呪術廻戦

まさか上京した1年後、両親を殺すために故郷へ帰るとは。
運命があるのか知らないが、そいつに当てこすられている気がして、呆れた笑いが口の端から漏れる。

私は、家族との思い出が少しでも少ない道を選んで家に向かっていた。
小さな抵抗のようなことをして、何が変わるというのか?
これから成すことと比べたらちっぽけな出来事だというのに。


ポツポツと立つ、電柱の灯りに照らされた真夜中の街並み。
思い出がそこら中にある。
今歩いている、舗装されたばかりの道にさえも。

(ああ、この先は…)
闇の中に、最低限の遊具だけがある小さな公園が浮かび上がる。
切れかけた電灯の元でも、一瞬で昨日のことのように公園の記憶が鮮やかに蘇る。

幼い頃、母親に連れられた買い物の帰り。
いつも帰り道、母親の手を引いて必ず寄り道をした。
公園の出入り口に、いやらしくアイスクリームの自販機が置いてある。
冬だろうがねだってベンチに座って親子で食べる
…までが母親との買い物コースだった。


これから断ち切る鮮やかな過去が、ふわふわと泡のように浮かんでは弾ける。
弾けるたび、掲げた内なる大義にかすり傷がつく気がした。

それが、どうしようもなく苛立つ。
今すぐ、街ごと破壊し尽くしたほうが良い気さえしてきた。

しかし目の前に丁度、家が見えてきた。
歩みを止める。
不要な感情・思考に蓋をして、呪霊を呼び出す。

何も考えてはいけない。


両親が眠る、寝室の窓に向かって手を伸ばす。
呪霊を差し向ける。
何も考えてはいけない。
餞に、苦しみや痛みが少しでもない…一瞬で済む呪霊を選んだ。



両親を呪霊で殺しただけだ。
大した肉体労働はしていないというのに、この疲労感はなんだろう。

眠ろうと目を瞑る。
少しして、目を開く。
瞑る。
開く。

意思と反した泡が浮かぶ。
弾ける。
弾ける、たびに目を開く。
瞑る。


また一つ、泡が浮かぶ。
最後に帰省したとき、電話機の横に置いてあるカレンダーを目にした光景の泡。
まるで誰かの誕生日かのように、帰省したその日に花丸がついていた。



浮かんでは弾け続ける泡に嫌気が差して、ベッドから起きて深夜のテレビをつける。
普段なら耳障りな砂嵐の音が、今は心地よい。

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