ハナズオウの詩
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お隣に越して来たお姉ちゃんが凄く好き。優しくてお菓子作りも上手でほんとに理想のお姉ちゃんって感じ。面倒見だって良くて宿題も手伝ってくれるしゲームも動画撮影も一緒にやってくれるんだ。
「名無しお姉ちゃんまだかなぁ…」
「さとくんは名無しさんの事、お気に入りみたいですね。」
「ブラックはどうなんだよ。」
「オレちゃんも名無しさんは好きです。鬼ヤバなので。」
ブラックが言うとなぁ…。普通に聞こえないんだよな。窓から身を乗り出して名無しお姉ちゃんの帰りを待つ。今日、16時には帰ってるって言ってたのにもう、17時半だ。あーあ、もう遊ぶ時間ないよ。すっごく楽しみにしてたのになぁ。
「さとくん、落ちますよ。」
「名無しお姉ちゃん…。」
「重症ですね。」
聞き慣れたヒールの音。耳がピクリと反応する。きっとお姉ちゃんだ。なんとなくだけどわかる気がする。だって毎日聞いてる音だし。
インターホンが鳴り響く。窓際から離れ勢いよく部屋から飛び出し階段を駆け下りる。ドンッと壁にぶつかるとブラックが涙流しながら「ドジですね!」と笑い転げてる。
「さとくん、こんばんわ。」
「名無しお姉ちゃん!」
痛みなんてふっ飛ばして、やったーっと喜んでいるさとし。名無しは赤くなったさとしの額をさすり、ケーキが入った箱を手渡した。外から帰ってきたばかりの彼女の手は冷たく外の気温の低さを表していた。
「用事があって遅くなっちゃった、約束してたんだけどスマホも壊れちゃったから連絡も出来なくて。ごめんね?これお詫び。」
「そうだったんだ、わざわざ有難う!」
ブラックにも見習って欲しい程、優しいお姉ちゃん。
「オレちゃん悪魔なんで。」
無関係と言わんばかりに返してきた。この悪魔に求めるものではないとさとしは再認識した。優しさ担当は名無ししか居ない。この悪魔で身も心も疲弊した時は癒やしてもらおうとさとしは悟った。
「ブラックもカメラちゃんも良かったら食べてね。」
「ありがとうございます。」
「じーっ!」
さとしの後ろに立ち、上から奪うように取り上げたケーキボックス。さとしが大声を上げ騒ぐ。そんなもの気にも止めずラベルを剥がし中身を見る。
「ー町。優中部町から随分と遠い所に行かれてたんですね。」
「そこに用事があったの。地元の人が言ってたの。とても美味しいケーキ屋さんだって。」
「美味しいケーキ屋さん、ですか。」
スマホを取り出し検索をかける。画面に映し出された答えに口角が割けるように撓る。
「そうですか、そうなんですね。貴女は鬼ヤバです。」
「何が!」
「ブラックはよく分からないわね。じゃあ、またね。」
つま先の方向を来た道へと向け、ドアノブへと手をかけた。ガチャッとドアが空くと隙間からひんやりと冷たい風が吹き込む。
「明日は遊べる?」
「明日は半日だけだから遊べるよ。何したい?考えといてね。」
「うんっ!!!」
嬉しさから足取りが軽く飛び跳ねると母親にうるさいと一言注意を受けた。しゅんと沈むと名無しは豪快に笑い、手をひらひらと振り外へと身を乗り出しドアを閉めた。
「………。」
スマホの画面に映し出されたグルメサイトの評価を眺める。
「………評価が無いほど美味しいんですかねェ。」
翌日。下校を済ませ乱雑に靴を玄関先で脱ぎ捨て、ランドセルを背負ったままリビングに向かう。さとしは冷蔵庫の中に眠るケーキを取り出した。4つある。シンプルなショートケーキ。ちょうどおやつ時だが、名無しと会った時に一緒に食べようと考え冷蔵庫になおした。
「ブラックもいないし名無しお姉ちゃん迎えに行こうかな。」
テレビのチャンネルをカチカチと回す。この時間はアニメも面白いバライティもやっていないので退屈だ。
『次のニュースです、ー町の森林から後頭部を強打された遺体が発見され…。』
「昨日、名無しさんが居た所ですね。」
「居たのかよ!え?犯人まだ捕まってないんだろ?名無しお姉ちゃん危ないじゃん。」
「大丈夫だと思いますよ。」
「無神経な奴だな!いいよ、おれひとりで迎えに行くから!」
悪魔とはこういうものなのかとさとしの頭に腹立たしさがふつふつと過る。乱雑に脱ぎ捨てた靴を履き、駆け足で駅へと向かう。ポツポツと雨のにおいが鼻を突く。傘を持ってくるべきだったと後悔した。
「お姉ちゃんも傘持ってないかも、あーっ、おれ何しに向かうんだよー!」
天気予報もちゃんと見とくんだった!と叫ぶと首根っこを掴まれた。急に掴まれ襟はさとしの首を反動的にキュッと締め、咽ると共に動きが止まった。
「…!だれ?」
脳内で先ほど見たニュースが鮮明に再生される。心拍数の上昇により心臓に痛みが走る。強ばる身体と恐怖心。振り返るとレインコートを来た男がぎろりとフードの隙間から目を覗かせていた。片手に光る刃物に警戒色が強まるも逃げ場がない。この男の腕力から逃れられる術を今のさとしは知る筈もない。
「さとくんっ!」
甲高い声が男の背後から響く。男は不意をつかれたかのように驚いて思わずさとしの首根っこを離してしまった。咄嗟に逃げるさとしは名無しの方へと駆け寄った。
「な、に…」
「ニュースでやってた殺人犯だよ!お姉ちゃん、逃げよう…っ!」
「ど、し…よ…っ」
あの刃物、を、…。
「さとくん、先に逃げて。駄目よ、見ちゃだめっ…っ。」
「いやだ、友達をおいていけるわけないだろ!」
「ど…しよ…っ…これじゃ……」
「名無しお姉ちゃんっ!!」
ああ、どうしよう。
殺さなきゃ。
-終-
普通の人は殺さなきゃとはなりませんからね。
“慣れている”か、普通は逃げなきゃです。
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