ミニミニクロイツ再来!?
「わぁ……! 見て見てクロ、シェイド君! 食べ物のお店がいっぱいあるよ~!」
キラキラと目を輝かせて、セティアは屋台を見渡す。
セティア達の周囲に立ち並ぶは、多種多様の“食”達で。
見たことのあるサンドイッチやホットドックは勿論、ケバブなどといった物珍しい食べ物たちも多く立ち並んでいた。
ここは食の街ランドルク。多くの食が集まる美食と奇食の街だ。
そんなランドルクに訪れたセティア達は、多くの屋台に目を奪われながら美食を味わっていた。
「さっすが食の街って謳われるだけあるね!色んな物を食べれるように小さめサイズを選べるのも最高だね~ いやぁ~しかしこのお好み焼きってのも美味しいなあ。見たことない食材も入ってるし! 何より僕の好きなチーズが入ってるのが!!」
「ケバブも美味いな……。肉が特に味が染みていて美味い」
「あはは! クロ君はお肉大好きだもんね~!」
「アタシはクレープ? が好きかなぁ! 甘くておいしい~!! あ、クロも食べてみてほしいな!」
「あぁ、ありがとう。……ん、甘いのに酸っぱくて飽きがこなさそうな味で美味いな」
そう言って、クロイツはセティアのクレープを一口齧る。
その光景にシェイドは、いやガッツリ間接キスじゃん……!? と内心突っ込んでいたが、当の二人は気にしていないようで。ニコニコと笑顔で向き合っていた。
「でしょでしょ~! えへへ、クロのお口に合ったようでよかった~!」
「セティアもケバブ食べてみるか?」
「うん! ありがとうクロ!」
おや?? これはクロ君とセティアちゃんの世界に入っちゃったかな?? も~二人とも僕もいるのに~。
なあんて。別に二人とも僕の事大事にしてくれてるし、嫌な気持ちになんてなってないんだけどね。
ん~……それにしても、クロ君はともかく…セティアちゃんも間接キスって気づいて……ないんだろうなぁ! 見てるこっちが恥ずかしくなるくらいあっま甘!!
つーか…そもそもたまに二人で寝てるのも……いやもう慣れちゃったけどね??
ぜぇったいクロ君も脈ありなのになぁ~んでいつまで経っても進展しないんだろうなぁ~!?
「シェイド君? 大丈夫? もうお腹いっぱいになっちゃった?」
シェイドが思考を飛ばしていると、セティアが心配そうにシェイドの顔を覗き込む。
一体いつの間に二人の世界から抜け出したのだろうとシェイドは思うが、すぐさま笑顔を見せ、セティアに向き合った。
「あはははは~!! ごめんごめん! ちょ~っと考え事しちゃってたよ~!」
「そうなの? でもこんな人がたくさんいるところでぼーっとしたら危ないよ?」
「セティア。バカ王子は無駄に頑丈だから心配する必要はないぞ」
「酷いっっ! 確かに僕は丈夫だけど心配はしてほしいよお~!! クロ君はもっと僕を労わってくれてもいいと思う!!」
「うるせえ。労わるくらいの言動と行動をしてから言え! いっつも面倒ばっかりかけやがって!」
「失礼な! 僕がいつクロ君に迷惑をかけたって言うのさ~!!」
「……まず、服が汚れるからって理由で真面目に戦わない。無遠慮に俺の尻尾を触る。珍しく風邪ひいて弱ってると思いきやそれにかこつけて耳触ろうとしてくる。
…寧ろ役立ったことを教えてほしいくらいだ」
クロイツはそう言い、軽くため息を吐く。今までのシェイドの行動を思い返してしまったからだろう。
その様子を見たシェイドは大げさに頬を膨らませてクロイツに詰め寄った。
「ひ、酷いよお~っ! 確かに全部ほんとのことだけどっ! 僕だって戦うときは戦うし!? クロ君やセティアちゃんの役に立ってると思うなあ~!?」
「そ、そうだよクロ! シェイド君だっていつも頑張ってくれてるよ?」
「セ、セティアちゃん~~~~!!」
「……まぁ、セティアが言うなら少しはそうなのかもしれないな」
「この対応の差っ! まぁでもクロ君僕が有能だって認めてくれたしね~?」
「はあ? 誰もお前が有能なんて言ってないだろ! 勝手に捏造するなっ! 大体、有能な奴が往来をぼーっと歩いてセティアに心配されるわけないだろ」
「な、なにおうっ! というかそもそも~? 僕が考え事をしていたのってクロ君達のせいなんだけどな~!?」
「は?」
「だってぇ。二人が僕を差し置いて食べ物を分け合ってて寂しかったんだよぉ!
人目も気にせずイチャイチャしちゃって。間接キスまでしちゃってさ……! よよよ~~!」
「か、かかっ間接キ……!? ア、アタシそんなつもりじゃ……っっ」
シェイドの言葉を聞いた途端、セティアは可愛らしく頬に手を当て照れ始める。
そんなセティアの様子を見たクロイツは、シェイドに蔑んだ視線を向けた。
「おい。セティアを困らせるな」
「ええ~~!? そんなつもりじゃないのに~! というかクロ君は何とも思わないのお!?」
「あ? バカ王子の嘘に思うところなんて一つもねぇよ。というか白々しすぎなんだよ」
「いやいやいやいや!? 流石にどうかとおもうけどお!?」
「あ? どう聞いてもお前が適当抜かしてるだけじゃねぇか。自分が不利だからってセティアまで巻き込むな」
「えぇ~~!? いや確かに嘘もあるけど!! え、クロ君はセティアちゃん以外の女の子に自分の口付けた食べ物をあげたりするの……?」
「は? するわけないだろ」
「え、だよね!? じゃあさっきの僕の言葉で思うところ、本当にない!?」
「あ? 強いて言えばうざい」
「酷い!? 僕が寂しくてもどうでもいいって言うの!? って、そうじゃなくて……!!」
「執拗い。セティア、バカ王子の言うことなんて気にしなくていいからな」
「ひゃ、わわっ……! え、えっとあうあう……! ク、クロはその……えっと……や、やっぱりなんでないっ!」
「? そうか……?」
うんうん……分かるよセティアちゃん……! いや気になるよね??
自分との間接キスは気にならないのかって! でもセティアちゃんは恋に悩みし乙女だから聞けないよね……。
う、僕が不甲斐ないばっかりに……! ごめんねセティアちゃん!
そう思い、シェイドはセティアに同情した。クロイツはかなりの鈍感だ。シェイドもそれは重々承知なのだが、セティアの想いもあり、勝手に暴露するなんて無粋な真似はできない。
というかしたくない。ならば手助けを……と、こうして茶化したりするのだが、セティアに絶大な効果はあれど、クロイツはまるで気にした態度はとらない。
だが、クロイツはセティア以外の女性と一緒に寝たり膝にのせたりなどはしないと断言している。だからセティアに気がないなんてことはないと思うのだが……。
因みに余談だが、シェイドが寂しいなんて言うのは真っ赤な嘘だったりする。だってセティアは見てわかるようにシェイドをきちんと見てくれ、心配までしてくれるいい子だし、
「おい、シェイド。アイスを買ってきたぞ お前も食べるだろ?」
「!! 食べる~~!!」
クロイツだって、こうしてシェイドが甘いものが好きだと認識して仲間外れにすることなく買ってきてくれるのだ。
だからシェイドが寂しいと思うことなんてない。
寧ろ、大大大好きな二人には絶対に幸せになってほしいため、もっといちゃついてほしいという気持ちまである。
「そういえばクロ君はケバブ以外のお肉は食べたの?」
「いやまだだが……」
「じゃあ一緒に探そうよ~~! ね、セティアちゃん!」
「うんっ! せっかくだしクロの好きなお肉料理探そうよ! アタシも食べてみたいし!」
「あぁ、ありがとう。折角だし探してみる」
そう言い、クロイツは売店を物色し始める。
「世にも珍しい串焼きはどうだ~い! 味も最高に美味い上にドキドキも堪能できちゃうぜ~~~!」
すると、近くから串焼きのいい匂いと、なにやら怪しい喧伝をしているおじさんが目に留まった。
「おっ、そこの兄ちゃん達! ロシアン串焼きはどうだい?」
「ロシアン串焼き……?」
聞き慣れない言葉に、クロイツは首を傾げる。勿論それはセティアとシェイドも同じようで。
クロイツ同様首を傾げて串焼きを眺めていた。その様子に串焼き屋のおじさんは待ってましたと言わんばかりに口角を上げて説明し始める。
「ふっふっふっ! よおくぞ聞いてくれましたあ! 何を隠そうこのロシアン串焼き!
なんと様々な特殊効果のバブがかかってんだ! 食えばひとたびその効果にありつける。
ち・な・み・に! 発案はこの俺ジリバーン様でねえ! かなり好評なんだぜ?」
早口でまくしたてるように串焼きの説明をするジリバーンに、シェイド達は唖然とする。
そんなシェイド達の様子に、ジリバーンは慣れた様子で愛想のいい笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「あっはっは! まぁ最初は腰が引けるよなぁ。分かる分かる! でも若者よ。何事も挑戦だぜ? ほらほら! 美味そうに焼ける肉の匂い、分かるだろお?
バラエティ性に富んでいるのはもちろんだが、やっぱ最後に大事なのは味だから! 味も最高に美味いことは保証するぜ!」
その言葉に、クロイツは迷ったように串焼きを見つめる。
ジュウジュウと生きのいい音を立てて焼かれる串焼き。その匂いは芳しく、確かに味は保証されているのだろうとクロイツは思う。
だがやはり“ロシアン”という部分にしり込みしていた。何があるか分からない串焼きを食べて、もしセティアまで巻き込むことになったら…
…と、クロイツは長考してしまったのだ。
「ん~~……おじさんっ! それ一本ちょうだい~!」
そんなクロイツの様子を見たシェイドは、勇気を振り絞って串焼きを注文する。こんな往来にある串焼き屋で死ぬことはないだろうと楽観したのもあるが。
「おっ! 見た目に沿わず豪快な兄ちゃんだねえ! ほら! 熱いうちに食いな!」
「うう……ええい! いっきま~す!!」
ぱくっ、と。シェイドは思い切ってロシアン串焼きを口にする。
すると──
「うわっ!? えええ~!? 浮いてるう!?」
ふわふわと。まるでシャボン玉のようにシェイドは浮遊していた。シェイドは竜族だ。
浮遊など初めての体験ではないのだが、こんなふうに“浮かされる”のは初体験で。
驚くとともに高揚感が沸き上がってきた。
「わわっ! シェイド君大丈夫……!?」
「うん!! というかちょっと楽しい~~!! クロ君! この串焼き美味しいし大丈夫そうだよ~!」
「そーそー! このジリバーン様の名に懸けて! 害のある串焼きは一つもねぇと断言するぜ!」
ニッ、と。ジリバーンは歯を剥き出しにして豪快に笑う。
その頃にはシェイドの浮遊も解けていて、ゆっくりと地面へ着地していた。
その様子を見て、クロイツは意を決したようにジリバーンに声を掛ける。
「んー……なら、ロシアン串焼きを一つください」
「まいどっ!」
クロイツはもらった串焼きを少しの間見つめていたが、肉の誘惑には勝てず。というか買ったのだから食べないのは勿体ないので、クロイツはぱくりっ、と串焼きに口をつけた。
──そして、クロイツの視界は真っ白になった。
ボンッ!!
「「──!?!?」」
突然の爆発音と煙に、セティアとシェイドは目を見開く。
しかしジリバーンはおお、と感心したような声を上げただけだった。
「おお、大当たりじゃねえか!」
「え、え、何々!? おじさんどういうこと!? 危ない串焼きはないんじゃないの!?」
「ああ? なんだ。俺が嘘ついたとでも思ってんのかあ? 失礼な兄ちゃんだな!」
「だってクロ君が……!」
「ったっくよお。よおく見ろ。ほれ、かっこいい兄ちゃんはこの通り……」
「ここどこぉ……?」
ちょこん。と。クロイツのいた場所にはそれはそれは可愛らしい 3 歳児の子供が座り込んでいた。
その姿を見た瞬間、シェイドとセティアは目を見開いて停止してしまった。
「お~い、兄ちゃん姉ちゃん大丈夫か~?」
「いやいやいやいやいや!?!? これが大丈夫に見えますう!? 何この可愛い生き物!!!!?? 可愛いの権化すぎない!?
幼児クロ君の再来!? え、なんで!?どういうこと!?」
「何ってみりゃ分かるだろ。幼児化のバフ効果に当たったんだよ」
「そんなバフあるう!? うちのクロ君になんてことするのさ~~!!」
「ほ~お? じゃあ兄ちゃんの可愛い姿はお好みじゃねえってか?」
「そりゃ……!」
ちらり、と。シェイドはクロイツの姿を見やる。そして、その姿を視認した瞬間、自分の顔がだらしなくなるのを感じた。
いやだって可愛すぎない!?!? 天使だよ天使!! 前回見たクロ君ジュニアは目つきが鋭くてむすっ、としてたけど、今のクロ君は不安げに瞳を揺らしてこっちを見てるじゃないか……!!
前のツンツンなクロ君ジュニアも可愛かったけど、更に小さくなったふわふわのクロ君ジュニアもめちゃめちゃ可愛い~~~!!
でへへ、と。シェイドはクロイツの幼い姿を見て顔を綻ばせる。
ジリバーンに文句を言うはずが、幼いクロイツのあまりの可愛さにデレデレになってしまったのだ。
一方セティアはというと。シェイド同様可愛いクロイツにメロメロになっていた。
ク、クロ可愛い……!! いつもの引き締まってカッコイイクロが、あんなにぷにぷになほっぺたになっちゃって……!!
……でも。なんでだろう……。ちっちゃい頃のクロ、見るのは二度目のはずなのに……もっと前に見たことがある気がする……。
すごく懐かしい……。
「セティアちゃん? 大丈夫?」
「へあっ!? え、あ……! う、うん! 大丈夫っ! そ、それよりクロは大丈夫?」
「?? おねえちゃんだあれ? なんでボクの名前知ってるの?」
「へ……!? え、え、え……!? ど、どういうこと……!?」
「も~セティアちゃん落ち着いてってば~クロ君の記憶がないくらい……え?? クロ君記憶ないの?? だからそんな純粋な顔なの??
え、え、どうしようっ!? ま、まずは
とりあえずごはんからかな!? あ、でも今串焼き食べたし!? あ、じゃあ服……はサイズぴったりだね!? え、記憶ってどうすればいいの!?」
「おいおいお二人さん。落ち着きなって。幼児化バフは中身も幼児の頃に戻んだよ。ま、明日の朝には元に戻るから安心しな」
「いやいや安心できないよ!? え、どうしよう!?」
「……おとうしゃんとおかあしゃんが居ない……」
キョロキョロと。シェイドとセティアが慌てふためく中、クロイツはあたりを見渡して母親と父親を探し始める。
その様に更に動揺してしまう二人を見て、店主はしゃがんで不安げ
なクロイツに声を掛けてくれた。
「おう坊主。お前の父ちゃんと母ちゃんはな、今ちょーっと出かけてるんだ」
「そうにゃの……?」
「そそ。だけど心配すんな! そこの二人はお前の父ちゃんと母ちゃんのダチだから戻ってくるまで一緒に待っててくれ。坊主はイイコにお留守番できるよな?」
「!うん! ボク良い子にできりゅよ!」
「お~流石! じゃあイイコで待ってるんだぞ~」
いや可愛すぎない!?!? うわ~~クロ君って昔はこんなに素直だったの!? 満面スマイルの破壊力がえぐいよ~~~!
抱き着いてすりすりしたい……!! けど今のクロ君は本当の幼児……!! トラウマになっちゃったら申し訳なさすぎる……!
いやでも明日の朝まではこのままらしいし存分に堪能できるのでは!?!?
へらへらと。シェイドはいつも以上にクロイツにデレデレになってしまい、まともな思考回路が働かなくなっていた。
「いやあ。あの兄ちゃん。昔はこんな可愛かったんだなあ~!」
「いや今も可愛いですよクロ君は!! まぁショタクロ君が魔性なのは認めますけど!!!」
「がっはっは! 食いつくねえ。ま、じゃあ可愛い可愛い坊主を魔の手から遠ざけてやってくれよ~!」
そうしてシェイド達はクロイツを連れて串焼き屋を離れた。
「さて。じゃあクロ君。まずは僕達のことを知ってもらうために自己紹介をしようと思います! 分からないところがあったらなんでも聞いてね」
「は~い!」
「ひ~~~~可愛い~~~~!」
「?? だいじょーぶ? どっかいたいの?」
「ううん! 全然!! 寧ろ絶好調!!」
「わあ、よかったあ!」
「ぐっふう! え~~可愛すぎる……! ショタクロ君の破壊力に僕耐えられないよ!?」
「も、もうシェイド君! 気持ちはすっごく分かるけどまずは自己紹介しなきゃ……!
えっと、こんにちは。アタシはセティア。歌族なんだ!」
「あ、ごめんごめん~! 僕はシェイド! 竜族だよ。見ての通りカッコよくて強いから、わっるーい人なんて蹴散らしちゃうからね!」
「わあ~! セテアかあ~い~ね~! 絵本に出てきたようせいしゃんみたい~!」
「ふえっ!? あ、ありがとう……!」
かあっ、と。不意を突かれたセティアは顔をリンゴの様に赤く染める。その様を見てシェイドはニマニマと笑う。
幼い頃のクロイツであろうと、二人が仲良くイチャついているのはシェイドにとって嬉しいことだった。
「シェードはりゅーぞくしゃんなの?」
「ん? そうだよ! どう? かっこいいでしょ~?」
「しゅごーい!!とおーってもかっこいいね~!! あのねっ! ボク絵本で読んだことありゅの!
りゅーぞくしゃんとっても強いの! シェードりゅーぞくしゃんなのしゅごいね! かっこいいね!!」
「へっ!? ぼ、僕も!?」
「うんっ! シェードかっこいい!」
こ、この子本当にクロ君……!? こんな素直すぎるいい子、デレデレにならないほうが無理じゃない!?!?
大人のクロ君も大大大大好きだけど、どうせ明日の朝までだし…
…堪能してもいいよねえ!?
「クロ君何か食べたいものあるう!? 何でも買ってあげるよ!!」
「え、いーの?」
「勿論!! 遠慮しないでいっぱい食べてね!」
「わあ~い! あいあとーしぇーど! セテアもいっしょいこ?」
「うん! 一緒に行こうねクロ!」
「わあ! じゃあシェードとセテアとおててつにゃいで歩く~!!」
そう言い、クロイツはセティアとシェイド、両方と手を繋いだ。
「えへへ、あったかい~~!」
「ンンンンッ!! か、可愛すぎる……!」
「ボクお肉食べたい~!」
「も~なんでも買ってあげちゃう~!!」
「ふふ、クロってば昔からお肉が好きなんだね」
「? うんっ! ボクお肉だあ~いしゅきっ!」
「も~~~! 僕はクロ君が大好きだよおおっ!」
ニコニコと笑うクロイツに、シェイドは顔をだらしなくすることしかできなかった。
それはセティアも同じで。いつもと違うニコニコ笑顔のクロイツに、メロメロだった。
それと同時に感じるなつかしさはどうしても思い出せなかったが。嫌な気持ちになっているわけではないし、今はめいっぱいショタクロイツを堪能しようと、気持ちを切り替えた。
「あっ、あそこに肉巻きおにぎりがある! クロ君食べてみる?」
「にきゅまきおにぎー? 食べてみたい~!」
「そっかそっかあ~~~!! いっぱい買ってあげるからねえ~~~!」
「?? いっこでだいじょーぶだよ~! セテアもいっしょ食べよ~!」
「うん! ありがとうクロ」
「よお~し! じゃあ肉巻きおにぎり三個買ってくるからちょーっと待っててね!」
「シェードあいあと~!」
満面笑顔のクロイツに見送られ、シェイドは駆け足で肉巻きおにぎりを購入する。
「はいっ! 熱々だからふーふーして食べてね!」
「はあい! セテアとシェードのおにぎーふーふーすりゅの~!」
「ンンッ!! か、可愛い……っ!! えへへへクロ君ありがとう~~お礼に僕がクロ君のおにぎりふーふーしてあげりゅねえ!」
「わあ~いっ!」
「ふふ、クロ、ありがとう。おかげで火傷しないで食べられそうだよ」
「んへへ~! あっ、セテアのほっぺたにお米しゃんついてりゅよ~! ボクとってあげりゅね!」
ぱくっ、と。クロイツはセティアの頬についていた米粒をとり、悪意なく食べた。
「へっ……へえっ!? ク、クロ!? ななっ何を……!?」
当然幼いクロイツの行動とはいえ、セティアの惚れたクロイツであることには変わらないわけで。セティアは羞恥で顔を赤くした。
「?? お米しゃんとったの~! セテアお顔リンゴしゃんみたいになってりゅ~! だいじょーぶ? おねちゅ?」
「あう……だ、大丈夫だよ……! その、えっと……ちょ、ちょっとびっくりしちゃっただけだから!」
「しょーなの? ならよかった~!」
「あははクロ君ってば小さくてもすごいなあ~! でも、他の女の子にはこんなことしちゃだめだよ~?」
「わかった~! おかあしゃんとセテアにしかしにゃい~!」
「あ~~~んいいこでちゅね~~~!!」
クロイツはとても素直で、シェイドの言葉をすんなり受け入れる。
しかしシェイドもセティアも知らないのだが、そもそもショタクロイツは誰にでもこのようなことをするわけで
はない。
セティアだからこそした行動だったのだが、二人は勿論、幼すぎるクロイツ自身も、そのことには気づいていなかった。
「じゃあ次は……あ、あそこにイチゴ飴がある! クロ君イチゴ飴は食べられる?」
「いちごしゃん大好き~!! 飴しゃんも食べらりゅよ~!」
「そっかそっかあ~~~! じゃあすぐに買ってくるから待っててね!」
「あっ、ボクおかいもにょしてみたい~! シェードダメ?」
「いいに決まってるじゃない~~! んもう可愛い~~!! はいこれお財布」
「シェードあいあと~! えへへ、待っててね、シェードとセテアの分も買ってくりゅから~!」
タタッ、と。クロイツは小走りでイチゴ飴の売店へ向かう。
シェイドとセティアもその後
ろを追いかけ、クロイツの様子を見守る。
「おじしゃ~~ん! イチゴ飴しゃん三つくだしゃ~い!」
「ん? あぁおつかいかな? イチゴ飴三つね。毎度あり! 落とさないように気をつけろよ~」
「うんっ! ボクちゃんと持てりゅよ!」
トテテと。クロイツはイチゴ飴を両手で持ち、シェイド達に駆け寄る。
「イチゴ飴しゃん買えたよ~~!」
「すご~~~~い!! クロ君偉いでちゅでね~~! ありがとう~~!」
「クロすごいよ! でも飴は固いから気を付けて食べてね?」
「うんっ! ボクちゃんと飴しゃん食べられりゅよ!」
「偉いねぇ~~すごいねぇ~~~!!」
ペロペロとイチゴ飴を舐めているクロイツを見つめながら、シェイドはニタつく。
こんな可愛い生き物が目の前にいることが信じられない。それと同時にもう少し、後一週間くらいショタクロイツを堪能したいという欲に駆られていた。
「ね~シェード」
ふとクロイツは何か急にもじもじしつつシェイドに話かけた。
「ん~なあに~クロくん♪」
その姿もあまりにも可愛くシェイドはだらしなく頬を緩ませ答える。
「あのね~たかいたかいいーい?」
「高い高い!? !? 勿論だよ!!」
ひょいっ、と。シェイドは軽々とクロイツを抱き上げる。思わず頬ずりしそうになるが、微かに残った理性でどうにか踏みとどまった。
「わぁ~! 高い高い~! しゅごい~! シェードおっきいね~!」
「大丈夫! クロ君も大人になったらおっきくなれるよ~~~」
「うんっ! ボクおっきくなったらシェードよりもおっきくなってシェードもセテアもまもりゅ!」
「も~~なんて可愛らしいんだっ!! ほんとにできちゃうから余計に可愛い~~~~!」
そう。将来クロイツはシェイドと同じくらい大きくなるし、強くなる。警戒心もぐっと高くなるし……それに、
「シェイド君? 険しい顔をしてどうしたの? 大丈夫?」
ひとしきり高い高いを終えた後シェイドはクロイツをそばにあったベンチへとそっと降ろす。
そしてふとそんな風に考え事をしていると、セティアがシェイドに声を掛けてきた。
「え? あ~……あはは。ちょっとね~。
……クロ君ってこんなによく笑う子だったんだなーって思ってね。
きっともしお父さんとお母さんと普通に暮らしていたらクロ君はもっと
明るくてこんな風にいつも笑う子に育ったのかなって……そう思ったらさ、こんなかわいい子が一人でどれだけ頑張って生きてきたのかって、ちょっと色々考えちゃったんだよね~」
「あ……」
チラリ、と。セティアは無意識にクロイツに目をやる。ベンチに座りながらイチゴ飴を食べているクロイツは満面の笑みを浮かべていて。
無邪気にはしゃいでいた。そんなクロイツを見て、セティアは
チクリと胸が痛んだ。
そう。大人のクロイツは滅多に笑わない。別に世界を悲観しているとか楽しいことがないというわけではないのだが。大人のクロイツはクールで笑うときも豪快に笑うわけではない。
それが悪いというわけではないのだが、こんな風に無邪気に笑う過去を見せられたら……。と、シェイドとセティアは考えてしまったのだ。
「あははごめんごめん! 辛気臭いこと言っちゃったね! せっかくクロ君が楽しんでいるんだし、僕らも一緒に楽しもうよ!」
「う、うん……」
そう返事はしたものの。セティアの気持ちが晴れることはなく、暗い表情を浮かべていた。
「セテア? だいじょーぶ? どっかいたいの? 」
ひょいっ、と。クロイツはベンチから降りて、セティアに近づく。そして上目遣いでセティアを見つめ、破壊力抜群の可愛さで心配する。
「う、ううん! 大丈夫! ちょっと目にゴミが入っちゃったけど、もう大丈夫だから!」
「よかったあ~! セテア元気!! あっ! おまんじゅーしゃんだ~! セテアおまんじゅーしゃん食べてもっと元気になりょ~!」
「クロ……うん! 一緒に食べよう!」
クロイツの言葉で、セティアは笑顔を取り戻す。
その姿を見て、シェイドはやはりセティアちゃんにはクロ君がいないとだめだなぁと再認識した。
「シェードもおまんじゅーしゃん食べよ~~!」
「え、ボクも? 勿論だよ~~!」
「んと、シェードはなんにょおまんじゅーしゃんがしゅき?」
「え~そうだなぁ~今は甘いもの食べたし餡子とかよりチーズがいいかなぁ~」
「シェードはチージュしゃんがいーんだね! セテアはにゃにがいい?」
「え、そうだなぁ……アタシは餡子のおまんじゅうにしようかな」
「じゃーボクはお肉しゃんのおまんじゅーしゃんにしゅる~! みんなでわけっこしよ~~!」
「するう~~!! んも~~可愛いっ!!」
そんな会話をしつつ、三人お饅頭屋台へと赴いた。その店は生菓子のお饅頭から蒸し饅頭まで多種多様のお饅頭が並んでおり、クロイツは目を輝かせて物色する。
「いっぱいありゅね! お肉の入ったおまんじゅーしゃんもいっぱいあってみんなおいししょう……!」
「ほんとだね……! 思ったより調理方法とか違うお饅頭がいっぱいあるねぇ。
綺麗な店員のお姉さん~! 良かったらオススメ教えてほしいな~!」
「あらまぁカッコイイお兄さんに言われちゃうと若返った気がするわあ~。そうねぇ……お兄さんたちはどんなお饅頭が好みだい?」
「チーズ系とお肉系と餡子系がいいんだけど、どうかな?」
「あらあら定番だけどたくさん種類があるお饅頭ねぇ! ちょっと待っててくれるかい?今見繕ってくるから!」
「わあ! いいの? ありがとうお姉さん~! こんな綺麗なお姉さんに選んでもらえるなんて、僕って幸せ者だなあ~!」
「んもうっ! 上手なんだから~!」
お世辞のつもりはシェイドには一切ない。シェイドは全ての女性を等しく綺麗で可愛いと思っているからだ。
そんなシェイドの対応を見て、普段のクロイツなら白い目で見たり時々驚いたようなまなざしをするのだが……。
「楽しみだね! どんなおまんじゅーしゃんがくりゅんだろ~!」
幼いクロイツは、シェイドの口説きを理解していないのか、お勧めのお饅頭に思いを馳せていた。
そして数分後。店員がいくつかのお饅頭をトレイにのせて戻ってきた。
「お待たせ! お兄さん達にオススメのお饅頭をいくつか見繕ってきたよ!」
「わ~! ありがとうございます! じゃあ全部くださいっ!」
「え? いいのかい?」
「だって全部お姉さんのオススメなんでしょ? なら全部買っても絶対後悔しないから~!」
「あらまあ! ほんとに口達者なお兄さんだねえ! もうっ! そこまで言われたらお饅頭三つはサービスであげちゃう!」
そういい、店員は慣れた手つきでお饅頭を袋に入れていく。
「はい! 熱いのもあるから気を付けてね!」
「わ~! おまんじゅーしゃんがいっぱい~! シェードあいあと~!!」
「ふふ、お礼は綺麗な店員さんに言ってあげてね?」
「あいっ! きりぇーな店員しゃんあいあとーでしゅ!」
「うふふ可愛い子ねぇ。またおいでっ!」
そうしてシェイド達は店員に見送られながらまた近くのベンチに移動した。流石に量が多いので、座ってゆっくり食べようということになったのだ。
「さて、じゃあまずはこのチーズ入りの熱々お饅頭から食べてみようかな~!」
「ボクは豚しゃんのお肉の入ったおまんじゅーしゃんにしゅる~!」
「アタシはこしあんのお饅頭にしようかな」
「わ! お肉しゃんもあちゅあちゅ! ふーふーしにゃきゃ!」
「あはは、クロ君ゆっくり食べないと火傷しちゃうからね」
「ゆっくりたべりゅ~! あっ! セテアとシェードも一口どーじょ!」
「わあ、ありがとうクロ! アタシのお饅頭もどうぞ」
「じゃあ僕のお饅頭も! ふふ、いろんな味が楽しめるっていいねえ~」
先程のケバブでは間接キスだと騒いでいたシェイドも、流石に幼くなったクロイツ相手には言わなかった。
勿論シェイドがセティアのお饅頭をもらうときは、口をつけていない部分をちぎってもらったが。
「んふふ! おまんじゅーしゃんい~っぱいたべれりゅのうれちーね!」
そう言って顔を綻ばせるクロイツの可愛いのなんのって。小さい口の中いっぱいにリスのようにお饅頭を頬張るクロイツは、最高に眼福だった。
はあ~~~それにしても可愛い! やっぱり後一週間くらいショタクロ君でいてくれないかな~~! 素直で可愛いし、超絶イイコ!!
普段は絶対言ってくれないこともたくさんいってるくれるし……やっぱ1日じゃ足りないよお~~!!
そんなことを考えながら、シェイド達は引き続き屋台や街を見て回った。
幼いクロイツとの時間はとっても楽しく時間はあっという間に過ぎていっく。
そしてすっかり黄昏時も過ぎ去り夜半。シェイド達は寝る準備を整えていた。
「ねーねーシェード、セテア~! きょーはいっしょ寝ていい?」
「一緒に? 僕は良いけど……」
「アタシも大丈夫だよ」
「そう? じゃあクロ君を真ん中にして三人で一緒に寝ようか~!」
「いいの~!? やったあ! あいあとシェード、セテア!」
ニパッ、と。クロイツは満面の笑みを浮かべてベットに潜り込む。
そんなクロイツに続くようにシェイドとセティアはベットに入った。
「えへへ、今日はしゅっごく楽しかったの! あいあとーシェード、セテア!」
「こっちこそとっっっても楽しかったよ!! 寧ろしばらくそのままでいてほしいくらい!!」
「?? しょのまま?」
「あはは。気にしないでクロ。シェイド君もクロと遊べて楽しかった。また遊びたいなってことだから」
「わあ! 嬉しい~! セテアも? 」
「勿論! また一緒に遊ぼうね!」
「んへへ~! やったあ~!」
「可愛い……!! 無邪気すぎるクロ君最高……!! やっぱ最後に頬ずりをするべき……!?
いやいや押さえろシェイド! そんなことしてクロ君に嫌われたら……!!」
「? ボクシェードのことだいしゅきだよ!」
「僕も大好きだよ!!!!!!」
ニコリとはにかむクロイツは天使と言ってもまるで遜色なく。
何故明日の朝には戻ってしまうのだろう、と、シェイドは歯噛みしていた。
「あっ!! わしゅれてた!」
そんなシェイドの気持ちなど、当然クロイツは露知らず。
笑みを浮かべたままセティアの方を向いた。
「おやしゅみのちゅーしなきゃ!」
──そして、なんとセティアの唇にキスをしたのだ。
「──ッ!?!?!?」
ボフンッ、と。セティアは突然のことに顔を真っ赤にして硬直する。
シェイドもそれには流石に驚いてしまい、目を丸くしてクロイツを見つめた。
「ちょちょっ! クロ君!? それは……ッ!?!?」
しかし ちゅっ、と。シェイドがクロイツに何かを言う前に、今度はなんとシェイドまでもが唇にキスをされた。
「どええええええっ!?!? ぼぼっ僕も!?!?」
「うんっ!! シェードもおやしゅみのちゅーだよ!」
「あわわわっ……! ク、クロ! そそっそんな軽率にキスしちゃだ、だめだよ……!!」
「?? でも、おかあしゃんはいちゅもおやしゅみのちゅーしてくれりゅよ!」
にぱっ! と。クロイツは満面の笑みを称えてはにかむ。
いやいやいやいや!? え、え、え!? 昔のクロ君ってキスが当たり前だったの!?
しかも唇!?!? 可愛すぎない?? クロ君って魔性!? 世界一可愛いちゅーだよ絶対!! クロ君のお母さんグッジョブ!!
いやでも意外だな……。クロ君のお母さんが口にキスをするなんて大胆なことをおやすみの習慣にする人なんて……!
「あっ、でもおかあしゃんがちゅーしてくれりゅのおでこだった! 間違えちゃった」
「やっぱりそうだよね!?!?」
「でもちゃんとおやしゅみのちゅーできた~!」
「アタっアタシクロにキキっキスされちゃった……!? で、でもクロは純粋にお休みって意味でキスしたわけであってアタシみたいな気持ちを抱いているわけじゃ……そもそも今のクロは小っちゃくて…っあうあう……!」
ニコニコと笑うクロイツとそんなクロイツの可愛さに悶えるシェイド。そしてその横ではセティアが悶々と顔を赤くして羞恥しているというなんとも奇妙な空間ができあがっていた。
そんなドタバタな空間にも関わらず、うとうととクロイツは瞼をゆらし、そのまま眠りにつく。すやすやと可愛らしい寝息をたてるクロイツはそれはそれは可愛らしく。
シェイドとセティアは寝顔にメロメロになりながらも、起こさないように静かに微笑んでいた。
「……ねぇセティアちゃん」
しかし、シェイドが唐突に真剣な声色でセティアに声を掛ける。勿論、小声で。
そんなシェイドの態度に、セティアは不思議そうに小首を傾げた。
「なあに?」
「僕、クロ君の事養子にしようと思うんだけどどう思う?」
「……………
えっと……シェイド君。クロは明日には戻っちゃうからそれは無理だよ?」
「………………………うっ
うわあああああああいやだああああああああっ!!!! こんな可愛いショタクロ君と離れたくないいいいいいい!!!! 僕の息子にして一生大事に愛でていたいいいいいい!!」
「ちょっ、シェイド君! クロが起きちゃうよ……!」
「クロ君戻らないでええええ!!! いやでも大人のクロ君にも会いたいいいいいいい!いっそ分裂してえええ!!!! はっ!!! 我ながら名案では!?!? ねえどう思うセティアちゃんんん!?」
「えっと……とりあえずクロが起きちゃうから大声は……」
「うわあああああん! だってだって耐えられないよおおおおおお! こんな可愛い天使が明日にはいなくなっちゃうなんてえええええ!!!! 無理無理無理いいいいい!!!明日もいっぱい遊びたいよおおおお!! もういっそ明日なんて来なければいいのにいいいい!!
はっっ!! もう一回串焼きを食べれば……!?!? あああ
ああああなんでもらってこなかったんだよ過去の僕うううううう!!」
「もうっ! 静かにしてよシェイド君~!!」
騒ぐシェイドに、セティアは小声で注意し続ける。
しかし、シェイドの悲観でさらに騒がしくなった空間でも、クロイツはすやすやと天使のような寝顔で眠り続けていた。
まぁセティアも、多少心の中で共感していることはあったのだ。確かに可愛いショタクロイツに会えなくなるのは、セティアとしても寂しい。
けれど、大人のクロイツに会えないのはもっともっと寂しいのだ。勿論、今のショタクロイツといて嫌なわけではない。ただ、もう大人のクロイツに会えないかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうな程いたいのだ。
だってアタシはクロが大好きだから……。だから、クロに会えなくなるなんて考えたくもないよ……。
そんなことを考えていたせいだろうか。シェイドをどうにか宥めてから就寝したセティアは、久しぶりに悪夢を見ることになった。
『お前さえいなければ……ッ!!』
『忌まわしい悪魔め……! 貴様のせいで天使が堕落したんだッ!!』
『やはりあの時殺すべきだった……忌まわしい……天使に救われた分際で、この恩知らずっ!!』
やめて、やめて……っ! 怖い、怖いよお……! 分からない、知らない……っ。
なんでそんな酷いこと言うの……?
『お前のせいだ……全部全部お前のせいなんだ……ッ!』
嫌、違う……っ! アタシは……アタシは……っ!!
『殺せ、この異端児を、疫病神を殺せッ!!』
『許さないッ!! 死ねッ!!』
ごめんなさい……! ごめんなさいごめんなさい……! もう許して……! 誰か、誰か……!
「……ア……! セ……」
──クロ、助けて。
「セテアっっ」「セティアちゃんっ!!」
そんなセティアの嘆きを掬い取るかのように、誰かがセティアの名を呼んだ。
「……ぇ……?」
その声で、セティアは覚醒する。セティアが涙で濡れたであろう瞼をゆっくりと開くと、そこにはクロイツとシェイドが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「セティアちゃん! よかったぁ……! 魘されてたみたいだから心配で……!」
「セテアどっか痛いの……? ボク、痛いの痛いの飛んでけ~しゅるよ!」
「ク、ロ……? それに、シェイド君まで……」
「セティアちゃん大丈夫?」
「あ……だいじょ……ぶ……だよ……」
ボロボロと。言葉とは裏腹に、セティアの涙は止まらない。泣き止みたいのに。大丈夫だって、シェイドとクロイツには心配かけたくないのに。
涙が止まってくれることはなく、セティアは自己嫌悪に陥っていた。
そんな時、クロイツがセティアの頭を優しく撫でた。そして無邪気で優しい声色で、
「セテアだいじょーぶだよ。ボクが悲しいのぜんぶぜーんぶお空に飛ばしてあげりゅっ!
痛いの痛いのおしょらに飛んでけ~!」
と、そう言いながらクロイツは小さい体でセティアを抱きしめ、何度も背中をさすってくれた。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。セテアにはボクとシェードがいるからねっ!」
「そうだよセティアちゃん! 無理して泣き止まなくていいけど、もう怖いことも辛いこともないからね……!! 全部僕とクロ君で守って見せるから!」
「ごめ、ごめん……なさい……アタシ、二人に迷惑かけてばっかりで……!」
「違うよ~! ボクセテアだいしゅきだから! シェードもだいしゅき! 二人ともボクがまもりゅ~!!」
「ンン~~~!! ショタクロ君は直球で可愛いなあ~~! やっぱりもうちょっとこのままでいない!?!?」
「??」
「ふ……あはは。ふふ、ありがとう二人とも。おかげで涙が止まったよ」
「! よかったあ! セテアの笑顔しゅっごく可愛い! おひめしゃまみたい~!」
「へあっ!? お、お姫様……!?」
クロイツのおかげで、自然と涙を止めたセティアは、今度は顔を赤くしてたじろいでいた。
そんな二人の様子見て、シェイドは独り言つ。
やっぱり小さくなってもクロ君はクロ君だなぁ~。セティアちゃんを一番思いやっているのも、安心させることが出来るのも全部クロ君だもんね。
いやなのに恋してないとかある?? なんで?? 寧ろショタクロ君の方が鈍くなさそう……??
あ~~~~もっとショタクロ君のままだったらセテアをお嫁しゃんにしゅるの~~! とか言ってくれないかなあ!?!? あ~~言ってほしい~~~!! いやワンチャンシェードと結婚しゅるの~! って言ってくれるのもアりかもっ!
「あああああああ~~~!! ショタクロ君と離れたくないよおおおお~~!!!!
もっといっぱい遊びたいいいい甘えてほしいいいいい~~!!」
「シェイド君ってば……もう」
「?? シェードだいじょーぶ?」
「ううう……大丈夫じゃないい……」
しくしくと悲しむシェイドを再び宥め、三人は就寝を再開する。
二人の献身のおかげでか、その日はもうセティアは悪夢を見なかった。
ただ、幼児化したクロイツに似た少年と笑いあっていたような夢を見たのだが。
それは先程の悪夢よりも曖昧で。ただ、楽しくて幸せだという感情は、夢から覚めても強く残っていた。
そして翌日。
「ねえ!! 一生のお願い!! もう一回串焼き屋に一緒に行こう!? 僕の為だと思って!! ねえ!!!!」
シェイドはまるで土下座するかのような勢いですっかり大人の姿に戻ったクロイツに詰め寄っていた。
「ふざけんなっ! 肉食った後の記憶が全然ねえのにまた行くわけないだろっ!」
まぁ当然クロイツに一蹴されていたが。しかしシェイドはそれでも引き下がることはなく。尚もクロイツに縋っていた。
「なんでえ! もう一回行こうよ! 大丈夫だから!!」
「何が大丈夫なんだ! 起きたら三人で何故か寝てるし、お前は朝から肉の事しか言わねえし、昨日なにがあったのか話せって何度も言ってるだろ!」
「いやだ! だって言ったら絶対クロ君お肉食べてくれないもん!」
「そんな事言われたら益々食う訳ねえだろ!!!」
「いやだあああ!無理無理無理無理!! 僕は絶対諦めないんだからね!!!」
「ちょっ!! 放せ! 行かねえって言ってんだろ!!!」
ずりずりと。シェイドは今までに見たことのない執念でクロイツを引っ張る。
そんなシェイドに戸惑いながらも、全力拒絶するクロイツ。
「ア、 アタシクロにキ、キスされて……っっうううう……っ!」
一方。セティアはというと、昨夜のキスを思い出して忙しなく表情を変えていた。
喜んではにかんだり、羞恥で泣きそうになったりなど。しかしクロイツとシェイドはお互いに全力で、セティアの心境には気づくことはなかったのであった。
制作者《閃琥》様
ちびクロくん祭り
↑ミニクロイツが居なくなってしばらく放心状態なシェイドくん
その三日後には等々幻聴まで聞こえ始めてしまう。
『うふふ~僕も大好きだよ~クロく~んvvvvv』
『……………………(=_=;)』←びっくりしすぎて言葉も出ないクロくん
しかしその後結局幻だと気づいたシェイド君は毎夜枕を濡らす事に
『うっ………ううっ…ク…ロ…くんッ』
『…………………………』←泣いているのに気づいてるクロイツ
その後あまりにも悲しむシェイド君がだんだん可哀そうになってきたクロくんは仕方なく退化の魔法を使って3歳児の姿になってくれるのでした。
『クックロくん!!!!?その姿は!!!!!!!?』
『……毎夜毎夜泣かれてたらたまったもんじゃないからな。
仕方ねえからたまになら…『うわあああああああああああああああああああああん!!!!!会いたかったよおおお会いたかったよおおおおおクロくううううううん!!!』
『ちょっ話を聞けって!…つか…その鼻水顔でくっつくなあああああああああああ!!!』
『うっううううっつ!!!クロくううううん!クロくううううううん』
『………………
はぁ…ったく……言っておくが、いつもこの姿になるのはごめんだからな。ほんとにたまーーーーーにぐらいで』
『クロくん』
『なんだよ』
『シェイド大好きって可愛く言ってv』
『調子にのるな!!』
おわり