FE風花雪月(ディミレス)
〈天を、人を、獣までをも。
何もかもを許してくれるような微笑みを口元に湛えて、俺に近づくな。
お前は失せろと言っても近づいてくる。
何を言っても心に近づいてくる。
毎晩毎晩…。苛立つ。
言葉で伝わらないのなら、恐怖でお前の自由を奪う。〉
深夜、二人きりの教会。
ディミトリの拒絶の言葉は、虚しくもベレスには伝わらなかった。
〈…これ以上、俺の心に立ち入ってくるな…!〉
牽制のつもりでディミトリはベレスの首元に噛み付いた。
痛みに驚き、彼女に突き飛ばされ。
悲鳴と罵声を吐かれ。
…物理的に、心理的に距離を置かれるために噛み付いた。
しかし、一向に突き飛ばされない。
手段は平手打ちでも構わなかったが、一切の衝撃がこない。
訝しむディミトリがベレスの首元から口を離そうとした。
すると、温かい手が頭にふわりとのっかった。
「ディミトリになら、構わない」
予想外の言葉に驚いたディミトリは耳を疑った。身体が固まった。
「ずっと好きだったから…」
突き飛ばしても、力が敵わないから。
悲鳴と罵声を吐く唇を、塞がれないために。
“嘘の好意“を伝えれば、本当はそんな気なんてない獣が退くと思ったのだろうか。
これ以上、肌に牙を食い込ませないために…
ベレスの告白を、ディミトリは嘘と決めつけて、一線を超えてしまう行為への牽制と捉えた。
しかし同時に、己には似つかわしくない喜びを自覚してしまった。
…近づいて欲しくなかったのに、自ら近づくきっかけを与えてしまったのだろうか。
後悔、喜び、温かな手のぬくもり、目の前のエメラルドグリーンの瞳。
身体だけではなく、思考も固まり始めたとき、ディミトリの冷たい唇にベレスの唇がそっと重なった。
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