夜の衣を返す
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いとせめて、恋しき時は、うばたまの、夜の衣を返してぞ着る。何処かで聞いたことのある和歌を口付さみ、もうかれこれ、ひと月あまり会えてはおらぬ彼を脳裏に過ぎらせては思い耽る。夜着、つまりは部屋着を反対にして着て眠ると夢の中で好きな人に会えるというおまじない。
「私、いくつなの…」
思春期のような茶地なおまじないに頼るほど、恋焦がれていたのだと改めて再認識した。入浴後の火照った身体にバスタオル1枚を巻き付け、ご丁寧に部屋着を裏返してゆく。裏地に目を向け、ミシン目を親指の腹でなぞり、乙女な自身の行いに苦笑いにも似た笑いが鼻から息をするのと同時に吹きこぼれた。
「おやすみなさい…。」
スマホの待ち受けに向かって寝る前の言葉を口にした。ひとり寂しいくベッドに横たわり、自身の体温で布団の中を温める。2人なら、こんなに寒くは無かろうと薄れゆく意識の中にふわりと遮ってゆく。
レスポンスは早く、電話もたまに。ただ側に居ないだけ。スマホを通した繋がりはある。そう、それなのに。
「…は、やく…会い、た、ぃ…」
寝言まで、口にするだなんて。
「夢で会いたい。なんて、そんないじらしい願い事じゃ物足りないでしょう。」
だからちゃんと
「帰ってきましたよ。」
起きぬようにと気遣いを込め、緩やかに着地をするとくるりと振り返り名無しの方へと歩み寄る。膝をつき、囁く様に漏れ出すブラックの独り言は欲を孕んでいた。
「貪欲になって、そう、もっとがっつくべきです。」
何処にも行かないで、ぐらい聞いてあげますよ。
「………名無しさんの為なら動画撮影だって」
ふと視界に捉えたゴミ箱。ポイッと手を振り上げ投げる動作をし、その先は言葉にしなかった。
「おやすみなさい、名無しさん。」
額に唇を落とし、そっと添い寝をすると名無しの表情がどこか綻んだような気がした。
-終-
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