アガパンサスの詩
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可もなく不可もない子だと思う。だからこそ魅力的という言葉とは縁遠く距離も縮まらない。自分にも興味を持ってほしいなんて最高のわがままだ。
「いいなぁ…。」
叶えたいこともないし彼の言う鬼ヤバな要素も私はないかな、だから近寄っても来ない。と、いうか私の存在自体知らないだろう。
「…ここでいいかな。」
そう、眺めていられるこの距離でいい。意味もなくベンチやらブランコやら場所を移動しもって彼を眺める。目の保養、まさかにそれだけだ。距離のあるベンチ一つしか空いていない。立って眺めるのはちょっと不自然というか浮いてしまう。眺められないけど、不審者にみられるぐらいなら堪えて座る。休日潰して何やってるの私。相手側に見慣れられたら結果的に不審者じゃないか。
「こんばんわ〜。」
日が沈んだ頃、正面から誰に声をかけられた。ふと見上げるとそこには私の憧れが立っていた。スラリとしたシルエット。絵に書いたような妖艶でいて美形な彼は近くで見るには刺激が強くて緊張してしまった。
「帰らなくて良いんですか?」
「ぁ…あ…っと…」
しどろもどろとして言葉が出ない。どうしよう、心臓が喧しい。目も合わせられない。身体が熱い。緊張して冷や汗が出てくる。
「もしかして、テンパってます?」
「あ、や、あの…っ。」
「鬼ヤバですねェ!」
カカカッと笑う彼を間近で見れた事が歓喜。心の中の声が漏れ出さないか喉をきゅっと締める。
「貴女の名前は?」
「名無し…です。」
「やっと喋りましたね。」
前かがみになるブラックがニヤリと笑う。
「かわいい声、」
「っえ?」
「名無しさんの声ですよ。」
とんとんと人の喉を人指し指でつつく。キャパシティを越しそうな私の頭はショート寸前。無理無理、顔は近いし褒められるし、ずっと眺めていた憧れの人だし。
「ずっと見てましたよね?気づかないと思ってたんですかァ?」
「思って、ません…」
「どーして見てたのか、気になって思わず声をかけちゃいました。」
「(めちゃくちゃバレてる…。)」
「教えて下さい。ねっ?ねっ?」
何答えても不審者じゃないだろうか。自身の行動を思い返してみよう。休日の度、この公園や居てそうな場所をぶらつき、見かけると自身の視力でぼやけない程度の距離をキープし眺める。私が親御さんなら嘸かし子煩悩だろう。だがしかし、私は独身であり、このブラックというお方を眺める為だけに行っているのだ。不審者極まりない。
「えとっ……っ」
「おや、もしかして言えない理由なんですか?」
それは是が非でも聞きたい。全く退いてくれないし、理由聞くまできっと返してくれない。配慮、が、ない。腹をくくるしかない。
「……疲れた時に、」
始まりはそう、些細なことだった気がする。
「偶々見かけて、癒やされた、から。」
ほんの些細なこと。生きてりゃ疲れるし偶にはサボってゆっくりだってしたいじゃない。そんな時に見かけたあなた達はあまりに無邪気で可愛くて。いつしか見るのが癖になっていった。
「それが理由ですか?」
「はい…」
「それだけ、ですか?」
意味深に聞いてくる。他に何が聞きたいと言うのだろうか。親しくなくても礼儀は必要だと思う。ズケズケと踏み込み過ぎじゃないだろうか。関わると違う世界観が広がる。実に意地が悪い人だ。
「踏み込まれちゃ困る理由、そこを知りたいんですよ。」
だってそれが貴女の裏側でしょう?
「ほんと、許して下さい…。」
「会えなくなってもいいのですか?」
「…!」
「会いたいから、見ていた。違うんですか?」
「あ…えと…」
「人間は隠し事が下手ですねェ。」
この人、どこまで悟ってるのかな。もしかしたらもうバレバレなのかな。
「…、仲良く、なり、たい。」
内気な私から出た本音。影が日向へとかわる。大胆すぎる自身の発言に逃げたくなった。言わなきゃ良かったかも。私なんかに言われても迷惑というか、返しに困るはず。
「やっと言いましたね。」
もたつき過ぎですよ。
「名無しさんのこと、沢山教えて下さいね。」
「は、はいっ…」
帰り道の足取りが軽い。夢見心地そのものだ。まさか声かけられるなんて。私なんて彼の求める要素もないのに。どうしよう、有頂天になるには早い。
「……。」
鍵を開ける。あまりいい方法ではないのだけど。
「なんだ、この子だけなのね…。」
ベッドで一人、寝ているさとし、くんだっけ。ブラックは居ないみたい。
「これじゃ眺められない…。」
今日は帰ろう。物音立てちゃ、ばれるからゆっくりゆっくり。
「私のどこに、興味を持ったのかな…。」
あまりにも私は普通なのに。
-終-
自分を普通だと言う人に普通な人いるのかな。眺めているだけの人がさとくんの部屋おろか家に入れるのか。貴女は充分、興味の対象じゃないですかと。
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