掌編/ネオプロトタイプ
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私のことは、好きなんだろうなぁとは思う。態度に全部出ているから。拓磨は誰よりも私に優しい。というか、甘いし。いつも視線は合わなくて、合えば泣きそうな顔してる。でも頭や顔に触れるのは遠慮しないよね。私になにかしてあげようと、いつもうずうずとしていて。そのくせ、話はうわの空で聞いていなかったり。全部、私のことが好きだからなんだろうと思う。嬉しい、素直に。けれど、それは強烈な思い込みだろうと推察する。思い込みや呪いの類だよ。拓磨は私が幼馴染だから、助けてやらなきゃダメだと思っている。幼馴染だから、側にいなくちゃいけないと思っている。きっと他の誰かが幼馴染ならば、その子を好きになるだろう。私は運命よりも偶然を信じる口だ。拓磨とは偶然、幼馴染だから好きあっているだけで。別に必然だとか運命なんかじゃない。拓磨は、私に囚われずに生きていく権利がある。
(そう伝えたところで、納得しないだろうなぁ)
空に浮かぶ頼りない雲が、風にどんどん流されていく。自分は流されやすい性格と思う。あんまり、ノーとは言えない。拓磨が私のことを好きならば、私も拓磨のことが好きだろう。それは拓磨が愛をくれるからであって、そっぽを向くなら別に。追いかけはしないと思う。愛は与えられた分、返すだけ。返済しきれなくなるから、拓磨の愛に応えるのは怖いんだ。自由を奪われるのは、なによりも嫌だし。だから、なにも言えずにいる。なにも言えないけど、なんだかんだ会いたくはなって、しょっちゅう連絡してしまって。これもよくないんだろうなぁ。でも傷つくと分かって突き放したりは出来ない。私だって、幼馴染は好きだし大事にしたい。
『寒いから、お迎えきて』
肌寒くなって、そんな連絡をする。川沿いから駅の方へ、帰りの方角にゆっくり歩く。拓磨にはすぐに連絡がついて、待ってろと言われた。小走りで来てくれるんだろうなぁ。嬉しくないと言えば、嘘になる。嘘は吐きたくない。だから私は、君が見えたら嬉しそうに跳ねるだろう。
「なんでそんな薄着で外に出るんだよ」
拓磨は開口一番にそう言って、私に自分のカーディガンを羽織わせた。拓磨の家の洗剤の香りがするので、吸い込む。拓磨はふわふわ視線を泳がせて。誤魔化すように私の頭を撫でる。じっと見上げてみれば、どんどん赤くなった。変なの。私は幼い頃となにひとつ変わらないのに。
「ねぇ」
「……なんだ」
「私のこと、好き?」
拓磨が生唾を飲み込んだのが分かる。見つめ続けていれば、逃げ出すように歩き出した。後ろをついていき、左袖を引っ張る。拓磨は一瞬こちらを見て、なおも足を早めた。
「この前、言ったろ……」
「好きじゃなくなった?」
「そんなわけねぇだろうが……」
あんまりに照れるから、意地悪がしたくなる。私は悪い女なんだろう。そのうちに拓磨を腐らせてしまう。そんな予感がする。でも、離れることは出来なくて。だって幼馴染だもん、今更手放すなんてこと。
「いっぱい聞きたいもん」
小さく溢したら、拓磨は立ち止まって。大きくため息を吐いて、私のことを睨んだ。ちょっと怖くて、肩が跳ねた。
「ごめんなさい」
私が反射的に謝ると、またため息。頬を掻いて、遠くを見つめて。私はじっと、拓磨を見上げたまま言葉を待った。
「…………好きだって言ったところで、なんも変わんねぇんだろ」
「今までもこれからも、なにも変わらずに好きだよ」
「き、らいだ。そういうとこ」
「そう?本当?」
泣きそうな拓磨を見て、笑みを深くした私は。相当意地悪で嫌な女だ。でも自分のことを嫌いになんてならないよ。拓磨が好きな私だもの。拓磨は諦めたように私の右手を取って、とぼとぼと歩き出す。歩調を合わせて、私も歩いた。
「……俺が好きだって言っても、困んねぇのか」
「好きと伝えてくれるだけなら、困らないよ」
「……つまり、どういうことだ」
「好きだからなになにしてーって言われたら、多分困る」
拓磨は眉間に皺を寄せた。メガネを上げて、長く息を吐いて夕陽を見る。私も夕陽を見つめた。拓磨はどうやって今日を終わらせるだろうか。
「………………その」
「うん」
「えっと……だから、つまり」
拓磨はだいぶ歯切れが悪く、一生懸命話す。私は機嫌良く繋いだ手を振った。
「俺、が。キスとかしても、困らないってこと……いや」
最後の方は消え入るような声だった。私はしばらく聞こえなかったフリをした。拓磨は何故かむせたようで、激しく咳き込んでいる。
「大丈夫?」
「だい、じょうぶ」
ペットボトルのお茶を差し出せば、迷った末に飲んだ。家に着くまで、最後の一本道に差し掛かる。拓磨の手の甲を指で撫ぜた。ぴく、と拓磨が震えたのが分かる。そんな怖がらなくていいでしょ。私みたいに素直でいてよ。
「拓磨のこと、好きだから。叶えられることは叶えてあげたいよ」
拓磨の目が一瞬、ギラっと光った。私が強張ると、鳴りを潜めていつもの泣きそうな目に戻った。なにかを噛み殺して、悩ましく髪を掻き上げる様が。どうしようもなく、愛しいと思った。
「全部叶えてくれって、言ったら絶対困るだろ……」
「うん、困る気がする。でも言うだけ言ってみたら?」
「……嫌だ。言ってみて断られたらつれぇ」
「そっか」
家に着いてしまった。手を離す。10秒、見つめあって。やっぱり拓磨は赤い顔をしている。手を伸ばして熱い頬を撫でて、踵を返した。後ろで拓磨が息を吸う気配がして、少し足を止めたけど。言葉にはならないようだったので、家に入った。私は、どうしたいのだろうか。拓磨にも迅にも、離れていって欲しくない。今の、ありのままの自分のままで、去りゆかない人の側にいたいと思う。酷くわがままで、他人任せだ。でも、恋は思い込みだから。思い込ませてくれる人と、一緒にいるよ。
(そう伝えたところで、納得しないだろうなぁ)
空に浮かぶ頼りない雲が、風にどんどん流されていく。自分は流されやすい性格と思う。あんまり、ノーとは言えない。拓磨が私のことを好きならば、私も拓磨のことが好きだろう。それは拓磨が愛をくれるからであって、そっぽを向くなら別に。追いかけはしないと思う。愛は与えられた分、返すだけ。返済しきれなくなるから、拓磨の愛に応えるのは怖いんだ。自由を奪われるのは、なによりも嫌だし。だから、なにも言えずにいる。なにも言えないけど、なんだかんだ会いたくはなって、しょっちゅう連絡してしまって。これもよくないんだろうなぁ。でも傷つくと分かって突き放したりは出来ない。私だって、幼馴染は好きだし大事にしたい。
『寒いから、お迎えきて』
肌寒くなって、そんな連絡をする。川沿いから駅の方へ、帰りの方角にゆっくり歩く。拓磨にはすぐに連絡がついて、待ってろと言われた。小走りで来てくれるんだろうなぁ。嬉しくないと言えば、嘘になる。嘘は吐きたくない。だから私は、君が見えたら嬉しそうに跳ねるだろう。
「なんでそんな薄着で外に出るんだよ」
拓磨は開口一番にそう言って、私に自分のカーディガンを羽織わせた。拓磨の家の洗剤の香りがするので、吸い込む。拓磨はふわふわ視線を泳がせて。誤魔化すように私の頭を撫でる。じっと見上げてみれば、どんどん赤くなった。変なの。私は幼い頃となにひとつ変わらないのに。
「ねぇ」
「……なんだ」
「私のこと、好き?」
拓磨が生唾を飲み込んだのが分かる。見つめ続けていれば、逃げ出すように歩き出した。後ろをついていき、左袖を引っ張る。拓磨は一瞬こちらを見て、なおも足を早めた。
「この前、言ったろ……」
「好きじゃなくなった?」
「そんなわけねぇだろうが……」
あんまりに照れるから、意地悪がしたくなる。私は悪い女なんだろう。そのうちに拓磨を腐らせてしまう。そんな予感がする。でも、離れることは出来なくて。だって幼馴染だもん、今更手放すなんてこと。
「いっぱい聞きたいもん」
小さく溢したら、拓磨は立ち止まって。大きくため息を吐いて、私のことを睨んだ。ちょっと怖くて、肩が跳ねた。
「ごめんなさい」
私が反射的に謝ると、またため息。頬を掻いて、遠くを見つめて。私はじっと、拓磨を見上げたまま言葉を待った。
「…………好きだって言ったところで、なんも変わんねぇんだろ」
「今までもこれからも、なにも変わらずに好きだよ」
「き、らいだ。そういうとこ」
「そう?本当?」
泣きそうな拓磨を見て、笑みを深くした私は。相当意地悪で嫌な女だ。でも自分のことを嫌いになんてならないよ。拓磨が好きな私だもの。拓磨は諦めたように私の右手を取って、とぼとぼと歩き出す。歩調を合わせて、私も歩いた。
「……俺が好きだって言っても、困んねぇのか」
「好きと伝えてくれるだけなら、困らないよ」
「……つまり、どういうことだ」
「好きだからなになにしてーって言われたら、多分困る」
拓磨は眉間に皺を寄せた。メガネを上げて、長く息を吐いて夕陽を見る。私も夕陽を見つめた。拓磨はどうやって今日を終わらせるだろうか。
「………………その」
「うん」
「えっと……だから、つまり」
拓磨はだいぶ歯切れが悪く、一生懸命話す。私は機嫌良く繋いだ手を振った。
「俺、が。キスとかしても、困らないってこと……いや」
最後の方は消え入るような声だった。私はしばらく聞こえなかったフリをした。拓磨は何故かむせたようで、激しく咳き込んでいる。
「大丈夫?」
「だい、じょうぶ」
ペットボトルのお茶を差し出せば、迷った末に飲んだ。家に着くまで、最後の一本道に差し掛かる。拓磨の手の甲を指で撫ぜた。ぴく、と拓磨が震えたのが分かる。そんな怖がらなくていいでしょ。私みたいに素直でいてよ。
「拓磨のこと、好きだから。叶えられることは叶えてあげたいよ」
拓磨の目が一瞬、ギラっと光った。私が強張ると、鳴りを潜めていつもの泣きそうな目に戻った。なにかを噛み殺して、悩ましく髪を掻き上げる様が。どうしようもなく、愛しいと思った。
「全部叶えてくれって、言ったら絶対困るだろ……」
「うん、困る気がする。でも言うだけ言ってみたら?」
「……嫌だ。言ってみて断られたらつれぇ」
「そっか」
家に着いてしまった。手を離す。10秒、見つめあって。やっぱり拓磨は赤い顔をしている。手を伸ばして熱い頬を撫でて、踵を返した。後ろで拓磨が息を吸う気配がして、少し足を止めたけど。言葉にはならないようだったので、家に入った。私は、どうしたいのだろうか。拓磨にも迅にも、離れていって欲しくない。今の、ありのままの自分のままで、去りゆかない人の側にいたいと思う。酷くわがままで、他人任せだ。でも、恋は思い込みだから。思い込ませてくれる人と、一緒にいるよ。
