弓場と迅の話
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俺の部屋の窓の向こうに、君の家のベランダが見える。明かりがついてるから、いるんだろう。暇してないかな。俺はまぁ、暇なんだけど。夕飯前のちょっとした空き時間、日は暮れかかっていて、木枯らしが吹くから寒いかもしれない。莉子は他の誰かと通話したり、作業してるかもしれない。邪魔、したら怒るかな。そんなわけない、莉子は俺と散歩したいはずと、どっかでまだ信じきっていて。幼馴染はやめて、友達から始めようって俺から言ったはずなのに。本当は、ずっと幼馴染でいたいし。幼馴染なんて、消せるもんでもないだろうとは分かっているし。
(会いたいって言わなきゃ、もう会ってはくれないんだ)
今まで甘えすぎていた。甘えて、息が詰まるほど満足してしまっていた。携帯を手に取り、通話とメールと迷って、通話したいのを我慢してメールを打った。
『暇だから、散歩に行かないか?』
『いいよー』
すぐに来る返信に、胸が躍って安心する。外に出る支度をする。カーディガンを一枚多く持っていくのは、いつも通り。
「寒い!」
「なんでそんな薄着で出てくんだよ」
会った途端に寒いと言う君に、カーディガンを着せる。袖は余りまくっていて、裾は膝の上あたりまであって。肩幅が合わなくてぶかぶか。はしゃぐように袖口を振り回して、襟を掴んで包まるようにして、笑う。君は、夏より幾分無邪気になった。どんな君だって可愛くて愛しいけれど、俺の顔色を窺わずにありのままにいてくれた方が嬉しい。これでよかった。莉子が歩き出す方へついていく。妙なとこを曲がって、団地の踊り場に入る。
「どうした?」
「最近、この辺りで猫ちゃん見つけたの」
莉子が茂みへ構わずに入ろうとするから、心配になって腕を掴んでしまった。細い。知っているのに、心臓は高く脈を打つ。
「なぁに?」
「その、危ないから」
「危なくないよ?」
橙の瞳に吸い込まれる。ちょっと前まで、願いを溢すのが怖かった。今だって怖い。
「心配だから、やめてほしい」
「うーん?分かった」
莉子は素直に、言うことを聞いてくれる。まだ、辺りをうろうろと猫を探している。見えない猫に嫉妬して、邪魔したくなる俺はどうかしてる。馬鹿げている。そんなことは、もうどうでもいいんだ。
「好きだ」
呟いたら、莉子はこちらを見る。瞬きをして、ニヤァって嬉しそうに悪い笑みを浮かべる。
「知ってるよ、ありがとう」
「うん……」
「どうしたの?」
「猫は、いないなら行きませんか」
「嫌だ、もうちょっと探す」
莉子は猫を探すのを再開してしまった。寂しい。寂しいけど、俺が素直な気持ちを話せて、莉子が正直な気持ちを話してくれることが嬉しい。ゼロに戻したけど、なんにも全部消えたなんてことはなくて、新しい出発点に2人で立っている。木枯らしも心地いい。今までも、今までよりずっと、好きだよ。
「あっ、いた」
ようやく見つかった猫はキジトラで、甘えた声で鳴きながら莉子の足元に寝転がった。莉子が撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。莉子が顎下やお腹をわしゃわしゃ撫でるのを享受している。羨ましい。莉子の横にしゃがむ。俺が触れると、猫は顔を上げて睨んできた。
「嫌われてるねぇ」
「お前が好かれてるんだろ」
「そっかぁ」
猫も杓子も、お前が好き。お前はみんなが好きで、自由を愛している。誰にもやりたくないと思う俺とは、折り合いがつかない。誰にも負けたくない、俺が1番誰よりも好きだ。でも、お前がそうじゃなくたって、気持ちは変わらないよ。最近はそんな勇気が湧いてきたんだ。
「好きだ」
「猫が?」
「そんなわけねぇだろうが」
クスクスと莉子は笑いながら、まだ猫を撫でている。莉子が意地悪を言うことなんて、今までなかった。ドキドキする。君の成長を、君の人生を、1番近くで見続けたい。
「で?」
イタズラな瞳でこちらを見る。心臓を引っ掴まれて、揺さぶられているような。まだ気持ちを全部伝えるのは恥ずかしくて、でもどこかくすぐったくて気持ちがいい。
「……莉子が好きだ」
「うん!」
莉子が満足気に笑うから、降参で。白旗ならいくらでも振るから、もう一度見たくて溢れるように告白を繰り返す。
「好き」
「うん」
「好きだ」
「分かった」
「好き……」
「しつこい!」
莉子が人差し指を俺の唇に突きつける。涙が出そうなほど、胸の内を甘く溶かされる。
「す、すき」
惜しむように溢してしまって。莉子は飽きれたような、でもどこか嬉しそうにして、俺の頭にぽんぽんと触れて、離す。頭が焼けるように熱くて、ぼんやりとする。猫は飽きたようで、頭を掻いてどこかへ行った。
「行っちゃった」
莉子は立ち上がって、伸びをする。とっぷり日は暮れて、帰らなきゃならない。
「もう少し、遊んで!」
莉子のわがままで、息が詰まる。言いなりになってしまう。莉子の意地悪わがままツンデレに振り回されて、心は引っ掻き傷だらけだけど。そこから漏れた愛も全部全部、君に注ぐから。いくらでも、気の済むようにしてくれ。
(会いたいって言わなきゃ、もう会ってはくれないんだ)
今まで甘えすぎていた。甘えて、息が詰まるほど満足してしまっていた。携帯を手に取り、通話とメールと迷って、通話したいのを我慢してメールを打った。
『暇だから、散歩に行かないか?』
『いいよー』
すぐに来る返信に、胸が躍って安心する。外に出る支度をする。カーディガンを一枚多く持っていくのは、いつも通り。
「寒い!」
「なんでそんな薄着で出てくんだよ」
会った途端に寒いと言う君に、カーディガンを着せる。袖は余りまくっていて、裾は膝の上あたりまであって。肩幅が合わなくてぶかぶか。はしゃぐように袖口を振り回して、襟を掴んで包まるようにして、笑う。君は、夏より幾分無邪気になった。どんな君だって可愛くて愛しいけれど、俺の顔色を窺わずにありのままにいてくれた方が嬉しい。これでよかった。莉子が歩き出す方へついていく。妙なとこを曲がって、団地の踊り場に入る。
「どうした?」
「最近、この辺りで猫ちゃん見つけたの」
莉子が茂みへ構わずに入ろうとするから、心配になって腕を掴んでしまった。細い。知っているのに、心臓は高く脈を打つ。
「なぁに?」
「その、危ないから」
「危なくないよ?」
橙の瞳に吸い込まれる。ちょっと前まで、願いを溢すのが怖かった。今だって怖い。
「心配だから、やめてほしい」
「うーん?分かった」
莉子は素直に、言うことを聞いてくれる。まだ、辺りをうろうろと猫を探している。見えない猫に嫉妬して、邪魔したくなる俺はどうかしてる。馬鹿げている。そんなことは、もうどうでもいいんだ。
「好きだ」
呟いたら、莉子はこちらを見る。瞬きをして、ニヤァって嬉しそうに悪い笑みを浮かべる。
「知ってるよ、ありがとう」
「うん……」
「どうしたの?」
「猫は、いないなら行きませんか」
「嫌だ、もうちょっと探す」
莉子は猫を探すのを再開してしまった。寂しい。寂しいけど、俺が素直な気持ちを話せて、莉子が正直な気持ちを話してくれることが嬉しい。ゼロに戻したけど、なんにも全部消えたなんてことはなくて、新しい出発点に2人で立っている。木枯らしも心地いい。今までも、今までよりずっと、好きだよ。
「あっ、いた」
ようやく見つかった猫はキジトラで、甘えた声で鳴きながら莉子の足元に寝転がった。莉子が撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。莉子が顎下やお腹をわしゃわしゃ撫でるのを享受している。羨ましい。莉子の横にしゃがむ。俺が触れると、猫は顔を上げて睨んできた。
「嫌われてるねぇ」
「お前が好かれてるんだろ」
「そっかぁ」
猫も杓子も、お前が好き。お前はみんなが好きで、自由を愛している。誰にもやりたくないと思う俺とは、折り合いがつかない。誰にも負けたくない、俺が1番誰よりも好きだ。でも、お前がそうじゃなくたって、気持ちは変わらないよ。最近はそんな勇気が湧いてきたんだ。
「好きだ」
「猫が?」
「そんなわけねぇだろうが」
クスクスと莉子は笑いながら、まだ猫を撫でている。莉子が意地悪を言うことなんて、今までなかった。ドキドキする。君の成長を、君の人生を、1番近くで見続けたい。
「で?」
イタズラな瞳でこちらを見る。心臓を引っ掴まれて、揺さぶられているような。まだ気持ちを全部伝えるのは恥ずかしくて、でもどこかくすぐったくて気持ちがいい。
「……莉子が好きだ」
「うん!」
莉子が満足気に笑うから、降参で。白旗ならいくらでも振るから、もう一度見たくて溢れるように告白を繰り返す。
「好き」
「うん」
「好きだ」
「分かった」
「好き……」
「しつこい!」
莉子が人差し指を俺の唇に突きつける。涙が出そうなほど、胸の内を甘く溶かされる。
「す、すき」
惜しむように溢してしまって。莉子は飽きれたような、でもどこか嬉しそうにして、俺の頭にぽんぽんと触れて、離す。頭が焼けるように熱くて、ぼんやりとする。猫は飽きたようで、頭を掻いてどこかへ行った。
「行っちゃった」
莉子は立ち上がって、伸びをする。とっぷり日は暮れて、帰らなきゃならない。
「もう少し、遊んで!」
莉子のわがままで、息が詰まる。言いなりになってしまう。莉子の意地悪わがままツンデレに振り回されて、心は引っ掻き傷だらけだけど。そこから漏れた愛も全部全部、君に注ぐから。いくらでも、気の済むようにしてくれ。