3話
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否定された約束事。途中までの出来事は砂嵐のように途切れ、思い出すことは不可能だがしたであろう記憶、脳裏に浮かぶ思い出。それを今、目の前にいる悪魔がした覚えがないと言い切った。彼なら、本当に彼なら、覚えている筈
、ではなかろうか。
「名無しさん?」
「帰って。」
名無しの一言で部屋が一瞬にして静まり返った。響くは秒針のみ。目を見開いたブラックはゆるゆると名無しの方に手を伸ばす。一歩下がり、拒絶の反応を示すと手は止まり静寂と重苦しい空気が肺を圧迫する。
「……あなたはBじゃない、」
「名無しさん、落ち着いて下さい」
「落ち着いてる。」
「いいえ、」
ならばなぜ、そんなに目を据わらせているんですか。
「半信半疑、なんならちょびっと信用してなかった。けど、さっきの晩ごはんで、もしかしたらって思った。」
それなのに、今度は約束した覚えがないだなんて。私はこんなにも“覚えているのに”
「本当にそうですか?」
「…!?」
「本当に、それは記憶からくる、思い出ですか?」
首を傾げ、問う悪魔。その瞳に光はないが誰よりも労る思いが向けられていた。何故だがその目を凝視は出来なくて不意に目をそらしてしまった。この胸のざわめきは何だと言うのだろうか。消化不良のような気持ち悪さ。ぐるぐると掻き乱されるような感覚。重低音を奏でる心拍。ブラックに目を向けると次に放たれる言葉が安易に予測できた。
「大丈夫ですか?」
ほらきた。
「お願いだから帰って。Bにも会わせてくれない、っ…そうだと言ってたけど、食い違いのある、貴方と…過ごす意味なんてないっ…」
半信半疑だって?よく言ったものだ。なんなら少しばかり期待していたんじゃないだろうか。本音を口にした気がした。だからこそ底の浅さに気がついた。自嘲気味に笑う。格好つけていただけの虚勢はメッキの如く剥がれ落ち、情け無さという弱さが吐き気を促した。気分の悪さから意識を手放し、ゆっくりとベッドへと倒れ込む。拒絶した温もりが私を支える。
「(B…)」
あなたも私が具合を悪くした時、こうしてくれたわね。
「ねぇ、B。悪魔ってひどいのよ。」
「どうしたんです?」
「私とBの思い出を否定したの。…それに、自分をBだと言い切ったのにその思い出すら記憶にないだなんて、信じられる?」
「悪魔が、わたしだと?」
「そうなの。Bと声がそっくりで、時々仕草とか、考えとか、感覚とか…雰囲気は黒だから反対だけど。」
「それは随分とおかしな」
「そうでしょう?Bなわけない、思い出を否定することも、Bのふりをしたことも、私は許せないの」
「ええ、おかしいですね」
「そうでしょう?」
「だって、」
“思い出”なら何故“今の出来事”を“わたし”と語り合えるんですか?
「名無しさん、気づき時ですよ。」
青白い顔をした名無しの隣に添い寝をし髪を撫でてゆく。魘される彼女は何かと戦っているようで。
「かわってあげたいものです。」
そっと腕の中におさめるように抱き締め、背中を撫でる。触れ合うことで徐々に落ち着きを見せたかと思うと勢いよく目を覚まし、服を鷲掴みにされた。
「っぁ…っ、ぅっ……っ」
泣きじゃくる名無しは行き場のない感情を抱えていた。夢のなかで何かあった。そう確信したが今のこの子に説明を求むのは酷だ。だから今はただ。
「ゆっくりと、“何も考えず”眠って下さい。」
眠るだけの事がこんなにも難しい人間がいるなんて、まさに鬼ヤバ。なんて、普段なら心底滑稽でしかないが名無し相手なら話は別だ。健全な肉体と精神、まずはこれらを手に入れてもらわなければなるまい。そう、彼女はそうする事により開放に近づけるはずなのだ。
「ブラック、っ…」
「オレちゃんは離れません。大丈夫、心ゆくまでおやすみなさい。」
名無しのスマホを片手にロックを解除。アラームを切り、欠勤の連絡を行い、そッと元の位置へと戻す。そう、俗世の事など気にせずとも良いのだ。たまには泥のように眠る。
「不健全な貴女にはそれが必要ですからね」
ただひたすらに、おやすみなさい。
「……」
いつも見る夢は幸せなひと時をまるで切り取ったかのような映像美に優れた甘美な物。これを何年もかけて脳内再生する。会いたいを募らせ、安易に死んでしまった事への後悔をする。
そう言えば…。
Bの髪はどのへんまで長かったかしら。
「……」
首、そう、首のあたりまではあったはず。
“はず”?
はずって何よ。おかしな事を言うわ。
確かめるような事、言わないで。
だってそれじゃまるで…。
-続-