本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「二宮さん、眠いですか?」
小林の柔らかい、高い声で意識が浮上する。どうやら微睡んでいたようで。夜勤明け、仮眠もそこそこに小林とのお茶会に来た。いつもの喫茶店、いつものメニュー、いつもと変わりない小林。三拍子揃うと、どうにも安心してしまって、瞼が重い。好きな人の前で、情けない姿を晒すわけにはいかないのに。
「眠かったら、少し伏せて寝ててもいいですよ。私、作業してます」
「いや……そういうわけには」
「無理しないで大丈夫ですよ」
小林は優しさを称えて微笑んでいる。ステージ上の、ランク戦の時の、ギラギラした彼女とは似ても似つかない。鋭く尖った刃のような、危うさを孕んだ視線も、今俺に向けている砂糖のような優しい眼差しも、全て同じ人物が発するもの。俺はそのギャップに惚れ込んでいた。
「二宮さん?」
「あ、悪い。大丈夫、大丈夫……」
眠気覚ましにコーヒーを飲むが、眠気は遠ざからない。繰り返し、波のようにやってくる。これでは、会話はままならない。
「ごめんなさい、無理させてしまったみたいで」
遂にはそう謝られてしまう。違うんだ。俺が会いたくて選んでお前の元に来たんだ。だからそんなこと言わないでくれ。そんなことは、口にするのはあまりに不自然で。努めて、いい先輩を演じてきた。下心からとは、思われたくない。
「別に無理はしてない」
「嘘、眠そうです」
「無理はしてない」
「……私の前で無理しなくていいので、寝てください」
橙色の瞳を見る。なんでも受け入れそうな温かい色は、それでも意志が強くて譲る気はないようだった。観念して、甘えることにする。腕を下敷きにして、テーブルに突っ伏す。
「なにかあれば、いつでも起こしてくれていい」
「はーい」
小林はリュックから小さめのノートを取り出し、スマホを見つめながらなにやら書いていた。小林はいつだって大荷物で会いに来る。小さな身体で、大きいリュックを背負って。アンバランスなのが、小林の魅力だ。転びそうな時は、支えになりたい。目を瞑る。静かで穏やかな時間を感じる。店内にそっと流れるBGMが耳に馴染んで、溶けていく。うつらうつらと薄れゆく意識の中で、小林と向かい合って手を取る夢を見た。触れ合ったことがないから、俺の手は震えていた。けれど、小林はやっぱり笑っているから、触れてもいいのだと思い込んだ。それでもやっぱり、触れるのは怖かった。触れなくとも、小林と見つめ合えれば、それだけで充分だった。そっと手を離す。暗転する。夢の最後に見たのは、不思議そうにする君の顔だった。
「ん……」
「あ、二宮さん起きた」
君は勝手に俺の頭に触れていたようで、さらさらと髪を指に通していた。拒絶はしない。けれど、どこかざわざわと胸騒ぎがする。身体を起こしてやめさせた。不自然な動きでは、ないはず。
「二宮さん、髪さらさらですね」
「…………あぁ」
君の目には寝ぼけて映るだろうか。自分の手で髪を整えた。気持ち悪いわけではない。騒めきが消えない。嫌なわけではないはずなんだ。心の準備が、必要で。だって、心酔するほど思う君の指が触れるのだもの。
小林の柔らかい、高い声で意識が浮上する。どうやら微睡んでいたようで。夜勤明け、仮眠もそこそこに小林とのお茶会に来た。いつもの喫茶店、いつものメニュー、いつもと変わりない小林。三拍子揃うと、どうにも安心してしまって、瞼が重い。好きな人の前で、情けない姿を晒すわけにはいかないのに。
「眠かったら、少し伏せて寝ててもいいですよ。私、作業してます」
「いや……そういうわけには」
「無理しないで大丈夫ですよ」
小林は優しさを称えて微笑んでいる。ステージ上の、ランク戦の時の、ギラギラした彼女とは似ても似つかない。鋭く尖った刃のような、危うさを孕んだ視線も、今俺に向けている砂糖のような優しい眼差しも、全て同じ人物が発するもの。俺はそのギャップに惚れ込んでいた。
「二宮さん?」
「あ、悪い。大丈夫、大丈夫……」
眠気覚ましにコーヒーを飲むが、眠気は遠ざからない。繰り返し、波のようにやってくる。これでは、会話はままならない。
「ごめんなさい、無理させてしまったみたいで」
遂にはそう謝られてしまう。違うんだ。俺が会いたくて選んでお前の元に来たんだ。だからそんなこと言わないでくれ。そんなことは、口にするのはあまりに不自然で。努めて、いい先輩を演じてきた。下心からとは、思われたくない。
「別に無理はしてない」
「嘘、眠そうです」
「無理はしてない」
「……私の前で無理しなくていいので、寝てください」
橙色の瞳を見る。なんでも受け入れそうな温かい色は、それでも意志が強くて譲る気はないようだった。観念して、甘えることにする。腕を下敷きにして、テーブルに突っ伏す。
「なにかあれば、いつでも起こしてくれていい」
「はーい」
小林はリュックから小さめのノートを取り出し、スマホを見つめながらなにやら書いていた。小林はいつだって大荷物で会いに来る。小さな身体で、大きいリュックを背負って。アンバランスなのが、小林の魅力だ。転びそうな時は、支えになりたい。目を瞑る。静かで穏やかな時間を感じる。店内にそっと流れるBGMが耳に馴染んで、溶けていく。うつらうつらと薄れゆく意識の中で、小林と向かい合って手を取る夢を見た。触れ合ったことがないから、俺の手は震えていた。けれど、小林はやっぱり笑っているから、触れてもいいのだと思い込んだ。それでもやっぱり、触れるのは怖かった。触れなくとも、小林と見つめ合えれば、それだけで充分だった。そっと手を離す。暗転する。夢の最後に見たのは、不思議そうにする君の顔だった。
「ん……」
「あ、二宮さん起きた」
君は勝手に俺の頭に触れていたようで、さらさらと髪を指に通していた。拒絶はしない。けれど、どこかざわざわと胸騒ぎがする。身体を起こしてやめさせた。不自然な動きでは、ないはず。
「二宮さん、髪さらさらですね」
「…………あぁ」
君の目には寝ぼけて映るだろうか。自分の手で髪を整えた。気持ち悪いわけではない。騒めきが消えない。嫌なわけではないはずなんだ。心の準備が、必要で。だって、心酔するほど思う君の指が触れるのだもの。