弓場と迅の話
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後悔しないとは誓ったけど、ここまで落ち込まれるとは。
あれから莉子ちゃんが落ち込んで、一度部屋に行ったけれど。なおもなかなか、元の笑顔に戻る未来が遠くて。9月になり、心なしか風は涼しくなった。あまりしつこく連絡をするのは避けていたが、どうしたって俺が寂しくて。あの日のせいで会えなくなるなら、やっぱり後悔になってしまうだろう。後悔にしないために、会って話をしなくては。
(その前に、情報収集)
蓮さんに、それとなく莉子ちゃんの様子をメールで聞いてみた。小一時間ほどして、返信が来る。
『男性に会うのが怖いって。弓場君に怒られるんじゃないかって思うそうよ。でも、弓場君から連絡がくるのも怖いから、誰にも会ってないみたい』
それじゃ、莉子ちゃんは閉じこもりっきりじゃないか。閉ざされてしまう。でもどうしたらいい。完全に俺のせいなわけで。
『貴方達がなにを考えてるのかは知らないけど、あんまり莉子を追い詰めたりしないで』
わぁ、蓮さん怒ってるなこれ。怒ってるでしょ。合掌して返信する。
『ごめんなさい!必ず元通りにするから』
さて、状況は分かった。連絡したら、会ってくれるだろうか。弓場ちゃんに見つからない時間なら、どうだろう。今かな。今は正午を過ぎた頃、弓場隊は午後から任務だったはず。メールをしてみると、すぐに返信が来る。
『いつもの公園でいい?』
いいよ、と返して公園へ向かう。すぐには来ないかもしれないけれど、別に待っていられる。空が高く感じられ、いわし雲が青を彩っている。ぼんやりとしていた。君のことを想う間、他のことを忘れていられる。だから君のことが好きだ。不自由で俺を守ってくれるから、好きなんだ。俺の隣で莉子ちゃんが泣く未来が視えて、そっと目を閉じて覚悟をした。狼狽えずに優しくあれるように。
「ごめん、待った?」
「全然。急にごめんね」
莉子ちゃんはTシャツにチノパンのラフな格好でやってきた。少し猫背気味で、顔は浮かない。ベンチの隣を叩けば、おずおずと座った。髪を撫でてやる。お風呂には入れているようで、こないだ会った時よりはマシなことが分かる。
「最近、どう?具合悪そうだけど」
「うーんちょっと改善しそうだけど、もうしばらくしんどいかも」
「改善の兆しがあった?」
「うんと、拓磨と会って、連絡が怖いって伝えられた」
「連絡が怖い?」
「怒られた時を思い出しちゃって」
莉子ちゃんの声が小さくなる。丸まった背中を撫でてやる。莉子ちゃんはあんなに大胆に人を励ましたり、思い切ったような笑顔を見せるのに、こんなにも繊細なのだと改めて思い知る。安心していた場所が壊れるだけで、この子は生活が出来なくなるんだ。
「迅と会うのも、他の人と会うのも、怒られるかもって思うと怖くて」
「うん」
「なにも出来なくて、しんどい」
莉子ちゃんはポロポロと泣き出した。ハンカチを忘れたことに気づいて、仕方なく指で涙を拭う。莉子ちゃんは、されるがままにしていた。
「前にも言ったけど。莉子ちゃんが、会いたいと思う人に会えばいいんだよ」
「うん」
「俺がどう思うとか、弓場ちゃんがどう思うとか。関係ないんだよ」
「うん」
「それで怒るやつがいるなら、俺が代わりに言い返してあげるから」
「うん……」
莉子ちゃんはなにか言いたそうで、俺は顎と頬に触れて顔をゆすった。莉子ちゃんはうーと唸る。
「喧嘩も、しないでほしい」
「そうだね、嫌だよね」
「うん……弱くてごめんなさい」
莉子ちゃんが俯いて塞ぎ込もうとするのを、無理やり肩を引き寄せて胸に収めた。ゆるく抱きしめて、黙って背中と頭を撫でる。俺が忘れてしまったもの、どこかに置いてきたもの、まだこの子は持っている。それを尊いと思う。
「そのままでいいよ」
莉子ちゃんはもぞもぞと動くけど、俺を突き返すことも出来ずに。やんわりと胸あたりの布を掴む。
「そのままでいてよ、なにも悪くなんてないんだよ。莉子ちゃんは悪くない」
「うん」
「素直なままでいて。辛い時は辛いって言っていいから」
「うん」
莉子ちゃんが頭を俺の胸に押し付けるから、一度強く抱きしめた。頭を撫でて、身体を離す。まだ泣いているから、服の袖を優しく押し付けた。
「俺は莉子ちゃんといたいけど、莉子ちゃんが会いたくないって言うなら、会わないから」
「会いたい。迅といたい」
またしゃくりあげて泣くから、あんまりにも可愛くて。俺はへにゃ、と情けない笑顔になる。そりゃこんな素直で可愛い子、誰だって側に置きたくなるでしょ。ずっと見ていたいよ、笑顔にしたいよ。わしゃわしゃと頭を乱暴に撫でた。莉子ちゃんが俺の手を掴んで、合わせたり握り込んだりして遊ぶ。小さくて温かい手。
「弓場ちゃんが怒っても放っておこう」
「……怒らせたくないの」
「じゃあ内緒にする?」
「嫌われたくない……」
「んー多分あいつは莉子ちゃんのこと嫌いにはならないと思うけど」
「そうかなぁ」
いっそのこと、嫌いになってくれればいいんだけどね。多分、無理そうなんだ。莉子ちゃんも嫌いになりたくないって言うんだから、仕方ないけど。莉子ちゃんが号泣している未来は消えない。どうにかしなくちゃ。
「ま、会うくらいなら怒られないよ。きっと」
「うん」
「あんまり怖がらないで、今までの繋がり大事にしてね」
「……うん」
「なにかあれば、絶対助けるから言って」
「分かった」
はなまる!そう言って両頬を包んで撫で回した。ようやく莉子ちゃんが笑う。いつだって笑っていて、その笑顔のために俺は。
『元通り、なんて、一度傷をつけたらあり得ないのは分かっているでしょう?』
帰り道、蓮さんから返信が来ていた。
『未来に進むのが、怖くなったの?莉子だって変わっていくのよ。いつまでも貴方が思うような子じゃないかもしれない』
文字を目で追いながら思う。それでも俺は変わらないなにかを莉子ちゃんに求めてる。
『貴方の都合を、押し付けないで』
耳が痛い。蓮さん怒ってるなぁ。なんて返そうか。ぼんやりとする。この時間を愛している。
あれから莉子ちゃんが落ち込んで、一度部屋に行ったけれど。なおもなかなか、元の笑顔に戻る未来が遠くて。9月になり、心なしか風は涼しくなった。あまりしつこく連絡をするのは避けていたが、どうしたって俺が寂しくて。あの日のせいで会えなくなるなら、やっぱり後悔になってしまうだろう。後悔にしないために、会って話をしなくては。
(その前に、情報収集)
蓮さんに、それとなく莉子ちゃんの様子をメールで聞いてみた。小一時間ほどして、返信が来る。
『男性に会うのが怖いって。弓場君に怒られるんじゃないかって思うそうよ。でも、弓場君から連絡がくるのも怖いから、誰にも会ってないみたい』
それじゃ、莉子ちゃんは閉じこもりっきりじゃないか。閉ざされてしまう。でもどうしたらいい。完全に俺のせいなわけで。
『貴方達がなにを考えてるのかは知らないけど、あんまり莉子を追い詰めたりしないで』
わぁ、蓮さん怒ってるなこれ。怒ってるでしょ。合掌して返信する。
『ごめんなさい!必ず元通りにするから』
さて、状況は分かった。連絡したら、会ってくれるだろうか。弓場ちゃんに見つからない時間なら、どうだろう。今かな。今は正午を過ぎた頃、弓場隊は午後から任務だったはず。メールをしてみると、すぐに返信が来る。
『いつもの公園でいい?』
いいよ、と返して公園へ向かう。すぐには来ないかもしれないけれど、別に待っていられる。空が高く感じられ、いわし雲が青を彩っている。ぼんやりとしていた。君のことを想う間、他のことを忘れていられる。だから君のことが好きだ。不自由で俺を守ってくれるから、好きなんだ。俺の隣で莉子ちゃんが泣く未来が視えて、そっと目を閉じて覚悟をした。狼狽えずに優しくあれるように。
「ごめん、待った?」
「全然。急にごめんね」
莉子ちゃんはTシャツにチノパンのラフな格好でやってきた。少し猫背気味で、顔は浮かない。ベンチの隣を叩けば、おずおずと座った。髪を撫でてやる。お風呂には入れているようで、こないだ会った時よりはマシなことが分かる。
「最近、どう?具合悪そうだけど」
「うーんちょっと改善しそうだけど、もうしばらくしんどいかも」
「改善の兆しがあった?」
「うんと、拓磨と会って、連絡が怖いって伝えられた」
「連絡が怖い?」
「怒られた時を思い出しちゃって」
莉子ちゃんの声が小さくなる。丸まった背中を撫でてやる。莉子ちゃんはあんなに大胆に人を励ましたり、思い切ったような笑顔を見せるのに、こんなにも繊細なのだと改めて思い知る。安心していた場所が壊れるだけで、この子は生活が出来なくなるんだ。
「迅と会うのも、他の人と会うのも、怒られるかもって思うと怖くて」
「うん」
「なにも出来なくて、しんどい」
莉子ちゃんはポロポロと泣き出した。ハンカチを忘れたことに気づいて、仕方なく指で涙を拭う。莉子ちゃんは、されるがままにしていた。
「前にも言ったけど。莉子ちゃんが、会いたいと思う人に会えばいいんだよ」
「うん」
「俺がどう思うとか、弓場ちゃんがどう思うとか。関係ないんだよ」
「うん」
「それで怒るやつがいるなら、俺が代わりに言い返してあげるから」
「うん……」
莉子ちゃんはなにか言いたそうで、俺は顎と頬に触れて顔をゆすった。莉子ちゃんはうーと唸る。
「喧嘩も、しないでほしい」
「そうだね、嫌だよね」
「うん……弱くてごめんなさい」
莉子ちゃんが俯いて塞ぎ込もうとするのを、無理やり肩を引き寄せて胸に収めた。ゆるく抱きしめて、黙って背中と頭を撫でる。俺が忘れてしまったもの、どこかに置いてきたもの、まだこの子は持っている。それを尊いと思う。
「そのままでいいよ」
莉子ちゃんはもぞもぞと動くけど、俺を突き返すことも出来ずに。やんわりと胸あたりの布を掴む。
「そのままでいてよ、なにも悪くなんてないんだよ。莉子ちゃんは悪くない」
「うん」
「素直なままでいて。辛い時は辛いって言っていいから」
「うん」
莉子ちゃんが頭を俺の胸に押し付けるから、一度強く抱きしめた。頭を撫でて、身体を離す。まだ泣いているから、服の袖を優しく押し付けた。
「俺は莉子ちゃんといたいけど、莉子ちゃんが会いたくないって言うなら、会わないから」
「会いたい。迅といたい」
またしゃくりあげて泣くから、あんまりにも可愛くて。俺はへにゃ、と情けない笑顔になる。そりゃこんな素直で可愛い子、誰だって側に置きたくなるでしょ。ずっと見ていたいよ、笑顔にしたいよ。わしゃわしゃと頭を乱暴に撫でた。莉子ちゃんが俺の手を掴んで、合わせたり握り込んだりして遊ぶ。小さくて温かい手。
「弓場ちゃんが怒っても放っておこう」
「……怒らせたくないの」
「じゃあ内緒にする?」
「嫌われたくない……」
「んー多分あいつは莉子ちゃんのこと嫌いにはならないと思うけど」
「そうかなぁ」
いっそのこと、嫌いになってくれればいいんだけどね。多分、無理そうなんだ。莉子ちゃんも嫌いになりたくないって言うんだから、仕方ないけど。莉子ちゃんが号泣している未来は消えない。どうにかしなくちゃ。
「ま、会うくらいなら怒られないよ。きっと」
「うん」
「あんまり怖がらないで、今までの繋がり大事にしてね」
「……うん」
「なにかあれば、絶対助けるから言って」
「分かった」
はなまる!そう言って両頬を包んで撫で回した。ようやく莉子ちゃんが笑う。いつだって笑っていて、その笑顔のために俺は。
『元通り、なんて、一度傷をつけたらあり得ないのは分かっているでしょう?』
帰り道、蓮さんから返信が来ていた。
『未来に進むのが、怖くなったの?莉子だって変わっていくのよ。いつまでも貴方が思うような子じゃないかもしれない』
文字を目で追いながら思う。それでも俺は変わらないなにかを莉子ちゃんに求めてる。
『貴方の都合を、押し付けないで』
耳が痛い。蓮さん怒ってるなぁ。なんて返そうか。ぼんやりとする。この時間を愛している。