可能性の話
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『迅の部屋行きたい』
そんな連絡が来て、どこか不貞腐れて甘えたな君が視えた。連絡の意図など考えず、にへーっと笑みが溢れる。可愛いな。早く会いたい。随分と馬鹿な男になったもんだと思う。馬鹿なフリでもし続けられればいいが、生憎そんなことは許されはしないだろう。笑みを消し、頭を覚醒させる。今日は、家にいたっていい日。街に変わりはなさそう。莉子ちゃんが俺に会いに来ると、なにか変わるか?……放っておいたら、莉子ちゃんが寂しそうで。なんでもいいや、なんとかするから。俺に会いにおいで。
『いつでも来ていいよ』
1時間後、莉子ちゃんはやってきた。玄関で待ち構えて、誰にも気づかれないようにそーっと部屋に入った。莉子ちゃんがきょろきょろとする。俺はベッドの縁に座って、横を叩いた。莉子ちゃんは、駆け寄るようにして隣にくる。ぴったりと寄り添って座る。いつもより近くて、ドキドキしてしまう。
「どうしたの?今日はいつもと違うね」
「違くない。違くないけど……」
莉子ちゃんが手遊びをしてもじもじしてるのが、意地らしくて愛らしい。手が伸びて頭や頬に触れてしまう。莉子ちゃんは俺の手を捕まえると、両手で握りしめて胸に抱いた。そんなことは初めてだから、固まってしまう。
「なあに?話してみて」
「うん……怒らない?」
「俺が莉子ちゃんに怒ったことなんてないでしょ」
「うん」
莉子ちゃんは手を離して、だらんと放り出した。それから、控えめに俺へ向けて腕を広げ、差し出す仕草をする。抱擁を求める仕草。俺は戸惑って、差し出された腕にそっと触れるだけ。
「抱っこ、してほしい」
消え入るような声で、そう言われる。黙って、脇の下に俺の腕を差し込んで持ち上げて、膝の上に乗せた。向き合うようにして、胸に抱き締める。重さが心地よくて、温かくて。いい匂いもして。クセになってしまったら困る。莉子ちゃんは俺の胸に擦り寄ると、すんすん鼻を鳴らしている。背中をとんとん叩いた。子守りをするように。
「なんかあったのかな?」
「…………拓磨が、好きって言ってくれないし、抱っこもしてくれない」
「俺が全部してあげるから、ここにいて?」
莉子ちゃんに被せるように、反射的に口を滑らせて目を見開いた。なんてことを言ったのだろうか。莉子ちゃんは、胸にすりすり頬を当てて、そうしようかなぁと言う。
「私、嫌な女かな……最低かな」
「嫌な女だろうが最低だろうが、俺は好きだよ」
莉子ちゃんはぎゅっと縋りついてきた。俺は好きでどうしようもなくなって、ただただ抱き返して、頭の片隅でごめんなさいを繰り返していた。誰に謝っているのか、よく分からない。
「迅が好き。好きなのに」
莉子ちゃんの背を撫でて、抱き締めてを繰り返す。莉子ちゃんがもぞもぞと顔を上げるので、見つめ合った。莉子ちゃんの未来が視える。それでも、あいつと一緒にいる。目を閉じて、深呼吸した。泣いている未来は消えないのに、それと同じくらい幸せそうな未来も視える。どうしても、引き裂くことが出来ない。したくないのだ。そうは思いながらも、その笑顔を1番側で見たくて仕方がない。独り占めしたくなってしまう。わがままだね、俺も君も。
「迅」
不安そうな君の声で、目を開ける。迷っている瞳に目隠しをするように手を当てて。悩んで、顔を寄せて止まって。自分の手の甲にキスをして、離す。莉子ちゃんは寂しそうだった。それでも、なにも言わずに俯いている。頭を撫でた。
「莉子ちゃんは結局、俺も弓場ちゃんも好きなんでしょ」
「うん、好き。選びたくない」
「でも、甘えたくて仕方ないんだね」
「ん、ぎゅうされたい」
あまりにも言い方が可愛くて、無意識にぎゅーっと掻き抱いてしまった。わ、と莉子ちゃんが声を漏らす。それも可愛くて、もう一度ぎゅっと抱き締めた。
「抜け駆けしていいかなぁ」
思考力がなくなってきた。甘い時間をめいいっぱい吸い込んで、逃したくなくなった。莉子ちゃんは、いざ目の前にすると怖くなったのか固まっている。今更、今まで散々無防備でいた罰だよ。もう知らないフリなんてさせないよ。ベッドに倒れて、柔らかく組み敷いた。莉子ちゃんが息を吸い込み、じん、と名を呼ぶ。一瞬、気が引けた。
ジリリリリリリリ
携帯端末がなって、ふっと蝋燭が吹き消えるように引き戻される。莉子ちゃんと目を合わせて、お互い驚いてぱちくりと瞬きをした。携帯が鳴り止まないので、出る。莉子ちゃんは身体を起こした。電話はなんてことない、ボスから夕飯の買い出しのお願いだった。適当に返事をして切る。莉子ちゃんを振り向けば、バツの悪そうな顔をしている。
「抜け駆けは、だめ」
「どうして?」
「……ごめん、だめじゃないけど、勇気がなかった」
「…………俺の方こそ、ごめんね」
手招くと、素直に側に来てくれる。もう一度並んで座って、手を繋いだ。莉子ちゃんはきゅっと強く手を握ると、静かな声で話し出した。
「拓磨にも気持ち、訊いてみる」
そんなの分かりきったことじゃないか。呆れてしまうけど、口には出さなかった。
「そっか」
「ちゃんと2人共から気持ちを訊いて、答えを探すから」
莉子ちゃんは決意をしたようだった。怖いな。結構思い切ったことを考えるからな。怖いな、見放されるのが。だから、念押しに気持ちを伝えることにした。最後になるかもしれないから、しっかり目を見た。
「俺は莉子ちゃんが好きだよ」
そんな連絡が来て、どこか不貞腐れて甘えたな君が視えた。連絡の意図など考えず、にへーっと笑みが溢れる。可愛いな。早く会いたい。随分と馬鹿な男になったもんだと思う。馬鹿なフリでもし続けられればいいが、生憎そんなことは許されはしないだろう。笑みを消し、頭を覚醒させる。今日は、家にいたっていい日。街に変わりはなさそう。莉子ちゃんが俺に会いに来ると、なにか変わるか?……放っておいたら、莉子ちゃんが寂しそうで。なんでもいいや、なんとかするから。俺に会いにおいで。
『いつでも来ていいよ』
1時間後、莉子ちゃんはやってきた。玄関で待ち構えて、誰にも気づかれないようにそーっと部屋に入った。莉子ちゃんがきょろきょろとする。俺はベッドの縁に座って、横を叩いた。莉子ちゃんは、駆け寄るようにして隣にくる。ぴったりと寄り添って座る。いつもより近くて、ドキドキしてしまう。
「どうしたの?今日はいつもと違うね」
「違くない。違くないけど……」
莉子ちゃんが手遊びをしてもじもじしてるのが、意地らしくて愛らしい。手が伸びて頭や頬に触れてしまう。莉子ちゃんは俺の手を捕まえると、両手で握りしめて胸に抱いた。そんなことは初めてだから、固まってしまう。
「なあに?話してみて」
「うん……怒らない?」
「俺が莉子ちゃんに怒ったことなんてないでしょ」
「うん」
莉子ちゃんは手を離して、だらんと放り出した。それから、控えめに俺へ向けて腕を広げ、差し出す仕草をする。抱擁を求める仕草。俺は戸惑って、差し出された腕にそっと触れるだけ。
「抱っこ、してほしい」
消え入るような声で、そう言われる。黙って、脇の下に俺の腕を差し込んで持ち上げて、膝の上に乗せた。向き合うようにして、胸に抱き締める。重さが心地よくて、温かくて。いい匂いもして。クセになってしまったら困る。莉子ちゃんは俺の胸に擦り寄ると、すんすん鼻を鳴らしている。背中をとんとん叩いた。子守りをするように。
「なんかあったのかな?」
「…………拓磨が、好きって言ってくれないし、抱っこもしてくれない」
「俺が全部してあげるから、ここにいて?」
莉子ちゃんに被せるように、反射的に口を滑らせて目を見開いた。なんてことを言ったのだろうか。莉子ちゃんは、胸にすりすり頬を当てて、そうしようかなぁと言う。
「私、嫌な女かな……最低かな」
「嫌な女だろうが最低だろうが、俺は好きだよ」
莉子ちゃんはぎゅっと縋りついてきた。俺は好きでどうしようもなくなって、ただただ抱き返して、頭の片隅でごめんなさいを繰り返していた。誰に謝っているのか、よく分からない。
「迅が好き。好きなのに」
莉子ちゃんの背を撫でて、抱き締めてを繰り返す。莉子ちゃんがもぞもぞと顔を上げるので、見つめ合った。莉子ちゃんの未来が視える。それでも、あいつと一緒にいる。目を閉じて、深呼吸した。泣いている未来は消えないのに、それと同じくらい幸せそうな未来も視える。どうしても、引き裂くことが出来ない。したくないのだ。そうは思いながらも、その笑顔を1番側で見たくて仕方がない。独り占めしたくなってしまう。わがままだね、俺も君も。
「迅」
不安そうな君の声で、目を開ける。迷っている瞳に目隠しをするように手を当てて。悩んで、顔を寄せて止まって。自分の手の甲にキスをして、離す。莉子ちゃんは寂しそうだった。それでも、なにも言わずに俯いている。頭を撫でた。
「莉子ちゃんは結局、俺も弓場ちゃんも好きなんでしょ」
「うん、好き。選びたくない」
「でも、甘えたくて仕方ないんだね」
「ん、ぎゅうされたい」
あまりにも言い方が可愛くて、無意識にぎゅーっと掻き抱いてしまった。わ、と莉子ちゃんが声を漏らす。それも可愛くて、もう一度ぎゅっと抱き締めた。
「抜け駆けしていいかなぁ」
思考力がなくなってきた。甘い時間をめいいっぱい吸い込んで、逃したくなくなった。莉子ちゃんは、いざ目の前にすると怖くなったのか固まっている。今更、今まで散々無防備でいた罰だよ。もう知らないフリなんてさせないよ。ベッドに倒れて、柔らかく組み敷いた。莉子ちゃんが息を吸い込み、じん、と名を呼ぶ。一瞬、気が引けた。
ジリリリリリリリ
携帯端末がなって、ふっと蝋燭が吹き消えるように引き戻される。莉子ちゃんと目を合わせて、お互い驚いてぱちくりと瞬きをした。携帯が鳴り止まないので、出る。莉子ちゃんは身体を起こした。電話はなんてことない、ボスから夕飯の買い出しのお願いだった。適当に返事をして切る。莉子ちゃんを振り向けば、バツの悪そうな顔をしている。
「抜け駆けは、だめ」
「どうして?」
「……ごめん、だめじゃないけど、勇気がなかった」
「…………俺の方こそ、ごめんね」
手招くと、素直に側に来てくれる。もう一度並んで座って、手を繋いだ。莉子ちゃんはきゅっと強く手を握ると、静かな声で話し出した。
「拓磨にも気持ち、訊いてみる」
そんなの分かりきったことじゃないか。呆れてしまうけど、口には出さなかった。
「そっか」
「ちゃんと2人共から気持ちを訊いて、答えを探すから」
莉子ちゃんは決意をしたようだった。怖いな。結構思い切ったことを考えるからな。怖いな、見放されるのが。だから、念押しに気持ちを伝えることにした。最後になるかもしれないから、しっかり目を見た。
「俺は莉子ちゃんが好きだよ」