時の詩
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カチッ。
「あーぁ、またやっちゃいました。」
初夏の花が燦々と太陽を拝むようにして伸びてゆく。陽の光の次はスプリンクラーを稼働させ、水分を供給する。暑い日差しの下、ガーデニング作業は中々の体力仕事。大きめの麦わら帽子が風になびき、不意な突風により飛ばされた。
「わあっ!」
風船が舞い上がるかの如く飛び立つ麦わら帽子。手の届かない空への旅立ちを追いかける。すると大きな黒い影が過った。鳥にしては大きく飛行機にしては小さい見覚えのない影は素早く名無しの前に降り立った。
「これは貴女のものですか?」
「はい、あの、あなたは?」
「オレちゃんはブラック。ヨーチューバーです。」
熟れたように挨拶をする彼は悪魔と名乗り、捉えた麦わら帽子を返してくれた。親切な方、お礼を振る舞うべく部屋に招き入れ冷たい飲み物と洋菓子を用意した。
「あ、私名無し。帽子有難う。もう駄目かと思っちゃったの。」
「大事なもの、ですからね。無くすわけには。」
「ええ、そうなの。ガーデニング用にプレゼントしてもらったもので…。」
…あれ?
「このお菓子美味しいですね。」
「私が焼いたの!良かったぁ」
「流石です。」
流石?
「おや。」
L字のソファー。長い部分の真ん中に腰掛けていたブラックが名無しを見るなり立ち上がり歩み寄る。ズイッと近づけられた顔は端麗で名無しの心を掴むのに時間はかからなかった。身体を巡る血液は熱を帯び、顔は赤みを強く露にしドキドキしている様子が見て取れた。
「近っ、あ、の…」
「土汚れ、ですかね。」
黒いハンカチを出すとソッと頬に当て優しく拭き取ってくれた。汗を吸って重くなった髪を耳にかけ、にこやかに微笑む悪魔はまるで天使のようだ。
「はい、綺麗に取れました。」
「ぁ、あ、あ、りがと…」
王子様みたい、なんて台詞をはける男性に一生に一回出会えるのだろうか。否、現に目の前にいる。
「あぁ、私いま汗臭いし土いじりしたからそのニオイとかも…!」
「カカカッ、名無しさんはつまらない事を気にするんですねぇ。」
オレちゃん、このニオイ、嫌いじゃないですよ。
「名無しさんが一生懸命頑張った証拠、でしょう?」
「は、ぅ…」
思いもよらないイケメン。こんな少女漫画展開があっても良いものだろうか。漫画から飛び出してきたかのようなスマートな対応とスタイル。胸の奥がギュッとなる。
「また、遊びに来ても良いですか?」
次は、貴女に会いに
「なんて、怪しいですかね。」
「あ、い、え!そ、んな!…」
また、会えるの…?
「オレちゃん、名無しさんになら何度だって会いに来ますよ。」
蝙蝠の様な羽を広げ飛び立つ悪魔は人外である事を認識せざるおえなくてほんのり染まる頬が次に期待値を膨らませた。
「ドラマみたい。」
「……………カッ。」
数ヶ月後。随分と仲良くなった二人。日によるがほんの数分から数時間までもの時間を毎日過し、季節は冬を迎えていた。
「ブラック、これ。」
「なんです?これは」
「マフラー編んだの。」
「名無しさんは器用ですね。」
ダークレッドカラーのマフラー。首に巻くとホカホカと暖かさが増す。つけると名無しは嬉しそうな表情をのぞかせた。
「オレちゃんのために?」
「うん、気に入った?」
「有難うございます、名無しさんからの贈り物はどれも大事にしています。」
「…あ、の、ね」
固唾をのみ、重心がふらつく思い。場の雰囲気が一変した。
「私、…ブラックのこと、好き…。だから、ソレ。作ったの。」
悪魔の口角が弓なりにひかれ見る見るあがってゆく。
「カカカッ、これは“初”の事ですっ…!」
「初…?」
六角形の自身がデフォルメされたイラストが貼り付けられた見覚えのない機械のようなもの。彼はそれを手に握り締め、恍惚とした笑い声をあげ今まで見せてきた紳士の皮をはぎ悪魔らしい入れたちへと変貌を遂げた。赤く光る月はまるでスポットライトのように彼を照らし、何故か冷や汗がたらりと流れた。
「な、に…?」
「やっと、ええ、やっとです。随分と繰り返しました。」
なんのはなし?
「何十回としてきましたが名無しさんから告白してくるパターンは初めて。こんなにも嬉しいものなんですね。」
壁際に追い詰め頬に触れる長い指。病んだ瞳が私を見下ろし恐ろしいまでの笑みをこぼしていた。
「やっとたどり着きました。」
-終-
夢主からの告白が欲しくて何度も何度も繰り返し巻き戻しては出会いから初めて試行錯誤してたどり着く執念深い悪魔。
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