辻褄の詩
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ああ、やっと終わった。
「汚いわね。」
薄汚い自身を嘲笑う。
とある山道にて。
車で走行しているとある人物にであった。
「おや、こんなところに。」
物珍しさからブレーキを踏み、クラクションを鳴らすと、じろりと女性がこちらを睨みつけた。
「良かったら乗りますか?」
「………。」
女性は無言で車のドアを開け、助手席へと腰を下ろしドアを閉めた。ふっと乾いた息を吐き、どろのついた足元、赤く腫れた足首。彼女が如何に苦労をしたのか物語っていた。
「痛そうですね。」
「とても助かりました」
「いえいえ、ところで貴女のお名前は?」
「名無しです、あなたは?」
「オレちゃん、ブラックといいます。」
あまり多弁ではなさそうな彼女。初対面だし緊張だってしていることだろう。一言声をかけ、ラジオを流した。
「ところでこんな山奥に一人なんて」
「彼と喧嘩して、置いて行かれたの」
「そうだったんですか。助けは呼ばなかったんですか?」
「充電切れです。」
「災難でしたね。良かったら充電しますか?」
「あら助かるわ。有難う」
USBをカチッとスマホに差し込み、充電をさせてもらう。ほっと息を付き、差し出された飲み物を受け取った。
「これは?」
「余り物です。良かったらどうぞ。」
女性が好みそうな飲み物。
「キャラメルマキアート、お好きなの?」
「あまり。ブラック派なので。」
「好きでもないものを、わざわざ?」
「まぁ、何事も挑戦というか。ですが唆られませんでした。」
「戴きます。」
「是非飲んで下さい。」
プラスチックの筒状の容器。貼り付いている袋からストローを取り出し、目印の穴へと突き刺す。乾いた喉を潤してくれる。
「疲れも飛びそう。」
「よほど長い時間彷徨っていたんですね」
「2時間ほど歩いたかしら」
「2時間も?」
いつスマホの電源が切れたのでしょうか。
「ブラックさんはどうしてこんなところに?」
「ドライブがてらに走っていたんです。」
「そう。近いのかしら?」
「優中部町に在住しています。」
ここから3時間かかるわね。
「遠出が好きで。山道は良いですね。何より貴女に会えました。」
「おかげで助かったわ」
「ここに来て正解でしたね」
「なんてお礼をいったらいいか」
「とんでもない。オレちゃんは偶然通りかかっただけなので。」
「偶然かぁ。あら。」
後部座席のところどころに泥が。
「私の足と一緒ね。泥だらけ。」
「カッコ悪い話なんですが、車を停めて少し散策をしたんです。そしたら泥濘にハマって躓いてしまって後部座席で着替えたんです。」
「ああ、雨降ってたものね。」
「ええ。もう止みましたけど。」
でもとても不思議です。
「名無しさんは綺麗ですね。」
「あら、有難う」
「清潔なぐらいです。」
「ああ、そういうこと」
ズッズッと吸い上げてもストローから上がってこない飲み物が終わりを告げる。
「ブラックさんは用意がいいのね。」
「と、いうと?」
「着替え、靴まで持ってきてるのね。」
まっさらな黒い革靴。
「これ、とても美味しかったわ。あ、…ミニサイズのお菓子も、ある?」
「ああ、チョコがありますね。」
「私も同じセットで買っちゃうの」
運転してもらってると口寂しくなるから。
「食べます?」
「いただきたいわ」
一口サイズのチョコが程よい量で入っているお菓子。開け口を裂き中身を取り出して食べる。
「男性もこの組み合わせを買うのね」
「そうですか」
「私、定番なのよね。」
「女性は好きそうですね、その組み合わせ」
「だって小腹すくもの。こうやってね」
チョコを一つつまみ、運転しているブラックの口にチョコを放り込む。
「食べさせたりするの。好き。」
「甘いですね。」
「美味しい?」
「はい。疲れが飛びます。」
「疲れるほど運転してるの?」
ドライブが好きなのに。
「カカッ、仕事終わりのドライブなもので」
「そうだったの。」
ここに来たのはいつ頃かしら。
「なら、送りましょうか?」
「家の前、はどうかしら」
「名無しさんが良いなら」
「図々しくてごめんなさいね」
「足を怪我しているみたいですし」
「ヒールで長時間は堪えたわ」
「そうですね。」
「詳しいのね。」
彼は片手でナビをいじった。
「ここから3時間。……貴女も優中部町の方ですか?」
「そうなのよ、びっくりした?」
「確かにそうかもです。」
「警戒心は大事よ」
「カカッ、しっかりしていますねぇ」
「女なんてそんなもんよ」
「馴染むまでが大変なんですよね」
「苦労したことがあるの?」
「それなりに、です」
「モテそうなのに」
「そんな事ありませんよ」
「謙遜してるの?だってほら、一人でドライブする人に見えないもの」
「趣味ですし、何より仕事終わりなので一人の方が多いんです。」
「あら。一人で楽しむなんて信じられない」
「事実です。」
「あら、もったいない」
「名無しさんは素晴らしいです」
「そう?」
「貴方はとても素敵な女性です。奪ってしまい程に。」
とある山道にて。
薄汚い自身を見て嘲笑う。
「片付きましたねぇ。」
ああ、やっと終わった。
-終-
上から読むと夢主が殺人
下から読むとブラックが殺人してます。
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