呪術廻戦

沖縄から高専のある東京へ帰る機内で、五条悟はとんでもないものを見た。

「はあああああ??オマエ、何でこんな時にこんなとこで勉強してんの?!」

窓の外を見ていた夏油が五条の叫び声に右を見ると、オマエ呼ばわりされた天内理子が携帯を咄嗟に隠そうとしていた。

「おい!声がデカいわ!」
天内が五条以上に叫んだ。

「いや、だってありえないでしょ。必要性がない。オマエのヘアバン並に今、それ勉強必要ないから。」

通路を挟んだ座席にいる五条が、呆れ返っていた。
「ヘアバンをディスるほうが必要ないわ!勉強は大事だってお主も言っておっただろう」
「学生の本分を全うするのはいいことだよ。」
と夏油が天内に助け舟を出すも、
「今それをやる選択肢、俺だったらないね。普段から勉強やっとけ。ここは空の旅を謳歌すべき場所じゃん?」

五条があっさりバッサリ、夏油の舟を斬った。

「飛行機で勉強する全て人に謝れ、馬鹿者…」

天内は口を尖らせ、隠そうとしたスマホに再び目を向ける。
「それに。妾にはある…。」
小さな声だった。

あーはいはい価値観の相違ねー、と五条は肩をすくめる。
夏油が携帯の画面を覗き見ると、数学の問題集のアプリのようだった。
「試験対策?」

“これからの天内に”勉強は必要がない、と万が一にも五条が言っていったら、夏油は機内トラブルを起こしていたところだった。

天内が同化を拒んだとき、自分たちはどう動くのかという話をしたときから、そんな一は無いとは信じていたけれど。

「ううん、宿題じゃ。この問題集のここから、数ページ先まで範囲。」

提出はできなくとも、終わらせとかないと半端で気持ち悪いから、と天内は笑った。
そうだね、と答えるのは少女に待ち受ける未来を肯定するようで、夏油は躊躇った。

(…微妙な空気が漂う前に、気の利いた台詞が思い浮かばない。
おまけに問5は計算ミスってるし…)
と、夏油が言葉選びに思考を巡らした瞬間。

「問5、掛け算間違えてるぞー。」

五条が普通に、周りに聞こえる声量で指摘した。

「えっ?!嘘!」

天内が悲鳴を上げる。
掛け算を間違えていることに対してか、一瞬しか画面を見てない五条が指摘したことに対してか。

「…悟が他人に気を利かすことは無理だって分かっているけど、もう少し何とかならない?(あっ、本当だ。)」
「傑、失礼な心の声と棒読みなセリフ、逆ですけど?ていうかオマエわざとだな表出ろ、いや1人で表出て飛ばされてこい」
「悟…。今扉を開けたらどうなるか知らないのか?」

一戦始まるゴングが天内には聞こえた気がした。

冗談に正論を返すなとか正論じゃない事実だとか、聞こえてくる。気がする。

(気のせいじゃ。
九九を妾が間違えただけで機内トラブル始まるわけなし、決して妾のせいではない。
ああそうだ私の妾のせいではない!
気のせいじゃ。)

ということにして、天内は静かに計算し直した。
真横では五条が中指を立てたり夏油が親指を下に向けたりしながら、罵声の応酬が飛び交っているが。

「…あ、ここじゃな」
「掛け算なんか間違えるなよ、小学生やり直してこいよ天内〜」
「おい貴様、中指立てたまま妾に話しかけるな!しまえしまえ!」
「九九できないの?」
「お主は下に向けた親指をしまえ!
できないとはなんじゃ、たまには間違えるわ!
ええい、揃って失礼極まりないハンドサインを妾によこすんじゃない!」
「だって8×8間違えるって価値観の相違じゃ済まされないじゃん」

五条が舌を出して小馬鹿にする。

「オマエエエ、なんじゃその舌は!いちいち無礼な奴!お主とは価値観相違して結構じゃ。」
天内が右手でチョキチョキと舌に向けてポーズすると、五条は舌を出したままグーを向けてきた。
(…なんか傍から見たら妾がジャンケンで負けてる図になってる)

グーから手をか●か●波のポーズにした五条が断言する。
「はっぱ64だよ?はっぱああ!必殺技みたいで覚えちゃうでしょ。なのでまず間違えません。」
お前は何を言っているんだ…?
という目で天内が五条を見ると、うんうんと夏油が同意する。

「分かる、九九八十一!は最終奥義だ」
「だよなー?」

二人とも、いい笑顔だった。
日本語なのに何言ってるのか分からないが、ああ…こやつらの価値観はピッタリなのは分かるぞーーー。

天内は急に今までに無い疲れを感じ、そっと問題集のアプリを閉じた。

「げ。保存しておらんかった…。」


20240416 修正

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