序章/プロトタイプ
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誕生日の朝といっても、急にパワーアップしたりグレードアップしたりするなんてことはなく、それこそ目覚めが超スッキリだとかそんなこともなく。普通に目覚めた、18回目の9月9日。特別なことなんて望まないし、なにも変わらない毎日の訪れに悲観したりもしない。それでも、今日はちょっとだけ特別で、いいことがあればいいななんて思う。リビングに行けば、家族に祝いの言葉を貰う。ちょっと照れ臭くていい加減な返事をしながら、朝飯を口に運んで。学校に行けば、級友や会長、犬飼におめでとうと声をかけられる。菓子とか文房具とか、ちょっとした物も貰った。女子から声がかかるが、あんまり興味がないから適当に返しておく。授業は平凡に過ぎていって、学校終わりにはボーダーに寄った。実は用事なんてなかったけど、隊室に行けば待ち構えていたようにクラッカーの砲撃を受けた。帽子のつばに触れようとして、今はまだ制服なことに気付く。
「おめでとう、荒船」
「……ありがとう」
やっぱ照れ臭ぇな。俺はシャイなんだよ。穂刈と鋼から丁寧にプレゼントを貰い、影浦隊の任務が終わったらかげうらでお好み焼きを食べようと誘われた。もちろん、二つ返事でオーケーした。次の任務交代時刻まで時間がある。俺はボーダー内をほっつき歩くことにした。
「どこ行くんだ?」
「莉子さんでも探そうかなと」
穂刈に訊ねられて、自然とそんな答えが出た。言わなきゃよかったと、少し後悔した。
「そうか、いってら」
特に詮索はされなかった。ほっと胸を撫で下ろし、廊下に出た。さて、探すか。とりあえず、ランク戦ブース。いない。ラウンジ。いない。途中片桐に出会して、また祝われた。メディア対策室。いない。もしかして、配信でもしてるか?スマホを確認したが、そんな気配もなし。食堂。いない。弓場さんなら知ってるか?弓場隊の隊室に足を運ぶ。
「莉子ならこのあと防衛任務だァ。今頃隊室で待機してるだろうよ」
「っス」
ここまで来て、弓場さんを頼ったのは不味かったと反省した。もう遅いけれど。このままなにも訊かずに帰らせてくれ。
「で?なんで莉子に会いてぇんだ」
やっぱ訊かれた。内心、冷や汗だらだらだ。弓場さんの視線が痛い。けれど、俺は嘘は吐きたくない。
「……今日、誕生日で、俺」
「フゥン?」
怖くて顔が上げられない。違う、違うんだ。やましいことなんて、ひとつもなくて。俺は、莉子さんのことをそういう意味で好きなんてことは、なくて。ただ、一緒に戦闘技術を磨いたり、同じ映画を見て真剣に感想を言い合ったり、横にいてくれたら楽しい人で。なのに、みんながこぞってそういう目で見るから、何回も違うと唱える俺が、言い訳くさく感じられて。でも、違うんだ。本当に。俺は莉子さんと友達でいたいんだ。
「……まぁ、それはめでてぇな」
弓場さんに肩を叩かれる。ちらっと帽子の下から目を覗いた。全く信用してないといった、敵意のある視線が刺さる。
「ありがとうございます」
そんなに睨むくらいなら、早く自分のものにしたらどうなんだ。ただの幼馴染に、遠慮する気はねぇぞ。帽子のつばに触れて、少し下ろす。弓場隊隊室を後にする。ここまで来たら、今日は莉子さんに会う。どう思われようと関係ない。太刀川隊隊室に向かう。インターホンを押せば、少し驚いて出水が出てきた。
「莉子さんなら、今日体調悪いって休んでますよ」
「……そうか」
弓場さんも知らなかったパターンか。どうりでどこ探してもいないわけだ。そっか。
「なんか用事ですか?俺、代わりに聞く?」
「いや、大丈夫だ。大した用じゃない。邪魔したな」
太刀川隊隊室を去る。ま、台風来てるしな。仕方ないか。……仕方ない。頭で繰り返し、そう言い聞かせてる自分が馬鹿らしい。思っているよりも、がっかりしている自分に驚く。たった1日、誕生日に会えなかっただけ。それだけのことなのに。弓場さんの視線を思い出す。責め立てるような感情の波がやってきて、自分が悪いことでもしたかのような錯覚をする。会いたいと思うのは、おかしいんだろうか。会えたら、こんな憂いも消える気がするのに。
「あっ哲次くん」
「……莉子さん」
誕生日から数日経って、思いがけないタイミングで莉子さんと会った。ボーダーの廊下でばったり。莉子さんはいつも通り、どことなく気怠くゆるい雰囲気でいる。
「こないだ誕生日だったんだってね。おめでとう。当日に祝えなくてごめんね」
「えっ、と」
誰から聞いたのだろう。今更おめでとうを強請るつもりはなかった、ダセェから。でも、今の言い方だと、俺が当日探し回ったこともバレていそうだ。それはいい。それはいいんだけど、この人まで冷やかされたりしてないだろうか。
「……すいません、迷惑かけましたか」
「??なにが」
莉子さんは本当に言葉の意味が分かってないようで、首を傾げて説明を求めた。嫌だな、自分から説明するのは。けれど、この人は空気とか読めない人だから、ちゃんと説明しないと。
「その、なんか。俺とのこと、冷やかされたりしませんでしたか」
「…………あー?」
莉子さんはようやく思い当たったのか、何回も頷いた。その様子がなんか可笑しくて、笑ってしまった。
「しないよ。されたらとても嫌だけど」
「そうですか」
「哲次くんとは、そういうこと気にしたくないな」
莉子さんが苦笑してみせるので、俺は酷く安心する。今この時は、2人の間で感情のズレはない。同じ方向を見てる。そのことがとても尊かった。
「嬉しかったよ、誕生日に探してくれたこと。だから会えなくてごめん」
「はい。今度埋め合わせしてください」
「もちろん。その時はなにかプレゼントもさせてね」
この人と恋に落ちたら、なんて寒気がする。このままがいい。このまま、良き友人で、優しい先輩で、不器用な弟子でいてくれ。誕生日に会いたくなる、大切で素敵な人でいてくれ。この関係を、他の誰かに名付けられたくはない。知らない誰かのものさしで、測られたくない。邪魔しないでくれ、この人といる時間は本当に楽しいんだ。
「おめでとう、荒船」
「……ありがとう」
やっぱ照れ臭ぇな。俺はシャイなんだよ。穂刈と鋼から丁寧にプレゼントを貰い、影浦隊の任務が終わったらかげうらでお好み焼きを食べようと誘われた。もちろん、二つ返事でオーケーした。次の任務交代時刻まで時間がある。俺はボーダー内をほっつき歩くことにした。
「どこ行くんだ?」
「莉子さんでも探そうかなと」
穂刈に訊ねられて、自然とそんな答えが出た。言わなきゃよかったと、少し後悔した。
「そうか、いってら」
特に詮索はされなかった。ほっと胸を撫で下ろし、廊下に出た。さて、探すか。とりあえず、ランク戦ブース。いない。ラウンジ。いない。途中片桐に出会して、また祝われた。メディア対策室。いない。もしかして、配信でもしてるか?スマホを確認したが、そんな気配もなし。食堂。いない。弓場さんなら知ってるか?弓場隊の隊室に足を運ぶ。
「莉子ならこのあと防衛任務だァ。今頃隊室で待機してるだろうよ」
「っス」
ここまで来て、弓場さんを頼ったのは不味かったと反省した。もう遅いけれど。このままなにも訊かずに帰らせてくれ。
「で?なんで莉子に会いてぇんだ」
やっぱ訊かれた。内心、冷や汗だらだらだ。弓場さんの視線が痛い。けれど、俺は嘘は吐きたくない。
「……今日、誕生日で、俺」
「フゥン?」
怖くて顔が上げられない。違う、違うんだ。やましいことなんて、ひとつもなくて。俺は、莉子さんのことをそういう意味で好きなんてことは、なくて。ただ、一緒に戦闘技術を磨いたり、同じ映画を見て真剣に感想を言い合ったり、横にいてくれたら楽しい人で。なのに、みんながこぞってそういう目で見るから、何回も違うと唱える俺が、言い訳くさく感じられて。でも、違うんだ。本当に。俺は莉子さんと友達でいたいんだ。
「……まぁ、それはめでてぇな」
弓場さんに肩を叩かれる。ちらっと帽子の下から目を覗いた。全く信用してないといった、敵意のある視線が刺さる。
「ありがとうございます」
そんなに睨むくらいなら、早く自分のものにしたらどうなんだ。ただの幼馴染に、遠慮する気はねぇぞ。帽子のつばに触れて、少し下ろす。弓場隊隊室を後にする。ここまで来たら、今日は莉子さんに会う。どう思われようと関係ない。太刀川隊隊室に向かう。インターホンを押せば、少し驚いて出水が出てきた。
「莉子さんなら、今日体調悪いって休んでますよ」
「……そうか」
弓場さんも知らなかったパターンか。どうりでどこ探してもいないわけだ。そっか。
「なんか用事ですか?俺、代わりに聞く?」
「いや、大丈夫だ。大した用じゃない。邪魔したな」
太刀川隊隊室を去る。ま、台風来てるしな。仕方ないか。……仕方ない。頭で繰り返し、そう言い聞かせてる自分が馬鹿らしい。思っているよりも、がっかりしている自分に驚く。たった1日、誕生日に会えなかっただけ。それだけのことなのに。弓場さんの視線を思い出す。責め立てるような感情の波がやってきて、自分が悪いことでもしたかのような錯覚をする。会いたいと思うのは、おかしいんだろうか。会えたら、こんな憂いも消える気がするのに。
「あっ哲次くん」
「……莉子さん」
誕生日から数日経って、思いがけないタイミングで莉子さんと会った。ボーダーの廊下でばったり。莉子さんはいつも通り、どことなく気怠くゆるい雰囲気でいる。
「こないだ誕生日だったんだってね。おめでとう。当日に祝えなくてごめんね」
「えっ、と」
誰から聞いたのだろう。今更おめでとうを強請るつもりはなかった、ダセェから。でも、今の言い方だと、俺が当日探し回ったこともバレていそうだ。それはいい。それはいいんだけど、この人まで冷やかされたりしてないだろうか。
「……すいません、迷惑かけましたか」
「??なにが」
莉子さんは本当に言葉の意味が分かってないようで、首を傾げて説明を求めた。嫌だな、自分から説明するのは。けれど、この人は空気とか読めない人だから、ちゃんと説明しないと。
「その、なんか。俺とのこと、冷やかされたりしませんでしたか」
「…………あー?」
莉子さんはようやく思い当たったのか、何回も頷いた。その様子がなんか可笑しくて、笑ってしまった。
「しないよ。されたらとても嫌だけど」
「そうですか」
「哲次くんとは、そういうこと気にしたくないな」
莉子さんが苦笑してみせるので、俺は酷く安心する。今この時は、2人の間で感情のズレはない。同じ方向を見てる。そのことがとても尊かった。
「嬉しかったよ、誕生日に探してくれたこと。だから会えなくてごめん」
「はい。今度埋め合わせしてください」
「もちろん。その時はなにかプレゼントもさせてね」
この人と恋に落ちたら、なんて寒気がする。このままがいい。このまま、良き友人で、優しい先輩で、不器用な弟子でいてくれ。誕生日に会いたくなる、大切で素敵な人でいてくれ。この関係を、他の誰かに名付けられたくはない。知らない誰かのものさしで、測られたくない。邪魔しないでくれ、この人といる時間は本当に楽しいんだ。