弓場と迅の話
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お日様
ここ最近では、暑い日だった。陽射しが暖かい日は好きだった。幸福な日常が、いつまでも続くと錯覚するから。
「着込みすぎちゃった」
そう言って上着を脱ぐ君は無防備で、ちらっとお腹の肌を晒していた。柔らかそう。流石に容易に触ることは出来ないけど、触ってみたいなぁ。
「お腹、出てるよ」
「おぅ!」
茶目っけのある声を出して、君は笑いながら腹を隠す。恥じらわず、いつだって堂々としていて、柔らかく笑う。太陽みたいな子だと思う。時々、雲に隠れるとこも含めて。
「今日はどこへ行く?」
「んー迅の行きたいとこ」
「今日はそんなとこないよ」
今の時間は。莉子ちゃんと歩くのは日中が多い。夜は、あいつの時間だし。たまには夜に顔が見たいけど、太陽は夜には昇らない。でも、願えば照らしてくれるだろうか。
「じゃあ、適当にぶらぶらして疲れたらお茶!」
莉子ちゃんといつもの、なにも決まってない散歩道。君の隣は暖かい。独りに怯えて、凍えなくて済む。君が瞳に映って、耳に声が届けば、それはきっと幸福と呼べる。そう信じたい。誰かが決めたそれと、違う形だとしても。
(あっという間に未来に追いつくんだな)
先に視ていた景色と、実際の景色が重なっていく。今日もあっという間だった。斜陽が街を染め上げる。今日は一段と鮮やかで綺麗だ。
「あ、ひと口ちょうだい」
莉子ちゃんがペットボトルのお茶を飲む。躊躇いもなくねだる。莉子ちゃんは気前よくペットボトルを差し出した。
「残り少ないから、あげる。その代わりゴミ持ってって」
「ん、分かった」
貰ったお茶を飲み干す。烏龍茶のキレが、心地よかった。莉子ちゃんは駅の方へ歩く。弓場ちゃんと待ち合わせるらしい。玉狛と駅前への別れ道に差し掛かる。
「じゃ、ここでばいばいかな」
莉子ちゃんがそう呟く。寂しさを含んでいなくて安心する。莉子ちゃんの心が、落ち着いている証拠だから。莉子ちゃんにはいつも笑っていて欲しい。心を乱すことが減るように、俺なりに努力する。
「じゃ、またね!」
莉子ちゃんが斜陽を背にして、太陽と重なって見える。手は伸ばさない。あっさりと手を振る。太陽を手に入れたいなんて思わない。焼け焦げちゃうもん。
「またね」
ただ、俺が凍えないように、照らして温めてくれればそれでいいんだ。日が昇って沈むように、繰り返し、繰り返し。
水をくれ
ここ最近、莉子が迅といる時間が増えている。俺が一緒にいられない時間だから、仕方ないと言えば仕方ないけど。けれど、ずるいと妬む気持ちが掻き消せない。足早に駅に向かう。斜陽に照らされて莉子が帰ってくる。
「ただいま」
「……おう」
そのひと言で、どうしようもなく満たされる自分が馬鹿馬鹿しくて。満たされた先から、どんどん干上がっていくような心が末恐ろしくて。莉子は水のような奴だ。どんなに欲しくても、指をすり抜けていく。喉が渇く、無性に。持ってきたペットボトルの水を飲んだ。
「あ、ひと口ちょうだい」
「…………」
黙って差し出す。動揺を隠して。胸が締め付けられて、吐いてしまいそう。眩暈がして、直視しないように遠くを見つめる。やがて、ペットボトルが手元に返ってくる。掴む手が震えた。可笑しくて笑える、あまりにも自分が莉子の全てに支配されていて。
「ありがとう!」
「…………おう」
莉子は無邪気で透き通っている。俺の想いのなにもかも、冷やして飲み込んで伝わりはしないかのように。水に飛び込む勇気が出ない、水泳は得意なはずなのに。そのうち、渇ききって飛び込まずにはいられなくなる。その時が来るのが、怖い。
「今日は良い日だったよ」
穏やかにそう告げるお前の日々に、俺以外の誰かが混ざるのが許せなくて。ただ、お前の幸せだけ願えればいいのに。渇くばかりだ。清らかな水をくれ。お前だけをくれ。なにも言えないから、ただ待っているだけで。
「拓磨はどうだった?」
「……悪くねぇよ」
気まぐれな通り雨に喜んでは、次に濡らされる時を待ち望んでいる。水は滴り落ちて、地面に吸われていってしまう。手に入らない想いのように。手の中のペットボトルに歓喜して、大事に持ち帰る自分が気持ち悪い。気持ち悪いから、洗い流して欲しい。全部、自分1人で出来ない。情けない、情けない。
(お前の前で、立っていられなくなるんだろうか)
そうなっても、見捨てずに水を恵んでくれるだろうか。どこかで信じてる自分は、きっとずるい。だから叱りつけて、必死に立っている。お前が濁らないように、平気なフリを続けるんだ。
ここ最近では、暑い日だった。陽射しが暖かい日は好きだった。幸福な日常が、いつまでも続くと錯覚するから。
「着込みすぎちゃった」
そう言って上着を脱ぐ君は無防備で、ちらっとお腹の肌を晒していた。柔らかそう。流石に容易に触ることは出来ないけど、触ってみたいなぁ。
「お腹、出てるよ」
「おぅ!」
茶目っけのある声を出して、君は笑いながら腹を隠す。恥じらわず、いつだって堂々としていて、柔らかく笑う。太陽みたいな子だと思う。時々、雲に隠れるとこも含めて。
「今日はどこへ行く?」
「んー迅の行きたいとこ」
「今日はそんなとこないよ」
今の時間は。莉子ちゃんと歩くのは日中が多い。夜は、あいつの時間だし。たまには夜に顔が見たいけど、太陽は夜には昇らない。でも、願えば照らしてくれるだろうか。
「じゃあ、適当にぶらぶらして疲れたらお茶!」
莉子ちゃんといつもの、なにも決まってない散歩道。君の隣は暖かい。独りに怯えて、凍えなくて済む。君が瞳に映って、耳に声が届けば、それはきっと幸福と呼べる。そう信じたい。誰かが決めたそれと、違う形だとしても。
(あっという間に未来に追いつくんだな)
先に視ていた景色と、実際の景色が重なっていく。今日もあっという間だった。斜陽が街を染め上げる。今日は一段と鮮やかで綺麗だ。
「あ、ひと口ちょうだい」
莉子ちゃんがペットボトルのお茶を飲む。躊躇いもなくねだる。莉子ちゃんは気前よくペットボトルを差し出した。
「残り少ないから、あげる。その代わりゴミ持ってって」
「ん、分かった」
貰ったお茶を飲み干す。烏龍茶のキレが、心地よかった。莉子ちゃんは駅の方へ歩く。弓場ちゃんと待ち合わせるらしい。玉狛と駅前への別れ道に差し掛かる。
「じゃ、ここでばいばいかな」
莉子ちゃんがそう呟く。寂しさを含んでいなくて安心する。莉子ちゃんの心が、落ち着いている証拠だから。莉子ちゃんにはいつも笑っていて欲しい。心を乱すことが減るように、俺なりに努力する。
「じゃ、またね!」
莉子ちゃんが斜陽を背にして、太陽と重なって見える。手は伸ばさない。あっさりと手を振る。太陽を手に入れたいなんて思わない。焼け焦げちゃうもん。
「またね」
ただ、俺が凍えないように、照らして温めてくれればそれでいいんだ。日が昇って沈むように、繰り返し、繰り返し。
水をくれ
ここ最近、莉子が迅といる時間が増えている。俺が一緒にいられない時間だから、仕方ないと言えば仕方ないけど。けれど、ずるいと妬む気持ちが掻き消せない。足早に駅に向かう。斜陽に照らされて莉子が帰ってくる。
「ただいま」
「……おう」
そのひと言で、どうしようもなく満たされる自分が馬鹿馬鹿しくて。満たされた先から、どんどん干上がっていくような心が末恐ろしくて。莉子は水のような奴だ。どんなに欲しくても、指をすり抜けていく。喉が渇く、無性に。持ってきたペットボトルの水を飲んだ。
「あ、ひと口ちょうだい」
「…………」
黙って差し出す。動揺を隠して。胸が締め付けられて、吐いてしまいそう。眩暈がして、直視しないように遠くを見つめる。やがて、ペットボトルが手元に返ってくる。掴む手が震えた。可笑しくて笑える、あまりにも自分が莉子の全てに支配されていて。
「ありがとう!」
「…………おう」
莉子は無邪気で透き通っている。俺の想いのなにもかも、冷やして飲み込んで伝わりはしないかのように。水に飛び込む勇気が出ない、水泳は得意なはずなのに。そのうち、渇ききって飛び込まずにはいられなくなる。その時が来るのが、怖い。
「今日は良い日だったよ」
穏やかにそう告げるお前の日々に、俺以外の誰かが混ざるのが許せなくて。ただ、お前の幸せだけ願えればいいのに。渇くばかりだ。清らかな水をくれ。お前だけをくれ。なにも言えないから、ただ待っているだけで。
「拓磨はどうだった?」
「……悪くねぇよ」
気まぐれな通り雨に喜んでは、次に濡らされる時を待ち望んでいる。水は滴り落ちて、地面に吸われていってしまう。手に入らない想いのように。手の中のペットボトルに歓喜して、大事に持ち帰る自分が気持ち悪い。気持ち悪いから、洗い流して欲しい。全部、自分1人で出来ない。情けない、情けない。
(お前の前で、立っていられなくなるんだろうか)
そうなっても、見捨てずに水を恵んでくれるだろうか。どこかで信じてる自分は、きっとずるい。だから叱りつけて、必死に立っている。お前が濁らないように、平気なフリを続けるんだ。