しいものは見つけたらすぐ買う。見てて小気味よく、買い物に付き合って疲れることはない。とにかくよく歩く奴なので、歩き疲れることはあるが。
「よーし、決まった決まった。これからどうする?」
莉子が振り向いて俺を見上げる。莉子は帰るって言わない。帰ると不安になったり、悲しくなるんだそうだ。
「じゃあ、いつもの公園で休もう」
弱さにつけ込んで、ちょっとだけ2人の時間を延長する。どれだけ延長しても、無意味なことは分かってる。いずれはバイバイしなくちゃいけない、また明日会えるとしても。離れるのが寂しいのは、俺も一緒で。でも寂しさの中身は、きっと莉子と違くて。そんなちょっとした差異が、ひとつふたつ重なって、2人の間に横たわっている。飛び越えて、攫ってしまえたらどんなにいいだろう。
「寒くなってきたから、ちょっとだけね」
莉子は俺を拒否しない。意味のない延長も、笑って付き合ってくれる。こんな帰り道を何度繰り返したって、莉子は俺の恋人にはならないのに。錯覚に酔いしれたくて、何度も何度も迎えに行く。
「今日、月が綺麗だねぇ」
ずっと綺麗だよ、月は。心の中で返事をして、暗くなり出した空を見上げる。お前と同じ星座だから、ねこ座だけは分かる。何年も先も、お前と同じ夜空を見上げるには、どうしたらいいだろう。
『任務終わった〜眠いから仮眠室いる』
ちょっと疲れているのだろうか。甘いものでも買っていこうか。コンビニに寄って、莉子が好みそうな焼き菓子を買う。自分用の缶コーヒーと一緒に。17時前に、本部に到着する。真っ直ぐ太刀川隊隊室の横、莉子専用の仮眠室に向かう。ノックをすれば、そろりと莉子が顔を出す。口の端に、何かついている。反射的に、手を出して拭っていた。
「ぬ、む」
「なんかついてた」
「うん、今お菓子食べてた」
莉子が部屋に引っ込むので、つられて入る。ベッドと机しかない部屋は、手狭だ。机の上に、封を切られた焼き菓子のゴミがある。
「拓磨も食べる?」
「……どうしたんだ、それ」
「太刀川さんが売店で買ってくれた〜」
ひとつ、差し出されるので受け取る。俺のは、空回りになってしまった。鞄の中で泣いてることだろう。ま、弟妹にやってしまえばいいことなんだけど。少し悔しい。俺の全てが莉子ではないように、莉子の全ても俺ではない。そんな真理は、分かっているはずなんだけれど。莉子は美味しそうにバウムクーヘンを頬張る。それを見ているだけで心は穏やかになる。
「今日、わりと暇だった」
「そうか」
「なんか働いた気がしない……」
「……じゃあ、これからどっか行くか?」
莉子が自分の疲れに疎いことはよく知っているんだから、本当は休ませてやらなきゃいけないのだが。自分の欲に負けて、そんな提案をする。莉子が顔を輝かせる。鼓動が早くて苦しい。
「ほんと?どこ行く?」
「どこでもいいぞ」
「えーどうしようかな」
莉子はわがままを言わないけれど、本当にどこへだってよかった。意味もない逃避行でも、果てのない夜遊びでも。なんだって付き合うつもりでいるけど、本音を言えば終わりのないことに誘って欲しいけど、莉子はそんなことは言わないだろう。
「じゃあね、ののちゃんの誕生日プレゼント探したいから、駅に行く」
「藤丸のか」
「うん、ののちゃんもうすぐ誕生日だよ」
なにか買ってやれ、って言わんばかりの瞳。いや、俺は別にいいんだけど。……お前は、構わないのか。どこかで妬きもちを焼いてほしい自分は、言葉に詰まってしまう。莉子は最後の一欠片を口に放り込んだ。なにも気にしてないようで、伸びをして立ち上がる。
「じゃあ、暗くなる前に行こっか!」
「おう」
仮眠室を出る。スタスタと歩く莉子を慌てて追いかける。莉子はちっこいのに、歩くのが早い。機嫌良さそうにひょこひょこと歩いている。それを見て俺の心も弾む。馬鹿みたいだ、とは思うけれど、莉子の隣はそれだけ幸せなのだ。
買うものの目星は付いていたようで、買い物はあっという間に終わってしまった。莉子は買い物で迷わない。欲しいものは見つけたらすぐ買う。見てて小気味よく、買い物に付き合って疲れることはない。とにかくよく歩く奴なので、歩き疲れることはあるが。
「よーし、決まった決まった。これからどうする?」
莉子が振り向いて俺を見上げる。莉子は帰るって言わない。帰ると不安になったり、悲しくなるんだそうだ。
「じゃあ、いつもの公園で休もう」
弱さにつけ込んで、ちょっとだけ2人の時間を延長する。どれだけ延長しても、無意味なことは分かってる。いずれはバイバイしなくちゃいけない、また明日会えるとしても。離れるのが寂しいのは、俺も一緒で。でも寂しさの中身は、きっと莉子と違くて。そんなちょっとした差異が、ひとつふたつ重なって、2人の間に横たわっている。飛び越えて、攫ってしまえたらどんなにいいだろう。
「寒くなってきたから、ちょっとだけね」
莉子は俺を拒否しない。意味のない延長も、笑って付き合ってくれる。こんな帰り道を何度繰り返したって、莉子は俺の恋人にはならないのに。錯覚に酔いしれたくて、何度も何度も迎えに行く。
「今日、月が綺麗だねぇ」
ずっと綺麗だよ、月は。心の中で返事をして、暗くなり出した空を見上げる。お前と同じ星座だから、ねこ座だけは分かる。何年も先も、お前と同じ夜空を見上げるには、どうしたらいいだろう。