序章/プロトタイプ
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誘ってくれた人※ボツ
「莉子さん、お疲れ様です」
「あ、鋼くんだ。お疲れ〜」
本部に来る時は、必ず一声かけたくて、莉子さんを探す。今日はラウンジにいた。莉子さんは珍しくお茶じゃなくて、ミックスジュースを口にしている。
「最近どう?」
「おかげさまで楽しいですよ」
「そりゃよかった」
莉子さんは嬉しそうに微笑む。莉子さんは楽しそうに俺の話を聞いてくれるので、ついついいろいろと話してしまう。
「こないだ荒船に怒られました」
「へー珍しい」
「自分はすぐ自惚れるんだなと思いました」
少し人より器用なくらいで、あれこれと周りの目を気にして。人より出来ることを恐れて、眠るのが怖くなったり、部屋の片隅で泣いてみたり。
「自分に自信を持つのは悪いことじゃないよ」
「……もっと強くなりたいです」
来馬先輩の言葉で、素直にそう思えるようになった。俺の言葉に、莉子さんは目を丸くする。
「……太刀川さんくらい?」
ゆっくり頷くと、莉子さんは視線を飛ばして思案した後、納得したように笑った。
「そっか。じゃあ戦うの楽しみにしてるね」
今度は俺が驚く番だった。一瞬、莉子さんと戦うことに繋がらなかった。でも、太刀川さんを目指すということは、太刀川隊のこの人とも戦うということだ。
「鈴鳴第一がA級になるの、楽しみだなぁ」
莉子さんがカラカラ笑う。目標まで、まだまだたくさんの壁があることに気付く。俺が心配するほど、世界は狭くないし脆くない。それを改めて実感する。
「三門に来て、やりたかったこと出来てる?」
「……はい」
感謝を込めて、返事をする。俺を三門に連れてきたのはこの人だから。
「そっか!」
やっぱり、莉子さんの笑顔は綺麗だと思う。初めて会った時と変わらない。
『誰かのためになにか出来る奴が、一番偉いよ』
あの時貴方は少し苛立ちを見せながらそう言った。そして次の瞬間には笑って、
『なにもしてない輩の言うことなんて、気にする必要ない』
と、俺を三門に誘った。そう言い切る貴方がカッコよく見えて、俺は三門に行くことを決めた。
「私も強くならないとな〜」
莉子さんがひとつ伸びをする。ジュースは飲み終わったようだ。ラウンジを出て、個人ランク戦のブースの方へ歩く。何気なしに、ついていく。
「お?ランク戦やる?」
「相手してくれます?」
「私なんかでよければ」
莉子さんは頭ひとつ分、俺より背が低いけれど。その横顔は、凛々しくカッコよく見えた。莉子さんについてきて、俺は幸せだ。
馬鹿正直な人
背中に感情が刺さる。その感触だけで誰だかすぐ分かる。俺には造作もないことだけど、特に莉子さんのは分かりやすい。振り向けば、俺を見つけた莉子さんがひらりと、手を振っていた。
「影くん、ちっす」
「うす」
軽く頭を下げる。どちらともなく、廊下の端に寄って与太話をする。莉子さんは、よく笑う人ではない。どっちかといえば、ポーカーフェイスで表情筋は固い。でも、笑った顔が印象に残りやすい人だから、多分周りにそういう風には思われてない。
「また影くんとこで漫画読みたいな。影浦隊室居心地良くて」
「いいっすよ」
二つ返事で答えれば、莉子さんは少し微笑んだ。刺さる感情はまっすぐで、裏表なんて存在しなくて、優しかった。あまりにも子供みたいに純粋なので、俺が莉子さんの特別なのかと混乱した時がある。しばらく様子を観察して、この人は誰にでもそうなのだと知った。それが分かった時に、俺はこの人が心配になった。そんな馬鹿正直な生き方、擦り減るばかりで傷つくだけだ。
「最近は、どうなんすか」
俺の問いかけに、莉子さんは少し動きを止めた。莉子さんはちょっと遠くを見つめて、誤魔化すように笑いながら。
「んーぼちぼち」
いつ聞いても、大体答えはぼちぼち。上手くいってる時でも満足しないし、落ち込んでる時には心配をかけまいと無理をする。サイドエフェクトがなくたって、この人のそんな誤魔化しくらい、見抜けてしまう。分かりやすい人だ。
「無理したらダメっすよ」
「ん。ありがと」
それから、しばらく黙って隣にいた。莉子さんの隣は、心地が良かった。サイドエフェクトのこととか、面倒くさい人間関係のことを忘れていられた。……この人の周りと関わると、それはそれで面倒くさいが。莉子さん自身と、一対一の関係は、好ましかった。
「影くんの隣、落ち着くんだよね」
莉子さんがぽつりと、そう溢した。嘘や世辞ではなかった。この人たらし。心の中でぼやく。この人の恐ろしいところは、誰に対してもこんな温かい感情を刺すんだろうというとこ。きっとそのどれもが嘘ではないところ。
「……人に優しくすんの、疲れねぇか?」
「私優しくなんてないよ」
その言葉にも、含みすらなかった。なにがこの人をこんな風にしたんだろう。掛け値のない優しさが少し眩しくて、ほんの少し悲しいのだ。
「そろそろ行こうかな。またね、影くん」
「おう」
気をつけて。そんな言葉は飲み込んで。俺にとって莉子さんは、どこか寂しさや切なさを思い起こす、馬鹿正直で不思議な人だ。
歳下師匠※ボツ
「莉子さん、俺の弟子になってください」
「…………弟子にしてください、じゃなく?」
哲次くんは、最近狙撃手に転向した。噂とかいろいろあるみたいだけど興味がない。哲次くんが元気そうなら、私が言うことはなにもない。ラウンジで声をかけられて、適当に座って話していた。急に真面目な顔になったと思えば、弟子になってくれと。
「莉子さんを完璧万能手に育ててみせます」
「うーん」
やってみたい気持ちはある。でも、やりたいという情熱だけで手を出すと、痛い目を見ることのが多い。後輩に失望されるのは怖いし。哲次くんスパルタそうだし。答えを濁してお茶を飲む。哲次くんは視線を逸らさない。
「莉子さん、絶対なれると思うんすよ」
「なれなかったら?」
「そん時は、俺の教え方が悪い」
私の要領が悪いと思うんだけどなぁ。ついていく自信ないなぁ。
「らしくないっすね。正直、二つ返事でオッケーくれると思ってました」
「……なんかごめん」
「別にいいけど。了解もらうまで粘るだけなんで」
あくまで押し通すつもりなのか。本当、この子頑固だな。
「……私より適任、いっぱいいるんじゃないの?」
「いないっすね」
「買い被られたもんだなぁ……」
「じゃあはっきり言っときますけど。莉子さんが不器用で出来ない人だからお願いしてるんですよ」
不器用で出来ない人。本当にはっきり言うじゃないか。事実だからショックを受けても仕方ないけど、二の句を継げずに次の言葉を待った。
「莉子さんみたいな人を完璧万能手に出来てこそ、俺の理論が意味を持つ」
迷いのない瞳に、ため息が出た。私がなにを言っても、折れることはなさそうだ。抵抗するだけ、時間の無駄か。
「……分かった。いいよ。好きに試したらいい」
「ありがとうございます!」
「その代わり、私気分屋だから。出来ない時は出来ないからね」
「分かってます」
またひとつ、背負うものが増えた。あまり多くは背負えないのに、どうして増えていくのだろうか。人は誰しも、身に余るものを抱えて取りこぼす。私とて、例外ではないのに。
「で、なにをしたらいい?師匠」
それでも、少し笑っておどけてみせる。どうせやるなら、とことんだ。哲次くんは少しきょとんとした後、にやりと笑ってみせた。
「じゃあ早速、訓練室入ってもらえます?」
「了解。お手柔らかに」
少し奇妙な師弟関係。人との繋がりは大事にしたい。私にとっても、哲次くんにとっても、良い関係と言えるように頑張っていこう。
ゲームはポケモンしか出来ない
「莉子さん、帰る前にポケモン勝負してよ」
哲次くんの特訓に付き合って、荒船隊隊室を訪れていた。訓練室を出ると、義人くんにポケモン勝負をせがまれる。トリオン体とはいえ、疲れは出てたけど。
「いいよ〜、一応持ってきたし」
義人くんがいるならポケモンをするだろうと、Switchは持ってきている。取り出して、適当に椅子に腰掛けて向かい合った。ゲームを起動し、慣れた手つきでお互い操作する。義人くんは事前にてもちを決めてきたようで、さっさと待機画面に移ってしまった。
「そこで悩んでもしょうがないっすよ」
「いやそうだけどさ〜どの子連れていきたいかなって」
義人くんが急かすので、少し急いでてもちを選ぶ。お互いのポケモンが開示されて、今度は3匹対戦するポケモンを選出する。
(サダイジャがいる……砂パかな?)
義人くんのてもちはバランスがよく見える。でもゴーストいないし、かくとう刺さってそう。チヲハウハネ連れていこう。アメモース先発かな。ひこう来たら死ぬから最後はカジリガメにしておこう。義人くんと私がポケモンを選出し終わったのは同時くらいだった。画面がバトルフィールドに変わる。お互いに最初のポケモンを繰り出す。やっぱりサダイジャか。
「アメモースか……出し負けてないか?」
「引いてもいいよ」
アメモースはハイドロポンプも覚える。サダイジャに撃てばこうかはばつぐん。交換もあり得るし、すなはきに突っ張ってくる可能性もある。とりあえず優位気味な対面だと思うので、仕事をする。
「うわ、ねばねばネットだる」
「言うと思った」
ポケモン勝負は、基本こちらのやりたいことを押し付けた方が勝つ。義人くんの技選択は、へびにらみだった。アメモースがまひする。
(ここどうするかな……)
さっさとサダイジャを落としにかかった方がよさそうだが、サダイジャが交代するならこのタイミングだと思う。どうせ先制は出来ない。アメモースは一度引いた方がよさそう。カジリガメと交代を選択した。予想通り、サダイジャは引いた。出てきたのはグレンアルマ。
「嘘でしょ、なんで引いてんの」
「おしおし、優位対面」
「マジかよ、マジだるい」
義人くんは次なにしてくるかな。テラスタル、切りそうか。義人くんのてもちを確認する。みずより、あくのが通りいいな。かみくだくを選択する。こっちもテラス切っとくか。一応、グレンアルマにエナジーボールはあるし。悪テラスを切って、最大火力で倒しちゃおう。
「うわ、そっちも切んの。なにになる気だよ」
義人くんも私も、テラスタルを切った。グレンアルマはエスパータイプに、カジリガメはあくタイプに。義人くんは頭を抱える。
「うわー。うわー……」
「ご愁傷様です。お覚悟」
グレンアルマのエナジーボールを耐え、カジリガメのかみくだくが炸裂する。耐えるわけもなく。粉砕完了。
「さあさあ、次の生贄を出したまえ」
「まだ負けてないっすよ……」
声に元気はないが、義人くんは勝負を投げなかった。だから、油断せずにゲームを続ける。サダイジャの攻撃をアメモースで避けながら、やっぱりいたアーマーガアに苦戦して、2体持っていかれたが最後はチヲハウハネが頑張ってくれた。なんだかんだ、辛勝か。
「あっぶ。勝った」
「負けたか〜!」
義人くんは思いっきりソファに横になった。序盤の読みは冴えてて、自分でもテンションが上がったが、後半は結構危なかったな。やっぱりアーマーガアは強い。
「本当、莉子さんポケモンは強いですよね。他のゲーム全然だけど」
「ポケモンはターン制のコマンドゲームだから良い」
アクション系は大の苦手。よくて任天堂のパーティゲームまでだ。マリオカートでもかなり厳しい。
「……もっかい、お願いします」
「おっけおっけ。もうひと勝負しよう」
義人くんは負けず嫌いだ。ポケモンは私が少し勝ち越している。だから、毎回会えばポケモン勝負をしている。ちゃんとした読み合いの出来る相手だから、私も勝負していて楽しい。
「莉子さん、お疲れ様です」
「あ、鋼くんだ。お疲れ〜」
本部に来る時は、必ず一声かけたくて、莉子さんを探す。今日はラウンジにいた。莉子さんは珍しくお茶じゃなくて、ミックスジュースを口にしている。
「最近どう?」
「おかげさまで楽しいですよ」
「そりゃよかった」
莉子さんは嬉しそうに微笑む。莉子さんは楽しそうに俺の話を聞いてくれるので、ついついいろいろと話してしまう。
「こないだ荒船に怒られました」
「へー珍しい」
「自分はすぐ自惚れるんだなと思いました」
少し人より器用なくらいで、あれこれと周りの目を気にして。人より出来ることを恐れて、眠るのが怖くなったり、部屋の片隅で泣いてみたり。
「自分に自信を持つのは悪いことじゃないよ」
「……もっと強くなりたいです」
来馬先輩の言葉で、素直にそう思えるようになった。俺の言葉に、莉子さんは目を丸くする。
「……太刀川さんくらい?」
ゆっくり頷くと、莉子さんは視線を飛ばして思案した後、納得したように笑った。
「そっか。じゃあ戦うの楽しみにしてるね」
今度は俺が驚く番だった。一瞬、莉子さんと戦うことに繋がらなかった。でも、太刀川さんを目指すということは、太刀川隊のこの人とも戦うということだ。
「鈴鳴第一がA級になるの、楽しみだなぁ」
莉子さんがカラカラ笑う。目標まで、まだまだたくさんの壁があることに気付く。俺が心配するほど、世界は狭くないし脆くない。それを改めて実感する。
「三門に来て、やりたかったこと出来てる?」
「……はい」
感謝を込めて、返事をする。俺を三門に連れてきたのはこの人だから。
「そっか!」
やっぱり、莉子さんの笑顔は綺麗だと思う。初めて会った時と変わらない。
『誰かのためになにか出来る奴が、一番偉いよ』
あの時貴方は少し苛立ちを見せながらそう言った。そして次の瞬間には笑って、
『なにもしてない輩の言うことなんて、気にする必要ない』
と、俺を三門に誘った。そう言い切る貴方がカッコよく見えて、俺は三門に行くことを決めた。
「私も強くならないとな〜」
莉子さんがひとつ伸びをする。ジュースは飲み終わったようだ。ラウンジを出て、個人ランク戦のブースの方へ歩く。何気なしに、ついていく。
「お?ランク戦やる?」
「相手してくれます?」
「私なんかでよければ」
莉子さんは頭ひとつ分、俺より背が低いけれど。その横顔は、凛々しくカッコよく見えた。莉子さんについてきて、俺は幸せだ。
馬鹿正直な人
背中に感情が刺さる。その感触だけで誰だかすぐ分かる。俺には造作もないことだけど、特に莉子さんのは分かりやすい。振り向けば、俺を見つけた莉子さんがひらりと、手を振っていた。
「影くん、ちっす」
「うす」
軽く頭を下げる。どちらともなく、廊下の端に寄って与太話をする。莉子さんは、よく笑う人ではない。どっちかといえば、ポーカーフェイスで表情筋は固い。でも、笑った顔が印象に残りやすい人だから、多分周りにそういう風には思われてない。
「また影くんとこで漫画読みたいな。影浦隊室居心地良くて」
「いいっすよ」
二つ返事で答えれば、莉子さんは少し微笑んだ。刺さる感情はまっすぐで、裏表なんて存在しなくて、優しかった。あまりにも子供みたいに純粋なので、俺が莉子さんの特別なのかと混乱した時がある。しばらく様子を観察して、この人は誰にでもそうなのだと知った。それが分かった時に、俺はこの人が心配になった。そんな馬鹿正直な生き方、擦り減るばかりで傷つくだけだ。
「最近は、どうなんすか」
俺の問いかけに、莉子さんは少し動きを止めた。莉子さんはちょっと遠くを見つめて、誤魔化すように笑いながら。
「んーぼちぼち」
いつ聞いても、大体答えはぼちぼち。上手くいってる時でも満足しないし、落ち込んでる時には心配をかけまいと無理をする。サイドエフェクトがなくたって、この人のそんな誤魔化しくらい、見抜けてしまう。分かりやすい人だ。
「無理したらダメっすよ」
「ん。ありがと」
それから、しばらく黙って隣にいた。莉子さんの隣は、心地が良かった。サイドエフェクトのこととか、面倒くさい人間関係のことを忘れていられた。……この人の周りと関わると、それはそれで面倒くさいが。莉子さん自身と、一対一の関係は、好ましかった。
「影くんの隣、落ち着くんだよね」
莉子さんがぽつりと、そう溢した。嘘や世辞ではなかった。この人たらし。心の中でぼやく。この人の恐ろしいところは、誰に対してもこんな温かい感情を刺すんだろうというとこ。きっとそのどれもが嘘ではないところ。
「……人に優しくすんの、疲れねぇか?」
「私優しくなんてないよ」
その言葉にも、含みすらなかった。なにがこの人をこんな風にしたんだろう。掛け値のない優しさが少し眩しくて、ほんの少し悲しいのだ。
「そろそろ行こうかな。またね、影くん」
「おう」
気をつけて。そんな言葉は飲み込んで。俺にとって莉子さんは、どこか寂しさや切なさを思い起こす、馬鹿正直で不思議な人だ。
歳下師匠※ボツ
「莉子さん、俺の弟子になってください」
「…………弟子にしてください、じゃなく?」
哲次くんは、最近狙撃手に転向した。噂とかいろいろあるみたいだけど興味がない。哲次くんが元気そうなら、私が言うことはなにもない。ラウンジで声をかけられて、適当に座って話していた。急に真面目な顔になったと思えば、弟子になってくれと。
「莉子さんを完璧万能手に育ててみせます」
「うーん」
やってみたい気持ちはある。でも、やりたいという情熱だけで手を出すと、痛い目を見ることのが多い。後輩に失望されるのは怖いし。哲次くんスパルタそうだし。答えを濁してお茶を飲む。哲次くんは視線を逸らさない。
「莉子さん、絶対なれると思うんすよ」
「なれなかったら?」
「そん時は、俺の教え方が悪い」
私の要領が悪いと思うんだけどなぁ。ついていく自信ないなぁ。
「らしくないっすね。正直、二つ返事でオッケーくれると思ってました」
「……なんかごめん」
「別にいいけど。了解もらうまで粘るだけなんで」
あくまで押し通すつもりなのか。本当、この子頑固だな。
「……私より適任、いっぱいいるんじゃないの?」
「いないっすね」
「買い被られたもんだなぁ……」
「じゃあはっきり言っときますけど。莉子さんが不器用で出来ない人だからお願いしてるんですよ」
不器用で出来ない人。本当にはっきり言うじゃないか。事実だからショックを受けても仕方ないけど、二の句を継げずに次の言葉を待った。
「莉子さんみたいな人を完璧万能手に出来てこそ、俺の理論が意味を持つ」
迷いのない瞳に、ため息が出た。私がなにを言っても、折れることはなさそうだ。抵抗するだけ、時間の無駄か。
「……分かった。いいよ。好きに試したらいい」
「ありがとうございます!」
「その代わり、私気分屋だから。出来ない時は出来ないからね」
「分かってます」
またひとつ、背負うものが増えた。あまり多くは背負えないのに、どうして増えていくのだろうか。人は誰しも、身に余るものを抱えて取りこぼす。私とて、例外ではないのに。
「で、なにをしたらいい?師匠」
それでも、少し笑っておどけてみせる。どうせやるなら、とことんだ。哲次くんは少しきょとんとした後、にやりと笑ってみせた。
「じゃあ早速、訓練室入ってもらえます?」
「了解。お手柔らかに」
少し奇妙な師弟関係。人との繋がりは大事にしたい。私にとっても、哲次くんにとっても、良い関係と言えるように頑張っていこう。
ゲームはポケモンしか出来ない
「莉子さん、帰る前にポケモン勝負してよ」
哲次くんの特訓に付き合って、荒船隊隊室を訪れていた。訓練室を出ると、義人くんにポケモン勝負をせがまれる。トリオン体とはいえ、疲れは出てたけど。
「いいよ〜、一応持ってきたし」
義人くんがいるならポケモンをするだろうと、Switchは持ってきている。取り出して、適当に椅子に腰掛けて向かい合った。ゲームを起動し、慣れた手つきでお互い操作する。義人くんは事前にてもちを決めてきたようで、さっさと待機画面に移ってしまった。
「そこで悩んでもしょうがないっすよ」
「いやそうだけどさ〜どの子連れていきたいかなって」
義人くんが急かすので、少し急いでてもちを選ぶ。お互いのポケモンが開示されて、今度は3匹対戦するポケモンを選出する。
(サダイジャがいる……砂パかな?)
義人くんのてもちはバランスがよく見える。でもゴーストいないし、かくとう刺さってそう。チヲハウハネ連れていこう。アメモース先発かな。ひこう来たら死ぬから最後はカジリガメにしておこう。義人くんと私がポケモンを選出し終わったのは同時くらいだった。画面がバトルフィールドに変わる。お互いに最初のポケモンを繰り出す。やっぱりサダイジャか。
「アメモースか……出し負けてないか?」
「引いてもいいよ」
アメモースはハイドロポンプも覚える。サダイジャに撃てばこうかはばつぐん。交換もあり得るし、すなはきに突っ張ってくる可能性もある。とりあえず優位気味な対面だと思うので、仕事をする。
「うわ、ねばねばネットだる」
「言うと思った」
ポケモン勝負は、基本こちらのやりたいことを押し付けた方が勝つ。義人くんの技選択は、へびにらみだった。アメモースがまひする。
(ここどうするかな……)
さっさとサダイジャを落としにかかった方がよさそうだが、サダイジャが交代するならこのタイミングだと思う。どうせ先制は出来ない。アメモースは一度引いた方がよさそう。カジリガメと交代を選択した。予想通り、サダイジャは引いた。出てきたのはグレンアルマ。
「嘘でしょ、なんで引いてんの」
「おしおし、優位対面」
「マジかよ、マジだるい」
義人くんは次なにしてくるかな。テラスタル、切りそうか。義人くんのてもちを確認する。みずより、あくのが通りいいな。かみくだくを選択する。こっちもテラス切っとくか。一応、グレンアルマにエナジーボールはあるし。悪テラスを切って、最大火力で倒しちゃおう。
「うわ、そっちも切んの。なにになる気だよ」
義人くんも私も、テラスタルを切った。グレンアルマはエスパータイプに、カジリガメはあくタイプに。義人くんは頭を抱える。
「うわー。うわー……」
「ご愁傷様です。お覚悟」
グレンアルマのエナジーボールを耐え、カジリガメのかみくだくが炸裂する。耐えるわけもなく。粉砕完了。
「さあさあ、次の生贄を出したまえ」
「まだ負けてないっすよ……」
声に元気はないが、義人くんは勝負を投げなかった。だから、油断せずにゲームを続ける。サダイジャの攻撃をアメモースで避けながら、やっぱりいたアーマーガアに苦戦して、2体持っていかれたが最後はチヲハウハネが頑張ってくれた。なんだかんだ、辛勝か。
「あっぶ。勝った」
「負けたか〜!」
義人くんは思いっきりソファに横になった。序盤の読みは冴えてて、自分でもテンションが上がったが、後半は結構危なかったな。やっぱりアーマーガアは強い。
「本当、莉子さんポケモンは強いですよね。他のゲーム全然だけど」
「ポケモンはターン制のコマンドゲームだから良い」
アクション系は大の苦手。よくて任天堂のパーティゲームまでだ。マリオカートでもかなり厳しい。
「……もっかい、お願いします」
「おっけおっけ。もうひと勝負しよう」
義人くんは負けず嫌いだ。ポケモンは私が少し勝ち越している。だから、毎回会えばポケモン勝負をしている。ちゃんとした読み合いの出来る相手だから、私も勝負していて楽しい。