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2話。
______________________________________________
ある日、私を何千年とかけて探している悪魔に見つかり、歌えることと引き換えに契約をした。
ただ、問題が。契約書は2部あり一部には歌のことと2部には今後の関わり方とまさか婚姻届まで挟んであったとは。
「交際0日にて結婚とか。芸能人みたい。」
「話題性は抜群ですよ。」
道徳の本でも投げつけてやろうか。
「あり得ない…。」
たちの悪い悪魔だ。
「動画のために結婚したっぽいよね。」
それがなおムカつく。
「悪魔って凄いわ、目的優先なんだから。」
私ならあり得ない。
「婚姻届にディールしちゃいましたからね。なにを言われても気になりません!」
元々なにを言われても気にしないだろう。
「はぁ〜、婚姻届があると言うことは。離婚届もある!!?」
ボッと燃やす。ハラハラと燃えカスがおちてゆく。
は?
「あ、魔界の離婚届、いまので消滅しました。」
「何やってんだ。」
ソファーに座りなおし、悪魔を睨むように見つめた。
「不思議だわ、どうして私なのよ」
見るからに自由気ままが好きそうで縛るものなんて必要としてないでしょうに。
「…カカカッ!秘密です。」
「夫婦なのに?」
「夫婦であっても秘密ぐらいあるものです。」
まだ、言うべきタイミングではありません
本当になに考えてるのか。
「私はあなたを縛る気はないわ、そもそも好きかもわからないし。だから、ブラックの好きにやって。」
へー。
「オレちゃんは好きですよ?名無しさんのこと。」
「一目惚れされる筋合いはない。」
いいえ、充分ありますよ。
「冷たいですね、オレちゃん泣いちゃいますよ?」
「わざわざそれ作ったの?」
目元に涙のプラカードまで当ててる。
「あ、名無しさんの部屋も用意していますから、いつでも来て下さいね。」
「いつの間に。」
「あと一室頂きました。」
ぺかーっと輝かしいほどの機材山程。編集部屋に早変わり。あげた覚えはない。
「勝手なことを…。」
いつの間にか居ない。やっとブラックが帰ったかな。
「疲れた…」
悪魔ってなんであんな元気なんだろ。意味わかんない。
「人間界に部屋持ってるって…そういえば私教えてない。」
え?ブラックってどうやって私の家まで来たの。
「悪魔って便利な能力よねぇ。」
お風呂はいろ。
「はーっ。」
湯船って気持ちいいなぁ、なんかブラックとカメラちゃんいるけど。
お風呂あがりに牛乳をぐびーっと飲む。ブラックやカメラちゃんもいるけど。
バコッと壁を殴る。外した。
「なんで居るの。」
帰ったと思ったのに。
「え?夫婦なんですから居て当然じゃありません?」
指鳴らしただけで壁なおした。便利なやつ。
「当たり前みたいに人の裸みてんじゃない!!」
「目がついてるんですから嫌でも目に入ります。それにお風呂は服着たまま入らないでしょう?」
「(めちゃめちゃ屁理屈!!!!)」
「付き合いきれない、さとくんとこ戻りなさいよ。」
「何故です?さとくん所はオレちゃんの家ではありませんよ。」
オレちゃん家〜。と言わんばかりにソファーでくつろいでる。
「(馴染みまくってる。)」
…ご飯作ろう。
「じ〜」
「ん?カメラちゃんどうしたの?」
「じーじー!」
「見に来てくれたの?もう少しで出来るからね。」
カメラちゃんはかわいい。
パシャッ。今カメラの音が。気のせいかな。
「はい。」
「おや、オレちゃんの分まで?」
テーブルにオムライスを置く。
「一人も二人もかわらないから。それに」
悪魔との契約だ。
「無効なんてあり得ないし潔く諦めないと疲れちゃうから。」
「そんな疲れた顔で言わなくても。」
いただきまぁすとマイペースに食べてる。
「カメラちゃんの分まで。有難うございます。」
「因みに契約っていつまでなの?」
「そうですね。」
お互いが消えるまで。
「ですかね。」
長期戦っ!
「私、寿命ないのよ?!」
「オレちゃんもです。なので一生を共に出来ますね」
「…。」
スプーン落としちゃった。
「この悪魔!」
「悪魔ですが何か?」
「じーじー!」
契約書は読んだけど、意味が分からない部分何箇所かあったよね、そういう意味だったんだわ。だから聞いても濁したのね。
「美味しいですね、カメラちゃん」
「じーじー!」
「(呑気…!)」
一生か。身が持つのかな。飽きられたら、終るのかしら?
「何千年と追いかけたんです。終わるだなんてあり得ません。」
勿論、飽きるなんて事も…。
「え?なんか言った?」
「いいえ♪」
チョコアイスぱくぱく食べてる。勝手に出したな。
「(いつの間に。)」
洗い物。洗濯。軽めの掃除を順調にこなし、家事を終わらせてゆく。
「新妻って良いですね。」
「めちゃめちゃ嬉しそうね。」
そういえば。
「名無しさんの魔界での自宅は?」
「ああ、私、魔界に家ないのよ。滅ぼしちゃったし行きにくくて。だからずっと人間界。」
色んな時代を経験したなぁ。
「なるほど。だから痕跡が辿れなかったんですね。」
「作詞家してるし、それなりの収益もあるから人間界での生活は充分してるの。」
流石、魔女。人を引き付けさせる能力は軍を抜いていますね。
「じゃあ、オレちゃんのおかげでいつでも魔界に帰れますね!」
「そう、ね。そこは、有難う。」
気に入った暮らしではあるけど。魔界にはもう二度と帰れないと思っていたから。歌だってそう、なんだかんだでブラックのおかげよね。
「初めて照れましたね。カメラちゃん撮りました?」
「じっ!」
「撮らないで。」
掴みどころがない人。いや、悪魔か。
「そろそろ寝ましょ。」
「オレちゃんはもう少し編集してから寝ます。」
「好きにして。おやすみ。」
「じ〜!」
カメラちゃんが寝室まで追いかけてきた。
「一緒に寝る?」
「じ〜?」
「いいよ、カメラちゃんのしたいように任せるね。」
そっと眠る名無し。
「じ〜。」
寝顔を撮影。しばらくしてブラックの部屋に戻る。
「ナイスです、カメラちゃん。……キミはいつ見ても美しいですね。」
もしかして忘れているかもしれませんね、いや、はたまた気がついていないだけ…。
「カカカッ、失う可能性は潰しました。つぎはどう料理しましょうか。」
誰にも渡さない。悪魔は執着深いんです。
「愛しくて堪らないとはこのような事でしょうか?カカカッ、オレちゃんにこんな感情があるなんて。名無しさん、貴女は鬼ヤバです!」
「うぅ…。」
寒気する。
朝。あの悪魔が居ない。もしかしてあれは夢。
「ブラック!?居ないわよね?!」
「居ますよ、ちゃんと。」
おはようございますと当たり前のように居た。
「(夢じゃないのね…。)」
「はい。どうぞ。」
朝ごはんだ。ちゃんとしてる。
「昨日夕食を作ってくれたので、ほんのお礼です。」
「有難う。」
コーヒーだ。
「苦っ!」
「おや?ブラックは苦手ですか?」
「大丈夫。せっかく淹れてくれたもの。」
意外と子供舌なんですね。
「砂糖とミルクありますよ?」
「ミルク…。」
砂糖は入れない派ですね。
「覚えました!」
「(…なにを?)」
パクパクと食べていく。
「美味しい。」
「IHを使えば簡単です」
「魔界の使ってもこうはならないから。」
ヨーチューバーとか言ってたからウーバー三昧かと思いきや
「ちゃんとしてる。偉いね。」
じーっ。カメラちゃん近いよ。
「今のシーン良いですね!流石ですカメラちゃん!」
カメラちゃんが照れてる。
「まさか本当にヨーチューブに載せないわよね?」
「さぁ、どうでしょう」
載せませんよ。オレちゃん専用です。
「名無しさん、歌ってみたを撮りませんか?ヨーチューバーで収益化すれば歌に専念できますよ。」
「え?」
また歌えるのよね。
「うん、よろしく。」
「バズる事間違いなしです!!」
ゾクゾクしますね。貴女の歌声、再生数回数。オレちゃん感動です。
「ああ、なんて。美しいんでしょう。」
こんな素晴らしいコンテンツがあるのか
「どちらの回線にも投稿します。」
めちゃめちゃご機嫌だわ。
「私の歌をあんなにも」
この人、私の歌が聞きたくて何千年も探してくれていたのよね。悪魔だけど、根は優しいし。
「…。」
「これで完了です!やはり数字の取れる動画は回りが早いですね!」
コトンとデスクにココアの入ったマグカップを置く。
「名無しさん?」
「撮ってくれたから。差し入れ。」
いつまでもツンケンしてちゃ可哀想よね。
「びっくりすることの方が多いけど、お互い理解していけたら、嬉しい…かな。」
「これはまさか、デレというやつですね!」
「で、デレ?」
ブラックが名無しをぎゅうっと抱きしめる。
「な、なななに」
「夫婦のコミニュケーションです。何か?」
「夫婦…!!?!」
何故この人はこんなにも私を嫁として認識しているのか。私は初めて会ったような気しかしないのに。
「…落ち着きます。」
柔らかい。いい匂いがします。
「…。」
案外かわいい所もあるのね。
「さて、編集に戻ります!」
昨日の寝顔の動画を再生している。
………は?
「なにそれ。」
「何とは?」
「いつ撮ったの?」
「昨日カメラちゃんが撮影に成功しました。良いものが撮れましたね。」
「この動画どうする気?!」
「オレちゃん専用のプライベート動画です。公開はしません。」
そういう問題じゃない。
「倫理観の欠片もない…」
「悪魔にそんなもの求めてるんですか?W」
求める相手間違えた。
______________________________________________
3話。
______________________________________________
「なにこれ。」
内見ツアーと書いている用紙。ああ、魔界の家か。そういえばまだ行ったことないのよね。
「…せっかく用意したみたいだし行こうかな。」
ヨーチューバーの暮らしとはいかなるものか。検討もつかないかな。
「おかえりなさい、名無しさん。ようこそ我が家へ!」
魔界の方の部屋に入り込むとクラッカーを待ち構えて待ってた悪魔が居た。
「朝から居ないと思ったらこんな所に居たの?」
「編集しながらスタンバってました。」
「器用な事して…。」
「名無しお姉ちゃん!ルームツアー動画撮るんだ!」
さとくんまで。
「一度こすったネタですが増築したので新たな部屋も追加。何より名無しさん登場で再生回数鬼ヤバ確定です!」
「(ヨーチューバーって感じだ。)」
歌ってみたしかあげてない私には未知数な企画。
「さぁさぁ、好きに見ちゃって下さい!」
「開けるよ!」
さとくんがドアを開けるとそこには新調したであろうリビングが。黒が主流だがどこかシックで美しい家具が並んでいた。
「前と全然違う!」
「リホーム済みです。」
「へ〜。」
本当に結婚したんだ。
「あ、ペアのマグカップ、すんごいかわいい」
「記念に揃えました!」
「ごめん、そのセンスは理解できない。」
名無しお姉ちゃん本当に魔女なんだ。黒いものとかああいう髑髏のマグカップ好きだったんだ。
「ドンピシャだわ」
「オレちゃん達、気が合いますね。」
「それはない。」
「手厳しい奥さんですね」
「本当に夫婦なの?ふたりとも」
「夫婦です。新婚ですよ!」
なりゆきなんだけどなぁ。
「次の部屋にいきましょう!」
私のへや?
あらかわいい。
「…!私の好きな物ばかり」
ゴシックなデザイン。なんて私好みの部屋。このインテリアは落ち着く。
「名無しお姉ちゃんの趣味これ?!」
「カカカッ!悪魔的にはハイセンスです!」
「人間界では人間に馴染むものばかり買い揃えちゃったから。」
私の理想。
「至高だわ。有難うブラック。」
おや、なんて
「どういたしまして。」
綺麗な笑顔なんでしょうか。
貴女がそんな風に笑ってくれるなんて。
「俺には分からない趣味だぁ」
「幸せ。」
さて次は
「レコーディングスタジオです!」
「うそ。」
「うそじゃないです。目の前にあるじゃないですか。」
「私の為に。」
歌えるようになって、スタジオまで用意してくれて。
「こんなに…」
尽くしてもらっていいのか。
「(ちゃらけているけど、もしかして本当に私のことが好きなの?)」
ずっと疑問だった。
「好きですが何か問題でも?」
「…。声、だしてた?」
「そう思ってるような気がしただけですよ。」
「心読めるの?悪魔のくせに。」
「悪魔だから、ですよ?」
「夫婦喧嘩してないで次いこうよ」
やっとおわった。
「動画撮影ってこんな長いの?」
「本格的に撮ればもっと長くなるよ!」
「さとくん凄いね、私向いてないわぁ。」
夜中の事。1人パソコンの前に座るブラック。
「(この表情は数字になる。が、オレちゃんだけの物にしましょう。)」
あの、初めて見せた笑顔。
「…独り占めします。」
このシーンだけ。
昔となにも変わらないですね、貴女は。
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4話。
______________________________________________
「…。」
私の憧れ。
ギュッと雑誌を握りしめる市井ひめ。
ところかわり、名無しの自宅。
「は?私がさとくんのお迎え?」
どうしてまた。
「実は最近不審者が出たみたいで学校から言われたんだ。けどお父さんもお母さんも仕事で無理なんだって。だから…。」
「不審者?」
ブラックの事では?
「あ、オレちゃんを疑ってますね?」
「お願い名無しお姉ちゃん。」
さとくん、かわいい。
「良いよ、私で良ければ。」
「有難う!!」
と、まぁ安易に約束したけど。
下校時刻。ママがいっぱい。
「(…)」
ママさんの中で浮いている私。
「(居た堪れない…!)」
「カカカッ!!名無しさん馴染めず浮いてますね!お母さんって歳でもないですし安請け合いした事後悔してるのでは?カメラちゃん撮って撮って!」
「撮るなあ!」
ベラベラやかましい悪魔め。
「ブラックがついてるなら私いらないんじゃない?」
「今更気がついたんですか?遅すぎません?」
性格わる〜!
「名無しお姉ちゃ〜ん!」
「さとくん」
私の癒しが走ってきた。
「おかえり。帰ったらおやつ食べよ。」
「おやつ!?なになにー?」
「ドーナツ。好き?」
「うん!早く帰ろうー!」
さとくん羨ましい。
「ずるいですね。」
「じーっ」
「あっ、」
市井ちゃんだ。
「あ、さとくん!…と、お姉さん?」
「はじめまして、さとくんの友達よ。かわいい子ね。」
「かわいいだなんて…。え?貴女。」
市井ちゃんの目の色がかわった。
「名無しさん?」
「?」
「お姉ちゃん市井ちゃんのこと知ってるの?」
「わ、わたし!市井ひめ!貴女のファンです!」
びっくりぎょーてん。
という訳で名無しの家にきた。
「(市井ちゃんがまさか来るなんて!!!わぁ、緊張する!)」
「さとくん見向きもされてませんよ?」
「えっ!?」
「あっちに夢中です。」
がーん。わかっていたけど。
「はぁ~、名無しさん♡」
なんって素敵。わたしの憧れ。
「随分と熱心ですね。」
「当たり前よ!名無しさんは私のかわいいの教科書!理想そのものなんだから!!」
「なんです?それ。」
ランドセルから雑誌が出てきた。
「これ!かわいいから綺麗まで幅広くてどれもひめの好みなの!歌もうまくてマルチで私の理想の大人!」
ま、ませてるなぁ今の子って。
「私も名無しさんみたいになりたい。」
「有難う。市井ちゃんには市井ちゃんの
良さがあるじゃない。」
「確かに私、かわいいけど…」
この子クセ強ぉっ。
「でも駄目なんです!私の理想は名無しさんみたいになることだからまだまだ足りない!」
「子供といえど人間ねぇ、欲深い。」
わしゃわしゃとひめの頭を撫でる。
「おやつにしましょ」
「あ、名無しさん〜!」
「いいなぁ、名無しお姉ちゃん。市井ちゃんに好かれまくって。」
「カカカッ、さとくんとは真逆ですね」
「やかましい!」
なぁんか表面だけすくい上げた様な所で好かれてるのよね。
「イメージ壊さないようにしないと。」
「オレちゃんはありのままの名無しさんが好きですよ?」
「ちびっこ居るのに良く言えるわね」
「?ブラックって名無しさんのこと好きなの?」
「え?夫婦だよ。」
さとくんがすかさず答えた。
「夫婦!?」
驚くひめ。
「夫婦です!」
嬉しそうなブラック。
「(え、名無しさんの好みって、ブラック?もっと俳優とかモデルとか居るじゃない!イメージ違いすぎ!あり得ない!)」
ひめはスカートを握りしめた。
「名無しさん、嘘だよね!ブラックに騙されてない?!」
「なにを?」
「無理矢理に契約とかさせられて詐欺にあったとしか思えない!!だって名無しさんのイメージじゃないもん!名無しさんはもっとイケメン俳優とかのほうが似合うもん!」
「…。」
この子の理想じゃないかしら。
「カカカッ!好き勝手言うのは構いませんが…押し付けがましいのはよくありませんねぇ、オレちゃんの邪魔は誰であってもさせませんよ。」
びくっと肩があがる。市井ちゃんブラックの表情に怖がってる。
名無しがぱこっとブラックの口にドーナツを突っ込む。
「…。」
かじかじ。
「美味しい?」
「はい、オレちゃんの好きなチョコ味です。」
「市井ちゃん。理想と現実は違うわ。…それに。」
「?」
「私はこの生活、悪くないと思ってるの。」
もぐもぐごくんっ。
「オレちゃん感動しました!大きな進歩じゃないですか!」
「うるさい。」
2個目のドーナツを突っ込む。
「名無しさん…。」
ブラックなんかと何で。…理想と現実が違うってどーゆーこと?
「わ、私帰る!」
「あ、市井ちゃん!!待って!」
市井ちゃん追いかけてさとくんも出て行っちゃった。
「女の子っておませさんよね。」
「市井ちゃんの場合は自分の理想だけなので随分歪んでいます。鬼ヤバですねぇ。」
「イケメン俳優と付き合おうが結婚しようが」
幸せになれない時もあるのに。
「難しい子だこと。」
とりあえず危ないから送ろうかな。追いかけよう。
「…。」
靴をはき、外に出る。走って出ていったのね。もう見えない。
それを考えると私って幸せなのかな。
「測れない話って難しい〜。」
あの子にもいつかわかる時が来るかな。
一方その頃。窮地の市井ちゃんとさとくん。
「こっちだ、こっちだよ。」
大きくて、怪物みたいなものが2人に躙り寄っていた。
「あ、ど、どうしよ…」
「こっち来ないでよ…。」
「先々帰っちゃ駄目でしょ。ふたりとも。」
あれ?ワンパン?いつの間にか怪物みたいなの横に飛んでいった。
「不審者が居るの忘れたの?一緒に帰ろう。」
「名無しさん…。」
「名無しお姉ちゃん!」
さとくんわんわん泣いちゃって。
「ガチ泣きじゃないの〜。可哀想に。」
「〜ッ!!」
市井ちゃんの目にいっぱい涙が溜まってる。
「おいで、市井ちゃん。」
わたし、名無しさんに嫌なこと言ったのに
勝手なこと
「…。」
笑ってる。さっきの事、気に留めてないの?
あ、そっか…この人………“大人”なんだ。
「ごめんなさい!」
名無しの胸に飛び込む市井ちゃんはませたただの小学生。
「素直な子、大好きよ。」
わたしはわたしを押し付けちゃったのかな。
「…!!」
あ、さっきの怪物みたいなのだ。殺気だ。やばい、仕留めそこねた。
振り返ると一刀両断されていた。
「カカカッ!詰めが甘いとこーゆー事になるんですね。」
怪物の屍にのってる悪魔が今日はやけに頼もしい。
「ですが、いい動画が撮れました。変質者は魔物、間一髪救い出してみた!追いかけてきたかいがありましたね、これはバズります!」
「…。」
こいつ、動画のために?
「名無しお姉ちゃん、顔怖いよ…。」
禍々しい表現でブラックを見つめる。
「ブラック最っ低ー。」
ジト目で市井ちゃんが言う。
「最低?結果的には助かったじゃないですか。」
こういう奴だ。
「助かったわ。有難う。」
少しでも私の為なんて期待したのが馬鹿らしい。
「お嫁さんを助ける。当然の事ですよ。」
「…。」
思わず目をパチクリした。
「怪我が無くて良かったです。貴女はオレちゃんの“全て”なので。」
「つまりそれは、私のため?」
「はい、でないと追いかけたりしません。」
「…。」
…この人、本当に私のこと
「少し見直した。」
好きなのかもしれない。
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ある日、私を何千年とかけて探している悪魔に見つかり、歌えることと引き換えに契約をした。
ただ、問題が。契約書は2部あり一部には歌のことと2部には今後の関わり方とまさか婚姻届まで挟んであったとは。
「交際0日にて結婚とか。芸能人みたい。」
「話題性は抜群ですよ。」
道徳の本でも投げつけてやろうか。
「あり得ない…。」
たちの悪い悪魔だ。
「動画のために結婚したっぽいよね。」
それがなおムカつく。
「悪魔って凄いわ、目的優先なんだから。」
私ならあり得ない。
「婚姻届にディールしちゃいましたからね。なにを言われても気になりません!」
元々なにを言われても気にしないだろう。
「はぁ〜、婚姻届があると言うことは。離婚届もある!!?」
ボッと燃やす。ハラハラと燃えカスがおちてゆく。
は?
「あ、魔界の離婚届、いまので消滅しました。」
「何やってんだ。」
ソファーに座りなおし、悪魔を睨むように見つめた。
「不思議だわ、どうして私なのよ」
見るからに自由気ままが好きそうで縛るものなんて必要としてないでしょうに。
「…カカカッ!秘密です。」
「夫婦なのに?」
「夫婦であっても秘密ぐらいあるものです。」
まだ、言うべきタイミングではありません
本当になに考えてるのか。
「私はあなたを縛る気はないわ、そもそも好きかもわからないし。だから、ブラックの好きにやって。」
へー。
「オレちゃんは好きですよ?名無しさんのこと。」
「一目惚れされる筋合いはない。」
いいえ、充分ありますよ。
「冷たいですね、オレちゃん泣いちゃいますよ?」
「わざわざそれ作ったの?」
目元に涙のプラカードまで当ててる。
「あ、名無しさんの部屋も用意していますから、いつでも来て下さいね。」
「いつの間に。」
「あと一室頂きました。」
ぺかーっと輝かしいほどの機材山程。編集部屋に早変わり。あげた覚えはない。
「勝手なことを…。」
いつの間にか居ない。やっとブラックが帰ったかな。
「疲れた…」
悪魔ってなんであんな元気なんだろ。意味わかんない。
「人間界に部屋持ってるって…そういえば私教えてない。」
え?ブラックってどうやって私の家まで来たの。
「悪魔って便利な能力よねぇ。」
お風呂はいろ。
「はーっ。」
湯船って気持ちいいなぁ、なんかブラックとカメラちゃんいるけど。
お風呂あがりに牛乳をぐびーっと飲む。ブラックやカメラちゃんもいるけど。
バコッと壁を殴る。外した。
「なんで居るの。」
帰ったと思ったのに。
「え?夫婦なんですから居て当然じゃありません?」
指鳴らしただけで壁なおした。便利なやつ。
「当たり前みたいに人の裸みてんじゃない!!」
「目がついてるんですから嫌でも目に入ります。それにお風呂は服着たまま入らないでしょう?」
「(めちゃめちゃ屁理屈!!!!)」
「付き合いきれない、さとくんとこ戻りなさいよ。」
「何故です?さとくん所はオレちゃんの家ではありませんよ。」
オレちゃん家〜。と言わんばかりにソファーでくつろいでる。
「(馴染みまくってる。)」
…ご飯作ろう。
「じ〜」
「ん?カメラちゃんどうしたの?」
「じーじー!」
「見に来てくれたの?もう少しで出来るからね。」
カメラちゃんはかわいい。
パシャッ。今カメラの音が。気のせいかな。
「はい。」
「おや、オレちゃんの分まで?」
テーブルにオムライスを置く。
「一人も二人もかわらないから。それに」
悪魔との契約だ。
「無効なんてあり得ないし潔く諦めないと疲れちゃうから。」
「そんな疲れた顔で言わなくても。」
いただきまぁすとマイペースに食べてる。
「カメラちゃんの分まで。有難うございます。」
「因みに契約っていつまでなの?」
「そうですね。」
お互いが消えるまで。
「ですかね。」
長期戦っ!
「私、寿命ないのよ?!」
「オレちゃんもです。なので一生を共に出来ますね」
「…。」
スプーン落としちゃった。
「この悪魔!」
「悪魔ですが何か?」
「じーじー!」
契約書は読んだけど、意味が分からない部分何箇所かあったよね、そういう意味だったんだわ。だから聞いても濁したのね。
「美味しいですね、カメラちゃん」
「じーじー!」
「(呑気…!)」
一生か。身が持つのかな。飽きられたら、終るのかしら?
「何千年と追いかけたんです。終わるだなんてあり得ません。」
勿論、飽きるなんて事も…。
「え?なんか言った?」
「いいえ♪」
チョコアイスぱくぱく食べてる。勝手に出したな。
「(いつの間に。)」
洗い物。洗濯。軽めの掃除を順調にこなし、家事を終わらせてゆく。
「新妻って良いですね。」
「めちゃめちゃ嬉しそうね。」
そういえば。
「名無しさんの魔界での自宅は?」
「ああ、私、魔界に家ないのよ。滅ぼしちゃったし行きにくくて。だからずっと人間界。」
色んな時代を経験したなぁ。
「なるほど。だから痕跡が辿れなかったんですね。」
「作詞家してるし、それなりの収益もあるから人間界での生活は充分してるの。」
流石、魔女。人を引き付けさせる能力は軍を抜いていますね。
「じゃあ、オレちゃんのおかげでいつでも魔界に帰れますね!」
「そう、ね。そこは、有難う。」
気に入った暮らしではあるけど。魔界にはもう二度と帰れないと思っていたから。歌だってそう、なんだかんだでブラックのおかげよね。
「初めて照れましたね。カメラちゃん撮りました?」
「じっ!」
「撮らないで。」
掴みどころがない人。いや、悪魔か。
「そろそろ寝ましょ。」
「オレちゃんはもう少し編集してから寝ます。」
「好きにして。おやすみ。」
「じ〜!」
カメラちゃんが寝室まで追いかけてきた。
「一緒に寝る?」
「じ〜?」
「いいよ、カメラちゃんのしたいように任せるね。」
そっと眠る名無し。
「じ〜。」
寝顔を撮影。しばらくしてブラックの部屋に戻る。
「ナイスです、カメラちゃん。……キミはいつ見ても美しいですね。」
もしかして忘れているかもしれませんね、いや、はたまた気がついていないだけ…。
「カカカッ、失う可能性は潰しました。つぎはどう料理しましょうか。」
誰にも渡さない。悪魔は執着深いんです。
「愛しくて堪らないとはこのような事でしょうか?カカカッ、オレちゃんにこんな感情があるなんて。名無しさん、貴女は鬼ヤバです!」
「うぅ…。」
寒気する。
朝。あの悪魔が居ない。もしかしてあれは夢。
「ブラック!?居ないわよね?!」
「居ますよ、ちゃんと。」
おはようございますと当たり前のように居た。
「(夢じゃないのね…。)」
「はい。どうぞ。」
朝ごはんだ。ちゃんとしてる。
「昨日夕食を作ってくれたので、ほんのお礼です。」
「有難う。」
コーヒーだ。
「苦っ!」
「おや?ブラックは苦手ですか?」
「大丈夫。せっかく淹れてくれたもの。」
意外と子供舌なんですね。
「砂糖とミルクありますよ?」
「ミルク…。」
砂糖は入れない派ですね。
「覚えました!」
「(…なにを?)」
パクパクと食べていく。
「美味しい。」
「IHを使えば簡単です」
「魔界の使ってもこうはならないから。」
ヨーチューバーとか言ってたからウーバー三昧かと思いきや
「ちゃんとしてる。偉いね。」
じーっ。カメラちゃん近いよ。
「今のシーン良いですね!流石ですカメラちゃん!」
カメラちゃんが照れてる。
「まさか本当にヨーチューブに載せないわよね?」
「さぁ、どうでしょう」
載せませんよ。オレちゃん専用です。
「名無しさん、歌ってみたを撮りませんか?ヨーチューバーで収益化すれば歌に専念できますよ。」
「え?」
また歌えるのよね。
「うん、よろしく。」
「バズる事間違いなしです!!」
ゾクゾクしますね。貴女の歌声、再生数回数。オレちゃん感動です。
「ああ、なんて。美しいんでしょう。」
こんな素晴らしいコンテンツがあるのか
「どちらの回線にも投稿します。」
めちゃめちゃご機嫌だわ。
「私の歌をあんなにも」
この人、私の歌が聞きたくて何千年も探してくれていたのよね。悪魔だけど、根は優しいし。
「…。」
「これで完了です!やはり数字の取れる動画は回りが早いですね!」
コトンとデスクにココアの入ったマグカップを置く。
「名無しさん?」
「撮ってくれたから。差し入れ。」
いつまでもツンケンしてちゃ可哀想よね。
「びっくりすることの方が多いけど、お互い理解していけたら、嬉しい…かな。」
「これはまさか、デレというやつですね!」
「で、デレ?」
ブラックが名無しをぎゅうっと抱きしめる。
「な、なななに」
「夫婦のコミニュケーションです。何か?」
「夫婦…!!?!」
何故この人はこんなにも私を嫁として認識しているのか。私は初めて会ったような気しかしないのに。
「…落ち着きます。」
柔らかい。いい匂いがします。
「…。」
案外かわいい所もあるのね。
「さて、編集に戻ります!」
昨日の寝顔の動画を再生している。
………は?
「なにそれ。」
「何とは?」
「いつ撮ったの?」
「昨日カメラちゃんが撮影に成功しました。良いものが撮れましたね。」
「この動画どうする気?!」
「オレちゃん専用のプライベート動画です。公開はしません。」
そういう問題じゃない。
「倫理観の欠片もない…」
「悪魔にそんなもの求めてるんですか?W」
求める相手間違えた。
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3話。
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「なにこれ。」
内見ツアーと書いている用紙。ああ、魔界の家か。そういえばまだ行ったことないのよね。
「…せっかく用意したみたいだし行こうかな。」
ヨーチューバーの暮らしとはいかなるものか。検討もつかないかな。
「おかえりなさい、名無しさん。ようこそ我が家へ!」
魔界の方の部屋に入り込むとクラッカーを待ち構えて待ってた悪魔が居た。
「朝から居ないと思ったらこんな所に居たの?」
「編集しながらスタンバってました。」
「器用な事して…。」
「名無しお姉ちゃん!ルームツアー動画撮るんだ!」
さとくんまで。
「一度こすったネタですが増築したので新たな部屋も追加。何より名無しさん登場で再生回数鬼ヤバ確定です!」
「(ヨーチューバーって感じだ。)」
歌ってみたしかあげてない私には未知数な企画。
「さぁさぁ、好きに見ちゃって下さい!」
「開けるよ!」
さとくんがドアを開けるとそこには新調したであろうリビングが。黒が主流だがどこかシックで美しい家具が並んでいた。
「前と全然違う!」
「リホーム済みです。」
「へ〜。」
本当に結婚したんだ。
「あ、ペアのマグカップ、すんごいかわいい」
「記念に揃えました!」
「ごめん、そのセンスは理解できない。」
名無しお姉ちゃん本当に魔女なんだ。黒いものとかああいう髑髏のマグカップ好きだったんだ。
「ドンピシャだわ」
「オレちゃん達、気が合いますね。」
「それはない。」
「手厳しい奥さんですね」
「本当に夫婦なの?ふたりとも」
「夫婦です。新婚ですよ!」
なりゆきなんだけどなぁ。
「次の部屋にいきましょう!」
私のへや?
あらかわいい。
「…!私の好きな物ばかり」
ゴシックなデザイン。なんて私好みの部屋。このインテリアは落ち着く。
「名無しお姉ちゃんの趣味これ?!」
「カカカッ!悪魔的にはハイセンスです!」
「人間界では人間に馴染むものばかり買い揃えちゃったから。」
私の理想。
「至高だわ。有難うブラック。」
おや、なんて
「どういたしまして。」
綺麗な笑顔なんでしょうか。
貴女がそんな風に笑ってくれるなんて。
「俺には分からない趣味だぁ」
「幸せ。」
さて次は
「レコーディングスタジオです!」
「うそ。」
「うそじゃないです。目の前にあるじゃないですか。」
「私の為に。」
歌えるようになって、スタジオまで用意してくれて。
「こんなに…」
尽くしてもらっていいのか。
「(ちゃらけているけど、もしかして本当に私のことが好きなの?)」
ずっと疑問だった。
「好きですが何か問題でも?」
「…。声、だしてた?」
「そう思ってるような気がしただけですよ。」
「心読めるの?悪魔のくせに。」
「悪魔だから、ですよ?」
「夫婦喧嘩してないで次いこうよ」
やっとおわった。
「動画撮影ってこんな長いの?」
「本格的に撮ればもっと長くなるよ!」
「さとくん凄いね、私向いてないわぁ。」
夜中の事。1人パソコンの前に座るブラック。
「(この表情は数字になる。が、オレちゃんだけの物にしましょう。)」
あの、初めて見せた笑顔。
「…独り占めします。」
このシーンだけ。
昔となにも変わらないですね、貴女は。
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4話。
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「…。」
私の憧れ。
ギュッと雑誌を握りしめる市井ひめ。
ところかわり、名無しの自宅。
「は?私がさとくんのお迎え?」
どうしてまた。
「実は最近不審者が出たみたいで学校から言われたんだ。けどお父さんもお母さんも仕事で無理なんだって。だから…。」
「不審者?」
ブラックの事では?
「あ、オレちゃんを疑ってますね?」
「お願い名無しお姉ちゃん。」
さとくん、かわいい。
「良いよ、私で良ければ。」
「有難う!!」
と、まぁ安易に約束したけど。
下校時刻。ママがいっぱい。
「(…)」
ママさんの中で浮いている私。
「(居た堪れない…!)」
「カカカッ!!名無しさん馴染めず浮いてますね!お母さんって歳でもないですし安請け合いした事後悔してるのでは?カメラちゃん撮って撮って!」
「撮るなあ!」
ベラベラやかましい悪魔め。
「ブラックがついてるなら私いらないんじゃない?」
「今更気がついたんですか?遅すぎません?」
性格わる〜!
「名無しお姉ちゃ〜ん!」
「さとくん」
私の癒しが走ってきた。
「おかえり。帰ったらおやつ食べよ。」
「おやつ!?なになにー?」
「ドーナツ。好き?」
「うん!早く帰ろうー!」
さとくん羨ましい。
「ずるいですね。」
「じーっ」
「あっ、」
市井ちゃんだ。
「あ、さとくん!…と、お姉さん?」
「はじめまして、さとくんの友達よ。かわいい子ね。」
「かわいいだなんて…。え?貴女。」
市井ちゃんの目の色がかわった。
「名無しさん?」
「?」
「お姉ちゃん市井ちゃんのこと知ってるの?」
「わ、わたし!市井ひめ!貴女のファンです!」
びっくりぎょーてん。
という訳で名無しの家にきた。
「(市井ちゃんがまさか来るなんて!!!わぁ、緊張する!)」
「さとくん見向きもされてませんよ?」
「えっ!?」
「あっちに夢中です。」
がーん。わかっていたけど。
「はぁ~、名無しさん♡」
なんって素敵。わたしの憧れ。
「随分と熱心ですね。」
「当たり前よ!名無しさんは私のかわいいの教科書!理想そのものなんだから!!」
「なんです?それ。」
ランドセルから雑誌が出てきた。
「これ!かわいいから綺麗まで幅広くてどれもひめの好みなの!歌もうまくてマルチで私の理想の大人!」
ま、ませてるなぁ今の子って。
「私も名無しさんみたいになりたい。」
「有難う。市井ちゃんには市井ちゃんの
良さがあるじゃない。」
「確かに私、かわいいけど…」
この子クセ強ぉっ。
「でも駄目なんです!私の理想は名無しさんみたいになることだからまだまだ足りない!」
「子供といえど人間ねぇ、欲深い。」
わしゃわしゃとひめの頭を撫でる。
「おやつにしましょ」
「あ、名無しさん〜!」
「いいなぁ、名無しお姉ちゃん。市井ちゃんに好かれまくって。」
「カカカッ、さとくんとは真逆ですね」
「やかましい!」
なぁんか表面だけすくい上げた様な所で好かれてるのよね。
「イメージ壊さないようにしないと。」
「オレちゃんはありのままの名無しさんが好きですよ?」
「ちびっこ居るのに良く言えるわね」
「?ブラックって名無しさんのこと好きなの?」
「え?夫婦だよ。」
さとくんがすかさず答えた。
「夫婦!?」
驚くひめ。
「夫婦です!」
嬉しそうなブラック。
「(え、名無しさんの好みって、ブラック?もっと俳優とかモデルとか居るじゃない!イメージ違いすぎ!あり得ない!)」
ひめはスカートを握りしめた。
「名無しさん、嘘だよね!ブラックに騙されてない?!」
「なにを?」
「無理矢理に契約とかさせられて詐欺にあったとしか思えない!!だって名無しさんのイメージじゃないもん!名無しさんはもっとイケメン俳優とかのほうが似合うもん!」
「…。」
この子の理想じゃないかしら。
「カカカッ!好き勝手言うのは構いませんが…押し付けがましいのはよくありませんねぇ、オレちゃんの邪魔は誰であってもさせませんよ。」
びくっと肩があがる。市井ちゃんブラックの表情に怖がってる。
名無しがぱこっとブラックの口にドーナツを突っ込む。
「…。」
かじかじ。
「美味しい?」
「はい、オレちゃんの好きなチョコ味です。」
「市井ちゃん。理想と現実は違うわ。…それに。」
「?」
「私はこの生活、悪くないと思ってるの。」
もぐもぐごくんっ。
「オレちゃん感動しました!大きな進歩じゃないですか!」
「うるさい。」
2個目のドーナツを突っ込む。
「名無しさん…。」
ブラックなんかと何で。…理想と現実が違うってどーゆーこと?
「わ、私帰る!」
「あ、市井ちゃん!!待って!」
市井ちゃん追いかけてさとくんも出て行っちゃった。
「女の子っておませさんよね。」
「市井ちゃんの場合は自分の理想だけなので随分歪んでいます。鬼ヤバですねぇ。」
「イケメン俳優と付き合おうが結婚しようが」
幸せになれない時もあるのに。
「難しい子だこと。」
とりあえず危ないから送ろうかな。追いかけよう。
「…。」
靴をはき、外に出る。走って出ていったのね。もう見えない。
それを考えると私って幸せなのかな。
「測れない話って難しい〜。」
あの子にもいつかわかる時が来るかな。
一方その頃。窮地の市井ちゃんとさとくん。
「こっちだ、こっちだよ。」
大きくて、怪物みたいなものが2人に躙り寄っていた。
「あ、ど、どうしよ…」
「こっち来ないでよ…。」
「先々帰っちゃ駄目でしょ。ふたりとも。」
あれ?ワンパン?いつの間にか怪物みたいなの横に飛んでいった。
「不審者が居るの忘れたの?一緒に帰ろう。」
「名無しさん…。」
「名無しお姉ちゃん!」
さとくんわんわん泣いちゃって。
「ガチ泣きじゃないの〜。可哀想に。」
「〜ッ!!」
市井ちゃんの目にいっぱい涙が溜まってる。
「おいで、市井ちゃん。」
わたし、名無しさんに嫌なこと言ったのに
勝手なこと
「…。」
笑ってる。さっきの事、気に留めてないの?
あ、そっか…この人………“大人”なんだ。
「ごめんなさい!」
名無しの胸に飛び込む市井ちゃんはませたただの小学生。
「素直な子、大好きよ。」
わたしはわたしを押し付けちゃったのかな。
「…!!」
あ、さっきの怪物みたいなのだ。殺気だ。やばい、仕留めそこねた。
振り返ると一刀両断されていた。
「カカカッ!詰めが甘いとこーゆー事になるんですね。」
怪物の屍にのってる悪魔が今日はやけに頼もしい。
「ですが、いい動画が撮れました。変質者は魔物、間一髪救い出してみた!追いかけてきたかいがありましたね、これはバズります!」
「…。」
こいつ、動画のために?
「名無しお姉ちゃん、顔怖いよ…。」
禍々しい表現でブラックを見つめる。
「ブラック最っ低ー。」
ジト目で市井ちゃんが言う。
「最低?結果的には助かったじゃないですか。」
こういう奴だ。
「助かったわ。有難う。」
少しでも私の為なんて期待したのが馬鹿らしい。
「お嫁さんを助ける。当然の事ですよ。」
「…。」
思わず目をパチクリした。
「怪我が無くて良かったです。貴女はオレちゃんの“全て”なので。」
「つまりそれは、私のため?」
「はい、でないと追いかけたりしません。」
「…。」
…この人、本当に私のこと
「少し見直した。」
好きなのかもしれない。