堕ちていく。
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3話
______________________________________________
「B様、最近、めちゃめちゃ機嫌いいよね。」
「仕事が楽しくてしょーがないのかな?」
「いや、何でも大切な人が居るとかなんとか」
キャッキャと沸き立つ。あのB様に?
「どんな人?」
「気になる〜。」
こっそりと隠れるように出勤する。どうもあの一件以来、顔を合わせ辛く避けがちだ。
「…。」
みっともない姿を見せてしまった後悔と気恥かしさ。目の下が赤い。酷い顔だ。
「何であの時、はいなんて言ったのかなぁ…。」
断れない雰囲気。この人になら寄りかかっても大丈夫だという安心感。何より立場を捨てるあの覚悟にやられた気がした。
「……。」
夢のようなふわりとした感覚が抜けない。昨日のは本当に夢だったんじゃないかと今も思う。私の弱った心が自分を守ろうとして見せた妄想。そっちのほうがしっくり来る。
「昨日のは無かった…。」
Bとの思い出が見せてくれたのよ。
「B様に会ってもいつも通りに、」
「まだ様なんてつけてるんですか?」
「…っ!」
「おはようございます。」
「おはようございます、B様…」
「わたし、それ嫌だって言いましたよね。」
ムスッとしてる。ちょっと機嫌悪そう。この人気のない廊下で良く私が居ると分かったな。
「会いたかったです。」
壁際に追いやり隠れるようにキスをする。
「な、こんな所で、っ…」
見られたらどうするの。
「え?ここ滅多に使われませんよ。」
確かにここには来ないけど。私ぐらいしか使わない廊下だけど。
「そ、そういう問題じゃない…私は、見られるの、困るんです…」
「わたしも他人に見せつける趣味はないのですが…でも、恋人同士なんだからキスぐらい良いでしょう?」
またそうやってキスしてくる。
「っ、私、まだ、恋人同士なんて…」
「昨日、返事もらいましたよ。取り消せないので諦めちゃってください。」
舌を絡め、激しさを増す。朝から何してるの?私たち。
「はあっ、あっ、ん…B様…」
「それ嫌です。」
舌を甘噛みされる。ちょっと痛い。
「敬語も様もつけちゃダメですよ。昨日も言ったでしょう?」
首筋に噛みつくとビクッと体が跳ねた。
「はぁ、こんなのじゃ足りませんよ。」
これより先を求めてしまう。
「んんっ…」
「今日、うちに来ませんか?」
ヒョイッと抱き上げられBを見下ろす。頭がぼーっとする。
「仕事が終わったらずっと一緒に過ごしましょうね。」
「はあ、…っ…」
「迎えに来ます。」
チュッと音を立ててキスをするとやっと下ろして貰えた。さっきまでの不機嫌はどこへやら。頭がクラクラしちゃう。
「元気出ました、仕事に戻ります!」
勝手にして離れて帰っていく。その場にへたり込む。Bってあんな人だった?大胆というか手が早いというか。
「(夢じゃなかった。)」
昨日の事が鮮明に思い出される。頭冷えるまでここに座っていよう。
「神さまに会いたくない…。遅れたらまた、嫌味言われるかなぁ…。」
そしたらBが話、聞いてくれるかな。
「…。」
そう考えるとほんの少し、気持ちが軽くなった。
「なんじゃ、つまらん。」
来るなり言われた。おはようも言えないのか。
「そんな服装、目で楽しめんぞ。」
朝から露出が少ないと怒られる。何で露出の多い服じゃないと怒られるんだ、理不尽過ぎて言葉も出ないし何より気持ち悪い。アナタもういい歳だろう。若い女の肌見てニヤニヤしてるこの神は私からすればただの害でしかない。
「業務と関係ありません。」
「飾り物としての義務だろう。忘れたか?」
外道。私をどこまで侮辱するのか。
「今日はもう下がって良い、反抗的な態度ばかりで可愛げのない。」
「仕事があります。それを放ってはおけません。」
「Bに頼む。お前に頼らんでも仕事は終わる。」
…何でこうなるんだろう。あの人だって忙しいじゃない。効率を考えてよ。そんなんだから支持率が下がるのよ。こんな人に左右されるなんて…うんざりだ。
「(それに従わなきゃならない自分にも…)」
うんざりだ。
「……。」
抜け出しちゃった。だって帰っていいんでしょ?…なんて。こんな無責任なことして、私はどこまで馬鹿なんだろう。家、はまだ、帰りたくない。村…もう少し静かな所がいい。ここは天界だ、静かで綺麗な場所なんて山程ある。
湖の畔。ほら、絵に描いたような場所。
「…。」
湖の澄んだ事。水面に顔が反射する。
「…今日、行かないでいようかな。」
約束しちゃったけど。逃げれるかな。怒るだろうな。どうしよ…。
「Bよ、この仕事を頼む。」
当たり前みたいに出してきた書類を手に取る。
「名無しさんの仕事では?」
「帰った。まったく、無責任な奴だ、あんなのにCの序列を渡すんじゃ無かったな。」
「名無しさんはそんな事しませんよ。」
「昔一緒に働いていたようだな。もう少し可愛げがありゃ良かったものの反発ばかりしよる。あいつは飾り物としてぐらいが丁度良い。」
ムカついた時ってどうすれば良かったんでしょう。殴っていいんですかね。
「(なるほど、神さま。あなたが…)」
見つけました。
「私も忙しいので手がまわりません。」
「なっ!」
「その仕事は名無しさんのものです。彼女がやってこそ意味があります。」
ピューッと飛び立って行き、神さま呆然。
「名無しを探してこい!」
「え?は、はい。」
飛び回って探すいうのは不便ですね。何より時間がかかる。コンパクトで相手が何処に居ても通信可能なツールを考えましょう。
「ヤバですね、名無しさんとこのツールについて話をしましょう!」
パタッと降り立ち、やっと見つけた。
「こんにちわ〜っ」
「!」
びっくりさせちゃいましたね。鳩を膝にのせて振り返るとバツの悪そうな顔をしていた。
「今日…ひとりでいたくて。伺うの、また、次の機会でもいい、ですか…。」
…………は?
「なんの冗談ですか?」
声が低くなった。目を合わせれない。ほらやっぱり怒った。
「ひとりでいたくなるような事があったんですか。」
でも残念です、ひとりにはしません。
「わたし、それなりに頼りにはなると思うんですけど。駄目ですか?」
「…。」
「神さまに随分な事をされてきましたね。」
「知ったの…?」
「貴女の仕事を押し付けようとしてきたので逃げてきました。わたしには出来ません。名無しさんだからこそ回せる仕事です。」
隣に座るBは先ほどとは違って優しい雰囲気。頼らず悶々としようとしていたのに怒ったのかな。鳩が飛び立つ。
「やっと空きました。」
「あ、ちょっと」
スポッと膝に頭をのせてきた。油断も隙もない。
「わたしだって甘えたい時ぐらいあります。」
「…。」
撫でてーと手を頭の方に誘導する。可愛い。
「色んな時があります。貴女にだってそれはあると思います。」
なので。
「お互いに隠さず発散していきません?そーゆーの。」
「…。」
何て救われるのだろう。
「貴女の事ならなんだって知りたいです。だから全部吐き出しちゃって下さい。」
ガバッと起き上がるとぎゅうっと抱き寄せられた。
「次は名無しさんの番です。沢山甘えて下さい」
「っ、…、あり、がと…っ」
神さま。あなたは見る目がない。
「泣きたい時は我慢しなくて良いです。」
彼女はこんなにも可愛いです。
「はい、チーンして。」
「ん〜っ。」
ハンカチを鼻にあてがわれる。子供か。その後、お迎えが来て強制的に宮殿に戻された。悔しそうな神さまの顔は今でも笑えてそそくさと業務をこなす。出来上がると皆がポカンとしていた。
「さすが名無し様、優秀…。」
「見る目変わるよな。」
私の価値が変わった気がした。
「やりましたね。」
なんて気持ちのいい仕事だろう。気が晴れた。
約束通り仕事終わりにBの家にお邪魔した。
「本ばっかり。」
また増えてるような…。手に取り読み出す。これ面白そう。
「名無しさん。」
「…。」
集中してる。
「わたし、寂しいですよ。」
わしゃっと胸を鷲掴みからのくすぐり。名無しは肩を跳ね上げ、悲鳴を上げる。
「な、なな、何するの!」
「寂しい思いを発散しました。」
そういう事なのだろうか。この人のは単純にいたずらな気がする。
「…これは後で。」
本をなおされた。壁際に追いやられ立ったまま口の中に舌が入りこんでくる。今朝と一緒だ。
「はぁ、っ、…」
「ん。まだです…」
もうどれくらいキスしてるだろう。首筋にどちらのものか分からない唾液が傳う。
「ここもイイ感じです。」
かぷっと胸にかぶりつき舌を這わせ、下着に指をかける。
「はぁ、ぁ、っ…」
逃げたいくらい恥ずかしい。がっついてくるのちょっと意外。胸板を押すとにんまりと笑ったBの顔が伺えた。
「名無しさん、かわいいです。」
「こ、これ以上、だめ…」
「生殺しですね。」
照れて真っ赤だ。涙目になって。貴女はそんな顔も出来るんですね。
「B…っ…。」
「やめませんよ。」
「っ!!!あっ…ん!!」
「ん、入りましたよっ…。」
耳元で囁かないで。
「ぁ、っ…!」
気づくとベッドの上だった。部屋が違う。
「いたい…」
「目覚めましたか。」
「……。」
何で何事も無かったかのように元気なんだろう。本読んでるし羽で治癒してくれてるし服着てるし。…昨日のは夢だった?いや、そう思ったけど私は服着てない。
「…えっち。」
「理性的だと思うんですけど。」
「どこが。あんなにされちゃ…」
思い出すと恥ずかしくなっちゃった。
「お嫁にいけない…。」
「いけますよ?」
顎をくいっと持ち上げられ、目線を合わせられる。
「わたしの所に来てください。」
離したりしません。
「…付き合った、ばっかり、なのに…。」
プロポーズまでされた。
「ずるい…、…。」
「先手を打ちました。」
ひょいっと抱き上げられた。抱っこなんてされた事ないんだけど。この細身にそんな力がある方に吃驚しちゃう。
「お風呂に入って着替えて一緒に出勤しましょう。」
「……。」
嫌とか言っても絶対折れないよね、この人。
______________________________________________
4話
______________________________________________
「え?部屋を?」
眺めの良い展望台でたい焼きを食べてると仕事が一段落ついたBがやって来た。
「はい、一緒に住んだ方がわたしも安心なので。」
あ、たい焼き半分噛じられた。もぐもぐごっくんと効果音立てながら食べ終わってる。
「……。」
Bは決断すると早い。取り組まないと気がすまない所がある。今のお家、わりと気に入っているんだけど。
「ん〜…。」
パクっとたい焼き食べて答えを渋る。
「ひとりになりたい時とかないの?」
「ありません。貴女と離れたくないので。」
「お部屋狭くなっちゃうよ?」
「1人だと広いので2人で丁度良くなります。」
「付き合ってるの、バレちゃう…かも。」
「知られて困るような事じゃないでしょ。」
何言ってもすぐ言い返される。本当に良いのかな。ちょっと気が引ける。そこまで甘えていいものか。序列の上と下が付き合ってるとか噂するにはもってこいだし支障でないのかな。
「決まりましたね。これからよろしくです。」
頬をペロッと舐められ、そのまま口づけを交わす。
「甘くておいしいです。」
最近、益々大胆になってきたような気がする。距離感が近くスキンシップも多い。人前では自重してくれていると思うけど、誰も居ない所だと職場であってもベタベタ。見つかったらどうしよ。
「離れて。ここじゃ見られちゃう。」
「カギ閉めてますよ?」
ジャラッと鍵を見せつける。この人、自分の役職を利用してるじゃ…だから誰も入って来ないのかと納得した。
「帰るまで触れないなんて。」
名無しの髪を指先に絡める。
「お互い寂しいでしょ?」
「…!」
顔を赤らめ食べかけのたい焼きで口元を隠し上目遣いでBを見上げる。
「…そ、うだけど……。」
貴女は本当にかわいいですね。長い付き合いですが、そんな表情は初めて見ました。
「…。」
ゆっくりと近づいてくる顔にまたキスするのかと思い目を閉じる。あれ?目を開けるとたい焼きが無くなってた。
「ごちそーさまです。」
もぐもぐごっくん。
「はっ!私のおやつ…!」
ふたくちしか食べてない。
「期待を裏切っちゃいました?」
「……。」
ニコニコしてる。読まれてる。だからこそ弄ばれたのか。
「仕事に戻ります。」
「おや、拗ねちゃいました?」
「いつも通りです!」
羽を広げて宮殿の方へと戻る。Cさんの表情が豊かになってきましたね。見ていて嬉しいです。
「名無し、どこに居たんだ!こっちに来て奉仕せんか!」
「頼まれていた書類を作らなくてはなりませんので。」
「まだ出来とらんのか。遅いぞ。」
5分前に言ってきたやつじゃない。無視して歩くとスカートを引っ張られた。
「きゃっ!」
こんのエロ爺。神さまは休まれる時、ここで睡眠をとる。その時に若い女性を囲うんだが…。
「今日はお前の膝でもよいか。」
「私は他の業務がございます!」
「断るというのか?」
この人、こんなんだから弱味を見せたくないのよ。結局、膝枕してお尻触られて…。背筋が凍るほど気持ち悪い。私のこと目の敵にしているくせにこういう嫌がらせが出来るんだもの。凄いわ、私なら無理。視界にも入れたくない。
本当に最低。
「…。」
寝た。すぐ離れる。あー、気持ち悪かった。触られるってこんな気持ち悪かったっけ。寒気がする、触られたくない。窓に手をかけ外の空気を吸う。空より高いはずなのに…この中の空気は最悪だ。
「名無しさん。」
偶々見つけたのでそっと近づき肩を掴む。
「いやっ!!」
バチンと乾いた音が響く。Bの頬を打ってしまった。
「…!」
「B……っ…」
どうしよ、気が立ってしまったがゆえに思わず手が出てしまった。冷や汗がでる。
「何か、あったのですか?」
いつもと雰囲気が違う。低い声のトーンが胸をぎゅっと締め付ける。喉が閉まるような感覚。真剣な時のBの圧は今でも息を呑む。
「ご、ごめんなさいっ…」
「平気です。それより。」
何があったのか聞かせください。
「……。」
「名無しさん?」
やっちゃった。私、最悪だわ。なんて野蛮な事をしたのかしら。自制心の欠如よ。理知的じゃない。少し赤くなったBの頬を見て後悔が押し寄せる。
「………。」
天使なのに。
「名無しさん。」
「…!」
思わず逃げた。話してどうにかなる?私、こんなんだったっけ。
Bが探し回ってるのを聞いた。必死に隠れた。仕事終わりに残した業務を片付けていると人間界管理課の子と会った。
「あっ!やっと見つかった!もう、名無し様のせいで仕事後回しになっちゃいましたよー。」
「え、あ、ごめんなさい…。」
「B様は名無し様のこと気になって仕方ないんです。ちゃんとして下さいね。明日もこれじゃ困ります。B様、優秀だからすぐ終わるけど。」
そこまでして探し回ってるの。あの仕事最優先のBが。
「…。」
Bの家に行ったけど居なかった。会いづらい。逃げなきゃ良かったかな。後悔しかない。
「…ただいま。」
やっと帰宅。家に入る。
「おかえりなさい。」
気配もなく真後ろから声がする。
「B…?」
「鬼ごっこはおしまいです。」
体を掴む手に力が入ってる。痛い。動けない。
「もう充分逃げたでしょ。」
「…っ。」
ガシャンと手首に重みを感じた。これは。
「手錠…?」
ここまでするのか。
「話を聞かせてくれなさそうなので仕方ないです。」
パッと手を離すと紅茶を出してくれた。
「話すまでこの手錠は外しません。」
人がどれだけ心配したと思ってるのですか。
「あ、の…」
ポツリポツリと話すとBは最後まで聞いてくれた。話せば話すほどBの雰囲気が重苦しくなる。
「…ずっとそんな事をされてきたのですね。」
「…はい。」
「わたし、今凄くムカついてるんですけど分かります?」
「…はい。」
「魔獣とか責めて来ないですかね。丁度良い憂さ晴らしになるのですが。」
見たことないぐらいムカついてる。
「まぁ、本人に仕返しするほうがスカッとしますけど。」
やりかねない。本当にやるから。
「…わたしに触られるのは嫌ですか?」
「え?」
そういえば、いつもならベタベタしてくるのに。気を使ってくれているみたい。そっと近づき肩に頭をのせる。初めて自分から寄ってきたもんだからBが少し吃驚してる。
「Bなら、良いよ…。」
「……。」
そっと抱き締めてくれた。温かくて落ち着く。
「…やっと落ち着きましたよ。」
ずっとイライラしてたと思う。ほっと息をすると首筋、胸、腕の順に唇を落としていく。
「んっ…沢山、触って…?」
「おや。もしかして誘ってます?」
恍惚としている。
「…だめ?」
あざとく自分の良さを駆使する。ニタリと笑うBはどこか嬉しそうだ。
「いいえ、望むところです。」
ベッドが軋む。虚ろになっていく表情。何度目の絶頂を向かえたか覚えきれない。
「あっ、んっ、…も、だめっ。」
「誘っておいてもうおしまいですか?」
肌に吸い付き痕を残す。全然バテてない。何でこんなに余裕なの。
「んっ、やぁっ…!」
「愛してますよ。」
耳元で囁かないで。何が弱いか把握されてるから責めに責められる。
「ぅ…。」
頭痛がする。まだ眠たい。
「もー、何してるの。」
肌に痕が複数。こんなにつけて、着るもの選ばないと。クローゼットから服を探す。
「ほう、これも神さまの仕業ですか。」
アホほど露出した服。ああ、昔着ろ着ろ言われたやつだ。懐かしい。嫌すぎて着なかった。Bがじーっと眺めてポイッと捨てた。
「通りでおかしいと思いました。」
「え?」
だって貴女の趣味じゃないでしょ。
「(彼女にここまでするような人です。…もしかするとまだまだヤバな裏側があるかも知れませんね。)」
是非見てみたい。
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「B様、最近、めちゃめちゃ機嫌いいよね。」
「仕事が楽しくてしょーがないのかな?」
「いや、何でも大切な人が居るとかなんとか」
キャッキャと沸き立つ。あのB様に?
「どんな人?」
「気になる〜。」
こっそりと隠れるように出勤する。どうもあの一件以来、顔を合わせ辛く避けがちだ。
「…。」
みっともない姿を見せてしまった後悔と気恥かしさ。目の下が赤い。酷い顔だ。
「何であの時、はいなんて言ったのかなぁ…。」
断れない雰囲気。この人になら寄りかかっても大丈夫だという安心感。何より立場を捨てるあの覚悟にやられた気がした。
「……。」
夢のようなふわりとした感覚が抜けない。昨日のは本当に夢だったんじゃないかと今も思う。私の弱った心が自分を守ろうとして見せた妄想。そっちのほうがしっくり来る。
「昨日のは無かった…。」
Bとの思い出が見せてくれたのよ。
「B様に会ってもいつも通りに、」
「まだ様なんてつけてるんですか?」
「…っ!」
「おはようございます。」
「おはようございます、B様…」
「わたし、それ嫌だって言いましたよね。」
ムスッとしてる。ちょっと機嫌悪そう。この人気のない廊下で良く私が居ると分かったな。
「会いたかったです。」
壁際に追いやり隠れるようにキスをする。
「な、こんな所で、っ…」
見られたらどうするの。
「え?ここ滅多に使われませんよ。」
確かにここには来ないけど。私ぐらいしか使わない廊下だけど。
「そ、そういう問題じゃない…私は、見られるの、困るんです…」
「わたしも他人に見せつける趣味はないのですが…でも、恋人同士なんだからキスぐらい良いでしょう?」
またそうやってキスしてくる。
「っ、私、まだ、恋人同士なんて…」
「昨日、返事もらいましたよ。取り消せないので諦めちゃってください。」
舌を絡め、激しさを増す。朝から何してるの?私たち。
「はあっ、あっ、ん…B様…」
「それ嫌です。」
舌を甘噛みされる。ちょっと痛い。
「敬語も様もつけちゃダメですよ。昨日も言ったでしょう?」
首筋に噛みつくとビクッと体が跳ねた。
「はぁ、こんなのじゃ足りませんよ。」
これより先を求めてしまう。
「んんっ…」
「今日、うちに来ませんか?」
ヒョイッと抱き上げられBを見下ろす。頭がぼーっとする。
「仕事が終わったらずっと一緒に過ごしましょうね。」
「はあ、…っ…」
「迎えに来ます。」
チュッと音を立ててキスをするとやっと下ろして貰えた。さっきまでの不機嫌はどこへやら。頭がクラクラしちゃう。
「元気出ました、仕事に戻ります!」
勝手にして離れて帰っていく。その場にへたり込む。Bってあんな人だった?大胆というか手が早いというか。
「(夢じゃなかった。)」
昨日の事が鮮明に思い出される。頭冷えるまでここに座っていよう。
「神さまに会いたくない…。遅れたらまた、嫌味言われるかなぁ…。」
そしたらBが話、聞いてくれるかな。
「…。」
そう考えるとほんの少し、気持ちが軽くなった。
「なんじゃ、つまらん。」
来るなり言われた。おはようも言えないのか。
「そんな服装、目で楽しめんぞ。」
朝から露出が少ないと怒られる。何で露出の多い服じゃないと怒られるんだ、理不尽過ぎて言葉も出ないし何より気持ち悪い。アナタもういい歳だろう。若い女の肌見てニヤニヤしてるこの神は私からすればただの害でしかない。
「業務と関係ありません。」
「飾り物としての義務だろう。忘れたか?」
外道。私をどこまで侮辱するのか。
「今日はもう下がって良い、反抗的な態度ばかりで可愛げのない。」
「仕事があります。それを放ってはおけません。」
「Bに頼む。お前に頼らんでも仕事は終わる。」
…何でこうなるんだろう。あの人だって忙しいじゃない。効率を考えてよ。そんなんだから支持率が下がるのよ。こんな人に左右されるなんて…うんざりだ。
「(それに従わなきゃならない自分にも…)」
うんざりだ。
「……。」
抜け出しちゃった。だって帰っていいんでしょ?…なんて。こんな無責任なことして、私はどこまで馬鹿なんだろう。家、はまだ、帰りたくない。村…もう少し静かな所がいい。ここは天界だ、静かで綺麗な場所なんて山程ある。
湖の畔。ほら、絵に描いたような場所。
「…。」
湖の澄んだ事。水面に顔が反射する。
「…今日、行かないでいようかな。」
約束しちゃったけど。逃げれるかな。怒るだろうな。どうしよ…。
「Bよ、この仕事を頼む。」
当たり前みたいに出してきた書類を手に取る。
「名無しさんの仕事では?」
「帰った。まったく、無責任な奴だ、あんなのにCの序列を渡すんじゃ無かったな。」
「名無しさんはそんな事しませんよ。」
「昔一緒に働いていたようだな。もう少し可愛げがありゃ良かったものの反発ばかりしよる。あいつは飾り物としてぐらいが丁度良い。」
ムカついた時ってどうすれば良かったんでしょう。殴っていいんですかね。
「(なるほど、神さま。あなたが…)」
見つけました。
「私も忙しいので手がまわりません。」
「なっ!」
「その仕事は名無しさんのものです。彼女がやってこそ意味があります。」
ピューッと飛び立って行き、神さま呆然。
「名無しを探してこい!」
「え?は、はい。」
飛び回って探すいうのは不便ですね。何より時間がかかる。コンパクトで相手が何処に居ても通信可能なツールを考えましょう。
「ヤバですね、名無しさんとこのツールについて話をしましょう!」
パタッと降り立ち、やっと見つけた。
「こんにちわ〜っ」
「!」
びっくりさせちゃいましたね。鳩を膝にのせて振り返るとバツの悪そうな顔をしていた。
「今日…ひとりでいたくて。伺うの、また、次の機会でもいい、ですか…。」
…………は?
「なんの冗談ですか?」
声が低くなった。目を合わせれない。ほらやっぱり怒った。
「ひとりでいたくなるような事があったんですか。」
でも残念です、ひとりにはしません。
「わたし、それなりに頼りにはなると思うんですけど。駄目ですか?」
「…。」
「神さまに随分な事をされてきましたね。」
「知ったの…?」
「貴女の仕事を押し付けようとしてきたので逃げてきました。わたしには出来ません。名無しさんだからこそ回せる仕事です。」
隣に座るBは先ほどとは違って優しい雰囲気。頼らず悶々としようとしていたのに怒ったのかな。鳩が飛び立つ。
「やっと空きました。」
「あ、ちょっと」
スポッと膝に頭をのせてきた。油断も隙もない。
「わたしだって甘えたい時ぐらいあります。」
「…。」
撫でてーと手を頭の方に誘導する。可愛い。
「色んな時があります。貴女にだってそれはあると思います。」
なので。
「お互いに隠さず発散していきません?そーゆーの。」
「…。」
何て救われるのだろう。
「貴女の事ならなんだって知りたいです。だから全部吐き出しちゃって下さい。」
ガバッと起き上がるとぎゅうっと抱き寄せられた。
「次は名無しさんの番です。沢山甘えて下さい」
「っ、…、あり、がと…っ」
神さま。あなたは見る目がない。
「泣きたい時は我慢しなくて良いです。」
彼女はこんなにも可愛いです。
「はい、チーンして。」
「ん〜っ。」
ハンカチを鼻にあてがわれる。子供か。その後、お迎えが来て強制的に宮殿に戻された。悔しそうな神さまの顔は今でも笑えてそそくさと業務をこなす。出来上がると皆がポカンとしていた。
「さすが名無し様、優秀…。」
「見る目変わるよな。」
私の価値が変わった気がした。
「やりましたね。」
なんて気持ちのいい仕事だろう。気が晴れた。
約束通り仕事終わりにBの家にお邪魔した。
「本ばっかり。」
また増えてるような…。手に取り読み出す。これ面白そう。
「名無しさん。」
「…。」
集中してる。
「わたし、寂しいですよ。」
わしゃっと胸を鷲掴みからのくすぐり。名無しは肩を跳ね上げ、悲鳴を上げる。
「な、なな、何するの!」
「寂しい思いを発散しました。」
そういう事なのだろうか。この人のは単純にいたずらな気がする。
「…これは後で。」
本をなおされた。壁際に追いやられ立ったまま口の中に舌が入りこんでくる。今朝と一緒だ。
「はぁ、っ、…」
「ん。まだです…」
もうどれくらいキスしてるだろう。首筋にどちらのものか分からない唾液が傳う。
「ここもイイ感じです。」
かぷっと胸にかぶりつき舌を這わせ、下着に指をかける。
「はぁ、ぁ、っ…」
逃げたいくらい恥ずかしい。がっついてくるのちょっと意外。胸板を押すとにんまりと笑ったBの顔が伺えた。
「名無しさん、かわいいです。」
「こ、これ以上、だめ…」
「生殺しですね。」
照れて真っ赤だ。涙目になって。貴女はそんな顔も出来るんですね。
「B…っ…。」
「やめませんよ。」
「っ!!!あっ…ん!!」
「ん、入りましたよっ…。」
耳元で囁かないで。
「ぁ、っ…!」
気づくとベッドの上だった。部屋が違う。
「いたい…」
「目覚めましたか。」
「……。」
何で何事も無かったかのように元気なんだろう。本読んでるし羽で治癒してくれてるし服着てるし。…昨日のは夢だった?いや、そう思ったけど私は服着てない。
「…えっち。」
「理性的だと思うんですけど。」
「どこが。あんなにされちゃ…」
思い出すと恥ずかしくなっちゃった。
「お嫁にいけない…。」
「いけますよ?」
顎をくいっと持ち上げられ、目線を合わせられる。
「わたしの所に来てください。」
離したりしません。
「…付き合った、ばっかり、なのに…。」
プロポーズまでされた。
「ずるい…、…。」
「先手を打ちました。」
ひょいっと抱き上げられた。抱っこなんてされた事ないんだけど。この細身にそんな力がある方に吃驚しちゃう。
「お風呂に入って着替えて一緒に出勤しましょう。」
「……。」
嫌とか言っても絶対折れないよね、この人。
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4話
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「え?部屋を?」
眺めの良い展望台でたい焼きを食べてると仕事が一段落ついたBがやって来た。
「はい、一緒に住んだ方がわたしも安心なので。」
あ、たい焼き半分噛じられた。もぐもぐごっくんと効果音立てながら食べ終わってる。
「……。」
Bは決断すると早い。取り組まないと気がすまない所がある。今のお家、わりと気に入っているんだけど。
「ん〜…。」
パクっとたい焼き食べて答えを渋る。
「ひとりになりたい時とかないの?」
「ありません。貴女と離れたくないので。」
「お部屋狭くなっちゃうよ?」
「1人だと広いので2人で丁度良くなります。」
「付き合ってるの、バレちゃう…かも。」
「知られて困るような事じゃないでしょ。」
何言ってもすぐ言い返される。本当に良いのかな。ちょっと気が引ける。そこまで甘えていいものか。序列の上と下が付き合ってるとか噂するにはもってこいだし支障でないのかな。
「決まりましたね。これからよろしくです。」
頬をペロッと舐められ、そのまま口づけを交わす。
「甘くておいしいです。」
最近、益々大胆になってきたような気がする。距離感が近くスキンシップも多い。人前では自重してくれていると思うけど、誰も居ない所だと職場であってもベタベタ。見つかったらどうしよ。
「離れて。ここじゃ見られちゃう。」
「カギ閉めてますよ?」
ジャラッと鍵を見せつける。この人、自分の役職を利用してるじゃ…だから誰も入って来ないのかと納得した。
「帰るまで触れないなんて。」
名無しの髪を指先に絡める。
「お互い寂しいでしょ?」
「…!」
顔を赤らめ食べかけのたい焼きで口元を隠し上目遣いでBを見上げる。
「…そ、うだけど……。」
貴女は本当にかわいいですね。長い付き合いですが、そんな表情は初めて見ました。
「…。」
ゆっくりと近づいてくる顔にまたキスするのかと思い目を閉じる。あれ?目を開けるとたい焼きが無くなってた。
「ごちそーさまです。」
もぐもぐごっくん。
「はっ!私のおやつ…!」
ふたくちしか食べてない。
「期待を裏切っちゃいました?」
「……。」
ニコニコしてる。読まれてる。だからこそ弄ばれたのか。
「仕事に戻ります。」
「おや、拗ねちゃいました?」
「いつも通りです!」
羽を広げて宮殿の方へと戻る。Cさんの表情が豊かになってきましたね。見ていて嬉しいです。
「名無し、どこに居たんだ!こっちに来て奉仕せんか!」
「頼まれていた書類を作らなくてはなりませんので。」
「まだ出来とらんのか。遅いぞ。」
5分前に言ってきたやつじゃない。無視して歩くとスカートを引っ張られた。
「きゃっ!」
こんのエロ爺。神さまは休まれる時、ここで睡眠をとる。その時に若い女性を囲うんだが…。
「今日はお前の膝でもよいか。」
「私は他の業務がございます!」
「断るというのか?」
この人、こんなんだから弱味を見せたくないのよ。結局、膝枕してお尻触られて…。背筋が凍るほど気持ち悪い。私のこと目の敵にしているくせにこういう嫌がらせが出来るんだもの。凄いわ、私なら無理。視界にも入れたくない。
本当に最低。
「…。」
寝た。すぐ離れる。あー、気持ち悪かった。触られるってこんな気持ち悪かったっけ。寒気がする、触られたくない。窓に手をかけ外の空気を吸う。空より高いはずなのに…この中の空気は最悪だ。
「名無しさん。」
偶々見つけたのでそっと近づき肩を掴む。
「いやっ!!」
バチンと乾いた音が響く。Bの頬を打ってしまった。
「…!」
「B……っ…」
どうしよ、気が立ってしまったがゆえに思わず手が出てしまった。冷や汗がでる。
「何か、あったのですか?」
いつもと雰囲気が違う。低い声のトーンが胸をぎゅっと締め付ける。喉が閉まるような感覚。真剣な時のBの圧は今でも息を呑む。
「ご、ごめんなさいっ…」
「平気です。それより。」
何があったのか聞かせください。
「……。」
「名無しさん?」
やっちゃった。私、最悪だわ。なんて野蛮な事をしたのかしら。自制心の欠如よ。理知的じゃない。少し赤くなったBの頬を見て後悔が押し寄せる。
「………。」
天使なのに。
「名無しさん。」
「…!」
思わず逃げた。話してどうにかなる?私、こんなんだったっけ。
Bが探し回ってるのを聞いた。必死に隠れた。仕事終わりに残した業務を片付けていると人間界管理課の子と会った。
「あっ!やっと見つかった!もう、名無し様のせいで仕事後回しになっちゃいましたよー。」
「え、あ、ごめんなさい…。」
「B様は名無し様のこと気になって仕方ないんです。ちゃんとして下さいね。明日もこれじゃ困ります。B様、優秀だからすぐ終わるけど。」
そこまでして探し回ってるの。あの仕事最優先のBが。
「…。」
Bの家に行ったけど居なかった。会いづらい。逃げなきゃ良かったかな。後悔しかない。
「…ただいま。」
やっと帰宅。家に入る。
「おかえりなさい。」
気配もなく真後ろから声がする。
「B…?」
「鬼ごっこはおしまいです。」
体を掴む手に力が入ってる。痛い。動けない。
「もう充分逃げたでしょ。」
「…っ。」
ガシャンと手首に重みを感じた。これは。
「手錠…?」
ここまでするのか。
「話を聞かせてくれなさそうなので仕方ないです。」
パッと手を離すと紅茶を出してくれた。
「話すまでこの手錠は外しません。」
人がどれだけ心配したと思ってるのですか。
「あ、の…」
ポツリポツリと話すとBは最後まで聞いてくれた。話せば話すほどBの雰囲気が重苦しくなる。
「…ずっとそんな事をされてきたのですね。」
「…はい。」
「わたし、今凄くムカついてるんですけど分かります?」
「…はい。」
「魔獣とか責めて来ないですかね。丁度良い憂さ晴らしになるのですが。」
見たことないぐらいムカついてる。
「まぁ、本人に仕返しするほうがスカッとしますけど。」
やりかねない。本当にやるから。
「…わたしに触られるのは嫌ですか?」
「え?」
そういえば、いつもならベタベタしてくるのに。気を使ってくれているみたい。そっと近づき肩に頭をのせる。初めて自分から寄ってきたもんだからBが少し吃驚してる。
「Bなら、良いよ…。」
「……。」
そっと抱き締めてくれた。温かくて落ち着く。
「…やっと落ち着きましたよ。」
ずっとイライラしてたと思う。ほっと息をすると首筋、胸、腕の順に唇を落としていく。
「んっ…沢山、触って…?」
「おや。もしかして誘ってます?」
恍惚としている。
「…だめ?」
あざとく自分の良さを駆使する。ニタリと笑うBはどこか嬉しそうだ。
「いいえ、望むところです。」
ベッドが軋む。虚ろになっていく表情。何度目の絶頂を向かえたか覚えきれない。
「あっ、んっ、…も、だめっ。」
「誘っておいてもうおしまいですか?」
肌に吸い付き痕を残す。全然バテてない。何でこんなに余裕なの。
「んっ、やぁっ…!」
「愛してますよ。」
耳元で囁かないで。何が弱いか把握されてるから責めに責められる。
「ぅ…。」
頭痛がする。まだ眠たい。
「もー、何してるの。」
肌に痕が複数。こんなにつけて、着るもの選ばないと。クローゼットから服を探す。
「ほう、これも神さまの仕業ですか。」
アホほど露出した服。ああ、昔着ろ着ろ言われたやつだ。懐かしい。嫌すぎて着なかった。Bがじーっと眺めてポイッと捨てた。
「通りでおかしいと思いました。」
「え?」
だって貴女の趣味じゃないでしょ。
「(彼女にここまでするような人です。…もしかするとまだまだヤバな裏側があるかも知れませんね。)」
是非見てみたい。