謳ってみた。
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8話。
______________________________________________
「ん〜。」
ペタペタ足音がする。
モモちゃんと遊んでいたらいつの間にか真っ暗になった。
「10分ぐらい?」
ずっと足音がついてきてる。同じ方向にしては長い気がする。
「まぁた変質者…?」
やだなぁ、物騒な世の中よね。
「名無しさん。」
「本当に物騒な奴が出てきた。」
ヌッと背後からブラック登場。
「何をブツブツ言ってるんです?」
「いつから居たの?」
「いつからでしょうね。」
「何してるの?」
「何だと思いますか?」
聞き出す相手を間違えた。ひねてるから喋るわけない。人のあと付け回して。ちょっと怖かったのよね。
「一緒に帰らない?」
「え?」
後ろを見て
「……どうしましょうか。」
カカカッと笑いながら顔に影を落として楽しんでいる。
「…。」
こんなんが旦那なの。けど足音の正体わかったし良かった。
…あれ?
「歩かないの?」
「飛べるんだからわざわざ歩きませんよ。」
バカにしたように笑う。閉め出してやりたい。
「…。」
とりあえず走って帰った。家の中に入る。
「早いじゃないですか!カカカッ、息上がってますよ!」
飛べばいいのにーっとケタケタ笑う。
「長いこと飛んでないと…苦手になっちゃって…」
「魔女のくせに不便ですね。」
「人に見えるんだからしょうがないでしょ」
魔女は悪魔と違って見える。なので細々と人間かのように振る舞って生きてきた。
「ほうきで飛べば町中パニック。面白そうじゃないですか!」
絶対撮影のことしか考えてない。
「…ここまでは来てないよね。」
ドアから顔を出しあたりを見渡す。
「どうかしました?」
「なんか途中からあと付けられてる気がして。気のせいだったみたい。」
「気のせい、ですか。」
マンションの前に人影がうつる。ブラックは怪しい笑みを浮かべる。
「…温まったぁ。」
お風呂から上がり、牛乳を飲む。
「っはぁ、はいカメラちゃんの分。」
コップに入れて渡すとカメラちゃんは大喜び。
「アイスも食べていいからね。」
「じじ〜!!」
さらに大喜び。
「カメラちゃんばかりずるいです。」
ゲームしながら何言ってるんだか。
「オレちゃんも甘やかして下さい。」
「充分甘やかしてるじゃない。これ以上何をすればいいの?」
「こうしてもらいましょう!」
ブラックは名無しの手を掴み、ソファーに座らせると背中を任せるように持たれかかった。名無しがブラックを後ろから抱きしめる。
「しばらくこのままで居て下さい。」
「ブラックこれ好きだよね?」
この体勢。
「柔らかいので落ち着きます。あと心地もいいので。」
「…そう?」
悪い気はしない。
「じっ!」
カメラちゃんがアイス持ってきた。なんて気の利く子なんだろう。
「カメラちゃん有難う!」
カメラちゃん照れてる。かわいい。
「はい、ブラック。」
口の中にアイスを突っ込む。
「有難うございます。」
おとなしく甘えててゲームしてる時はかわいい。
「…。」
そっと頭を撫でる。
「名無しさん?」
「可愛くてつい。」
かわいいって甘やかしたくなる。気持ちが優しくなっちゃうのよね。
「カカカッ!オレちゃんがかわいい?どこかに頭ぶつけちゃいました?」
「ごめん、今の無かったことにして。」
眼科のチラシまで手に持ってる始末。ブラックもかわいいなんて言われたくはないか。魔界のスターだしどちらかというと…。
「かっこいいもんね。撤回する…。」
意識しちゃった。ものすごく照れてるのが自分でもわかる。
「カカカッ!名無しさんのほうがかわいいじゃないですか。」
「ふぇっ!?」
ブラックが私を?初めて言われた。
「うそぉ…。」
「あれ?オレちゃん嘘はつきませんよ。」
貴女には。
「言ってこない、じゃない…。」
「常に思ってる事を口にしてたらキリがないでしょう?」
愛してるも、かわいいも。
「たまに言うからこーんな名無しさんが見れるんです!」
ニタァと笑うブラック。いい声してるし心臓が口から出てきそう。
「じ〜。」
お邪魔ししましたとカメラちゃんが何処かに去っていく。
「か、カメラちゃん!!」
「おや?気を使わせたみたいですね。しばらくは戻ってこないはず…。」
ゲーム機をそっとテーブルに置いた。
「ベッドかソファーか。どちらがいいです?」
「え…。な…。」
目がギラついてる。
「さぁ、早く選んで。」
首筋を舐めながら耳まで舌が這い寄ってくる。
「やぁ…!」
「カカカッ、良い反応ですよ、名無しさん。」
「ベッド…いこ…?」
ここはさすがに無理。
「誘われると益々唆りますね。」
抱えられるとそのままベッドへ。お姫様抱っこなんて普段されないからドキドキしちゃう。
「ぁ…ん…」
何回しても慣れない。
長い夜があけ、朝をむかえていた。
「…ん。」
「おはよーございます」
1人服着てご飯食べてる。
「…今日もう歩けない…。」
昨日のこと思い出して頭から煙がでそう。ものすごく激しかった。悪魔ってああなの?体がだるい。
「ブラックは…。」
「オレちゃんそんなやわじゃないんで!」
ケロッとしてる。めちゃめちゃ元気…。
「それより服着ちゃって下さい。」
「着替えるから出て!」
背中を押して追い出す。
「カカカッ、ちゃんと歩けるじゃないですか。」
「もう!」
部屋から追い出し服を着替える。
「終わりました?」
一応気にかけてるみたい。ずっと近くでパタパタ飛んでる。椅子に座りコーヒーを飲む。
「1人で大丈夫だから。」
「そうですか?」
「じー。」
食パンを持ってくれてるカメラちゃん。食べさせようとしてくれてる。このかわいい優しさにじーんとしちゃう。
「んぐっ、」
「じっ!」
容赦なく口に放り込まれた。美味しいけど痛い。
「あ、有難うカメラちゃん。」
「じじー。」
喜んでる。カメラちゃんはいい子だ。
「そーいえば朝から電気がつかないんですよ。」
「へ?」
テレビをつけてみる。
「あれ?照明も。どーしよ。」
ブレーカーは問題なさそう。
「業者呼ばなきゃね。」
「人間界は不便ですね。オレちゃんがやりましょーか?」
「絶対やめて。」
魔改造とかされそう。とりあえず業者を呼んだ。お昼には来てくれるみたい。
「オレちゃん撮影があるんですけど。」
「私ひとりでやるから。好きに行って。」
「目を離していいのかと。」
「子供じゃないのよ。」
いえ、そうじゃなくて…。
「カカカッ、本当にいーんですか?」
ニタァと不敵に笑うブラックが何を考えてるかわからないけど異常に怖い。
「な、によ…?」
「とりあえず…。そのかっこーで対応するのはいくらオレちゃんでも許しませんよ。」
寛大とでも言いたいのか。カメラちゃんにでさえヤキモチやくのに。ショートパンツにキャミソール、薄めの上着は流石にまずい。
「着替えなきゃ!」
バタバタと着替えに行く。
「無防備ですね~。本当に、困ったものです。」
そんなんだから…。
「あ、そろそろ行きましょーか。」
パターと飛び立って行った。着替え終わるとブラックが居ない。
「さとくんとこ行っちゃったかな。」
お昼までゆっくり過ごそう。
「すみません、電気の件でお電話頂いた者です。」
「はぁい。」
インターフォンも鳴らないからドアをコンコンと業者が叩く。部屋に招き入れ状況を説明。作業に取り掛かって貰った。
「これは、少し時間がかかるかと。」
「構いません。ゆっくりやって下さい。」
ベランダで雑誌を読みながら紅茶を口にする。晴れてて良かった。
「…。」
業者の人がじっとこちらを見ていた。後ろを振り向くとすぐに目線を外し作業に取り掛かっていた。今の視線はなんだったのだろうか。疑問符が浮かぶが特に気にもしなかった。
「終わりました。」
「ありがとうございます。」
「あ…そうだ。」
玄関を出てから業者が振り返る。
「…その服、良く似合ってます。」
「え?」
「失礼します。」
今のなに?
「服?」
なんてないただのワンピース。そもそも業者が褒めてくる意味も分からない。社交辞令なのだろうか。
「なんだったのかな。」
なんか、違和感のある業者だった。電気は元通りになりやっとついた。
「やったー、便利がかえってきたぁ。ご飯作ろ!」
「今日は何作るんです?」
当たり前みたいに居る。いつものことだけど。
「おかえり。早かったね。」
「ただいまです。名無しさんが心配だったので。」
「なにが?」
「色々です。…色々と。」
観葉植物の裏からこっそり出てくるカメラちゃん。
「じー…。」
ニタァと笑みが溢れる。
「カカカッ、楽しみですねぇ。」
「(どうしたんだか。)」
エプロンつけて野菜を切る。出来上がると皆で食卓を囲んだ。
「名無しさん名無しさん。オレちゃんが食べさせてあげます。はい。」
「え?…っ!」
ビーフシチュー口に突っ込まれた。
「カカカッ、美味しいですか?」
「うん…。」
「名無しさんが作ったものは何でも美味しいです。オレちゃんどれも好きですよ。」
「あ、ありがとう。」
素直に褒めてくるブラック。ちょっと照れくさい。
「オレちゃんにはしてくれないんですか?」
「はい、どーぞ。」
食べさせてあげる。パクっと食べてるの可愛い。
「素直なブラックは好き。」
「カカカッ!オレちゃんいつも素直です!」
「どこが…。」
思わず呆れちゃう。けど何だかんだで楽しい。この生活にも慣れて今では凄く幸せ。
「カメラちゃんもあーんして。」
「じー!」
「おや?カメラちゃんにまで。」
カメラちゃんはいいの。悪魔で男の子だけどこんなに可愛いんだから。
「じー!」
喜んでる。癒やされる。
「…そんな事を誰にでもするから、狙われるんですよ。」
「え?どういう事?」
「気づいてないんですか?W」
またバカにしたように笑う。けどいつもとは少し意味が違う。どういう意味だろう。
「…。」
ふと足音のことを思い出す。もしかして、私は誰かに…。
「ごちそうさま。」
見えないものを考えるのは沼にはまる。そっと立ち上がり片付ける。
「お風呂はいる。」
考えているようなどんよりとした雰囲気の名無しをブラックが横目で見届ける。
「少し、怖がらせちゃいましたね。」
「じー!」
「けど、それでいいんです!!」
ゾクゾクする。
「あれ?」
脱衣所にこんなものあったっけ?ペンギン型の雑貨。置いた覚えがない。
「なんだろ?」
手に持ち色々な角度から眺めてみる。重くもなく軽くもない。
「カカカッ、…これは鬼ヤバですねぇ。」
脱衣所で下着姿の名無し。それをパソコンの画面越しに見つめるブラック。
「こんなものまで。やはりあの人は鬼ヤバスターの素質があります。」
お風呂場まで響き渡るブラックの笑い声。何がそんな面白いのか。
「じー。」
ペンギンの雑貨を後ろに向けるとカメラちゃんは脱衣所から出て行った。
「ナイスです、カメラちゃん。」
さすがに映せませんからね。
「あの姿を見て良いのはオレちゃんだけです。」
ハッキングからの妨害。
「次は何をするのか楽しみです。」
「じー!」
ワクワクします。
「…?!」
ペンギンが動いてる。なに?なんか怖いんだけど。もしかしておばけ…。いやいや、そんな非科学的なもの。ぶつくさ言ってる間に着替え終わった。
「温まりました?髪、乾かしましょーか。」
「うん。」
ブラックが髪を乾かしてくれる。ドライヤーの音が部屋に響く。
「終わりました。」
乾いてサラサラになった髪を撫でる。
「ブラック、今日、一緒に寝よ?」
なんかはずかしい。ブラックの胸に顔をうずめる。顔が熱い。
「カカカッ!もしかして盛ってます?」
「ちがぁう!!盛ってない!」
「残念、オレちゃん毎日でも」
「むりだからぁ!」
悪魔って底なしなのよね。きりがない。
「ひ、ひとり、だと怖くて…。」
毎日は一緒に寝ていない。気分で一緒だったり別々だったり。
「魔女のくせに何言ってるんですかW」
「関係ないでしょ今…!」
怖いものは怖いんだもん。
「怖いと甘えてくる。これは…」
いい効果ですね。
「…。」
ベッドに入った。ブラックあったかい。引っ付いて寝るの結構好きかも。
「おやすみなさい、名無しさん。」
「おやすみなさい。」
おでこにキスされた。いつも夜更かしだけど、ワガママ聞いてくれて一緒に寝てくれて、なんやかんやでブラックは優しい。この日、安心して寝た。
「え?海外?」
「撮影に行こうと思って。あちらの方はリアクションがオーバーだから面白いんです!」
「そうなの。気をつけてね。」
「あれ?もしかして寂しいんですか?」
「…ちょっと。」
ニヤァと笑う。やはり名無しさんはかわいいです。段々と昨日の出来事から素直になってきましたね。
「すぐ戻ります。」
少し長めのキスをする。
「はずかしいから!」
「そろそろ慣れて下さい。それなりにしてるでしょう。」
「むりぃ!」
照れて逃げちゃいました。相変わらずですね。でも…いい方向性です。
「少し怖い思いをすれば、より深まります。」
空を飛びながら良からぬ事を考える。人間は行動が遅い。待ちくたびれそうになるが我慢だ。
「ブラックも居ないし、出掛けよ。」
服でも買いに行こ。
久しぶりに一人を堪能した。モモちゃんとも夕食食べておしゃべりして気付けば21時。久しぶりにはしゃいだ。
「ただいま!」
誰も居ないんだけど。なんか、居て当たり前になっちゃったから寂しく感じる…。
ベッドの下で動く目に気が付かない。
「着てみようかな。」
ニットのワンピースとフェミニンのワンピース。どっち着てみよう。お店で試着してないんだよね。
フェミニンのワンピースに着替える。女の子って感じ。
「かわいいかな?」
「かわいいですよ…。」
…………………誰?
後ろから肩をつかまれた。鏡にうつるそいつの顔は…一度だけ見たことある。
「きゃあ!」
あの時の業者だ。何故部屋の中に。どうやって入った?どうしてここに?心臓がバクバクする。冷や汗が流れる。
「ブラック…!」
壁際に追い込まれへたり込む。躙り寄ってくる変質者との間に勢いよく回転した鎌が舞い込み床にぶっ刺さる。
「…!?」
「こんばんわ〜。」
窓際に片足立てて座るブラック。
「まさかと思ってすっ飛んで帰って来ちゃいました。」
カカカッと笑いチェーンで相手を拘束。
「名無しさんに何するつもりですかァ?」
「離せ!」
「まだです。インタビューが終わってません。」
喉にスッと鎌をあてがいニタァと笑う。男はビクリとして固まった。
「…!」
「ずっと見てましたよ。証拠は全てここにあります。さぁ教えて下さい。」
キミの目的を。
「…ただのファンだ。偶々見かけてあとを追った。」
あのとき、気のせいではなかった。
「ほんの出来心だ。いちファンとして接したかっただけなんだ。」
「おやぁ?業者として入り込んでこーんなものまで設置して…これも出来心ですかァ?」
じゃらぁっと出されたのは盗聴器、監視カメラ複数。全てショートしている。
「なっ、何で見つか…っ」
「必要ないので潰しました。予めハッキングもしているのでデータはオレちゃんのパソコンにのみ残してあります。」
パソコンの画面を見せる。
「…邪魔ばかりしやがって!!何なんだてめぇは!!この悪魔!!!」
「悪魔ですが何か?」
決め台詞と共に攻撃が決まる。倒れきった男は動かなくなっていた。
「目を覚ました時には名無しさんの事も分からないはずです。」
興味も持ちません。
「ファンが減るのはヨーチューバーとして悲しいのですが…こんな方は願い下げです。」
男を見下ろす視線には殺気と軽蔑の意味を込め見つめる。
「立てます?名無しさん。」
「…。」
ブラックがいる。涙が止まらない。何だろうこの安心感は。悪魔に安心を感じるなんて、私はどうかしちゃったのかな。
「怖かった時は泣いちゃっても良いんですよ。」
「ブラック…っ、」
胸の中に顔を埋め、服を掴んで泣いてしまった。ぐちゃぐちゃな顔をしているだろう。
「(人間くさい魔女さんですね。)」
でもそんな貴女が愛おしい。
「オレちゃんは名無しさんを必ず守ります。」
怖がらなくていい。オレちゃんを頼って下さい。
「鼻出てますよ」
「ん〜!!」
ハンカチを当てられる。さとくんのガチ泣きはいじるけど、私のはいじらない。
「ちゃんと泣けましたね。」
頭を撫でてあやしてくれる。
「この人、どうしよ。」
ここで目を覚まされても困る。
「その辺に放っておきましょう。死にはしないので。」
「ありがとう…。」
「嫁ちゃんを助けるのは当たり前です。」
ピューッと男をどこかに連れてった。
「…海とかに捨ててないでしょうね。」
「してませんよW」
帰ってきた頃にはいつも通り。
「おや?これは。」
一段落すると温かなフォンダンショコラが出てきた。
「今日のお礼。美味しくできたと思う。」
照れたように物を言う貴女はどうしてこんなにかわいいんでしょう。
「カカカッ、律儀ですね。」
パクっと食べてくれる。
「どう?」
「おいしいですよ。」
てか、
「オレちゃんが名無しさんの料理を不味いなんて言うわけないです。」
「…。」
あ、逃げた。
「じー!」
カメラちゃんが追いかける。
「カメラちゃん、私…ブラックのこと…凄く好き…どうしよ…。」
キッチンに隠れてコソコソする。カメラちゃんは面白おかしく笑ってる。
「オレちゃんここに居るんですけど。」
丸聞こえ。紅茶を飲む。
真夜中。
「じー。」
玄関先に向かう。鍵をそっと開ける。
「カメラちゃん。」
カメラちゃんが振り返る。
「もう鍵は“開けておかなくて”いいんですよ。」
「…じー。」
不敵な笑みの中、そっと鍵を閉じた。
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9話
______________________________________________
ブラックがいつものように出て行って居ない。
夕方、ランニングの帰り道の公園でさとくんを見かけた。
「名無しお姉ちゃん!」
「さとくん!みんなと遊んでたの?」
「うん、名無しお姉ちゃんは?」
「ランニング。気分爽快になるんだぁ。」
「オレ走るの嫌い。遅いんだもん」
かわいい。隣に小さい子がいる。さとくんより少し年下かな?誰かに似ている気がする。
「ぼく、お名前は?」
「…!」
さとくんの背後に隠れた。人見知り?悪いことしちゃったかな。けど…。
「かわいい〜!!!」
萌える。なんてかわいいんだろう。
「名無しお姉ちゃん、この子帰るとこないから預かってよ!じゃあっ!」
えげつない情報と共にさとくんは帰って行った。
「え?どういうこと?」
もう夕方。日も落ちる。とりあえず見捨てれないので。
「私のおうち、来る?」
「…。」
こくんと頷いてる。中々警戒されてる。ゆっくりと一緒に帰った。
「ただいまぁ。」
「ただいまです。」
あまりうまく回っていない滑舌がこれまたかわいい。子供相手だとつい緩んで甘くなる。
「お名前…。」
まだ言いたくないかな?
「ぼく、泥だらけね。一緒にお風呂はいろっか。」
「…なにいってるんです?」
「嫌?ひとりじゃ洗えないでしょ?」
脱衣所に連れていき服を脱がせる。
「じぶんでやります!」
「はいはい。」
子供ができたらこんな感じかな?なんか微笑ましい。お風呂場に入ると頭と体を洗ってあげる。
「えらいぞー。」
「…ふんっ!」
ドヤ顔で湯船に使ってる。ちょっとブラックに似ててかわいい。バスタオルをとり次は自分の番。洗い終わると一緒に浸かった。
「ぼく、この温度平気なの?」
かなり熱いんじゃ…。
「おれちゃん、これぐらいがいいです」
「そう?滑っちゃ危ないからこっちおいで。」
軽いしちっちゃいから浮いてる。そっと引き寄せて膝に座らせる。
「……。」
「どうしたの?」
「子供にはいつもこんなにやさしいんですか?」
どういう事かな。
「優しいかな?私。」
「…。」
ペチン!とおっぱい叩かれた。
「何で!?」
浮いてるの気になるの?大きい方だとは思うけど。子供って分からない。
「あれ?」
お風呂から上がり着替えようとしたら、泥だらけの服が綺麗になっていた。
「どうなってるの?」
「かかかっ!」
それに着替えるとバタバタとリビングに走っていった。
「こーらぁ、髪乾かしてないでしょー。」
「アイスたべます!」
「ご飯が先よ!」
お母さんみたい。アイス食べながらドライヤーをかけてもらう男の子。
「よくアイスあるとこ分かったわね…?」
「うちの冷蔵庫なので。」
うちと一緒って意味かな?とりあえずご飯にしよう。
「おー。」
お子様ランチにしてみた。何が好きかわからないし無難かな。
「いただきます」
「ちゃんと言えた。偉いね。」
「それぐらいいえます」
もぐもぐ。そういえば…。
「まだ帰ってこないのかな。」
「はい?」
「旦那がいるの。いつもならひょっこり帰って来るんだけど今日は遅いみたい。」
「さみしいですか?」
「居ないとね。ぼく食べ方きれいね。」
よしよしと頭を撫でる。
「お姉さんはだんなさんすきですか?」
「え?!…うん、好きよ。幸せ。」
「…。どんなとこがすきですか?」
「どんな、ヨーチューバーなとこも不敵なとこも優しいとこも…全部、かな。」
「かかかっ、いやなとこは?」
「…と、特には。」
この子、やけにこの話題に食いつき良いわね。
「ごちそーさまです」
「有難う。ゲームしてていいよ。」
食器を片付ける。あの子はソファーでフォントナイトしてる。最近の子って感じ。
「ウィンロワしてる、上手ね。」
「これぐらいならよゆーです」
ちっちゃいブラックみたい。
「もうおやすみの時間だよ?」
「オレちゃんまだねないです!」
「寝るんです〜。」
無理矢理ベッドに連れて行く。
「夜更かしだめ、ブラックみたいになっちゃう。」
「どーゆーいみですか。」
ベッドに寝かせると眠るようにお腹に手を添える。
「ねむくないです」
「眠るの。明日起きれなくなるよ?」
「だいじょーぶです」
窓をふいに眺める。
「きになりますか?」
「え?まぁ。心配なだけ。」
必要無いと思うけど。
「おやすみです」
「おやすみなさい。」
なんか急に素直になった。
「早く、会いたいな…。」
この子、よく見たらブラックに似てる。拙いけど喋り方とか服装とか。真似してるのかな?
「…かわいい。」
「かわいくないです。」
あ、起きてた。ちっちゃくても男の子だなぁ。かわいい。
「…。」
すぅと眠りにつく。翌日、目を覚ますと男の子ではなくブラックが添い寝していた。ギョッと目を覚ますと飛び起きてしまった。
「な、いつの間に…!」
「おはよーございます」
「あの子は?」
「カメラちゃん。」
私の目の前にカメラちゃんがきた。動画を再生される。これは、男の子と私。
「え?あの子ブラックだったの?」
「気づかなかったんですか?W」
「似てたけど…。」
この悪魔小さくもなれるのかと呆れた。
「当たり前です。オレちゃん悪魔ですよ?」
出来ないことはないと考えたほうが賢明だ。
「子供には甘いですねー。一緒にお風呂なんてオレちゃんとは入ってくれないでしょう?」
「はずかしい。」
「見慣れてるのに?」
カカカッと嘲笑う。
「それとはまた…違うから。」
「でも…良いものが撮れました。」
普段見れない貴女の…子供のオレちゃんにしか見せなかった裏側。
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「ん〜。」
ペタペタ足音がする。
モモちゃんと遊んでいたらいつの間にか真っ暗になった。
「10分ぐらい?」
ずっと足音がついてきてる。同じ方向にしては長い気がする。
「まぁた変質者…?」
やだなぁ、物騒な世の中よね。
「名無しさん。」
「本当に物騒な奴が出てきた。」
ヌッと背後からブラック登場。
「何をブツブツ言ってるんです?」
「いつから居たの?」
「いつからでしょうね。」
「何してるの?」
「何だと思いますか?」
聞き出す相手を間違えた。ひねてるから喋るわけない。人のあと付け回して。ちょっと怖かったのよね。
「一緒に帰らない?」
「え?」
後ろを見て
「……どうしましょうか。」
カカカッと笑いながら顔に影を落として楽しんでいる。
「…。」
こんなんが旦那なの。けど足音の正体わかったし良かった。
…あれ?
「歩かないの?」
「飛べるんだからわざわざ歩きませんよ。」
バカにしたように笑う。閉め出してやりたい。
「…。」
とりあえず走って帰った。家の中に入る。
「早いじゃないですか!カカカッ、息上がってますよ!」
飛べばいいのにーっとケタケタ笑う。
「長いこと飛んでないと…苦手になっちゃって…」
「魔女のくせに不便ですね。」
「人に見えるんだからしょうがないでしょ」
魔女は悪魔と違って見える。なので細々と人間かのように振る舞って生きてきた。
「ほうきで飛べば町中パニック。面白そうじゃないですか!」
絶対撮影のことしか考えてない。
「…ここまでは来てないよね。」
ドアから顔を出しあたりを見渡す。
「どうかしました?」
「なんか途中からあと付けられてる気がして。気のせいだったみたい。」
「気のせい、ですか。」
マンションの前に人影がうつる。ブラックは怪しい笑みを浮かべる。
「…温まったぁ。」
お風呂から上がり、牛乳を飲む。
「っはぁ、はいカメラちゃんの分。」
コップに入れて渡すとカメラちゃんは大喜び。
「アイスも食べていいからね。」
「じじ〜!!」
さらに大喜び。
「カメラちゃんばかりずるいです。」
ゲームしながら何言ってるんだか。
「オレちゃんも甘やかして下さい。」
「充分甘やかしてるじゃない。これ以上何をすればいいの?」
「こうしてもらいましょう!」
ブラックは名無しの手を掴み、ソファーに座らせると背中を任せるように持たれかかった。名無しがブラックを後ろから抱きしめる。
「しばらくこのままで居て下さい。」
「ブラックこれ好きだよね?」
この体勢。
「柔らかいので落ち着きます。あと心地もいいので。」
「…そう?」
悪い気はしない。
「じっ!」
カメラちゃんがアイス持ってきた。なんて気の利く子なんだろう。
「カメラちゃん有難う!」
カメラちゃん照れてる。かわいい。
「はい、ブラック。」
口の中にアイスを突っ込む。
「有難うございます。」
おとなしく甘えててゲームしてる時はかわいい。
「…。」
そっと頭を撫でる。
「名無しさん?」
「可愛くてつい。」
かわいいって甘やかしたくなる。気持ちが優しくなっちゃうのよね。
「カカカッ!オレちゃんがかわいい?どこかに頭ぶつけちゃいました?」
「ごめん、今の無かったことにして。」
眼科のチラシまで手に持ってる始末。ブラックもかわいいなんて言われたくはないか。魔界のスターだしどちらかというと…。
「かっこいいもんね。撤回する…。」
意識しちゃった。ものすごく照れてるのが自分でもわかる。
「カカカッ!名無しさんのほうがかわいいじゃないですか。」
「ふぇっ!?」
ブラックが私を?初めて言われた。
「うそぉ…。」
「あれ?オレちゃん嘘はつきませんよ。」
貴女には。
「言ってこない、じゃない…。」
「常に思ってる事を口にしてたらキリがないでしょう?」
愛してるも、かわいいも。
「たまに言うからこーんな名無しさんが見れるんです!」
ニタァと笑うブラック。いい声してるし心臓が口から出てきそう。
「じ〜。」
お邪魔ししましたとカメラちゃんが何処かに去っていく。
「か、カメラちゃん!!」
「おや?気を使わせたみたいですね。しばらくは戻ってこないはず…。」
ゲーム機をそっとテーブルに置いた。
「ベッドかソファーか。どちらがいいです?」
「え…。な…。」
目がギラついてる。
「さぁ、早く選んで。」
首筋を舐めながら耳まで舌が這い寄ってくる。
「やぁ…!」
「カカカッ、良い反応ですよ、名無しさん。」
「ベッド…いこ…?」
ここはさすがに無理。
「誘われると益々唆りますね。」
抱えられるとそのままベッドへ。お姫様抱っこなんて普段されないからドキドキしちゃう。
「ぁ…ん…」
何回しても慣れない。
長い夜があけ、朝をむかえていた。
「…ん。」
「おはよーございます」
1人服着てご飯食べてる。
「…今日もう歩けない…。」
昨日のこと思い出して頭から煙がでそう。ものすごく激しかった。悪魔ってああなの?体がだるい。
「ブラックは…。」
「オレちゃんそんなやわじゃないんで!」
ケロッとしてる。めちゃめちゃ元気…。
「それより服着ちゃって下さい。」
「着替えるから出て!」
背中を押して追い出す。
「カカカッ、ちゃんと歩けるじゃないですか。」
「もう!」
部屋から追い出し服を着替える。
「終わりました?」
一応気にかけてるみたい。ずっと近くでパタパタ飛んでる。椅子に座りコーヒーを飲む。
「1人で大丈夫だから。」
「そうですか?」
「じー。」
食パンを持ってくれてるカメラちゃん。食べさせようとしてくれてる。このかわいい優しさにじーんとしちゃう。
「んぐっ、」
「じっ!」
容赦なく口に放り込まれた。美味しいけど痛い。
「あ、有難うカメラちゃん。」
「じじー。」
喜んでる。カメラちゃんはいい子だ。
「そーいえば朝から電気がつかないんですよ。」
「へ?」
テレビをつけてみる。
「あれ?照明も。どーしよ。」
ブレーカーは問題なさそう。
「業者呼ばなきゃね。」
「人間界は不便ですね。オレちゃんがやりましょーか?」
「絶対やめて。」
魔改造とかされそう。とりあえず業者を呼んだ。お昼には来てくれるみたい。
「オレちゃん撮影があるんですけど。」
「私ひとりでやるから。好きに行って。」
「目を離していいのかと。」
「子供じゃないのよ。」
いえ、そうじゃなくて…。
「カカカッ、本当にいーんですか?」
ニタァと不敵に笑うブラックが何を考えてるかわからないけど異常に怖い。
「な、によ…?」
「とりあえず…。そのかっこーで対応するのはいくらオレちゃんでも許しませんよ。」
寛大とでも言いたいのか。カメラちゃんにでさえヤキモチやくのに。ショートパンツにキャミソール、薄めの上着は流石にまずい。
「着替えなきゃ!」
バタバタと着替えに行く。
「無防備ですね~。本当に、困ったものです。」
そんなんだから…。
「あ、そろそろ行きましょーか。」
パターと飛び立って行った。着替え終わるとブラックが居ない。
「さとくんとこ行っちゃったかな。」
お昼までゆっくり過ごそう。
「すみません、電気の件でお電話頂いた者です。」
「はぁい。」
インターフォンも鳴らないからドアをコンコンと業者が叩く。部屋に招き入れ状況を説明。作業に取り掛かって貰った。
「これは、少し時間がかかるかと。」
「構いません。ゆっくりやって下さい。」
ベランダで雑誌を読みながら紅茶を口にする。晴れてて良かった。
「…。」
業者の人がじっとこちらを見ていた。後ろを振り向くとすぐに目線を外し作業に取り掛かっていた。今の視線はなんだったのだろうか。疑問符が浮かぶが特に気にもしなかった。
「終わりました。」
「ありがとうございます。」
「あ…そうだ。」
玄関を出てから業者が振り返る。
「…その服、良く似合ってます。」
「え?」
「失礼します。」
今のなに?
「服?」
なんてないただのワンピース。そもそも業者が褒めてくる意味も分からない。社交辞令なのだろうか。
「なんだったのかな。」
なんか、違和感のある業者だった。電気は元通りになりやっとついた。
「やったー、便利がかえってきたぁ。ご飯作ろ!」
「今日は何作るんです?」
当たり前みたいに居る。いつものことだけど。
「おかえり。早かったね。」
「ただいまです。名無しさんが心配だったので。」
「なにが?」
「色々です。…色々と。」
観葉植物の裏からこっそり出てくるカメラちゃん。
「じー…。」
ニタァと笑みが溢れる。
「カカカッ、楽しみですねぇ。」
「(どうしたんだか。)」
エプロンつけて野菜を切る。出来上がると皆で食卓を囲んだ。
「名無しさん名無しさん。オレちゃんが食べさせてあげます。はい。」
「え?…っ!」
ビーフシチュー口に突っ込まれた。
「カカカッ、美味しいですか?」
「うん…。」
「名無しさんが作ったものは何でも美味しいです。オレちゃんどれも好きですよ。」
「あ、ありがとう。」
素直に褒めてくるブラック。ちょっと照れくさい。
「オレちゃんにはしてくれないんですか?」
「はい、どーぞ。」
食べさせてあげる。パクっと食べてるの可愛い。
「素直なブラックは好き。」
「カカカッ!オレちゃんいつも素直です!」
「どこが…。」
思わず呆れちゃう。けど何だかんだで楽しい。この生活にも慣れて今では凄く幸せ。
「カメラちゃんもあーんして。」
「じー!」
「おや?カメラちゃんにまで。」
カメラちゃんはいいの。悪魔で男の子だけどこんなに可愛いんだから。
「じー!」
喜んでる。癒やされる。
「…そんな事を誰にでもするから、狙われるんですよ。」
「え?どういう事?」
「気づいてないんですか?W」
またバカにしたように笑う。けどいつもとは少し意味が違う。どういう意味だろう。
「…。」
ふと足音のことを思い出す。もしかして、私は誰かに…。
「ごちそうさま。」
見えないものを考えるのは沼にはまる。そっと立ち上がり片付ける。
「お風呂はいる。」
考えているようなどんよりとした雰囲気の名無しをブラックが横目で見届ける。
「少し、怖がらせちゃいましたね。」
「じー!」
「けど、それでいいんです!!」
ゾクゾクする。
「あれ?」
脱衣所にこんなものあったっけ?ペンギン型の雑貨。置いた覚えがない。
「なんだろ?」
手に持ち色々な角度から眺めてみる。重くもなく軽くもない。
「カカカッ、…これは鬼ヤバですねぇ。」
脱衣所で下着姿の名無し。それをパソコンの画面越しに見つめるブラック。
「こんなものまで。やはりあの人は鬼ヤバスターの素質があります。」
お風呂場まで響き渡るブラックの笑い声。何がそんな面白いのか。
「じー。」
ペンギンの雑貨を後ろに向けるとカメラちゃんは脱衣所から出て行った。
「ナイスです、カメラちゃん。」
さすがに映せませんからね。
「あの姿を見て良いのはオレちゃんだけです。」
ハッキングからの妨害。
「次は何をするのか楽しみです。」
「じー!」
ワクワクします。
「…?!」
ペンギンが動いてる。なに?なんか怖いんだけど。もしかしておばけ…。いやいや、そんな非科学的なもの。ぶつくさ言ってる間に着替え終わった。
「温まりました?髪、乾かしましょーか。」
「うん。」
ブラックが髪を乾かしてくれる。ドライヤーの音が部屋に響く。
「終わりました。」
乾いてサラサラになった髪を撫でる。
「ブラック、今日、一緒に寝よ?」
なんかはずかしい。ブラックの胸に顔をうずめる。顔が熱い。
「カカカッ!もしかして盛ってます?」
「ちがぁう!!盛ってない!」
「残念、オレちゃん毎日でも」
「むりだからぁ!」
悪魔って底なしなのよね。きりがない。
「ひ、ひとり、だと怖くて…。」
毎日は一緒に寝ていない。気分で一緒だったり別々だったり。
「魔女のくせに何言ってるんですかW」
「関係ないでしょ今…!」
怖いものは怖いんだもん。
「怖いと甘えてくる。これは…」
いい効果ですね。
「…。」
ベッドに入った。ブラックあったかい。引っ付いて寝るの結構好きかも。
「おやすみなさい、名無しさん。」
「おやすみなさい。」
おでこにキスされた。いつも夜更かしだけど、ワガママ聞いてくれて一緒に寝てくれて、なんやかんやでブラックは優しい。この日、安心して寝た。
「え?海外?」
「撮影に行こうと思って。あちらの方はリアクションがオーバーだから面白いんです!」
「そうなの。気をつけてね。」
「あれ?もしかして寂しいんですか?」
「…ちょっと。」
ニヤァと笑う。やはり名無しさんはかわいいです。段々と昨日の出来事から素直になってきましたね。
「すぐ戻ります。」
少し長めのキスをする。
「はずかしいから!」
「そろそろ慣れて下さい。それなりにしてるでしょう。」
「むりぃ!」
照れて逃げちゃいました。相変わらずですね。でも…いい方向性です。
「少し怖い思いをすれば、より深まります。」
空を飛びながら良からぬ事を考える。人間は行動が遅い。待ちくたびれそうになるが我慢だ。
「ブラックも居ないし、出掛けよ。」
服でも買いに行こ。
久しぶりに一人を堪能した。モモちゃんとも夕食食べておしゃべりして気付けば21時。久しぶりにはしゃいだ。
「ただいま!」
誰も居ないんだけど。なんか、居て当たり前になっちゃったから寂しく感じる…。
ベッドの下で動く目に気が付かない。
「着てみようかな。」
ニットのワンピースとフェミニンのワンピース。どっち着てみよう。お店で試着してないんだよね。
フェミニンのワンピースに着替える。女の子って感じ。
「かわいいかな?」
「かわいいですよ…。」
…………………誰?
後ろから肩をつかまれた。鏡にうつるそいつの顔は…一度だけ見たことある。
「きゃあ!」
あの時の業者だ。何故部屋の中に。どうやって入った?どうしてここに?心臓がバクバクする。冷や汗が流れる。
「ブラック…!」
壁際に追い込まれへたり込む。躙り寄ってくる変質者との間に勢いよく回転した鎌が舞い込み床にぶっ刺さる。
「…!?」
「こんばんわ〜。」
窓際に片足立てて座るブラック。
「まさかと思ってすっ飛んで帰って来ちゃいました。」
カカカッと笑いチェーンで相手を拘束。
「名無しさんに何するつもりですかァ?」
「離せ!」
「まだです。インタビューが終わってません。」
喉にスッと鎌をあてがいニタァと笑う。男はビクリとして固まった。
「…!」
「ずっと見てましたよ。証拠は全てここにあります。さぁ教えて下さい。」
キミの目的を。
「…ただのファンだ。偶々見かけてあとを追った。」
あのとき、気のせいではなかった。
「ほんの出来心だ。いちファンとして接したかっただけなんだ。」
「おやぁ?業者として入り込んでこーんなものまで設置して…これも出来心ですかァ?」
じゃらぁっと出されたのは盗聴器、監視カメラ複数。全てショートしている。
「なっ、何で見つか…っ」
「必要ないので潰しました。予めハッキングもしているのでデータはオレちゃんのパソコンにのみ残してあります。」
パソコンの画面を見せる。
「…邪魔ばかりしやがって!!何なんだてめぇは!!この悪魔!!!」
「悪魔ですが何か?」
決め台詞と共に攻撃が決まる。倒れきった男は動かなくなっていた。
「目を覚ました時には名無しさんの事も分からないはずです。」
興味も持ちません。
「ファンが減るのはヨーチューバーとして悲しいのですが…こんな方は願い下げです。」
男を見下ろす視線には殺気と軽蔑の意味を込め見つめる。
「立てます?名無しさん。」
「…。」
ブラックがいる。涙が止まらない。何だろうこの安心感は。悪魔に安心を感じるなんて、私はどうかしちゃったのかな。
「怖かった時は泣いちゃっても良いんですよ。」
「ブラック…っ、」
胸の中に顔を埋め、服を掴んで泣いてしまった。ぐちゃぐちゃな顔をしているだろう。
「(人間くさい魔女さんですね。)」
でもそんな貴女が愛おしい。
「オレちゃんは名無しさんを必ず守ります。」
怖がらなくていい。オレちゃんを頼って下さい。
「鼻出てますよ」
「ん〜!!」
ハンカチを当てられる。さとくんのガチ泣きはいじるけど、私のはいじらない。
「ちゃんと泣けましたね。」
頭を撫でてあやしてくれる。
「この人、どうしよ。」
ここで目を覚まされても困る。
「その辺に放っておきましょう。死にはしないので。」
「ありがとう…。」
「嫁ちゃんを助けるのは当たり前です。」
ピューッと男をどこかに連れてった。
「…海とかに捨ててないでしょうね。」
「してませんよW」
帰ってきた頃にはいつも通り。
「おや?これは。」
一段落すると温かなフォンダンショコラが出てきた。
「今日のお礼。美味しくできたと思う。」
照れたように物を言う貴女はどうしてこんなにかわいいんでしょう。
「カカカッ、律儀ですね。」
パクっと食べてくれる。
「どう?」
「おいしいですよ。」
てか、
「オレちゃんが名無しさんの料理を不味いなんて言うわけないです。」
「…。」
あ、逃げた。
「じー!」
カメラちゃんが追いかける。
「カメラちゃん、私…ブラックのこと…凄く好き…どうしよ…。」
キッチンに隠れてコソコソする。カメラちゃんは面白おかしく笑ってる。
「オレちゃんここに居るんですけど。」
丸聞こえ。紅茶を飲む。
真夜中。
「じー。」
玄関先に向かう。鍵をそっと開ける。
「カメラちゃん。」
カメラちゃんが振り返る。
「もう鍵は“開けておかなくて”いいんですよ。」
「…じー。」
不敵な笑みの中、そっと鍵を閉じた。
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9話
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ブラックがいつものように出て行って居ない。
夕方、ランニングの帰り道の公園でさとくんを見かけた。
「名無しお姉ちゃん!」
「さとくん!みんなと遊んでたの?」
「うん、名無しお姉ちゃんは?」
「ランニング。気分爽快になるんだぁ。」
「オレ走るの嫌い。遅いんだもん」
かわいい。隣に小さい子がいる。さとくんより少し年下かな?誰かに似ている気がする。
「ぼく、お名前は?」
「…!」
さとくんの背後に隠れた。人見知り?悪いことしちゃったかな。けど…。
「かわいい〜!!!」
萌える。なんてかわいいんだろう。
「名無しお姉ちゃん、この子帰るとこないから預かってよ!じゃあっ!」
えげつない情報と共にさとくんは帰って行った。
「え?どういうこと?」
もう夕方。日も落ちる。とりあえず見捨てれないので。
「私のおうち、来る?」
「…。」
こくんと頷いてる。中々警戒されてる。ゆっくりと一緒に帰った。
「ただいまぁ。」
「ただいまです。」
あまりうまく回っていない滑舌がこれまたかわいい。子供相手だとつい緩んで甘くなる。
「お名前…。」
まだ言いたくないかな?
「ぼく、泥だらけね。一緒にお風呂はいろっか。」
「…なにいってるんです?」
「嫌?ひとりじゃ洗えないでしょ?」
脱衣所に連れていき服を脱がせる。
「じぶんでやります!」
「はいはい。」
子供ができたらこんな感じかな?なんか微笑ましい。お風呂場に入ると頭と体を洗ってあげる。
「えらいぞー。」
「…ふんっ!」
ドヤ顔で湯船に使ってる。ちょっとブラックに似ててかわいい。バスタオルをとり次は自分の番。洗い終わると一緒に浸かった。
「ぼく、この温度平気なの?」
かなり熱いんじゃ…。
「おれちゃん、これぐらいがいいです」
「そう?滑っちゃ危ないからこっちおいで。」
軽いしちっちゃいから浮いてる。そっと引き寄せて膝に座らせる。
「……。」
「どうしたの?」
「子供にはいつもこんなにやさしいんですか?」
どういう事かな。
「優しいかな?私。」
「…。」
ペチン!とおっぱい叩かれた。
「何で!?」
浮いてるの気になるの?大きい方だとは思うけど。子供って分からない。
「あれ?」
お風呂から上がり着替えようとしたら、泥だらけの服が綺麗になっていた。
「どうなってるの?」
「かかかっ!」
それに着替えるとバタバタとリビングに走っていった。
「こーらぁ、髪乾かしてないでしょー。」
「アイスたべます!」
「ご飯が先よ!」
お母さんみたい。アイス食べながらドライヤーをかけてもらう男の子。
「よくアイスあるとこ分かったわね…?」
「うちの冷蔵庫なので。」
うちと一緒って意味かな?とりあえずご飯にしよう。
「おー。」
お子様ランチにしてみた。何が好きかわからないし無難かな。
「いただきます」
「ちゃんと言えた。偉いね。」
「それぐらいいえます」
もぐもぐ。そういえば…。
「まだ帰ってこないのかな。」
「はい?」
「旦那がいるの。いつもならひょっこり帰って来るんだけど今日は遅いみたい。」
「さみしいですか?」
「居ないとね。ぼく食べ方きれいね。」
よしよしと頭を撫でる。
「お姉さんはだんなさんすきですか?」
「え?!…うん、好きよ。幸せ。」
「…。どんなとこがすきですか?」
「どんな、ヨーチューバーなとこも不敵なとこも優しいとこも…全部、かな。」
「かかかっ、いやなとこは?」
「…と、特には。」
この子、やけにこの話題に食いつき良いわね。
「ごちそーさまです」
「有難う。ゲームしてていいよ。」
食器を片付ける。あの子はソファーでフォントナイトしてる。最近の子って感じ。
「ウィンロワしてる、上手ね。」
「これぐらいならよゆーです」
ちっちゃいブラックみたい。
「もうおやすみの時間だよ?」
「オレちゃんまだねないです!」
「寝るんです〜。」
無理矢理ベッドに連れて行く。
「夜更かしだめ、ブラックみたいになっちゃう。」
「どーゆーいみですか。」
ベッドに寝かせると眠るようにお腹に手を添える。
「ねむくないです」
「眠るの。明日起きれなくなるよ?」
「だいじょーぶです」
窓をふいに眺める。
「きになりますか?」
「え?まぁ。心配なだけ。」
必要無いと思うけど。
「おやすみです」
「おやすみなさい。」
なんか急に素直になった。
「早く、会いたいな…。」
この子、よく見たらブラックに似てる。拙いけど喋り方とか服装とか。真似してるのかな?
「…かわいい。」
「かわいくないです。」
あ、起きてた。ちっちゃくても男の子だなぁ。かわいい。
「…。」
すぅと眠りにつく。翌日、目を覚ますと男の子ではなくブラックが添い寝していた。ギョッと目を覚ますと飛び起きてしまった。
「な、いつの間に…!」
「おはよーございます」
「あの子は?」
「カメラちゃん。」
私の目の前にカメラちゃんがきた。動画を再生される。これは、男の子と私。
「え?あの子ブラックだったの?」
「気づかなかったんですか?W」
「似てたけど…。」
この悪魔小さくもなれるのかと呆れた。
「当たり前です。オレちゃん悪魔ですよ?」
出来ないことはないと考えたほうが賢明だ。
「子供には甘いですねー。一緒にお風呂なんてオレちゃんとは入ってくれないでしょう?」
「はずかしい。」
「見慣れてるのに?」
カカカッと嘲笑う。
「それとはまた…違うから。」
「でも…良いものが撮れました。」
普段見れない貴女の…子供のオレちゃんにしか見せなかった裏側。