お化け事件(アリネイ)
※こちらは本編アリア初登場回とネイリン登場回の間に起きた出来事でのお話です。
「そんでよ、不思議に思いながらも男は宿屋のベットで眠りつくわけよ」
バクバクと。心臓の音がやけにうるさく鼓膜を響かせる。
「ヒタ、ヒタ。そんな音で男は目を覚ます」
カチ、カチ、カチと。時計の秒針音さえ恐ろしく。ネイリンは無意識に固唾を飲む。
「男はゆっくりとまぶたを開け……“ソレ”と目があっちまった」
ゆらゆらと揺れる蝋燭を凝視しながら、ネイリンは喉元から溢れそうな声をなんとか抑え込む。
「黒く……ながーいながーい髪を揺らした女。女は目を血走らせながら男を見て凄まじい力で男の首を締めあげ言うんだ」
スッ、と。ジャスティオはゆっくりとした動作で立ち上がり、
「次はお前だあ!!」
「ぎゃああああああああああッ!!!!!」
ネイリンの叫び声がギルドの一室で響く。
ガクガクと全身を震わせ涙目のネイリンを意地悪そうな笑顔で見やり、ジャスティオは更に続ける。
「因みに、この話はここで終わりじゃねぇ」
「へ……? ま、まだあるの……!?」
「クックックッ……! 寧ろこれを話さなきゃこの話の醍醐味が終わらねぇぜ!」
「な、なんだよう……!」
「……実はな、この話を聞いた奴は……その日の夜に女に絞殺されるんだ!!」
「ふぬああああああッ!!!!」
バンッ!! と。
ネイリンの二度目の叫び声と同時に、勢いよくアリアが部屋に乱入して
くる。
「どうしたのネイリン!?」
ガタガタと隅で震えていたネイリンだったが、アリアの姿を見ると、素早い動きでしがみついた。
そんなネイリンをアリアは優しく撫で、落ち着かせようとする。
「うわあああああん!! 単細胞がネイリンを殺すってえええええ!」
「……は?」
スゥ、と。アリアは一瞬表情を消す。しかしすぐさま笑みを浮かべてジャスティオを見やる。
「……これはどういうことですかジャスティオさん」
「い、いや俺はただその……チビ熊に怖い話を聞かせてただけで他はなんもしちゃいねぇよ……!」
「うう女ああ~! 女がやってくるんだぞおおお! ううううう!!」
「あっ、おい!! 余計なこと言うなって……!」
ぎゅうっと。
ネイリンは更に強い力でアリアにしがみつく。
そんなネイリンの様子に、ジャスティオはいよいよまずいと思ったのか、顔色を青くさせる。
「お、おっと! そういえば急用を思い出したぜ! またな!!」
そう言い、ジャスティオは脱兎の如く部屋から出て行ってしまった。
「あっ! ちょっと……!」
バタンッ、と。アリアの静止を無視し、ジャスティオは扉を閉めて行ってしまった。
そのことにアリアは心の中でイラつきながらも、泣いているネイリンに視線を戻した。
「うう……女ぁ……女が来るんだぁ……!」
「落ち着いてネイリン。大丈夫、僕が傍にいるから」
「ふぬぅ……アリア……」
「ね、大丈夫だから。一体どういうことか説明してくれると嬉しいな」
優し気な声でそう言うアリアに、ネイリンは少しずつ落ち着かされる。
そして息を整え、ゆっくりとネイリンは口を開いた。
「……女が……女が夜にネイリンのところに来て……ネイリンを殺すんだぞ……」
「?? どういうこと?」
「単細胞が言ってたんだ……! 女の話を聞いたら次の標的にされるって……!
だからネイリンは今日の夜お化けに殺されるんだぁ! うわあああああん!!」
ボロボロと涙を流すネイリンにふざけた様子はなく。
アリアはジャスティオに対するイラ立ちを募らせる。
はぁ……ジャスティオさんは本当にデリカシーの欠片もないな……。
純粋なネイリンに怪談話をするなんて何を考えているんだか……。
それにしても、幽霊なんかよりずっとネイリンの方が強いと思うのに……ふふっ。可愛いなぁもう。
そんなことを思いつつ、アリアはネイリンの背をさすり続ける。
「ネイリンは殺されないよ。大丈夫。お化けなんてこないから」
「ほ、本当か……?」
「うん、本当だよ」
「う……な、なら信じ……」
そう言いかけて。ネイリンは言葉に詰まる。
「うわあああん!! やっぱ怖いぞおおお!!
ネイリン怖くて夜一人で寝れないいい!!
お願いだアリアぁ! ネイリンと一緒に寝てぇぇ!!」
「わっ」
スリスリと。ネイリンはアリアにしがみつきながら泣き喚く。
え、え、いっ一緒に……!????
そ、それは……ど、どうなんだろう……??
……でもこんなに泣いてるネイリンを一人にするのもなぁ。
多分このまま一人で寝かせたら一晩中震えて眠れないよね…?
「……分かったよ。今日は一緒に寝ようかネイリン」
「!! いいのか!? 絶対、絶対だからな!? 約束したぞ!!」
「はいはい大丈夫。嘘なんかつかないよ」
「うう……! し、信じるからな……!」
「あはは。ありがとう。……ふふっ本当にネイリンは可愛いなぁ」
可愛い。
そうアリアに言われ、ネイリンは真っ赤になって硬直する。
か、かわ……!? ぐうアリアのやつーー!!
す、すぐネイリンのこと可愛いって言って……!! そ、そんな軽々しく可愛いなんて言うんじゃないぞう……!!
ネ、ネイリンは全然!! これっぽっちも嬉しくないし!! 動じないけど!!
「!! か、可愛い……!? そ、そんなお世辞言われたってう、嬉しくなんてないんだからなカマ野郎っ!!」
「ちょ、誰がカマ野郎だ! この生意気こぐまめっ」
ぐにっ、と。アリアは軽くネイリンの頬をつねる。
「い、いひゃいぞアリアっ」
「ネイリンが僕の事カマ野郎なんて言うからでしょ、もう」
そう言いつつも、アリアはネイリンの頭を撫でて宥める。
どんなに生意気を言ってもアリアにはネイリンは可愛いのだ。
そうしてそのまま二人はネイリンの部屋へと行くこととなった。
***
ネイリンの部屋に着くと、ネイリンは急いで部屋の中を見渡し始めた
「よ、よし……! とりあえずパッと見た感じ女はいないぞ……!」
「ちょ、ネイリン? あの、本当に大丈夫だからね? この部屋に幽霊なんていないって!」
「ダメだダメだ! ちゃんと全部確認するまではネイリンは安心できない……!」
そういうがその足は震えており。そんなネイリンの頭を、アリアは優しく撫でる。
「うううう……! お願いアリアぁ一緒に探してくれぇ!」
「え、ゆ、幽霊を……?」
「だ、だってもうこの部屋に潜んでてネイリンの隙を伺っているかもしれないんだぞうううう!!」
「そ、それはないんじゃないかな? 僕もネイリンもそこまで気配に鈍感じゃないし……」
「アリアは女の怖さを舐めているぞ!!
あ、あいつは幽霊なんだから気配とか感じとれないんだ……!」
「そう……なのかな……??」
「そうなんだぞ!! 絶対そうだぞ!! お願いアリアぁ!!
ネイリン怖くてお風呂も入れないいいい!!」
『ネイリン…わかったよ。だから泣かないで?」
「うぅ……アリアぁ……!」
そうして二人はネイリンの部屋を散策することになったのだが。
いや……冷静に考えると結構まずくない……??
え、だってここってネイリンの部屋……だよね……? こんな時間に年頃の女の子の部屋にいるだけでどうかと思うのに、じっくり見て回るなんて……。
え、逆にネイリンはいいのかな??
僕……全然男だと思われていない……?
悶々と。アリアはネイリンの部屋を見て回りながら思考にふけっていた。
「ア……アリアぁ……!! ククっクローゼットの中を確認してほしいんだぞぅ……!」
「うんわか……えっ!?」
「だ、だってクローゼットって一番隠れやすいんだ……! でもネイリンいきなり出てきたら絶対心臓止まっちゃうからアリアが開けてほしいんだぞ……!!」
「え、あ、いや……! ネ、ネイリンはそれでいい……の?」
「寧ろ開けないと怖くて眠れないんだぞ!!」
ネイリンのまさかの提案に、アリアは更に戸惑う。
え、ク、クローゼットを開けてほしい……!?
クローゼットってネイリンの服とか入ってるんだよね……?
いや服はセーフ……かな? うん。大丈夫大丈夫……! 下着が入ってるわけじゃないんだし。
「わ、わかったよ。僕に任せて」
「 ありがとうアリア!!」
「じゃあ……開けちゃうね?」
ガチャ、と。アリアは平静を装ってクローゼットを開け放つ。
そこにはネイリンの服や上着がハンガーにかかっているだけで、女の影は何もなかった。
「ほら、誰もいないでしょ?」
「ふう……! よ、よかった……!!」
安堵するネイリンを見て、アリアはホッと息を吐く。
──その時。
「!?!?」
ふと。目に入ってしまったのだ。
「? アリアどうかしたのか? はっ!! ま、まさか女がいたのか!?!?」
「ちっ、違う違う!! 全然違うから!」
バタンッ、と。アリアは勢いよくクローゼットを閉め、ネイリンをクローゼットから引き離す。
「ほ、本当か……!? 本当に女はいなかった!?」
「いないいない! ネイリンも見たでしょ?」
「み、見たけど……!」
「なら大丈夫!! ね!?」
「う……。そ、そうだな……大丈夫……だと思うぞ」
「うんうん。大丈夫大丈夫!」
慌てるアリアを訝しむネイリンだったが、すぐさまアリアに丸め込まれる。
あ、危なかった……!
ネイリン……なんでクローゼットに下着を詰め込んじゃったの……!?
下着はちゃんと箪笥に畳んでしまうって教えてもらってるはずなのに……!
いやでも今指摘すると僕がネイリンの下着を見ちゃったことがバレてネイリンが嫌な思いをしてしまう……!!
いやでもちゃんと畳んで片付けないと下着が皺になってしまうし……でも指摘したら……!
そんな風に悩んでいたアリアだったが、結局ネイリンの心の安寧を取る事に。
とりあえず下着のことは言わないでおこう……。
でもまた今度服はきちんと畳んでしまうって教えないとなぁ。
「アリアアリア!!」
「え、あ。どうしたのネイリン」
「お、お風呂場も一緒に見てほしい……!」
「えっ」
「だ、だって単細胞の話では女は風呂場にもいたんだぞ!! だからお風呂場も見ないと安心できないんだ!」
「お、お風呂場は……さ、流石に……」
アリアがようやく終わると思った矢先。
ネイリンはなんと風呂場まで見てほしいと提案してきたのだ。
いや確かに部屋が怖いならお風呂場だって怖いに決まっている。
だが一応アリアは男で、ネイリンは年頃の女の子なのだ。
や、やっぱり僕ってネイリンにとって男じゃない……??
よくカマ野郎っては言われるけど
……いや野郎は男だよね?? なんか……複雑。おかしいな……。
なんで僕ネイリンに男に見られないのがこんなに苦しんだろう……?
ネイリンは僕にとって大切な妹で……傷ついてほしくない大切な……大切な存在……なんだけどな。
ズキリ、と。何故だか痛む心に戸惑いながら、アリアは俯く。
「だ、だめなのか……!?」
そんなアリアに対し、ネイリンは上目遣いで懇願する。
「いっいやダメ……ではない……けど……」
「ううううう! お、お願いだアリアああああ! ネイリンは怖くてお風呂入れないぞおお!!」
「う……! わ、分かった。分かったから泣かないでネイリン! ね?」
「ぐす……。ほ、本当……?」
「本当本当! ほら、早く行こう?」
そう言いつつ、アリアは心の中で深呼吸する。
ふう……。大丈夫……大丈夫。お風呂はまだ未使用だし、ネイリンが裸でいるわけでもないんだから。
お風呂場を見るなんてくらい問題ない……問題ないよね……うん。ネイリンだって気にしてないんだし……ね。
そんな複雑な思いを抱えつつ、アリアはネイリンの部屋の脱衣所へと足を踏み入れた。
「脱衣所……よし。お風呂場も……よしっ」
ぐるりと辺りをネイリンは周囲を見渡し女の存在を確認する。
だが当然だがこの部屋にはアリアとネイリン以外はいないわけで。
「ほらね言ったでしょ? 幽霊なんていないし出ないから。大丈夫だって」
「うう……! で、でも怖いんだぞう……! 単細胞の言葉は全然頭から離れないし心臓がずっと痛いんだ……!!」
「ネイリン……」
ネイリンの悲痛な声を聞いて、アリアはジャスティオに対するイラ立ちを再度募らせる。
こんなに怯えて……。今度ジャスティオさんに会ったら絶対に注意しないと……!
なんて思いつつも、アリアはふと気づいてしまう。
というかこのお風呂場……。すっごくネイリンの匂いがする……。いやネイリンがここでシャンプーとか使ってるから当たり前と言えば当たり前なんだけど……!
ネイリンはここで毎日……
「? おーいアリア? 大丈夫か?」
「!! あ……! あははだ、大丈夫だよネイリン! ごめんね、ちょっと考え事しててね。
それより早くあっちに戻ろう?」
まったく……僕は一体何を考えて……!
落ち着け、落ち着け……。
ネイリンは本気で怖がってるんだから……。
僕は余計なことを考えないでネイリンを支えることだけを考えないと。
「うん! アリアありがとう!! これで安心してお風呂に入れるんだぞ!」
「それはよかった」
そうして二人は脱衣所を後にした。
それから数時間後。
「ネ、ネイリンお風呂に入ってくる……!」
震える声でそう言い、ネイリンは立ち上がる。
だがその足すらがくがくと震えていた。
「な、なぁ。ネイリンがお風呂に入っている間に帰ったりしないか……?」
「帰らないよ。ちゃんと待ってるからゆっくり入っておいで」
「ほ、ほんとに本当か……!?」
「うん。絶対に帰らないよ」
「……や、約束だぞ」
「ちゃんと居るから安心して?」
にこり、と。アリアは優し気に微笑む。
その笑顔にネイリンは顔を少しだけ赤くしながらも、くるりと慌てて脱衣所の方へ視線を向けた。
ふぬぁぁぁぁ! や、やっぱりアリアの顔はよすぎて困るぞぅ……!
ドキドキが止まらなくなる……!
うう……ダメだダメだ! ネイリンはあんなカマ野郎なんかにドキド
キするわけない……!!
「しっ信じるぞ……!」
ずんずんと。ネイリンは脱衣所へ向かっていく。それは先程の胸の高鳴りを誤魔化すように早足で。
アリアは少し様子の変わったネイリンを不思議に思いつつも、彼女の帰りを待つことにした。
ふう……でもよかった。
アリアがいなかったらネイリン今日は一睡もできなかったぞ……。
ピタリ、と。そこまで考えてネイリンは動きを止める。
え、え……?? ネ、ネイリンもしかして今日アリアと一緒に寝るのか……!?
ふぬぁぁぁぁ! どどっどうしようどうしよう!!
アリアと一緒に寝るなんてそんな……!
ア、アリアの顔が近づくだけでネイリンドキドキするのに……!
はっ、と。ネイリンは徐に首を振る。
違う違う!! ドキドキなんてしてないっ!! ネイリンはアリアの事なんてちっとも!
これっぽっちもなんとも思ってないもんっ!!
バサッ、と。ネイリンは乱雑に服を脱ぎ捨て、お風呂へ入る。
そうだ、一緒に寝るくらいなんだ! あんなカマ野郎なんかと一緒に寝たってちっともドキドキなんかしないんだぞ!
別に一緒にお風呂に入るわけじゃないんだし──!?
はっ、と。そこまで考えてネイリンは気づく。
あ……あれ……!? もしかしてさっきお風呂場にアリアを連れて行ったのかネイリンは……!?
どどっどうしよう!? アリアにデリカシーの無い女だって思われたかもしれない……!?
ううう……! アリアに引かれたらネイリン嫌なんだぞ……! ……
あれ……。ま、まずいんだぞ……っ! そういえばさっきクローゼットの中も見せてしまったんだぞ……!?
う……ふ、服しか入ってなかったとはいえアリアはそう言うの厳しいから……!
な、内心ドン引きしてたらネイリン立ち直れない……!
と。先ほどまでの醜態を思い出し、ネイリンは羞恥と絶望に打ちひしがれていた。
もし……もしアリアがネイリンのこと嫌いになってたら……。
今日を境に口をきいてくれなくなったらネイリンは──
バツンッ!!
──その時。突然電気が消えた。
一方その頃アリアはというと。
うーん……本当にこれでよかったのかなぁ。
僕男だし、ネイリンは年頃の女の子なのに一緒に寝るなんて言っちゃって……。
いくら僕が妹みたいに思ってても、ネイリンにとって僕は……。
と、そこまで考えてアリアは一瞬思考を止め溜息を吐く。
……ネイリンにとって僕ってなんなんだろう。
いつも甘えてくれるし、それに一緒に寝ようって言うくらいだから頼れるお兄さん……みたいな感じには思ってくれてるとは思うんだけど。
だとしたら嬉しい……うん。嬉しいはず……なんだけど。
そこまで考えて、アリアは天井を仰ぎ見る。
ふう。やめよう。そもそもあんなに震えて怖がっているネイリンを一人で眠らせるなんてことできないし。
ネイリンが気にしてないのに僕が過剰に気にして意識させるのもかわいそうだもんね。
……うん、大丈夫。
なんて。複雑な思いを抱えながらアリアは溜息を吐く。
バツンッ!!
「……?」
すると。突然部屋の電気が消えた。
そのことにアリアは一瞬目を丸くするが、すぐさま停電だと気付き立ち上がる。
「停電かな? はぁ、こんな時に……。えぇっと、部屋の電気は──」
「ぎゃああああああああああッ!!!!!」
バンッ!! と。勢いよく脱衣所の扉が開かれる。
「えっ!?!?」
そして。そこには裸のままのネイリンが居て。
アリアは突然のことに体を硬直させる。
アリアは人魚族だ。暗い深海の中でも周りを見渡せるように目は発達しており、暗闇でもアリアにははっきり見える。
それ故…今目の前に居るネイリンの裸もアリアにははっきりと見えている訳で、慌てて目をそらした。
ちょ、え、な……えっ!?!? なっなっなっ……!! なんっ……! なんで裸のネイリンが……!?
アリアは顔を赤らめて思考をぐるぐるさせる。
「うわぁぁぁぁん! アリアぁ! 女がっ!! 女がくるんだぞおおおお!!!!」
「ちょお!! う、あ……!!」
ガバッ、と。ネイリンは泣き喚きながらアリアに抱き着く。
ひぐひぐと。嗚咽を漏らしながら泣くネイリン。
それに対してアリアはというと、とにかく混乱していた。
泣き喚くネイリンを優しく撫でながら、アリアは頭を悩ませる。
や、柔らか……!?
え、なになになに!? どういうこと!? え、ネイリ……ネイリン裸!?!?
いやいやいやいや!? 流石にこれはまずいって!
いやまずいよね!?!? なんで!? どうしてネイリン裸のまま出てきちゃったの!?
せめてタオルの一枚でも巻こうよ……!!
いやでもそんな余裕がないくらい怖かったってことで…
…それを慰めないわけにはいかないし……!
「うええええアリアぁぁ……! ネイリンまだ死にたくないいいいぃぃ!!」
「え、あ、ちょ……! ネ、ネイリンおち、落ち着いて……!?」
ぎゅうっ、と。ネイリンは更に強い力でアリアを抱きしめる。
そのことにアリアは赤面しつつも、こんなに怯えているネイリンを引きはがすこともできず。
内心とは裏腹に紳士的に慰めつつ思考を続けた。
落ち着け、落ち着くんだ……。まずはネイリンを落ち着かせて……
それで裸をどうにかしないと……!
いやでも落ち着くまで待ってもしネイリンが今の状況に気づいたら……? さ、流石に怒るよね……!?
ど、どうしよう……。もしネイリンが僕のことを嫌いになってすれ違っても口をきいてくれなくなったら…
そんなの絶対嫌だ……!!
ネ、ネイリンが落ち着く前になんとか裸だけはどうにかしないと……!!
タオル……は流石にここにはないし……!
なにか……なにか体に巻けるもの……!!
はっ、と。アリアは気づく。
そうだ布団!! ここには布団があるじゃないか!
とりあえずネイリンに布団を巻いて体を隠してもらえば……!!
そう思い、アリアはベットの布団に手を伸ばす。
だが、パッ、と。アリアの行動と同時に、部屋が眩しくなる。
あ、終わった……。と。アリアは乾いた笑いを浮かべる。
「う……! ま、眩しい……!」
突然部屋が明るくなったことにより、ネイリンは眉を顰める。
「はっ、でも電気がついたぞ!! これでやっと安──」
と。そこまで言ってネイリンは気づく。
……自身が裸だという事実に。
「ふぬぁぁぁぁっ!!??!?」
バッ、と。ネイリンはあまりの衝撃に叫び声をあげてアリアから離れようと後退する。
なんでなんでなんでなんでなんでえ!? なんでネイリン裸で!?
なんでアリアに抱き着いて……!? みみっ密着しちゃったんだぞ……!?
ととっ兎に角離れないと……!
「うわあ!?」
しかし。慌てすぎたせいで、ネイリンは足をもつれさせてしまう。
「危ないネイリン!!」
そんなネイリンを助けようと、アリアは咄嗟に手を伸ばす。
「う……!」
ネ、ネイリンの裸が正面に……!? ちょ、それは流石にマズイって……! いや密着もなかなかにやばかったけど……!?
しかしネイリンの裸を直視してしまい、再び視線をそらしながら赤面する。
そんなことをしていたせいか。
アリアはネイリン同様足をもつれさせてしまい
「あっしまっ──!」
ドサッ
「う……ご、ごめんネイリンだいじょ……!?」
「あ……あ……あ……!」
「えっ?あ……!?」
なんと。足をもつれさせた二人は、近くにあったベットに倒れこんだようで。
それもアリアがネイリンを押し倒す形で倒れこんでいた。
うわあああああああああ!! まずい! いやこれはもうアウトでしょ!?
まずいまずいまずい!! どうしようどうしようどうしよう!?
年頃の女の子と寝るのもどうかと思うのに裸でこんな……!!
ど、どうすれば……いやまずは謝罪だよね……!?
羞恥と罪悪感に潰されながら、アリアは必死に言葉を紡ごうとする。
そんなアリアと同様に。ネイリンは口をはくはくとさせながら、顔をリンゴの様に真っ赤にさせていた。
アリっアリアの顔がこ、こんな近くに……!? あわわわわ……!! アリアの綺麗な顔がこんな近くに……!!
息っ! 息がかかってる……!? うううう……! は、恥ずかしい……!!
お互いにぐるぐると混乱していたせいか。この状態から動けずにいた。
「アリア様大丈夫ですか~!?」
するとバンッ、と。二人が混乱している時にタイミングよくアリアの従者であるマニエルがなんと扉を開けて入ってきてしまった。
「こ、これは……!」
……そして。硬直していたアリアとネイリンの現状を目の当たりにしてしまった。
「いやはや……。これはお楽しみ中大変失礼しました……」
バタンッ、と。マニエルは扉を閉める。
「えっちょお!? 待ってくださいマニエル! 誤解! 誤解ですから!!」
そんなマニエルを全力で呼び止めるアリア。
いやこの誤解はまずって!! ネイリンが変な誤解をされてしまう!!
なんでこんな時にちょうどよくマニエルが……っ!
「……ぬ……っ」
その時。ネイリンがうめき声をあげる。
そんなネイリンにアリアが視線を向けた瞬間。
「ふぬぁぁぁぁっ!!!!! ネイリンの上からどけえええええええ!?!?」
「ふぐうっ!?!?」
ドスっ、と。ネイリンはアリアに容赦のないみぞおちを食らわせる。
「アリア様ぁ!?!?」
するとアリアの叫び声に驚き先程去ったはずのマニエルが慌てて部屋に戻ろうとする音が聞こえた。
マニエルの足音を聞き、意識が遠のいていたアリアは、咄嗟に布団を掴む。
う……! せ、せめてネイリンの裸を隠さない……と……!
バサッ、と。最後の力を振り絞って、アリアはネイリンに布団を掛けた。
「あ……あ……! ネ、ネイリンなんて……アリ……ご……さ……!」
あぁ……泣かない……で……。
薄れゆく意識の中で、アリアはネイリンの泣きそうな声を聞いた。
***
「ごっごめんなさあああああい!!!!」
あの後アリアはベッドに横になりながら泣きじゃくるネイリンに抱き着かれ全力の謝罪を受けていた。
「いやいやあれは女の子として当然の反応だよ。僕の方こそ配慮ができなくてごめんね」
「で、でもネイリンから泣きついておいてアリアのこと殴るなんて……!!」
「いいのいいの。もう全然痛くないし、気にしてないから。ね?」
「ううううう……!!」
ボロボロと泣きじゃくるネイリンの頭を撫で、アリアは優し気に声を掛ける。
そんなアリアの言葉に、更にネイリンは罪悪感と焦燥が募ってしまう。
アリアは……アリアは優しいから……。
今だってネイリンが悪いのに全然怒らないし……! 痛くないなんて嘘だ……。
だって気絶するくらいの痛みだもん、絶対今だって痛むはずなのに……! アリアは……アリアはいっつもそうだ。ネイリンの事ばっかり気遣って……。
ネイリンはそれに甘えてばっかりで、何にも返せてない……。
こんなネイリンの事なんて……アリアはもう……。
ズキリッ、と。ネイリンは痛む胸を押さえる。
苦しくて苦しくて。アリアの優しさを疑いたくないのに。
アリアに嫌われたくないという気持ちが強すぎて、過呼吸になりそうだった。
今日のネイリンはダメダメだ……。全然女の子らしくないし、優しいアリアでも絶対幻滅したんだぞ……。
いやでもどうせアリアは女の子に興味なんてないし、ネイリンがどんなに頑張ったって好きになんて…なってくれない……
……って! そんなことネイリンにはちっとも関係ないんだぞ!!
……でも、き、嫌われたくはないんだぞ……。
そ、それは当たり前の事……だよな……?
だってアリアはネイリンにすごくすごく優しいし、自信をくれたんだ!
そんな相手に嫌われたらネイリンは……ネイリンは……。
「ア……アリアは……アリアはネイリンの事……嫌いになった……か……?」
震える声でそう聞くネイリン。そんなネイリンに、アリアは優し気な声色のまま、
「そんなことは絶対にないよ。ネイリンは何も悪くないんだからそんなに気にしなくていいんだよ」
「何も悪くないなんてことはないぞ……! だってネイリンはアリアのことを殴って……!」
「さっきも言ったけど、それは女の子として普通の羞恥心だよ。寧ろ、僕が早くどうにかしてあげなくちゃいけなかったのに何もできなくてごめんね」
「アリアこそ何も悪くないんだぞ!?
ネイリンはアリアが傍に居てくれるだけですっごくすっごく助かってるんだ……!」
「あはは。ありがとう」
ニコッ、と微笑むアリアを見て、ネイリンは赤面する。
うううう……! や、やっぱりアリアはズルい……!!
その顔は反則だ……!
それに、ネイリンのことを気遣ってくれて……。
そんなに言われたらネイリンは……。
アリア……やっぱりカッコいいなぁ。アリアの事、やっぱりネイリンは……。
はっ、と。ネイリンはそこで我に返り徐に首を振る。
「わっ、だ、大丈夫ネイリン……!?」
「だ、大丈夫……! なんでもないっ! 絶対絶対なんでもないんだからなっ!!」
「そ、そう……? ならいいんだけど……」
「も、もう寝るぞ!! お、おやすみなさい!!」
そう言い、ネイリンは布団の中に潜り込む。
そんなネイリンを隣で見ていたアリアは、微笑まし気にネイリンを見やる。
ふふ、元気そうでよかった。この様子だと幽霊のことも忘れてそうだし。
いやでも今日はちょっとカッコ悪いところばっかりネイリンに見られた気がする……。
ネイリンにはカッコ悪い姿なんて見られたくないんだけどなぁ……。
ゆっくりとアリアはネイリンのいる布団を撫でる。
ピクリ、と。少し反応があったが、ネイリンが何かを言うことはなく。
寝たふりをしているネイリンに、ますます愛しさが募るアリアだった。
ふふっ可愛いなぁ。ネイリンってば自分で言ってちょっと照れちゃったのかな?
まぁ確かにあんまり面と向かって傍にいてくれるだけで助かるなんて言う機会無いし。
僕も、言う機会はないけどネイリンが傍にいて凄く嬉しいしね。
…可愛くて頑張り屋で甘えん坊なネイリン。
守られるだけの女の子じゃないって分かってても、どうしても守りたくなる大切な……大切な……妹。
ズキンッ、と。そこまで考えてアリアは胸の痛みを感じた。
はぁ……本当に調子が狂うなぁ。今日はなんだか一段と駄目な気がする。僕ももう寝よう。
そう思い、アリアも目を閉じる。
ネイリンはというと、アリアが隣で寝ているという緊張で中々寝付けなかったが、アリアが優しく背を撫で続けてくれていたおかげか。
いつの間にか眠りについていた。
お互いがお互いをこんなにも異性として意識しあっているのに
すれ違い続ける二人の想いが結ばれるのはもう少し先のお話。
余談だが。
次の日の朝早くから、正座させられているジャスティオを多くのギルドメンバーが目撃したという。
制作者《閃琥》様
「そんでよ、不思議に思いながらも男は宿屋のベットで眠りつくわけよ」
バクバクと。心臓の音がやけにうるさく鼓膜を響かせる。
「ヒタ、ヒタ。そんな音で男は目を覚ます」
カチ、カチ、カチと。時計の秒針音さえ恐ろしく。ネイリンは無意識に固唾を飲む。
「男はゆっくりとまぶたを開け……“ソレ”と目があっちまった」
ゆらゆらと揺れる蝋燭を凝視しながら、ネイリンは喉元から溢れそうな声をなんとか抑え込む。
「黒く……ながーいながーい髪を揺らした女。女は目を血走らせながら男を見て凄まじい力で男の首を締めあげ言うんだ」
スッ、と。ジャスティオはゆっくりとした動作で立ち上がり、
「次はお前だあ!!」
「ぎゃああああああああああッ!!!!!」
ネイリンの叫び声がギルドの一室で響く。
ガクガクと全身を震わせ涙目のネイリンを意地悪そうな笑顔で見やり、ジャスティオは更に続ける。
「因みに、この話はここで終わりじゃねぇ」
「へ……? ま、まだあるの……!?」
「クックックッ……! 寧ろこれを話さなきゃこの話の醍醐味が終わらねぇぜ!」
「な、なんだよう……!」
「……実はな、この話を聞いた奴は……その日の夜に女に絞殺されるんだ!!」
「ふぬああああああッ!!!!」
バンッ!! と。
ネイリンの二度目の叫び声と同時に、勢いよくアリアが部屋に乱入して
くる。
「どうしたのネイリン!?」
ガタガタと隅で震えていたネイリンだったが、アリアの姿を見ると、素早い動きでしがみついた。
そんなネイリンをアリアは優しく撫で、落ち着かせようとする。
「うわあああああん!! 単細胞がネイリンを殺すってえええええ!」
「……は?」
スゥ、と。アリアは一瞬表情を消す。しかしすぐさま笑みを浮かべてジャスティオを見やる。
「……これはどういうことですかジャスティオさん」
「い、いや俺はただその……チビ熊に怖い話を聞かせてただけで他はなんもしちゃいねぇよ……!」
「うう女ああ~! 女がやってくるんだぞおおお! ううううう!!」
「あっ、おい!! 余計なこと言うなって……!」
ぎゅうっと。
ネイリンは更に強い力でアリアにしがみつく。
そんなネイリンの様子に、ジャスティオはいよいよまずいと思ったのか、顔色を青くさせる。
「お、おっと! そういえば急用を思い出したぜ! またな!!」
そう言い、ジャスティオは脱兎の如く部屋から出て行ってしまった。
「あっ! ちょっと……!」
バタンッ、と。アリアの静止を無視し、ジャスティオは扉を閉めて行ってしまった。
そのことにアリアは心の中でイラつきながらも、泣いているネイリンに視線を戻した。
「うう……女ぁ……女が来るんだぁ……!」
「落ち着いてネイリン。大丈夫、僕が傍にいるから」
「ふぬぅ……アリア……」
「ね、大丈夫だから。一体どういうことか説明してくれると嬉しいな」
優し気な声でそう言うアリアに、ネイリンは少しずつ落ち着かされる。
そして息を整え、ゆっくりとネイリンは口を開いた。
「……女が……女が夜にネイリンのところに来て……ネイリンを殺すんだぞ……」
「?? どういうこと?」
「単細胞が言ってたんだ……! 女の話を聞いたら次の標的にされるって……!
だからネイリンは今日の夜お化けに殺されるんだぁ! うわあああああん!!」
ボロボロと涙を流すネイリンにふざけた様子はなく。
アリアはジャスティオに対するイラ立ちを募らせる。
はぁ……ジャスティオさんは本当にデリカシーの欠片もないな……。
純粋なネイリンに怪談話をするなんて何を考えているんだか……。
それにしても、幽霊なんかよりずっとネイリンの方が強いと思うのに……ふふっ。可愛いなぁもう。
そんなことを思いつつ、アリアはネイリンの背をさすり続ける。
「ネイリンは殺されないよ。大丈夫。お化けなんてこないから」
「ほ、本当か……?」
「うん、本当だよ」
「う……な、なら信じ……」
そう言いかけて。ネイリンは言葉に詰まる。
「うわあああん!! やっぱ怖いぞおおお!!
ネイリン怖くて夜一人で寝れないいい!!
お願いだアリアぁ! ネイリンと一緒に寝てぇぇ!!」
「わっ」
スリスリと。ネイリンはアリアにしがみつきながら泣き喚く。
え、え、いっ一緒に……!????
そ、それは……ど、どうなんだろう……??
……でもこんなに泣いてるネイリンを一人にするのもなぁ。
多分このまま一人で寝かせたら一晩中震えて眠れないよね…?
「……分かったよ。今日は一緒に寝ようかネイリン」
「!! いいのか!? 絶対、絶対だからな!? 約束したぞ!!」
「はいはい大丈夫。嘘なんかつかないよ」
「うう……! し、信じるからな……!」
「あはは。ありがとう。……ふふっ本当にネイリンは可愛いなぁ」
可愛い。
そうアリアに言われ、ネイリンは真っ赤になって硬直する。
か、かわ……!? ぐうアリアのやつーー!!
す、すぐネイリンのこと可愛いって言って……!! そ、そんな軽々しく可愛いなんて言うんじゃないぞう……!!
ネ、ネイリンは全然!! これっぽっちも嬉しくないし!! 動じないけど!!
「!! か、可愛い……!? そ、そんなお世辞言われたってう、嬉しくなんてないんだからなカマ野郎っ!!」
「ちょ、誰がカマ野郎だ! この生意気こぐまめっ」
ぐにっ、と。アリアは軽くネイリンの頬をつねる。
「い、いひゃいぞアリアっ」
「ネイリンが僕の事カマ野郎なんて言うからでしょ、もう」
そう言いつつも、アリアはネイリンの頭を撫でて宥める。
どんなに生意気を言ってもアリアにはネイリンは可愛いのだ。
そうしてそのまま二人はネイリンの部屋へと行くこととなった。
***
ネイリンの部屋に着くと、ネイリンは急いで部屋の中を見渡し始めた
「よ、よし……! とりあえずパッと見た感じ女はいないぞ……!」
「ちょ、ネイリン? あの、本当に大丈夫だからね? この部屋に幽霊なんていないって!」
「ダメだダメだ! ちゃんと全部確認するまではネイリンは安心できない……!」
そういうがその足は震えており。そんなネイリンの頭を、アリアは優しく撫でる。
「うううう……! お願いアリアぁ一緒に探してくれぇ!」
「え、ゆ、幽霊を……?」
「だ、だってもうこの部屋に潜んでてネイリンの隙を伺っているかもしれないんだぞうううう!!」
「そ、それはないんじゃないかな? 僕もネイリンもそこまで気配に鈍感じゃないし……」
「アリアは女の怖さを舐めているぞ!!
あ、あいつは幽霊なんだから気配とか感じとれないんだ……!」
「そう……なのかな……??」
「そうなんだぞ!! 絶対そうだぞ!! お願いアリアぁ!!
ネイリン怖くてお風呂も入れないいいい!!」
『ネイリン…わかったよ。だから泣かないで?」
「うぅ……アリアぁ……!」
そうして二人はネイリンの部屋を散策することになったのだが。
いや……冷静に考えると結構まずくない……??
え、だってここってネイリンの部屋……だよね……? こんな時間に年頃の女の子の部屋にいるだけでどうかと思うのに、じっくり見て回るなんて……。
え、逆にネイリンはいいのかな??
僕……全然男だと思われていない……?
悶々と。アリアはネイリンの部屋を見て回りながら思考にふけっていた。
「ア……アリアぁ……!! ククっクローゼットの中を確認してほしいんだぞぅ……!」
「うんわか……えっ!?」
「だ、だってクローゼットって一番隠れやすいんだ……! でもネイリンいきなり出てきたら絶対心臓止まっちゃうからアリアが開けてほしいんだぞ……!!」
「え、あ、いや……! ネ、ネイリンはそれでいい……の?」
「寧ろ開けないと怖くて眠れないんだぞ!!」
ネイリンのまさかの提案に、アリアは更に戸惑う。
え、ク、クローゼットを開けてほしい……!?
クローゼットってネイリンの服とか入ってるんだよね……?
いや服はセーフ……かな? うん。大丈夫大丈夫……! 下着が入ってるわけじゃないんだし。
「わ、わかったよ。僕に任せて」
「 ありがとうアリア!!」
「じゃあ……開けちゃうね?」
ガチャ、と。アリアは平静を装ってクローゼットを開け放つ。
そこにはネイリンの服や上着がハンガーにかかっているだけで、女の影は何もなかった。
「ほら、誰もいないでしょ?」
「ふう……! よ、よかった……!!」
安堵するネイリンを見て、アリアはホッと息を吐く。
──その時。
「!?!?」
ふと。目に入ってしまったのだ。
「? アリアどうかしたのか? はっ!! ま、まさか女がいたのか!?!?」
「ちっ、違う違う!! 全然違うから!」
バタンッ、と。アリアは勢いよくクローゼットを閉め、ネイリンをクローゼットから引き離す。
「ほ、本当か……!? 本当に女はいなかった!?」
「いないいない! ネイリンも見たでしょ?」
「み、見たけど……!」
「なら大丈夫!! ね!?」
「う……。そ、そうだな……大丈夫……だと思うぞ」
「うんうん。大丈夫大丈夫!」
慌てるアリアを訝しむネイリンだったが、すぐさまアリアに丸め込まれる。
あ、危なかった……!
ネイリン……なんでクローゼットに下着を詰め込んじゃったの……!?
下着はちゃんと箪笥に畳んでしまうって教えてもらってるはずなのに……!
いやでも今指摘すると僕がネイリンの下着を見ちゃったことがバレてネイリンが嫌な思いをしてしまう……!!
いやでもちゃんと畳んで片付けないと下着が皺になってしまうし……でも指摘したら……!
そんな風に悩んでいたアリアだったが、結局ネイリンの心の安寧を取る事に。
とりあえず下着のことは言わないでおこう……。
でもまた今度服はきちんと畳んでしまうって教えないとなぁ。
「アリアアリア!!」
「え、あ。どうしたのネイリン」
「お、お風呂場も一緒に見てほしい……!」
「えっ」
「だ、だって単細胞の話では女は風呂場にもいたんだぞ!! だからお風呂場も見ないと安心できないんだ!」
「お、お風呂場は……さ、流石に……」
アリアがようやく終わると思った矢先。
ネイリンはなんと風呂場まで見てほしいと提案してきたのだ。
いや確かに部屋が怖いならお風呂場だって怖いに決まっている。
だが一応アリアは男で、ネイリンは年頃の女の子なのだ。
や、やっぱり僕ってネイリンにとって男じゃない……??
よくカマ野郎っては言われるけど
……いや野郎は男だよね?? なんか……複雑。おかしいな……。
なんで僕ネイリンに男に見られないのがこんなに苦しんだろう……?
ネイリンは僕にとって大切な妹で……傷ついてほしくない大切な……大切な存在……なんだけどな。
ズキリ、と。何故だか痛む心に戸惑いながら、アリアは俯く。
「だ、だめなのか……!?」
そんなアリアに対し、ネイリンは上目遣いで懇願する。
「いっいやダメ……ではない……けど……」
「ううううう! お、お願いだアリアああああ! ネイリンは怖くてお風呂入れないぞおお!!」
「う……! わ、分かった。分かったから泣かないでネイリン! ね?」
「ぐす……。ほ、本当……?」
「本当本当! ほら、早く行こう?」
そう言いつつ、アリアは心の中で深呼吸する。
ふう……。大丈夫……大丈夫。お風呂はまだ未使用だし、ネイリンが裸でいるわけでもないんだから。
お風呂場を見るなんてくらい問題ない……問題ないよね……うん。ネイリンだって気にしてないんだし……ね。
そんな複雑な思いを抱えつつ、アリアはネイリンの部屋の脱衣所へと足を踏み入れた。
「脱衣所……よし。お風呂場も……よしっ」
ぐるりと辺りをネイリンは周囲を見渡し女の存在を確認する。
だが当然だがこの部屋にはアリアとネイリン以外はいないわけで。
「ほらね言ったでしょ? 幽霊なんていないし出ないから。大丈夫だって」
「うう……! で、でも怖いんだぞう……! 単細胞の言葉は全然頭から離れないし心臓がずっと痛いんだ……!!」
「ネイリン……」
ネイリンの悲痛な声を聞いて、アリアはジャスティオに対するイラ立ちを再度募らせる。
こんなに怯えて……。今度ジャスティオさんに会ったら絶対に注意しないと……!
なんて思いつつも、アリアはふと気づいてしまう。
というかこのお風呂場……。すっごくネイリンの匂いがする……。いやネイリンがここでシャンプーとか使ってるから当たり前と言えば当たり前なんだけど……!
ネイリンはここで毎日……
「? おーいアリア? 大丈夫か?」
「!! あ……! あははだ、大丈夫だよネイリン! ごめんね、ちょっと考え事しててね。
それより早くあっちに戻ろう?」
まったく……僕は一体何を考えて……!
落ち着け、落ち着け……。
ネイリンは本気で怖がってるんだから……。
僕は余計なことを考えないでネイリンを支えることだけを考えないと。
「うん! アリアありがとう!! これで安心してお風呂に入れるんだぞ!」
「それはよかった」
そうして二人は脱衣所を後にした。
それから数時間後。
「ネ、ネイリンお風呂に入ってくる……!」
震える声でそう言い、ネイリンは立ち上がる。
だがその足すらがくがくと震えていた。
「な、なぁ。ネイリンがお風呂に入っている間に帰ったりしないか……?」
「帰らないよ。ちゃんと待ってるからゆっくり入っておいで」
「ほ、ほんとに本当か……!?」
「うん。絶対に帰らないよ」
「……や、約束だぞ」
「ちゃんと居るから安心して?」
にこり、と。アリアは優し気に微笑む。
その笑顔にネイリンは顔を少しだけ赤くしながらも、くるりと慌てて脱衣所の方へ視線を向けた。
ふぬぁぁぁぁ! や、やっぱりアリアの顔はよすぎて困るぞぅ……!
ドキドキが止まらなくなる……!
うう……ダメだダメだ! ネイリンはあんなカマ野郎なんかにドキド
キするわけない……!!
「しっ信じるぞ……!」
ずんずんと。ネイリンは脱衣所へ向かっていく。それは先程の胸の高鳴りを誤魔化すように早足で。
アリアは少し様子の変わったネイリンを不思議に思いつつも、彼女の帰りを待つことにした。
ふう……でもよかった。
アリアがいなかったらネイリン今日は一睡もできなかったぞ……。
ピタリ、と。そこまで考えてネイリンは動きを止める。
え、え……?? ネ、ネイリンもしかして今日アリアと一緒に寝るのか……!?
ふぬぁぁぁぁ! どどっどうしようどうしよう!!
アリアと一緒に寝るなんてそんな……!
ア、アリアの顔が近づくだけでネイリンドキドキするのに……!
はっ、と。ネイリンは徐に首を振る。
違う違う!! ドキドキなんてしてないっ!! ネイリンはアリアの事なんてちっとも!
これっぽっちもなんとも思ってないもんっ!!
バサッ、と。ネイリンは乱雑に服を脱ぎ捨て、お風呂へ入る。
そうだ、一緒に寝るくらいなんだ! あんなカマ野郎なんかと一緒に寝たってちっともドキドキなんかしないんだぞ!
別に一緒にお風呂に入るわけじゃないんだし──!?
はっ、と。そこまで考えてネイリンは気づく。
あ……あれ……!? もしかしてさっきお風呂場にアリアを連れて行ったのかネイリンは……!?
どどっどうしよう!? アリアにデリカシーの無い女だって思われたかもしれない……!?
ううう……! アリアに引かれたらネイリン嫌なんだぞ……! ……
あれ……。ま、まずいんだぞ……っ! そういえばさっきクローゼットの中も見せてしまったんだぞ……!?
う……ふ、服しか入ってなかったとはいえアリアはそう言うの厳しいから……!
な、内心ドン引きしてたらネイリン立ち直れない……!
と。先ほどまでの醜態を思い出し、ネイリンは羞恥と絶望に打ちひしがれていた。
もし……もしアリアがネイリンのこと嫌いになってたら……。
今日を境に口をきいてくれなくなったらネイリンは──
バツンッ!!
──その時。突然電気が消えた。
一方その頃アリアはというと。
うーん……本当にこれでよかったのかなぁ。
僕男だし、ネイリンは年頃の女の子なのに一緒に寝るなんて言っちゃって……。
いくら僕が妹みたいに思ってても、ネイリンにとって僕は……。
と、そこまで考えてアリアは一瞬思考を止め溜息を吐く。
……ネイリンにとって僕ってなんなんだろう。
いつも甘えてくれるし、それに一緒に寝ようって言うくらいだから頼れるお兄さん……みたいな感じには思ってくれてるとは思うんだけど。
だとしたら嬉しい……うん。嬉しいはず……なんだけど。
そこまで考えて、アリアは天井を仰ぎ見る。
ふう。やめよう。そもそもあんなに震えて怖がっているネイリンを一人で眠らせるなんてことできないし。
ネイリンが気にしてないのに僕が過剰に気にして意識させるのもかわいそうだもんね。
……うん、大丈夫。
なんて。複雑な思いを抱えながらアリアは溜息を吐く。
バツンッ!!
「……?」
すると。突然部屋の電気が消えた。
そのことにアリアは一瞬目を丸くするが、すぐさま停電だと気付き立ち上がる。
「停電かな? はぁ、こんな時に……。えぇっと、部屋の電気は──」
「ぎゃああああああああああッ!!!!!」
バンッ!! と。勢いよく脱衣所の扉が開かれる。
「えっ!?!?」
そして。そこには裸のままのネイリンが居て。
アリアは突然のことに体を硬直させる。
アリアは人魚族だ。暗い深海の中でも周りを見渡せるように目は発達しており、暗闇でもアリアにははっきり見える。
それ故…今目の前に居るネイリンの裸もアリアにははっきりと見えている訳で、慌てて目をそらした。
ちょ、え、な……えっ!?!? なっなっなっ……!! なんっ……! なんで裸のネイリンが……!?
アリアは顔を赤らめて思考をぐるぐるさせる。
「うわぁぁぁぁん! アリアぁ! 女がっ!! 女がくるんだぞおおおお!!!!」
「ちょお!! う、あ……!!」
ガバッ、と。ネイリンは泣き喚きながらアリアに抱き着く。
ひぐひぐと。嗚咽を漏らしながら泣くネイリン。
それに対してアリアはというと、とにかく混乱していた。
泣き喚くネイリンを優しく撫でながら、アリアは頭を悩ませる。
や、柔らか……!?
え、なになになに!? どういうこと!? え、ネイリ……ネイリン裸!?!?
いやいやいやいや!? 流石にこれはまずいって!
いやまずいよね!?!? なんで!? どうしてネイリン裸のまま出てきちゃったの!?
せめてタオルの一枚でも巻こうよ……!!
いやでもそんな余裕がないくらい怖かったってことで…
…それを慰めないわけにはいかないし……!
「うええええアリアぁぁ……! ネイリンまだ死にたくないいいいぃぃ!!」
「え、あ、ちょ……! ネ、ネイリンおち、落ち着いて……!?」
ぎゅうっ、と。ネイリンは更に強い力でアリアを抱きしめる。
そのことにアリアは赤面しつつも、こんなに怯えているネイリンを引きはがすこともできず。
内心とは裏腹に紳士的に慰めつつ思考を続けた。
落ち着け、落ち着くんだ……。まずはネイリンを落ち着かせて……
それで裸をどうにかしないと……!
いやでも落ち着くまで待ってもしネイリンが今の状況に気づいたら……? さ、流石に怒るよね……!?
ど、どうしよう……。もしネイリンが僕のことを嫌いになってすれ違っても口をきいてくれなくなったら…
そんなの絶対嫌だ……!!
ネ、ネイリンが落ち着く前になんとか裸だけはどうにかしないと……!!
タオル……は流石にここにはないし……!
なにか……なにか体に巻けるもの……!!
はっ、と。アリアは気づく。
そうだ布団!! ここには布団があるじゃないか!
とりあえずネイリンに布団を巻いて体を隠してもらえば……!!
そう思い、アリアはベットの布団に手を伸ばす。
だが、パッ、と。アリアの行動と同時に、部屋が眩しくなる。
あ、終わった……。と。アリアは乾いた笑いを浮かべる。
「う……! ま、眩しい……!」
突然部屋が明るくなったことにより、ネイリンは眉を顰める。
「はっ、でも電気がついたぞ!! これでやっと安──」
と。そこまで言ってネイリンは気づく。
……自身が裸だという事実に。
「ふぬぁぁぁぁっ!!??!?」
バッ、と。ネイリンはあまりの衝撃に叫び声をあげてアリアから離れようと後退する。
なんでなんでなんでなんでなんでえ!? なんでネイリン裸で!?
なんでアリアに抱き着いて……!? みみっ密着しちゃったんだぞ……!?
ととっ兎に角離れないと……!
「うわあ!?」
しかし。慌てすぎたせいで、ネイリンは足をもつれさせてしまう。
「危ないネイリン!!」
そんなネイリンを助けようと、アリアは咄嗟に手を伸ばす。
「う……!」
ネ、ネイリンの裸が正面に……!? ちょ、それは流石にマズイって……! いや密着もなかなかにやばかったけど……!?
しかしネイリンの裸を直視してしまい、再び視線をそらしながら赤面する。
そんなことをしていたせいか。
アリアはネイリン同様足をもつれさせてしまい
「あっしまっ──!」
ドサッ
「う……ご、ごめんネイリンだいじょ……!?」
「あ……あ……あ……!」
「えっ?あ……!?」
なんと。足をもつれさせた二人は、近くにあったベットに倒れこんだようで。
それもアリアがネイリンを押し倒す形で倒れこんでいた。
うわあああああああああ!! まずい! いやこれはもうアウトでしょ!?
まずいまずいまずい!! どうしようどうしようどうしよう!?
年頃の女の子と寝るのもどうかと思うのに裸でこんな……!!
ど、どうすれば……いやまずは謝罪だよね……!?
羞恥と罪悪感に潰されながら、アリアは必死に言葉を紡ごうとする。
そんなアリアと同様に。ネイリンは口をはくはくとさせながら、顔をリンゴの様に真っ赤にさせていた。
アリっアリアの顔がこ、こんな近くに……!? あわわわわ……!! アリアの綺麗な顔がこんな近くに……!!
息っ! 息がかかってる……!? うううう……! は、恥ずかしい……!!
お互いにぐるぐると混乱していたせいか。この状態から動けずにいた。
「アリア様大丈夫ですか~!?」
するとバンッ、と。二人が混乱している時にタイミングよくアリアの従者であるマニエルがなんと扉を開けて入ってきてしまった。
「こ、これは……!」
……そして。硬直していたアリアとネイリンの現状を目の当たりにしてしまった。
「いやはや……。これはお楽しみ中大変失礼しました……」
バタンッ、と。マニエルは扉を閉める。
「えっちょお!? 待ってくださいマニエル! 誤解! 誤解ですから!!」
そんなマニエルを全力で呼び止めるアリア。
いやこの誤解はまずって!! ネイリンが変な誤解をされてしまう!!
なんでこんな時にちょうどよくマニエルが……っ!
「……ぬ……っ」
その時。ネイリンがうめき声をあげる。
そんなネイリンにアリアが視線を向けた瞬間。
「ふぬぁぁぁぁっ!!!!! ネイリンの上からどけえええええええ!?!?」
「ふぐうっ!?!?」
ドスっ、と。ネイリンはアリアに容赦のないみぞおちを食らわせる。
「アリア様ぁ!?!?」
するとアリアの叫び声に驚き先程去ったはずのマニエルが慌てて部屋に戻ろうとする音が聞こえた。
マニエルの足音を聞き、意識が遠のいていたアリアは、咄嗟に布団を掴む。
う……! せ、せめてネイリンの裸を隠さない……と……!
バサッ、と。最後の力を振り絞って、アリアはネイリンに布団を掛けた。
「あ……あ……! ネ、ネイリンなんて……アリ……ご……さ……!」
あぁ……泣かない……で……。
薄れゆく意識の中で、アリアはネイリンの泣きそうな声を聞いた。
***
「ごっごめんなさあああああい!!!!」
あの後アリアはベッドに横になりながら泣きじゃくるネイリンに抱き着かれ全力の謝罪を受けていた。
「いやいやあれは女の子として当然の反応だよ。僕の方こそ配慮ができなくてごめんね」
「で、でもネイリンから泣きついておいてアリアのこと殴るなんて……!!」
「いいのいいの。もう全然痛くないし、気にしてないから。ね?」
「ううううう……!!」
ボロボロと泣きじゃくるネイリンの頭を撫で、アリアは優し気に声を掛ける。
そんなアリアの言葉に、更にネイリンは罪悪感と焦燥が募ってしまう。
アリアは……アリアは優しいから……。
今だってネイリンが悪いのに全然怒らないし……! 痛くないなんて嘘だ……。
だって気絶するくらいの痛みだもん、絶対今だって痛むはずなのに……! アリアは……アリアはいっつもそうだ。ネイリンの事ばっかり気遣って……。
ネイリンはそれに甘えてばっかりで、何にも返せてない……。
こんなネイリンの事なんて……アリアはもう……。
ズキリッ、と。ネイリンは痛む胸を押さえる。
苦しくて苦しくて。アリアの優しさを疑いたくないのに。
アリアに嫌われたくないという気持ちが強すぎて、過呼吸になりそうだった。
今日のネイリンはダメダメだ……。全然女の子らしくないし、優しいアリアでも絶対幻滅したんだぞ……。
いやでもどうせアリアは女の子に興味なんてないし、ネイリンがどんなに頑張ったって好きになんて…なってくれない……
……って! そんなことネイリンにはちっとも関係ないんだぞ!!
……でも、き、嫌われたくはないんだぞ……。
そ、それは当たり前の事……だよな……?
だってアリアはネイリンにすごくすごく優しいし、自信をくれたんだ!
そんな相手に嫌われたらネイリンは……ネイリンは……。
「ア……アリアは……アリアはネイリンの事……嫌いになった……か……?」
震える声でそう聞くネイリン。そんなネイリンに、アリアは優し気な声色のまま、
「そんなことは絶対にないよ。ネイリンは何も悪くないんだからそんなに気にしなくていいんだよ」
「何も悪くないなんてことはないぞ……! だってネイリンはアリアのことを殴って……!」
「さっきも言ったけど、それは女の子として普通の羞恥心だよ。寧ろ、僕が早くどうにかしてあげなくちゃいけなかったのに何もできなくてごめんね」
「アリアこそ何も悪くないんだぞ!?
ネイリンはアリアが傍に居てくれるだけですっごくすっごく助かってるんだ……!」
「あはは。ありがとう」
ニコッ、と微笑むアリアを見て、ネイリンは赤面する。
うううう……! や、やっぱりアリアはズルい……!!
その顔は反則だ……!
それに、ネイリンのことを気遣ってくれて……。
そんなに言われたらネイリンは……。
アリア……やっぱりカッコいいなぁ。アリアの事、やっぱりネイリンは……。
はっ、と。ネイリンはそこで我に返り徐に首を振る。
「わっ、だ、大丈夫ネイリン……!?」
「だ、大丈夫……! なんでもないっ! 絶対絶対なんでもないんだからなっ!!」
「そ、そう……? ならいいんだけど……」
「も、もう寝るぞ!! お、おやすみなさい!!」
そう言い、ネイリンは布団の中に潜り込む。
そんなネイリンを隣で見ていたアリアは、微笑まし気にネイリンを見やる。
ふふ、元気そうでよかった。この様子だと幽霊のことも忘れてそうだし。
いやでも今日はちょっとカッコ悪いところばっかりネイリンに見られた気がする……。
ネイリンにはカッコ悪い姿なんて見られたくないんだけどなぁ……。
ゆっくりとアリアはネイリンのいる布団を撫でる。
ピクリ、と。少し反応があったが、ネイリンが何かを言うことはなく。
寝たふりをしているネイリンに、ますます愛しさが募るアリアだった。
ふふっ可愛いなぁ。ネイリンってば自分で言ってちょっと照れちゃったのかな?
まぁ確かにあんまり面と向かって傍にいてくれるだけで助かるなんて言う機会無いし。
僕も、言う機会はないけどネイリンが傍にいて凄く嬉しいしね。
…可愛くて頑張り屋で甘えん坊なネイリン。
守られるだけの女の子じゃないって分かってても、どうしても守りたくなる大切な……大切な……妹。
ズキンッ、と。そこまで考えてアリアは胸の痛みを感じた。
はぁ……本当に調子が狂うなぁ。今日はなんだか一段と駄目な気がする。僕ももう寝よう。
そう思い、アリアも目を閉じる。
ネイリンはというと、アリアが隣で寝ているという緊張で中々寝付けなかったが、アリアが優しく背を撫で続けてくれていたおかげか。
いつの間にか眠りについていた。
お互いがお互いをこんなにも異性として意識しあっているのに
すれ違い続ける二人の想いが結ばれるのはもう少し先のお話。
余談だが。
次の日の朝早くから、正座させられているジャスティオを多くのギルドメンバーが目撃したという。
制作者《閃琥》様