掌編/ネオプロトタイプ
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「迅の誕生日を忘れる未来が視えます」
「それ本人に言う?」
私が茶化して弱音を吐くと、迅は呆れた顔でへにゃっと笑って、私の頬を撫でた。くすぐったくて、私も笑う。
「いいよ別に。悪気がないのも、ちゃんと想ってくれてるのも分かってるから」
「むー……」
迅は、というかボーダーは、最近とにかくバタバタしており。忙しいので、デートの約束とかも難しい気がして。私が約束をしようとすると、結局は彼が無理をして、誰のためのお祝いか分からなくなりそうだから。当日に、さりげなく祝うことが出来ればいいのだけど、生憎そういう類のことがとっても苦手なのだ。
「……アラームとか、かければいいんじゃないの?」
「むー」
「それは嫌なんだ?」
変なの、とまた迅は笑って、私の頬を摘んで遊んでいる。その手に触れて撫でて、指を絡めて、離す。迅のことを向こうから沢村さんが呼んでいる。迅はもう一度だけ私の頭に触れると、大丈夫と一声かけて歩いていく。
「ちゃんと忘れないから。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
4月9日、何故か早起きが出来た。いつもならだるくて瞼を閉じるところを、身体を起こして伸びが出来た。窓から差し込む陽射しを感じながら、あくびをひとつする。スマホの画面を見て、日付が目に飛び込んで、今日がなんの日かちゃんと分かった。おめでとうを言おうと思って、トーク画面を開いたら10分前にメッセージが来ていた。
『起きてる?』
慌てて、返信を打つ。
『起きてるよ』
『お誕生日おめでとう』
すぐに既読がついて、電話がかかってきた。
「おはよう」
「おはよう。ね、忘れなかったでしょ」
「うん、お誕生日おめでとう迅」
「ありがと」
迅は電話の向こうで珍しくあー、とかなにかはぐらかすように声を出している。
「午後の仕事まで、ちょっと時間あるからさ」
「うん」
「お昼まで、一緒にいない?」
「うん、そうする」
嬉しくて笑みが溢れるのを、貴方はまた勝手に盗み視てるだろうか。なにを視られても、別に怖くはないし気持ち悪くもない。迅がそう生まれついたのだから、仕方のないことだ。そうやって生まれたことを、貴方が悔いることのないように。ひとつでも笑顔が増えるように。そのために私はここにある。
「んとね、着替えたら出るからね」
「30分くらいだね」
「うん、なるべく急いで行くから」
未来視なんかなくとも、迅の空気が今、柔く揺らいで温かく灯ったのくらいは、分かるよ。君が嬉しそうな時は、見逃さないつもりだから。迅は、本当はとても素直な人だ。実際はとてもシンプルな人だ。真っ直ぐな人を、愛せる人だ。君が愛する人間でいたいと思う。
「転んだりしないでね?」
「なんか視えた?」
「いや、単純に心配なんだけど」
「そっか、ありがとう」
手早く着替えて、外に出る。世界はまばゆかった。通勤通学の人の群れを、掻い潜って歩を早める。迅に会いに行くのが嬉しい。誕生日は、本人のためだけにあるんじゃないんだな。空には雲ひとつなかった。迅によく似合う、空色が広がっている。桜の花びらが風に舞って、すり抜けていく。なんでもない、貴方の生まれた日。
「それ本人に言う?」
私が茶化して弱音を吐くと、迅は呆れた顔でへにゃっと笑って、私の頬を撫でた。くすぐったくて、私も笑う。
「いいよ別に。悪気がないのも、ちゃんと想ってくれてるのも分かってるから」
「むー……」
迅は、というかボーダーは、最近とにかくバタバタしており。忙しいので、デートの約束とかも難しい気がして。私が約束をしようとすると、結局は彼が無理をして、誰のためのお祝いか分からなくなりそうだから。当日に、さりげなく祝うことが出来ればいいのだけど、生憎そういう類のことがとっても苦手なのだ。
「……アラームとか、かければいいんじゃないの?」
「むー」
「それは嫌なんだ?」
変なの、とまた迅は笑って、私の頬を摘んで遊んでいる。その手に触れて撫でて、指を絡めて、離す。迅のことを向こうから沢村さんが呼んでいる。迅はもう一度だけ私の頭に触れると、大丈夫と一声かけて歩いていく。
「ちゃんと忘れないから。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
4月9日、何故か早起きが出来た。いつもならだるくて瞼を閉じるところを、身体を起こして伸びが出来た。窓から差し込む陽射しを感じながら、あくびをひとつする。スマホの画面を見て、日付が目に飛び込んで、今日がなんの日かちゃんと分かった。おめでとうを言おうと思って、トーク画面を開いたら10分前にメッセージが来ていた。
『起きてる?』
慌てて、返信を打つ。
『起きてるよ』
『お誕生日おめでとう』
すぐに既読がついて、電話がかかってきた。
「おはよう」
「おはよう。ね、忘れなかったでしょ」
「うん、お誕生日おめでとう迅」
「ありがと」
迅は電話の向こうで珍しくあー、とかなにかはぐらかすように声を出している。
「午後の仕事まで、ちょっと時間あるからさ」
「うん」
「お昼まで、一緒にいない?」
「うん、そうする」
嬉しくて笑みが溢れるのを、貴方はまた勝手に盗み視てるだろうか。なにを視られても、別に怖くはないし気持ち悪くもない。迅がそう生まれついたのだから、仕方のないことだ。そうやって生まれたことを、貴方が悔いることのないように。ひとつでも笑顔が増えるように。そのために私はここにある。
「んとね、着替えたら出るからね」
「30分くらいだね」
「うん、なるべく急いで行くから」
未来視なんかなくとも、迅の空気が今、柔く揺らいで温かく灯ったのくらいは、分かるよ。君が嬉しそうな時は、見逃さないつもりだから。迅は、本当はとても素直な人だ。実際はとてもシンプルな人だ。真っ直ぐな人を、愛せる人だ。君が愛する人間でいたいと思う。
「転んだりしないでね?」
「なんか視えた?」
「いや、単純に心配なんだけど」
「そっか、ありがとう」
手早く着替えて、外に出る。世界はまばゆかった。通勤通学の人の群れを、掻い潜って歩を早める。迅に会いに行くのが嬉しい。誕生日は、本人のためだけにあるんじゃないんだな。空には雲ひとつなかった。迅によく似合う、空色が広がっている。桜の花びらが風に舞って、すり抜けていく。なんでもない、貴方の生まれた日。
