アキノキリンソウの詩
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「痛っ。」
履き慣れないピンヒールにそろそろ足の裏が限界をむかえそうだ。アスファルトに突き刺すかのよう歩みを進め、マンションのオートロックをキーで解除する。エントランスに踏み込むと足音がカツカツと反響し喧しく耳に残る。エレベーターのボタンを連打して呼び寄せる。「まだか」と苛立ちが声色に出た。合コンの為だけに気合を入れて履いてきたが、結果は仲良く解散。ただの飲み会として終了。この結果ならば慣れないピンヒールなんて履いてくるんじゃなかった。アルコール臭いため息をひとつ溢し、到着したエレベーターに乗り込むと「すみません」と一言声が聞こえ、顔を上げ振り返ると癖っ毛というには少し控え目な表現の髪型と大きな目をした面の整った男が乗り込んできた。
「(…タイプ、かも。)」
男前なんて誰のタイプにも大体刺さるものだ。このマンションに住んで2年になるが、こんな男性は見たことが無い。一度会えば忘れなさそうな存在感。横並びに立つ彼にちらりと目線を送ると、送り返してきた。ニコッと笑う表情にきゅんっと胸が鳴るような思い。今ならこのピンヒールへの恨みを消化できそうだ。
「名無しさん?」
「え?ど、名前…」
どうして名前を知っているのだろうか。思わず一歩離れた。狭いエレベーターの中ではこれ以上の逃げ場がない。さっきまでの浮かれていた気分が一瞬にして警戒色へと染まっていく。すると彼は肩からかけている鞄を指差し「社員証、出てますよ。」と私の間抜けっぷりを控えめに笑った。謎が解けると安堵の息をつき、警戒した自分が少し気恥ずかしい。
「す、すみません」
「当然の反応なので気にしないで下さい。あ、そうです、名無しさんだけだと不公平なので…オレちゃんはブラック。ここの15階に住んでいます。」
「私と同じですね。」
こんな偶然あるのだろうか。部屋の間取りも同じで家具のブランド、配置、その上好きなスポーツまで一緒だなんて。これはもはや運命と言うべきか。今日行った合コンの意味を全てかき消すような出会い。話が弾むがここでエレベーターは止まった。指定した階へと到着すると重い音と共に開く扉。開いたからには降りるしかあるまい。物足りなさを胸に足を一歩一歩前へ出す。部屋が近づく度、先ほどの距離感が嘘かのようにお開きを迎えた。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。では、また。」
またと来たか。スマートな返しに期待値が上昇。玄関の鍵を開け、中に入る。施錠を施し、壁に手をつき、拷問器具とさして変わらないヒールを脱ぎ、スリッパに足を突っ込み廊下を歩く。やっと開放された足はやはりダメージを負っており、脱いだところでじんわりと痛みが残る。リビングにつくと鞄をソファーに置き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
「また会いたいなぁ…」
これはドラマさながらの恋愛がはじまるのでは?しかも美形。家具も配置も一緒で…。
「…うちのソファー、オーダメイドよ。」
このソファーがかぶることはない。断言する、これは私のこだわりが海外にまで渡って仕入れたオーダメイドのソファーだ。なのに、何故。
「…。」
閉めた筈の鍵が開いた。
-終-
意味怖風に仕上げました。
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