序章/プロトタイプ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
陽介と2人、隊室に向かっていたところ。向かいから苦手な人物を見つけて、心の中で舌打ちする。顔には出さないし、周囲には知られないようにしてるが。
「お、莉子さんじゃん!元気?」
「米屋くん、奈良坂くん。うん、ぼちぼち〜」
莉子さんは緩やかに手を振って近付いてくる。少し歩くスピードを落として、陽介の後ろに隠れる。陽介は気にせずに莉子さんと会話を楽しんでいる。混ざる気はないので、ぼっーと会話が終わるのを待つ。
「あ、そうだ奈良坂くん」
莉子さんはリュックを漁り、なにか探す。この人のカバンの中、ごちゃごちゃそうだな……やがて莉子さんはお目当ての物を取り出すと、俺に差し出した。
「はい、たけのこの里!また貰ったからあげるね」
「……ありがとうございます」
一応お礼を言って、受け取る。莉子さんはにこにこと機嫌が良さそうだ。これが嫌なのだが……本当に、どうしてこうなってしまったのだろうか。
「じゃあ、またね〜」
莉子さんが去っていく。陽介と共に、また歩き出す。しばらく、手の中のたけのこの里を睨みつけていた。
「嫌なら断ればいいじゃん」
陽介はなんでもないように言う。
「いや……」
断ることは簡単だ。でも、その先を想像すると面倒くさい。あの人、傷つくんじゃないだろうか。それで、傷ついたら俺が悪者にされるんじゃないだろうか。そんなことになったら、理不尽だと思うしとても面倒くさい。それなら、黙ってたけのこの里を受領する方が、まだマシだ。たけのこの里に罪はないから食べるし。
「たけのこは食べるし、いい」
「食べるのかよ。俺にも寄越せ」
陽介と貰ったたけのこの里を開封して食べる。別にあの人に貰ったから美味しくないということはない。いつもの味だ。
『へぇ奈良坂くんたけのこの里好きなんだ』
事の発端は、莉子さんが貰った差し入れを後輩に配っている時だった。陽介についてたまたまその場にいた俺は、たけのこの里をわざわざ選んで貰った。
『はい、昔から大好きで』
思わず、そう答えていて。その時は、それで終わったのだが。以降、事あるごとにたけのこの里をくれるようになった。それこそ、会う度に。俺は彼女になにもしてないのに、ちょっとおかしくないか。そう思っていた。
『なんか配信で、友達が喜ぶから、差し入れたけのこの里だと嬉しいってよく言ってるよ』
そんな話を、陽介から聞いた。耳を疑った。いつからあの人と俺は、友達なんかになったんだ?
『え、えー……』
それを知った時の俺の顔が、あまりにも苦々しかったらしく、俺が莉子さんを嫌いなことは、隊のみんなにはバレている。陽介は莉子さんに懐いているし、蓮さんは親友みたいだから、たまにうちの隊室にも来るが。その時も、なるべく話さないようにしている。……莉子さんを嫌いな理由があまりにちっぽけで、自分が心の狭い嫌な奴なんじゃないかとか。そんなことまで考えてしまうのを含めて、あの人が嫌いだ。
「さっさと仲良くなっちまえばいいのに」
「絶対嫌だ」
陽介はからから笑う。確かに、実際に友達になってしまえば、この悩みは解決するかもしれないが。一度友達ではないと断定した人を、受け入れるのは難しい。解決は望まない。現状維持でいい。隊室についた。気持ちを切り替えて、会議に臨んだ。
ボーダーの帰りに、コンビニに寄った。お菓子コーナーに足を運ぶと、二宮さんがいて少し驚く。
「お疲れ、様です」
「あぁ、お疲れ」
二宮さんの手元を見ると、たけのこの里が握られていた。テンションがあがる。
「たけのこの里、好きなんですか?」
「いや、まぁ。人にやるんだがな」
人に、やる。ものすごく嫌な予感がした。気分が急降下する。
「……莉子さんにですか?」
二宮さんは、眉を寄せた。お前も知っているのかと目で訴えてくる。そりゃ、まあ。
「……小林には言うなよ」
「言いませんよ」
言ったらどんな目に遭うか、分かったもんじゃない。二宮さんが莉子さんの隠れファンというのは、ボーダーじゃ有名な話だ。莉子さん本人が知らないのは、奇跡だと思う。というか、あの人どんだけ噂に疎いんだ。二宮さんは、レジに向かって歩き出す。離れるのを待って、ため息を吐く。
(あのたけのこの里も、俺の所にくるよな……)
あんまり知りたくなかった。二宮さんはきっと、蓮さんとか羽矢さん辺りにたけのこの里がいくと思っているだろう。残念、俺です。俺なんです。はぁ。
「自分で集めたものなら自分で食えよ」
思わず、独り言で毒を吐く。想いがこもった物が、横流しにされるのが嫌なのだ。明言しているとはいえ。自分の好きなものを、素直にファンに強請ればいいだろうに。莉子さんの思考が、俺には理解出来ない。あんたと俺は、友達じゃない。俺の友達の多くと、あんたは友達かもしれないが。
(馬鹿らしい。帰ろう)
コンビニで買う物を買って、帰路に着く。これ以上あの人に思考を割くのは、癪だ。忘れよう。残ったたけのこの里を食べながら、あの人への憂鬱を噛み砕いた。
「お、莉子さんじゃん!元気?」
「米屋くん、奈良坂くん。うん、ぼちぼち〜」
莉子さんは緩やかに手を振って近付いてくる。少し歩くスピードを落として、陽介の後ろに隠れる。陽介は気にせずに莉子さんと会話を楽しんでいる。混ざる気はないので、ぼっーと会話が終わるのを待つ。
「あ、そうだ奈良坂くん」
莉子さんはリュックを漁り、なにか探す。この人のカバンの中、ごちゃごちゃそうだな……やがて莉子さんはお目当ての物を取り出すと、俺に差し出した。
「はい、たけのこの里!また貰ったからあげるね」
「……ありがとうございます」
一応お礼を言って、受け取る。莉子さんはにこにこと機嫌が良さそうだ。これが嫌なのだが……本当に、どうしてこうなってしまったのだろうか。
「じゃあ、またね〜」
莉子さんが去っていく。陽介と共に、また歩き出す。しばらく、手の中のたけのこの里を睨みつけていた。
「嫌なら断ればいいじゃん」
陽介はなんでもないように言う。
「いや……」
断ることは簡単だ。でも、その先を想像すると面倒くさい。あの人、傷つくんじゃないだろうか。それで、傷ついたら俺が悪者にされるんじゃないだろうか。そんなことになったら、理不尽だと思うしとても面倒くさい。それなら、黙ってたけのこの里を受領する方が、まだマシだ。たけのこの里に罪はないから食べるし。
「たけのこは食べるし、いい」
「食べるのかよ。俺にも寄越せ」
陽介と貰ったたけのこの里を開封して食べる。別にあの人に貰ったから美味しくないということはない。いつもの味だ。
『へぇ奈良坂くんたけのこの里好きなんだ』
事の発端は、莉子さんが貰った差し入れを後輩に配っている時だった。陽介についてたまたまその場にいた俺は、たけのこの里をわざわざ選んで貰った。
『はい、昔から大好きで』
思わず、そう答えていて。その時は、それで終わったのだが。以降、事あるごとにたけのこの里をくれるようになった。それこそ、会う度に。俺は彼女になにもしてないのに、ちょっとおかしくないか。そう思っていた。
『なんか配信で、友達が喜ぶから、差し入れたけのこの里だと嬉しいってよく言ってるよ』
そんな話を、陽介から聞いた。耳を疑った。いつからあの人と俺は、友達なんかになったんだ?
『え、えー……』
それを知った時の俺の顔が、あまりにも苦々しかったらしく、俺が莉子さんを嫌いなことは、隊のみんなにはバレている。陽介は莉子さんに懐いているし、蓮さんは親友みたいだから、たまにうちの隊室にも来るが。その時も、なるべく話さないようにしている。……莉子さんを嫌いな理由があまりにちっぽけで、自分が心の狭い嫌な奴なんじゃないかとか。そんなことまで考えてしまうのを含めて、あの人が嫌いだ。
「さっさと仲良くなっちまえばいいのに」
「絶対嫌だ」
陽介はからから笑う。確かに、実際に友達になってしまえば、この悩みは解決するかもしれないが。一度友達ではないと断定した人を、受け入れるのは難しい。解決は望まない。現状維持でいい。隊室についた。気持ちを切り替えて、会議に臨んだ。
ボーダーの帰りに、コンビニに寄った。お菓子コーナーに足を運ぶと、二宮さんがいて少し驚く。
「お疲れ、様です」
「あぁ、お疲れ」
二宮さんの手元を見ると、たけのこの里が握られていた。テンションがあがる。
「たけのこの里、好きなんですか?」
「いや、まぁ。人にやるんだがな」
人に、やる。ものすごく嫌な予感がした。気分が急降下する。
「……莉子さんにですか?」
二宮さんは、眉を寄せた。お前も知っているのかと目で訴えてくる。そりゃ、まあ。
「……小林には言うなよ」
「言いませんよ」
言ったらどんな目に遭うか、分かったもんじゃない。二宮さんが莉子さんの隠れファンというのは、ボーダーじゃ有名な話だ。莉子さん本人が知らないのは、奇跡だと思う。というか、あの人どんだけ噂に疎いんだ。二宮さんは、レジに向かって歩き出す。離れるのを待って、ため息を吐く。
(あのたけのこの里も、俺の所にくるよな……)
あんまり知りたくなかった。二宮さんはきっと、蓮さんとか羽矢さん辺りにたけのこの里がいくと思っているだろう。残念、俺です。俺なんです。はぁ。
「自分で集めたものなら自分で食えよ」
思わず、独り言で毒を吐く。想いがこもった物が、横流しにされるのが嫌なのだ。明言しているとはいえ。自分の好きなものを、素直にファンに強請ればいいだろうに。莉子さんの思考が、俺には理解出来ない。あんたと俺は、友達じゃない。俺の友達の多くと、あんたは友達かもしれないが。
(馬鹿らしい。帰ろう)
コンビニで買う物を買って、帰路に着く。これ以上あの人に思考を割くのは、癪だ。忘れよう。残ったたけのこの里を食べながら、あの人への憂鬱を噛み砕いた。