弓場と迅の話
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砂糖菓子のように甘ったるい、ゆったりとした時間が流れている。莉子は幼い日のまんまで、遊び疲れたように眠っている。俺のベッドで。俺の部屋に来た時の、定位置が俺のベッドの上だから仕方がないのだが。何も意識されていないことに、安堵と苦しみがないまぜになって胸を埋める。莉子の規則正しい呼吸音と、自分のそれがズレていく。苦しくなって、大きく息を吐く。
(寒くないかな)
莉子がなにもかけてないことに気づいて、毛布をかけてやる。それから、吸い込まれるようにベッドの下に座り込んで、寝顔を眺める。幼い頃の面影を見るが、幼い頃にこんなにも見つめたことはなかっただろう。莉子は変わらない。変わったのは、俺だけ。
「莉子、」
小さく空気を揺らして、そっと呼びかけた。返事はない。そのかわり、莉子は毛布を深く抱き込んだ。眉間に皺を寄せて。それだけのことで、酷く心が曇った。嫌な思いを、させただろうかと。君の名前を呼ぶことが出来なくなったら、なんて、荒唐無稽な例えを持ち出して、そんなことは耐えられないと、意味もなく不安で仕方なかった。名前を呼ぶことに戸惑う。莉子は寝ているのに。放り出された左手に、恐る恐る触れた。自分の左手で、そっと包む。
(あったかい)
顔を寄せたくなって、莉子の様子を伺う。起こしてはいけない。我慢しなくてはいけない。莉子と俺は、ただの幼馴染なんだから。でも。恋しさが募って、泣きたくなる。手を繋いだまま、ベッドに突っ伏した。ゆっくりと苦しさを孕んだ、甘い時間が流れる。切なくて、息が出来なくて、どうにかなりそうなのに、どこか甘くて、喜びにも似た感覚が、じんわり身体を蝕んでいる。
(好き、だ)
心の中で、うわ言のようにそう呟く。本当はそんな言葉だけでは収まりきらない想いなことは、気づいている。
「う、ん」
「っ……!!」
莉子が身じろいだので、息を飲む。咄嗟に左手を離す。莉子が数回、瞬きするのに目を奪われる。あぁ、この瞬間に生涯立ち会えたなら。
「あれ、どうしたの」
「……どうしたのじゃねぇよ。勝手に寝て」
「うん、拓磨の部屋落ち着くから」
その言葉にどれだけ俺が心を縛り付けられるかなんて、知りもしないんだろう。莉子はぽやぽやした表情で笑う。上手く笑い返せなくて、きっと俺は不機嫌そうに映るんだろう。
「このあと、どうする?」
帰らないで欲しい。まだ俺の側にいて欲しい。そんなこと、素直に言えはしないから。
「莉子の好きにしたらいいだろ」
「うん?うーん」
莉子はまた毛布に包まった。毛布から顔を覗かせて、悪戯でもするように笑う。
「もう少しこのまま」
「……分かった」
気持ちを悟られないように、ベッドから離れた。勉強机の、座椅子に腰掛ける。莉子はごろごろと激しく寝返りを打って、毛布と戯れている。毛布に頬擦りしてるのを見て、取って代わりたいと馬鹿げたことを思う。
「この毛布、いい匂いするし気持ちいい」
莉子がそう呟くから、これ以上乱されないように視線を外した。どうにか莉子を意識の外に追いやる。無理なことだけれど。こんな時間に囚われる限り、莉子に想いは届かないけれど。壊したって届かないかもしれないし。そのことの方が、怖い。莉子に想いを伝えて、遠ざけられるのは耐えられないから。甘くて苦しいこの時間を、いつまでも延長する。終わりにする時は決めているから、それまでは。
(寒くないかな)
莉子がなにもかけてないことに気づいて、毛布をかけてやる。それから、吸い込まれるようにベッドの下に座り込んで、寝顔を眺める。幼い頃の面影を見るが、幼い頃にこんなにも見つめたことはなかっただろう。莉子は変わらない。変わったのは、俺だけ。
「莉子、」
小さく空気を揺らして、そっと呼びかけた。返事はない。そのかわり、莉子は毛布を深く抱き込んだ。眉間に皺を寄せて。それだけのことで、酷く心が曇った。嫌な思いを、させただろうかと。君の名前を呼ぶことが出来なくなったら、なんて、荒唐無稽な例えを持ち出して、そんなことは耐えられないと、意味もなく不安で仕方なかった。名前を呼ぶことに戸惑う。莉子は寝ているのに。放り出された左手に、恐る恐る触れた。自分の左手で、そっと包む。
(あったかい)
顔を寄せたくなって、莉子の様子を伺う。起こしてはいけない。我慢しなくてはいけない。莉子と俺は、ただの幼馴染なんだから。でも。恋しさが募って、泣きたくなる。手を繋いだまま、ベッドに突っ伏した。ゆっくりと苦しさを孕んだ、甘い時間が流れる。切なくて、息が出来なくて、どうにかなりそうなのに、どこか甘くて、喜びにも似た感覚が、じんわり身体を蝕んでいる。
(好き、だ)
心の中で、うわ言のようにそう呟く。本当はそんな言葉だけでは収まりきらない想いなことは、気づいている。
「う、ん」
「っ……!!」
莉子が身じろいだので、息を飲む。咄嗟に左手を離す。莉子が数回、瞬きするのに目を奪われる。あぁ、この瞬間に生涯立ち会えたなら。
「あれ、どうしたの」
「……どうしたのじゃねぇよ。勝手に寝て」
「うん、拓磨の部屋落ち着くから」
その言葉にどれだけ俺が心を縛り付けられるかなんて、知りもしないんだろう。莉子はぽやぽやした表情で笑う。上手く笑い返せなくて、きっと俺は不機嫌そうに映るんだろう。
「このあと、どうする?」
帰らないで欲しい。まだ俺の側にいて欲しい。そんなこと、素直に言えはしないから。
「莉子の好きにしたらいいだろ」
「うん?うーん」
莉子はまた毛布に包まった。毛布から顔を覗かせて、悪戯でもするように笑う。
「もう少しこのまま」
「……分かった」
気持ちを悟られないように、ベッドから離れた。勉強机の、座椅子に腰掛ける。莉子はごろごろと激しく寝返りを打って、毛布と戯れている。毛布に頬擦りしてるのを見て、取って代わりたいと馬鹿げたことを思う。
「この毛布、いい匂いするし気持ちいい」
莉子がそう呟くから、これ以上乱されないように視線を外した。どうにか莉子を意識の外に追いやる。無理なことだけれど。こんな時間に囚われる限り、莉子に想いは届かないけれど。壊したって届かないかもしれないし。そのことの方が、怖い。莉子に想いを伝えて、遠ざけられるのは耐えられないから。甘くて苦しいこの時間を、いつまでも延長する。終わりにする時は決めているから、それまでは。