マーガレットの詩
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あれだけ怖い思いをしたというのに安心したのかテントを張って泊まることになるとは。シャイガイとか言うSCPにさとしの凶運の引きにより遭遇を果たした後の事。上質なネタを手に入れた悪魔は誰よりもご機嫌な様子。焚き火のまわりを囲むようにアウトドアチェアに腰をかけ、遅れてやってきた名無しに如何に恐怖体験だったかを雰囲気抜群の森の中でさとしが語らえた。聞けば聞くほど、隣に座って焼きマシュマロを頬張っている悪魔の驚異的な能力に驚くばかりだ。
「さとくん、助かるまでの過程が不憫…」
「結果オーライです。」
「死ぬかと思ったんだからな!」
「カカッ、生きてるじゃないですか。」
あっけらかんと返す悪魔にぐうの音も出ない。銀色の串に刺したマシュマロが程よく溶けたかと思うと焦げ目があっという間につき、ひょいと上に引き上げふっと息を吹きかけ冷ましてからカメラちゃんへと差し出した。喜んで受け取るカメラちゃんが唯一の癒やしだと思う。
「名無しお姉ちゃん、食べないの?」
「お腹、いっぱい、かな?」
「来る途中食べてきたの?」
煮えきらない返答を残し話題を切り替えた。来る途中での食事なんて済ませてはいない。ものが食せないのはこの悪魔のせいだ。何時しか惚れてしまってから目の前に居ると、どうしても緊張感からか食事が喉を通らず食べれなくなってしまうのだ。恋煩い、とでも言うのだろうか。今だって全く気が抜けない。視線だってまともに合わせてはいないし、カメラちゃんを構うことで気を逸している。
「もう寝ようよ、おれ眠たいんだけど。」
「おや、もう9時過ぎですか。」
ごしごしと眠たい目をこすりテントの中へと入っていくさとし。続いて名無しも中に入り、脱ぎ捨てられた靴を揃え、寝袋に身をおさめてふにゃりと眠るさとしの腹部に優しい力加減でぽんぽんと手を添える。
「…子どもはいいですねぇ。」
「じー。」
「カメラちゃんも、ですよ?」
「じっ?」
しばらくしてからの事だ。まだ眠気が来ない。スマホを操作したいが、この狭いテントの中では光が広がりすぎてしまう。起こしてしまいかねないので名無しはスマホを上着のポケットにしまい、そっと静かにテントから抜け出すと靴をはき、足音を殺すように歩みを進め夜空が差し込める所で足を止めた。
「おー。」
星々の輝きに思わず声が漏れる。肉眼で見る夜空はやはり映像では得れぬ満足感と綺麗さがある。ロマンチックだなぁなんて乙女な思考回路に薄ら寒さを覚えながら「私も女の子だったんだな」と乾いた笑いが出てしまった。…まあ、好きな人を前に食事が喉を通らない時点で乙女脳な気もするが。ポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。一枚だけ記念に撮っておこう。
「名無しさんっ」
「ひっ!」
夜空にカメラを向けていた筈なのに悪魔がドアップで映り込んできた。宙に浮いたブラックは羽をパタつかせ、定番の笑い声を上げた。
「びっくり、した、口から心臓出るかと思った!」
「そんな事できるんですか?カメラちゃん、撮って撮って。」
「物の例えっ!」
まさか起きていたとは。心拍数が上昇した心臓に掌を当て、息をつく。テントでは今、さとくん一人。小学生だけを寝かせたまま離れては預かった身として心配になる。ということで、方向転換して戻ることにした。再び灯る焚き火。パチパチと音がなる。ゆらりと揺れる火がまるでブラックの髪のよう。隣に座るこの人は直視出来ないけれど、この焚き火なら眺めていられる。会話…したいけど、緊張して妙に言葉が出ない。さっき出来た会話が嘘みたい。オーバーな事言っちゃったかな、なんて詰まらない事ばかり頭に過る。
「名無しさん、夜食でもどうですか?」
「あ、…」
何時間食べてないだろう。ファスティングなら成功をおさめている時間ぐらいは食べてないと思う。というか、この悪魔は一時間前まで散々食べてなかっただろうか。その上で夜食の提案。その細身に対して胃袋のキャパシティは反比例しているんじゃないか。ガサゴソと色々取り出して来たが、緊張感から相変わらず空腹は皆無。カメラちゃんがマシュマロの入った袋を手渡してきた。
「カメラちゃんはそれがいいみたいです!」
「気に入ったの?カメラちゃん」
「じー!」
喜んで食べていたっけ。開封すると串にマシュマロを刺す、そして焼く。カメラちゃんを膝に座らせ、串に刺さったマシュマロを渡すともちもちと器用に食べ進めていた。やはり癒やし。
「かわいっ」
「じ〜」
自覚あるよね、言われ慣れているはず。
「じゃあ、オレちゃんのを上げちゃいます。」
「え?」
差し出された焼きマシュマロ。とろりと程よく溶け甘い匂いが鼻をつく。つまりこれを私があーんして食すのか。いや、そんな高難易度な事できない。目も合わせられない、ろくに会話も出来ない私にこんな…。
「おいしいですよ。」
「…ぁ…」
無下にも出来ない、思わず口を小さくあけ、齧り付こうとするが…やっぱり止めた。口を閉じ視線をカメラちゃんへと向ける。私には無理だって、根性ないし、勇気もないので振り絞れない。
「やっぱり、あの…大丈夫。有難う。」
「……。」
きょとんとしたブラックの表現はある意味レアだ。それぐらい変なことをしたのかと内心不安になるが、乙女心の方が勝ってしまう。女の子らしいところあったんだ、若干こじらせてる感は否めないが。
「…素直じゃないですね。」
引き戻された焼きマシュマロがパクっとブラックの口に入った。断ってしまった罪悪感をそれなりに胸に抱え、苦笑いを浮かべた。トントンと肩を叩かれ、うつ向いていた顔を上げ、彼の方へと振り向く。と、両手で頬を掴まれ、何が口の中に入ってきた。甘みのある柔らかい、マシュマロ、と、ブラックの舌。ゆっくりと離れる唇。ぺろっと舌なめずりをしてにんまりと笑みを浮かべている。夢だと思いたいが口移しで頂いたマシュマロが何よりの証拠。
「っ…。」
口元を両手で押さえ、先ほどの出来事を脳内再生する。
「美味しいですか?」
「…!」
もぐもぐと噛み進める。やっとの思いで飲み込む。今のは何だったんだろうか、思考が追いついてこない。
「名無しさんはどんな時もかわいいです。なので、気を使わないで下さい」
見透かされたような物の言い方にチクリと心臓が針で刺されたような痛みが走った。間違っていない、気づかれたくなかった部分。
「お互い、さっきのを平気でやっちゃうぐらいの仲になりたいものです。」
「ぁ……っ……。」
これは始まりに過ぎないんですよ。
「これから慣れて下さいね、まだ沢山あるんで。」
「え?…」
「次、焼いちゃいますね。」
また、さっきのするの?
-終-
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