堕ちていく。
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5話
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最近、少し良いことがあった。新しく入った男の子の天使に仕事を教えるようになった。以前の事から私を見る目が少しずつ変わり始めたようで。
「まだ配属先は決まってないのね。」
「は、はい!色々知ってから決めようかと。」
私は秘書なので課の事は教えれないが案内と基礎的な内容は教えれる。秘書になってから初の指導。何千年ぶりか。最後に教えたのはBだった。セクハラと雑務以外は久しぶりすぎて胸が高鳴る。
「私は名無し。短い期間だけどよろしくね。」
「は、はい!こちらこそ!」
綺麗な人だ。目の保養って言葉が似合う。絵に書いたような…女神って感じ。けど…この人、たまに良くない噂も聞くんだよな。
「ここの案内からするわね、じっくり回りましょ。」
やけに生き生きしてる。一通り案内が終わると一緒にお昼をたべた。なんか噂より全然優しいし普通の人だ。
「はい、あげる。」
綿菓子。昔Bにも同じ事をした。頭使うし動き回るし疲れちゃうからね。
「甘いのすき?」
「は、はい。」
めっっちゃくちゃ可愛い。これ嫌いな男いないだろ。いや、そりゃ神さまの秘書にピッタリだよ。媚売とかなんとか聞くけど、この人そんなんしなくても充分凄いぞ。
「ほ、他の課の事教えて下さい!」
「あら、熱心ね。じゃあ行こっか。」
Bの時を思い出す。あの時のBもかわいかった。
「今日は終わり。またね。」
ルンルンな気分。久しぶりにB以外の人と話した気がする。自宅に帰るとBが居た。
「おかえりなさい。」
「ただいま。実はね」
今日の事を話すとBは優しく良かったですねと喜んでくれた。
「大事に育てたいの。」
「それは、よい心がけですね。」
額にチュッとキスをすると名無しは照れた。
「貴女のおかげで今のわたしが居ます。」
謙遜してるのか。Bの場合、覚えも技術も段違いですぐに序列抜かされたけど。優秀過ぎて。
「ありがとう…。」
と、言う事があり最近の名無しさんは新人さんにかまけてばかりです。
「名無しさん。」
「新人くんの育成マニュアル作るの。あとにして。」
新人さんの事ばかりですね。
そろそろムカついてきました。
「名無しさん、今日はお泊まりしません?」
「新人くん、分からない事まだ沢山あるの。うちで教えるから今日は…。」
…………うちで教える?
「それはつまり、名無しの自宅に新人さんがお邪魔すると?」
「うん。あまり覚えきれないみたいで。」
……………は?
「良いわけ無いでしょう。」
「な、なに?」
「指導期間はまだ充分あります。なのに何故わざわざ自宅に?必要ありません。」
「B…。」
なんでそんなに新人くんに冷たいの?Bらしくない。
「名無しは警戒心が薄いです。何かあってからでは遅い。絶対にダメですよ。」
「新人くんはそんな子じゃないわ。」
「信じることは良いことですが彼との距離感を測れてからでも遅くはありませんよ。」
「…呼んじゃだめ?」
「だめです。」
「絶対?」
「絶対です。」
私の家なのに。Bの心せまい。口を膨らませてみた。
「むくれないで下さい。イジワルで言ってるわけじゃないです。」
「B、の、ばかっ…」
Cさんの頑張りたい気持ちもわかります。
「居ない間に…教えて、いくもん…っ…」
ブチッ。
何かわたしの中で音がしましたね。
「わかりました。そっちがその気なら仕方ありません。」
今回ばかりは名無しさんが悪いです。
翌日。
「……。」
仕事から帰宅すると家具が無くなっていた。物取りにしてはえげつない。もぬけの殻どころか退去……退去?
「な…!」
急いでBの家へと向かった。急ブレーキをかけて止まると見慣れた家具があった。
「あ、それはこっちにお願いします。」
Bの部下達がいそいそと家具を中に入れる。
「これはなに!」
「おかえりなさい。」
「これどういう事?!引っ越しなんて聞いてない!」
「言ってませんからね。」
なんて勝手な。というか昨日の今日で。以前引っ越しの話はしたと思うけど、まだ詳しい段取りだって話してなかったじゃない。
「…ここまでする?!」
「人の気持ちも知らないで勝手な事ばかり言う名無しさんが悪いのです。」
「……!」
淡々と話すBに後悔も反省もない。
「滅多にない機会…なのに、何で邪魔するの…。」
「邪魔?」
この人は、全く。
「わたしが邪魔ですか?」
「…邪魔です。」
「ほう、ふたりの間に入るな。そう言いたいのですね?」
「やり方に文句が多いのよ。」
「する必要のない事までしてちゃ目につきます。それにそのやり方はあまりオススメ出来ません。」
また文句…。確かに長い間、指導なんて離れていたしBには敵わないけれど。それにしてもやり方についてこんなにダメ出しされるなんて。さすがに悔しい。
「名無しさん」
引っ越しが終わり、名無しに手を差し出すとパチンと叩いて猫みたいに威嚇された。
「Bなんてしらない!!」
「……。」
飛んでいっちゃいました。
「(B様と名無し様がケンカ?)」
「今はなにを言っても聞きません。少し放っておきましょ。」
お手伝いありがとうございますと。いや、本当に放っておいていいのだろうか。B様はたまによく分からない。
「名無し様も優秀なのに。オレならあれだけ手厚く指導頂けたら嬉しいですけど…。」
「本当にそう思います?」
「え?」
「人って支えがあると案外油断しちゃうものです。」
熱心と真面目が違うように。
「その熱心さがどちらに向いてるかにもよりますしね。」
………飛び出して来たけど私、勝手に家引き払われてたんだった。家の前でへたり込む。そうよ、ここもう住めないんだ。
「……。」
どこか行こうか。職場に戻ってカリキュラムを組み直そう。
「あら…。」
新人くんだ。他の天使達と居る。仲良く出来てるみたい。
「名無し様ほんと良い。優しいし丁寧だし。」
思わず聞き耳たてちゃう…。
「けど、お前覚え悪いよなー。」
「え?違う違う。名無し様が手厚いし常に支えてくれてるからあんま覚えれないんだって。」
…………え?
「分からなかったらすぐにフォロー。こちらとしては楽なんだよ。」
なに。
「一生懸命だし教え上手なんだけど過保護っていうのか。なんかすげー力入っててこれは頑張らないとってなるんだけどな。」
めちゃくちゃ油断もする。必要以上のフォロー入れられると頼り切ってしまうから。
「あの人、目の保養になるから一緒に居るとついつい熱心に見てさー、いや、本当。癒やされる。」
「不純だな…。」
私、一人で突っ走っていたのかな。久しぶりだからか能力が足りないからかそこに気づけなかった。
「Bの言う通り…。」
見余ったものがあったんだ。あれもこれもと力を入れすぎた。どうしよ、自信ない。
「…。」
バツが悪いけど帰ってきた。そっと扉に手を伸ばすと勝手に扉が開いた。
「そろそろだと思いました。」
手を引いて中に入る。
「おかえりなさい。」
「た、ただいま…。」
私が以前使っていた家具が違和感なく所々に。
「ごめんなさい…。」
「おや?色々心当たりがありそうですね?」
まあ、わたしもちょっとやりすぎましたけど。
「B、あの。私と一緒に…指導内容、考えて、くれる?」
「わたしでよければお手伝いします。」
「ありがとう…。」
何かあったのか、良い方向へと変わりつつある。ソファーに座ると紅茶を淹れてくれた。
「ほっ…。」
「久しぶりですね、ふたりで寛ぐなんて。」
「新人くんにかまけてたから。ほったらかしちゃったね。」
「いえいえ、随分と妬きましたが引っ越しも出来たので結果オーライです。」
Bって妬いたりするのね。独占欲強いのは何となくわかるけど。
「これで問題なしです!」
いつの間にか手直ししてる、早い。
「さすが…。」
べったりくっついてきた。甘えてる、可愛い。
「柔らかいです。」
「…!」
押し倒された。べったり引っ付いて離れやしない。ちょっと重い。
「落ち着きます。」
うりうりと胸に顔を埋めてる。寂しかったよね。おでこにキスをするとむくっと顔を上げ、唇が重なる。
「こっちの方が良いです。」
「…!」
両頬に手をあてがい赤くなる。あれだけ毎日キスしてるけど、未だに慣れない。特に不意なのはドキドキしちゃう。
「んっ…」
キスの回数が増えていき徐々に舌を絡めてゆく。息遣いも荒くなっていく。目がとろけてくる。
「いい顔です。」
「あっ、んっ…やぁ!」
ノリノリで襲われた。翌朝、Bの重みで目が覚めた。Bがまだ寝てる。珍しい。
「(ここでやッちゃった…。)」
ベッドに行けば良かったかな。
すやすやと何だか落ち着いた様子。Bの寝顔をこんなにまじまじと見るのは始めてだ。
「まだ時間ある…。」
もう少しだけ一緒に過ごせる。
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6話
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Bの言葉を素直に受け入れほんの少しずつではあるが仕事に前向きになってきた。
「貴女は秘書として優秀になられましたね。」
唐突に声をかけられた。えーと、確か…。
「ミカエル様?」
「はい。序列Cですね?」
名もなき一般天使とお偉方のミカエル。緊張してしまう。
「容姿だけではないとこれからも証明して下さいね。」
なんだこいつ。嫌味言いに来たのか。ピキッと固まってしまった。
「……。」
四天王って嫌い。むちゃくちゃムカつく。珍しくヤケ食いしてる。
「あのー、名無しさん。」
「なによ!」
「そんなに食べるとお腹壊しますよ。」
天使にそんな概念ないか。
「私、あの人きらい!」
何だか感情豊かで可愛いですね。見ていて飽きません。
「没収です。」
お菓子を取り上げられた。パタパタ飛んで追いかけ回す。
「返してー!」
「太りますよ?」
「…!」
ピタッと止まる。
「外見が好きなんだ?」
「いえいえ。容姿や体型にこだわりないのでどちらでも良いですけど」
ヤケ食い自体、身体に毒です。
「あまり心配するような事はしないで下さいね。」
「B…。」
優しい。じーんとしちゃう。そう言えば付き合いだしてどれほど経過しただろうか。長いとよく分からなくなる。Bのおかげで少しばかり神さまのセクハラもマシにはなったし仕事の振り幅も変更された。
「仕事に戻らなきゃ。」
村の子供にお菓子を上げる。皆よろこんで持っていった。
「……。」
前向きになった事も仕事に打ち込めるようになったのも良い事なのですが、根本的な解決がまだされていません。減っただけで未だに神からセクハラは受けている様子。
彼女がのってくれるかどうか。
「まずは“正攻法”ですね。」
その日の夜、神になにかされたか言われたか。へこんで帰宅してきた。
「…。」
紅茶を淹れるとゆっくり飲んで落ち着く。
「私、耐え性ないのかなぁ。」
いらっとしちゃう。まぁあの中でしない方もどうかと思うけど。
「つらいですよね。」
「…うん。」
「離れるのも手だと思います。」
「…うん。」
「わたしと結婚しませんか?」
「…うん?」
ポカンとした表情でこちらを見つめる。
「今なんて?」
「わたしと結婚しませんか?と。」
今日のは本気です。あ、ちがう。いつも本気です。
「あ…の…。」
「前にも言いましたね。離しませんって。」
貴女に断る選択肢はないのです。
「わ、私と…結婚?」
「だって、恋人だけじゃ物足りないでしょう?」
契を交わしましょう。
「わたし、名無しさんの全部がほしいんです。」
ご存知ですよね?
「余すことなく全部あげてるけど?」
「おや?ではこの物足りなさはどこからくるものですかね。」
「もう、Bのものよ。末永くよろしくね。」
「こちらこそです。」
目一杯抱き締めると痛いと怒られました。
「もう、力強いよぉ。」
「そんなつもりはなかったのですが。」
あ、でも…。神に知られたら。
「どうしよ…。」
弱味をみせて良い相手ではない。
「辞めてしまえば関係ありませんよ。」
「…。」
辞めればいい。そうよ、辞めてしまえばあんな思いもしないで済む。
「…。」
なのに何故躊躇っているの?
「名無しさん?」
序列も無くなる。名もなき一般天使となる。この名とも呼べない物さえも無くなる。
「名無しさん。」
「あっ、はい…?」
その時あなたは私の事をどう呼ぶの?
「もしかして、何か考えてます?」
「え?そんな…。」
どこまでも鋭い。私はこの立場に執着しているのか、臆しているのか。飛んだ卑怯者だ。私はここ以外の生き方をしらない。
「(Bは手放すと言ったのに、私は…。)」
くさいものに蓋をした。
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7話
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最近、魔獣が良く出没する。村が一つ襲われたと耳にした。
「名無しさんもなるべく出歩かないで下さいね。」
「うん…。」
あれから数日が経過。妙にしおらしい。
「わたしの話きいてます?」
「うん…。」
「わたしのこと好きですか?」
「うん…。」
「仕事、続けたいですか?」
「うん…。」
冷や汗と共に上の空から帰ってきた。勢いよく隣を見たらにっこりと笑っているBがいた。
「…やっぱり。」
「幻滅した…?」
自嘲気味に笑う貴女は沈み切っている。
貴女が仕事から離れられない事ぐらい予測しています。その中で何を恐れているのか聞かせください。
「貴女は悪くない。」
貴女を脅かすものが悪いのです。
「解決する。それだけのことです。」
だって貴女は助けてと言ったでしょ?
「それまでお預けになるだけですよ。」
無くなったりしません。
「……。」
この人はどうしてそこまでして。
「B…。」
あなたは黒が好きよね。
「とても良く似合うんじゃないかしら。」
そっと抱き締められるとBは肩を震わして笑っていた。
「貴女も黒が好きでしょ?ならわたし達は“お似合い”ですね。」
とても優しくてとても怖い。
「愛してます。」
髪を撫でながら耳元で囁くBは余裕の一言につきる。
「さて、お仕事がんばりましょー」
わぁいとはしゃぎながら去っていく。
「…。」
食えない人。掴みどころが無くて。私の凝りなさを前向きにとらえている。
「…これを渡してしまおうかしら。」
神さまの軍事における極秘資料。これを見たら彼はどう動くことでしょう。
「何が変わるのかな。」
怖くて開けれない臆病な私が持つより…。私を助けようとしてくれるあなたが持てば。
「どうなってしまうのかしらね。」
その変化の先さえも怖い。
「見つけた…。」
悪事なんて見つからなきゃいいだけの事。私を捕らえた手は私を閉じ込めた。
「油断も隙もない女だ。」
神さまが牢の施錠をする。
「信用されてませんのね。」
「お前ごときを信用するわけなかろう。」
これからどうするつもりだろうか。
「お前はここに幽閉する。Bの処分も考えている。」
「…。」
弱味をみせて良い訳がない。これは私が招いた事だ。
「彼はなにもしていません。」
「…オレより優秀だった。それがあいつの罪だ。」
この序列は優秀な者から消していく為のシステム?
「ああ、そうだったの…っ。」
私はなんてものに縋っていたのか。神は自分だけ優秀で居たかったのか。
Bが魔界へと墜ちた事を聞かされた。
「残念だったな。」
天界新聞を渡された。そう、あなたの罪をかぶせたのね。用意周到なこと。
「こんなとこに未練があったなんて。」
滑稽だ。
いつしか時が流れており、気づけば半年。また、ぼっちじゃない。なんなら牢屋つきだ。自由もない。にしても今日はやけにどたんばたんと外が喧しい。
「じー?」
「…?」
服をきたカメラが来た。ふわっと浮いており異質だ。
「な、に?」
「こんな所に居ましたか。」
よいしょっと。施錠を外し見慣れた人が来た。
「おひさです!」
「B…。」
なんか雰囲気、ちょっと違う。羽が黒い。呆然としていると抱えられ外に出た。
「なにこれ?」
神さま落書きされてるしイタズラされてる。
「仕返ししときます?」
「…。」
Bもボロボロ。もしかして戦ったの。
「ううん、Bがしてくれたから。」
もう大丈夫。
「話したい事が沢山あります。」
何から話しましょうか。
魔界の大穴にたどり着いた。
「こんなものまで。」
「おかげで色んな撮影が出来ました。」
「撮影?」
そう言えば、神が居なくなったこの天界をどうするのだろうか。
「さぁ。どーなることやら。」
「私たちの手で再建するしかないんじゃない?」
貴女はまだそんな事を。
「まだここに居たいですか?」
「居たいもなにも、ここは私達の居場所よ。」
天使としての義務があるんじゃ…。
「えいっ。」
ポンッ…と背中を押され大穴へと堕ちていく。
「…え?」
落下していく。待って待って。
「(B…?)」
どういう事?
「カカカッ!」
独特な笑い声の何かがこちらに向かって堕ちてくる。
「さぁ、一緒にいきましょう!」
「…っ!」
黒い人…。
「誰…?」
「おや、わかりませんか?」
雰囲気が似て…。
「B…?」
「そーです!」
天使じゃない。
「なんか、全部どうでもよくなっちゃった…」
堕ちていく。もうあそこには戻れない。
「最初から突き落とせば良かったですねー。」
「(悪魔…よね。)」
「じー!」
この子、なんだろ。
「黒がよく似合ってる。」
「貴女だってきっと似合いますよ。」
だってオレちゃん達はお似合いでしょう?
「魔界につけば挙式をあげます!」
わらわらと天界の人全員、堕ちてきた。
「い、きなり?」
「半年待ちましたよ?」
そう言う問題かな。
「じー。」
で、この子はなんなの。
「狭い世界から飛び出して好きな事で生きていく。」
貴女にだって与えられたんです。
「もう悩まなくて良いんですよ。」
「……助け出してくれて、ありがとう。」
さよなら、はじめまして。新しい出来事の幕開けです。
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こちらで完結となります。ざっと書いてしまいました。ヤンデレな落ちにしようかと悩みましたがあっさりのほうが良いかなと。最後まで有難う御座いました。
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