可能性の話
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「俺、莉子のこと好きなんだよね。実は」
悪戯をするように、何気ない調子で、貴方は言った。それが3ヶ月ほど前。まだ陽射しの強い夏だった。その言葉を聞いてからというもの、私は変に意識をしてしまって、まんまと術中にハマるように、気づけば貴方を好きになった。我ながらちょろい。そうは思うが、今までどれほど貴方に助けられてきたか、気づかないでいただけだと思う。貴方は確かに私の中で、大きく深く根を張っていた。
「私も太刀川さんが好きです。多分」
想いを自覚して、ようやく返事が出来たのが1ヶ月前。付き合うだとか、恋人だとか、そういう核心的な言葉が交わされないまま、今に至る。私は関係性に名前をつけるのが嫌いで苦手だが、あまりにも不確かであやふやな関係に不安を覚えていた。太刀川さんが私を好きというのは、嘘だったのだろうか?嘘だったとしても、私が太刀川さんを好きな気持ちはもう変えようがないが。好きならそれでいいじゃないか、とも思う。見返りは求めず、これまで通り良い部下をやっていけば。……やはりほんの少し、虚しい。
「太刀川さん、今でも私のこと好き?」
狙って2人きりの隊室。本当のところは多分、出水たちが気を遣って帰った。太刀川さんの顔は見ない。怖いので。
「好きだけど?」
告白された時と同じ、平坦で落ち着いた声。この声に救われてきたが、いつも通りすぎて胸中が計れない。押し黙る私に、太刀川さんは隣に座ってきた。
「莉子は俺のこと、好きじゃないの?」
「好きだよ」
「実感ないけど、俺」
「信用してないですもん、太刀川さんが私を好きなこと」
「ひでぇ」
この人を1番近くで見てきた。この人のすごいところも、優しいところも、どうしようもないところも見てきた。だから、気まぐれだったのかも、という考えが浮かぶ。適当でいい加減で、掴みどころのない人だ。私の中の太刀川さんへの愛は信じられるが、太刀川さんの気持ちは不透明で、信じる強さは自分にはない。
「それでも私は、太刀川さんが好きだよ」
「……おう、ありがと」
しばらく2人、並んで座っていた。太刀川さんが、あー!っと急に声を出すので、私は肩を揺らした。
「カッコ悪、俺」
「いつものことだよ」
「ちょっと、傷つくからやめて」
笑えば、軽く頭を叩かれた。そして太刀川さんも笑う。あぁ、どうでもいいな。この人が私を好きかどうかなんて。この人が私に向ける温かい想いが、どんなものであれ、私のものだからいいじゃないか。
「……こっち向け」
「ん」
素直に顔を向ければ、珍しく焦っているような、余裕のない太刀川さんがいた。驚いて、後退りをしたくなる。それは太刀川さんの手が、私の頬に触れたことで阻止された。太刀川さんは私の頬を撫でる。優しく、触れる。
「どうしたらいいのか、分からないんだ。両想いとは思ってなかったわけ」
「うん」
「誰かをちゃんと好きになったことも初めてだし」
「そうなの?」
「そうだよ」
そんなことも知らなかったのか?と、訴えるような視線を向けられる。知らないよ、そんなこと。そんなに私が大事だなんて、信じられないよ。
「嘘ぉ」
「本当だっての!あーもう、なんて言ったら信じるんだよお前」
私の頬を両手で包んで、もみくちゃにされる。こそばゆくて温かい、安心に包まれる。
「ちゃんと好きだってば。愛してるよ」
太刀川さんは祈るように、額と額をくっつけた。鼻先が触れる距離で、太刀川さんの息遣いを感じる。緊張感に、息を呑んだ。太刀川さんって、まつ毛長いんだな。そんなどうでもいいことに思考を逃す。
「……キス、していい?」
「え」
「するわ」
私の返事を待たず、太刀川さんの唇が私のそれに触れる。ついばむように、角度を変えて何度も落とされる。頭が茹るようで、身体が熱い。ぼやける思考の中で、どうにか太刀川さんの胸元にしがみつく。舌が私の上唇を舐めたところで、思い切り押し返した。
「ごめ、嫌だったか?」
「嫌じゃないけど……」
言いようのない恥ずかしさに、俯いた。どうしようもなくて、太刀川さんの胸元辺りを強く握り込む。私の手に太刀川さんが触れて、優しく開いた。手を繋ぐ。
「……やべぇ、莉子可愛い」
「可愛くない」
「可愛い」
バッと顔を上げた瞬間に、太刀川さんのにやけた、だらしない顔が目に飛び込んできた。あ、嘘じゃなかったんだ。本当なんだ。急に腑に落ちた。途端に恥ずかしさが込み上げて、逃げ出したくなる。立ちあがろうとしたが、強く引っ張り込まれる。太刀川さんの胸に飛び込む形になる。いつもの嗅ぎ慣れた、太刀川さんの匂いが鼻をくすぐる。昔から、この人の匂いが好きだった。ぎゅっと抱き締められる。温かい。胸が熱い。
「分かった?伝わった?」
「伝わった」
「おしおし。いい子いい子」
太刀川さんが私の頭を撫でる。背中を撫でる。心地よくて、眠たくなる。胸元に頬を擦り寄せる。いつか夢見た、幸福がここにある。
「太刀川さんの、恋人になっていいですか」
そう呟くと、太刀川さんは私を抱き締めるのをやめ、私と顔を突き合わせた。驚いたような、期待に満ちた目で私を見る。
「マジ?いいの?」
「そりゃ、もちろん」
「よっしゃー!莉子好きだー!」
太刀川さんは再び私を抱き締める。関係性に名前がついた。けど、嫌な気はしない。大切にしたいと思う。幸せで胸が詰まる。どうやら、太刀川さんへの想いを言葉にするのには、これから難儀するようだ。ちゃんと応えていかなければ。だって、こんなに愛されている。
悪戯をするように、何気ない調子で、貴方は言った。それが3ヶ月ほど前。まだ陽射しの強い夏だった。その言葉を聞いてからというもの、私は変に意識をしてしまって、まんまと術中にハマるように、気づけば貴方を好きになった。我ながらちょろい。そうは思うが、今までどれほど貴方に助けられてきたか、気づかないでいただけだと思う。貴方は確かに私の中で、大きく深く根を張っていた。
「私も太刀川さんが好きです。多分」
想いを自覚して、ようやく返事が出来たのが1ヶ月前。付き合うだとか、恋人だとか、そういう核心的な言葉が交わされないまま、今に至る。私は関係性に名前をつけるのが嫌いで苦手だが、あまりにも不確かであやふやな関係に不安を覚えていた。太刀川さんが私を好きというのは、嘘だったのだろうか?嘘だったとしても、私が太刀川さんを好きな気持ちはもう変えようがないが。好きならそれでいいじゃないか、とも思う。見返りは求めず、これまで通り良い部下をやっていけば。……やはりほんの少し、虚しい。
「太刀川さん、今でも私のこと好き?」
狙って2人きりの隊室。本当のところは多分、出水たちが気を遣って帰った。太刀川さんの顔は見ない。怖いので。
「好きだけど?」
告白された時と同じ、平坦で落ち着いた声。この声に救われてきたが、いつも通りすぎて胸中が計れない。押し黙る私に、太刀川さんは隣に座ってきた。
「莉子は俺のこと、好きじゃないの?」
「好きだよ」
「実感ないけど、俺」
「信用してないですもん、太刀川さんが私を好きなこと」
「ひでぇ」
この人を1番近くで見てきた。この人のすごいところも、優しいところも、どうしようもないところも見てきた。だから、気まぐれだったのかも、という考えが浮かぶ。適当でいい加減で、掴みどころのない人だ。私の中の太刀川さんへの愛は信じられるが、太刀川さんの気持ちは不透明で、信じる強さは自分にはない。
「それでも私は、太刀川さんが好きだよ」
「……おう、ありがと」
しばらく2人、並んで座っていた。太刀川さんが、あー!っと急に声を出すので、私は肩を揺らした。
「カッコ悪、俺」
「いつものことだよ」
「ちょっと、傷つくからやめて」
笑えば、軽く頭を叩かれた。そして太刀川さんも笑う。あぁ、どうでもいいな。この人が私を好きかどうかなんて。この人が私に向ける温かい想いが、どんなものであれ、私のものだからいいじゃないか。
「……こっち向け」
「ん」
素直に顔を向ければ、珍しく焦っているような、余裕のない太刀川さんがいた。驚いて、後退りをしたくなる。それは太刀川さんの手が、私の頬に触れたことで阻止された。太刀川さんは私の頬を撫でる。優しく、触れる。
「どうしたらいいのか、分からないんだ。両想いとは思ってなかったわけ」
「うん」
「誰かをちゃんと好きになったことも初めてだし」
「そうなの?」
「そうだよ」
そんなことも知らなかったのか?と、訴えるような視線を向けられる。知らないよ、そんなこと。そんなに私が大事だなんて、信じられないよ。
「嘘ぉ」
「本当だっての!あーもう、なんて言ったら信じるんだよお前」
私の頬を両手で包んで、もみくちゃにされる。こそばゆくて温かい、安心に包まれる。
「ちゃんと好きだってば。愛してるよ」
太刀川さんは祈るように、額と額をくっつけた。鼻先が触れる距離で、太刀川さんの息遣いを感じる。緊張感に、息を呑んだ。太刀川さんって、まつ毛長いんだな。そんなどうでもいいことに思考を逃す。
「……キス、していい?」
「え」
「するわ」
私の返事を待たず、太刀川さんの唇が私のそれに触れる。ついばむように、角度を変えて何度も落とされる。頭が茹るようで、身体が熱い。ぼやける思考の中で、どうにか太刀川さんの胸元にしがみつく。舌が私の上唇を舐めたところで、思い切り押し返した。
「ごめ、嫌だったか?」
「嫌じゃないけど……」
言いようのない恥ずかしさに、俯いた。どうしようもなくて、太刀川さんの胸元辺りを強く握り込む。私の手に太刀川さんが触れて、優しく開いた。手を繋ぐ。
「……やべぇ、莉子可愛い」
「可愛くない」
「可愛い」
バッと顔を上げた瞬間に、太刀川さんのにやけた、だらしない顔が目に飛び込んできた。あ、嘘じゃなかったんだ。本当なんだ。急に腑に落ちた。途端に恥ずかしさが込み上げて、逃げ出したくなる。立ちあがろうとしたが、強く引っ張り込まれる。太刀川さんの胸に飛び込む形になる。いつもの嗅ぎ慣れた、太刀川さんの匂いが鼻をくすぐる。昔から、この人の匂いが好きだった。ぎゅっと抱き締められる。温かい。胸が熱い。
「分かった?伝わった?」
「伝わった」
「おしおし。いい子いい子」
太刀川さんが私の頭を撫でる。背中を撫でる。心地よくて、眠たくなる。胸元に頬を擦り寄せる。いつか夢見た、幸福がここにある。
「太刀川さんの、恋人になっていいですか」
そう呟くと、太刀川さんは私を抱き締めるのをやめ、私と顔を突き合わせた。驚いたような、期待に満ちた目で私を見る。
「マジ?いいの?」
「そりゃ、もちろん」
「よっしゃー!莉子好きだー!」
太刀川さんは再び私を抱き締める。関係性に名前がついた。けど、嫌な気はしない。大切にしたいと思う。幸せで胸が詰まる。どうやら、太刀川さんへの想いを言葉にするのには、これから難儀するようだ。ちゃんと応えていかなければ。だって、こんなに愛されている。